第196話◆また来たよ
アベルとリリーさんが何か難しい話をするようなので、俺とジュストはアルジネの冒険者ギルドで簡単な依頼を受けて、時間を潰す事にした。
アベルはシランドルの東の方の物品を、定期的にユーラティアに運びたいようで、そこで運送系に強いリリーさんの実家と取り引きがしたいらしい。
その中にはクックーの村のコーヒーも含まれているようだ。
リリーさんの実家は、いくつもキャラバン隊を持っていて、陸運と近隣国とのパイプで有名な家だそうだ。
リリーさんはお嬢様っぽい雰囲気だったし、遠方の食材にも詳しかったし、言われてみると納得である。
まぁ、そんなお貴族様達の話は、俺やジュストにはよくわからなくて退屈なので、少しお散歩をする事にした。
どさくさで今日の会計はアベルに押しつけてしまおう。
アルジネにはスライムだらけの地下水路があるので、そこが閉所での立ち回り覚えるには丁度よさそうだし、冒険者ギルドで水路の依頼を受けて地下水路へと向かう事にした。
俺もランク関係なしに受ける事ができる採取依頼をいくつか受けて、ジュストと共に地下水路へ向かった。
「あれ? ロベルト君?」
「あ、グランさん。お久しぶりです」
地下水路に入って少し進んだ場所で、見覚えのある茶髪の冒険者が、壁に張り付いている苔をナイフでカリカリと採取していると思ったら、ロベルト君だった。
どうやら、冒険者として頑張っているようだ。随分慣れた手つきで苔を削っているので、しばらく会わないうちに冒険者としての生活に馴染めたのだろう。
「随分と冒険者っぽくなったなー、薬草集めかい?」
「ええ、鑑定スキルのおかげで薬草の選別もできますし、どんどん袋に薬草が貯まって行くのがなんだか楽しくて、最近はずっと薬草集めです。この辺りならあまり危険もないですしね」
ぬ、ロベルト君はよくわかっているな!! 袋の中に収穫物がどんどん貯まるのはとても楽しい。
「素材いっぱい貯まるのは楽しいよなー! この辺りはあまりスライムもネズミもいないようだけど、気を付けてな」
「はい! グランさん達もお気を付けて!」
手を振ってロベルト君と別れて水路の奥へ。
前に会った時は少し心配だったけれど、今はもう大丈夫そうだな。自分の力量も把握してスキルも生かしているみたいだし、このまま頑張っていってほしい。
「さっきの方は?」
「ああ、以前ピエモンにいて、色々あって最近、冒険者に転職した知り合いだ。冒険者になってまだ半年も経ってないかなぁ」
「なるほど、僕もがんばらないと」
ロベルト君も以前少し失敗したけれど、自分で立ち直る事ができた。
ジュストもまだ呪いは残っているけれど、ちゃんと前向きに生きている。
誰だって失敗や間違いはあるからなー。俺なんか失敗と間違いだらけだし、間違ったらその間違いを正してやり直せばいいだけの事だ。
「おう、じゃあ奥の方行くかー。曲がり角には注意しろよー」
「はいっ!」
地下水路という場所は雨水や汚水が流れ込むあまり綺麗な場所ではないのだが、こういう場所にも薬草は生えている。
下水にスライムが多いのは、水の中の汚物を餌にしているからである。スライムが住み着いているから、水が浄化されるのだ。
スライム以外にも、汚れた水を好む植物も下水には多く自生しており、そう言った植物は水の浄化に一役買っている事が多い。その植物の中には、ポーションの材料になるものも少なくない。
「この苔は薬草ですね。こっちもかな? うわっ! これモールドだ!!」
地下水路のほとんど人のいない奥の方まで来て、ジュストと一緒に素材集めをしている。
どうやら苔の隙間にいた、モールドというモコモコしたカビのような魔物を掴んでしまったようで、ジュストがペッペッと手を振って、手に付いた黒っぽい緑色の魔物を振り落としている。
モールドはスライムに近い魔物だが、カビや苔のような姿をしており、触ると毒性の胞子を撒き散らす事がある。
この手の不定形型の魔物は魔石を壊すか、体から魔石を取り出さないと死なないので、手に付いたものを払うくらいなら、うっかり殺してしまう事はない。
ジュストがバリアを張りながら、パタパタと手を振ってモールドを払っている。いやぁ、和むなぁ……って、こっちに胞子が飛んできた!!
モールドは火に弱いので燃やしたいところだが、ここで火を使うと周りの苔まで燃えてしまうので少しもったいない。
左手で口と鼻を覆いながら、収納から取り出した槍を右手に持ち、モールドの魔石がありそうな辺りを突き刺し、魔石をほじくり出して始末した。
モールドは動きが遅く、魔石を壊すか抜き取るか、燃やすかすれば倒せる弱い魔物だが、物理的な攻撃をすると毒を含んだ胞子を撒き散らすので毒耐性の低い者には面倒臭い相手だ。
俺はモールドの毒胞子くらいなら平気なのだが、吸い込むとしばらく喉がイガイガするので、できれば吸い込みたくない。というか、こんな場所にいる魔物の胞子なんて、毒がなくても吸い込みたくない。
「ありがとうございます。やっぱり自分で魔物を倒せないと不便ですねぇ。浄化系のバリアを張ったら小さいスライムは触れただけで消えちゃいますよね?」
「だなぁ。魔物が嫌う匂いもあるけど結構臭いし、スライム系には効かないな」
「く、意外とスライムも厄介ですねぇ……うわっ! またモールドだ!!」
苔の多いところはやはりモールドが多いな。がんばれジュスト、これも修行みたいなもんだ。
モールドを掴む度に手をパタパタしているジュストを見て和みながらも、ちゃんとモールドは処理しておいた。
「うええええ……これがクリーピング・スラッジですか。冒険者ギルドの資料で見たのよりも気持ち悪いし、下水臭い」
ジュストがものすごく嫌そうな顔で鼻を押さえて見ているのは、水路の床をズリズリと這っているヘドロ状の魔物、クリーピング・スラッジ。ヘドロ状というかヘドロである。
依頼分の採取が終わったので町に戻っている途中で、俺達の目の前を黒いヘドロがノタノタと横切っていた。
クリーピング・スラッジは魔力を帯びた泥やヘドロの中に魔石ができた、魔物化したヘドロである。スライムのように這いずり回って移動し、魔力を持つものを無差別に取り込んで大きくなっていく。ちなみにこいつも毒持ちである。毒だけではなくてばい菌もいっぱい持っていそうだ。
こいつも他のスライム類と同じで、魔石を壊すか、魔石と体を引き離してしまうかすれば倒す事ができる。
時々下水に誤って流された貴金属類を取り込んでいたりするので、倒すと極稀に高級品が体から出てくる事のあるボーナスモンスターみたいな奴だ。すごく臭いのだけが、難点である。
離れた場所からサクッと槍を突き刺して、槍の先端でピンッと魔石を弾いて取り出して終了。剣で攻撃してもいいのだが、近くで攻撃してヘドロが跳ねて装備に付くのは嫌なので槍でプスッとするに限る。
離れたところから槍でクリーピング・スラッジの体の中を探ってみると、槍の先端に何かがコツンと当たった。
おお、なんか短剣が出て来たぞ! うっかり水路に落として流れたのかな? む、刃の部分が金属ではなくて黒曜石だな。短剣の形をしているが、魔法強化系の付与がされているから、魔法職向けの武器だな。
そして、黒曜石の刃に魔法強化系の付与まで付いているので高そうだな。こういう思わぬ収穫があるのは冒険者の醍醐味だ。後で換金してジュストと山分けかな。
最後に思わぬ収穫もあって、ジュストと一緒にルンルン気分で冒険者ギルドに戻って、依頼の報告をしていると、アベルが迎えに来た。
「うわ、くさっ! 君達すごく臭っ! ドブネズミの匂いがするよ!!」
酷い言われようだが、地下水路帰りで実際ものすごく臭いので反論できない!?
この後めちゃくちゃ浄化魔法かけられた。
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