第四章

第194話◆飲み物に詳しい彼女

 昨日はピエモンに行って、パッセロ商店の皆様や冒険者ギルドの職員さんにお土産を渡してきた。

 ギルド長のバルダーナのおっさんは、出張中だとかで留守だったので、おっさんの分は職員さんに渡して、せっかくギルドに来たのでジュストにギルド施設の説明がてら解体場を借りて、シランドルから持って帰って来たコットリッチを一緒に解体した。このくらいなら、マジックバッグに入るからセーフだよな?

 その後まだ時間があった為、ジュストと冒険者ギルドの依頼を受けて、付近の薬草ポイントを教えつつ、ピエモンの南の森まで散歩してきた。

 ピエモンの町とその周辺はだいたい案内しておいたので、ジュスト一人でも冒険者ギルドの依頼をこなせるだろう。



 そして今日はジュストとアベルと一緒に、アルジネのリリーさんのお店にやって来た。

 ホントはジュストと二人で来るつもりだったのだが、アベルも付いてくると言い出したので、アベルの転位魔法でぴゅーっとやって来た。


「いらっしゃまショっっっっ……くぁwせdftgyふじこlp;@:」

 お店に入るといつものようにリリーさんがカウンターにいたが、俺達が店に入った直後に突然むせた。

「だ、大丈夫か!?」

 カウンターに駆け寄って声をかける。

「申し訳ございまいません、失礼いたしました。少しむせただけですので、大丈夫です、ご心配をおかけいたしました」

 少し荒い息を肩でしているが、本当に大丈夫なのか!? 以前来た時も急に具合が悪くなった時があったな。もしかして、何か持病があるのだろうか? 

 まぁ、女性のプライベートな事には触れない方がいいだろう。


「大丈夫ならいいのだが……ところで今日は連れが獣人なのだけど、大丈夫かな?」

 リリーさんの人柄を考えると拒否される事はなさそうだが、時々獣人の立ち入りを拒否する店もあるので、一応確認を取っておく。

「ももももももちろんですよ!! うちは獣人だろうと、龍人だろうと、魚人だろうと、種族で入店をお断りする事はございません。もちろん、どんな種族の方でも楽しんでいただけるように、魔道具を使って店内の環境に気を使ってますので、ご安心してお入りください」

 さすがはリリーさんだった。

 外はすごく寒いのに、店内はほどよく暖かく、それでいて乾燥しすぎていない。

 よく見ると、店内には浄化用と空調用の魔道具らしき物が所々置かれており、店内が清潔かつ快適に保たれているようだ。

「空いている、お好きな席へどうぞ」

「じゃあ、今日は三人だからボックス席に……」

「俺、リリーさんとお話したいからカウンターがいいなぁ」

「ふぇっ!?!?!?!?」

 っちょ、アベル、お前の顔面偏差値でそんなこと言うなよ。この、女の敵め!!

 っていうか、話ってなんだ?


 アベルがカウンターがいいと言うので、ジュストを真ん中にして、俺とアベルが左右に分かれてカウンター席に並んで座った。

「ジュスト、コーヒーは飲めるか?」

「ミルクと砂糖が多めに入っていれば大丈夫です」

「ジュストの住んでいたところは、コーヒーがあったのかい?」

「はい、両親が毎朝飲んでました」

 うんうん、だいぶ上手に躱せるようになったな。


 俺はいつものブラック、アベルとジュストはミルクとクリームたっぷりの甘そうなのを頼んでいた。

 リリーさんのお店は、前世の町によくあったコーヒーメインの喫茶店に雰囲気がよく似ていて、ジュストもおそらく落ち着くはずだ。

 そう思って連れて来たんだよね。

 あ、口の周りにクリームが付いてるな……やっぱ犬顔だとそうなるよな。

「ジュスト」

 トントンと自分の口を指差して合図すると、ジュストも気付いたようで、添えられていたナプキンでいそいそとクリームを拭き取った。

「く……っ、尊い」

 リリーさんが何か呟いたけど、よく聞こえなかった。もしかしたらリリーさんも、ジュストの可愛さに気付いたのかもしれない。


「そういえば、お土産があるんだ。よかったらもらってくれ」

「へぁ!? 私にですか? あああああありがとうございます」

 オーバロで買ってきた簪を、リリーさんに手渡した。露店で買ったからラッピングとかしていなくて申し訳ない。

「ひゃー、綺麗な簪ですね。ありがとうございます、一生大切にします!!」

 いや、そんな高い物じゃないし、時間が経てば劣化して壊れると思うんだ。でも、喜んでもらえているようなので、リップサービスでも嬉しいな。

「俺からもお土産あるよ」

「え!? そんな!? 畏れ多い……あ、ありがとうございます」

 アベルは何やら綺麗な包みをリリーさんに手渡していた。中身は高そうなハンカチだった、ちらりとメッセージカードみたいな物も見えた。

 くそぉ、顔面偏差値が高いだけでなく、女性へのサービスも忘れないイケメンめ。


「ところでリリーさん、発酵してないお茶の葉か生のお茶の葉が、手に入りそうなところってないかな?」

 そう、リリーさんのところに来たのはこれが聞きたかったからだ。米を手に入れたから、緑茶が欲しくなったのだ。

 ユーラティアには紅茶文化があるので、発酵前の茶葉が手に入れば緑茶もいけるはずだ。

 発酵前と言うことはつまり乾燥させる前になるので、運送の都合上、生の葉を手に入れるならこちらから、生産地に行く事になりそうだ。


「発酵前のお茶と言うことは緑茶ですか?」

 お? さすがリリーさん、知っていたか。ユーラーティアでは俺の知る範囲だと、緑茶は見た事なかったんだよな。

「そうそう、どっかで手に入らないかなと思って。オーバロでは売ってなかったんだよね」

「あーあの辺りはたしか紅茶ですねぇ。もう少し北の辺りに行けば、途中で茶葉の発酵を止めた龍茶というお茶もありますね。緑茶はシランドルの内陸部辺りか、チリパーハから僅かに入って来るくらいですね」

 何!? それは烏龍茶では!? 緑茶はちょうど俺達が行かなかった辺りか……チリパーハからは僅かにしか入ってこないのか。

 前世と同じなら、お茶の旬の時期じゃなかったから、今回は見つからなかったのかもしれないな。


「緑茶でしたら、実家の伝手のお茶農家に生の葉を分けてもらって、加工した物があるので、少しでしたらお分けできますよ」

 なななななななんだってーーー!?

「分けてもらえるなら分けてもらいたいというか、お茶っ葉の収穫時期になったら、どうにか葉っぱを売ってもらえないだろうか?」

「いいですよ、では次のお茶の時期にはグランさんの分も、確保しておきますね。緑茶として使われるなら、こちらでそのように加工しておきましょうか」

「おお、ぜひぜひお願いしたい」

 うおおおおおおおお!! 緑茶が手に入るぞおおおおお!!

 さっすがリリーさん!! 飲み物の事は今度からリリーさんに聞く事にしよう。


「そういえば、リリーさんに教えてもらったクックーの村へも行ったんだけど、あそこの工場ってもしかしてリリーさんが関係していたり?」

 あの、やたら整った生産体制の事はすごく気になっていた。

「フフ、お気付きになりましたか? 実家がシランドルにパイプを持ってまして、その関係でちょっと出資してるのですよ」

 と言うことは、村の人が言っていた貴族令嬢ってやはりリリーさんのことか?

 もし貴族令嬢なら何故コーヒー屋を……って気になるけれど、女性の秘密には触れないでおこう。それにリリーさんの場合、本当にコーヒーが好きでやっているんだろうなぁ。


「あそこの村に行った時に、コーヒーの原種とやらを興味本位で探しに行って、酷い目に遭ったんだよなぁ」

「あの辺りは変な鳥がいるって話ですからね」

 ちらりとアベルを見ると、ものすごく渋い表情になっている。

「あれは、ホントにクソ鳥だったよね」

「ああ、近年稀に見るクソみたいな魔物だったな」

 旅の間の数少ない苦い想い出に、アベルと二人で遠い目になる。

「会ってしまったのですね……ご無事でよかったです」

 無事と言えば無事だったが、かなり酷い目にあった。

 クソ鳥と言えば、そうだ!!

「そういえば、そこでこんな物を手に入れたんだけど、よかったらこれでコーヒーを淹れてくれないか?」

 そう、あの時拾ってきたあのクソ鳥のアレの中に入っていたコフェアの種、コ・ピアだ。惚れ薬になる方はコ・ピンで、俺が取り出したのは普通のコフェアの実の方だ。もちろん念入りに、そりゃもう気合い入れて綺麗に洗ってある。

 コ・ピンの方は収納の片隅にしまっておいて、世に出すつもりはない。


「こ……これは、コ・ピア……。地元でも大変珍しい物ですがもしかして、自力で集められたのですか……」

 コ・ピアの入った小袋を出して、中身を見せるとリリーさんはそれが何かわかったようだ。

 そして、知っていると言うことは、それをどこから手に入れたのかも察していると言うことだ。

 もしかしてドン引きされた!? いや、コーヒー好きならそんなことないよな?

「うわ……グランそれは何? 鑑定結果が……えぇ……グランそれ自分で集めたの……? さすがにそれはちょっと……マジで? うわぁ……あ、思い出したあのめちゃくちゃ臭かった日。洗ってない鶏小屋みたいな匂いがした日、あの時だよね……うわぁ……」

 アベルに鑑定されてしまったようだ。そうか、鑑定で出所もバレるのか。

 うわ、アベルがものすごくドン引きした顔をしている。付き合いは長いが、ここまでガチでドン引きされた事はない気がする。


【コ・ピア】

レアリティ:B

品質:上

効果:覚醒

料理、調合に用いる

怪鳥コットリッチの排泄物から採取した未消化のコフェアの実の種。


 うん、ガッツリ書いてあるな。


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