第188話◆戻って来た平穏な日常

 帰宅後、ジュストを三姉妹とラトとキルシェに紹介したら、問題なく打ち解けられたようで良かった。

 特にジュストとキルシェは歳が近いせいか、妙に意気投合していた。三姉妹を交えて、わちゃわちゃと談笑する光景はとても和んだ。

 そしてオーバロで買ってきたお土産は、とても喜んで貰えた。


 女性陣用に買ってきた簪は魔石付きなので、護身用系の付与をしておいた。もしも暴漢に襲われたら簪を抜いて魔力を込めながらプスッと刺せば、魔石の属性に応じた攻撃が発動するようになっている。

 三姉妹の簪は透き通った光の魔石で、光属性の麻痺効果。キルシェとアリシアのは赤い色の火の魔石で、発火効果。リリーさんのは深い青色の氷の魔石で、凍結効果。といった感じの可愛いさも兼ねた防犯グッズだ。


 三姉妹の髪の毛をハーフアップして簪を挿してやると、新しい髪型と簪が気に入ってくれたようだ。え? 毎朝それ三人分俺がやるの!?

 それにしても三姉妹は相変わらず薄手のワンピース一枚だけなので、本人達は女神補正で平気なのかもしれないが、見ているこっちが寒いので、旅の途中で手に入れたサッカルイタチの毛皮で、冬用の服を作ろうと思っている。

 

 キルシェのお土産も簪だったのだが、キルシェは髪の毛が短いのでサイドの髪を無理矢理編み込んでピンで留めて、そこに簪を挿した。せっかくなので髪の毛を伸ばそうかなぁと言っていた。

 キルシェはボーイッシュな格好をしていて男の子のように見えるが、顔は整っているので、髪の毛を伸ばすと女性らしくなって男にモテそうだな。そうなると悪い虫が付かないか心配だな。

 アリシアのお土産をキルシェに預けようとしたのだが、本人に直接渡すように言われたので、次にパッセロ商店に行った時に渡すつもりだ。

 フローラちゃんにもお土産のリボンを付けてあげた。リボンに付いている銀細工の蝶が、フローラちゃんにとまっているようでとてもよく似合う。少し恥ずかしそうにソワソワと揺れるフローラちゃんは可愛い。

 毛玉ちゃんには赤いリボンと魔石の付いたチョーカーを、ラトにはオーバロで買い漁って来たササ酒や、プなんとか国の酒を渡した。

 どっちも喜んでくれたみたいで良かった。


 無事にお土産も渡せて一安心したのだが、その後ワンダーラプター達とオストミムス達の獣舎がない事を思い出した。

 さすがにすぐに作れる物ではないので、その晩は諦めて母屋の軒先で休ませることにした。寒い季節なのにごめんよ。


 夕飯はバタバタしていて手の込んだ物は作れなかったので、質よりカロリーで勝負する事にした。収納の中にあった作り置きを解放して、肉系を片っ端からカラアゲにして、カラアゲパーティーだああああああ!!

 カラアゲはみんな好きだしな!!

 ひたすら転移魔法で移動だったアベルは、相当腹が減っていたのか、ものすごい量を食っていた。ほっそいくせにどこにそんな入るんだ。

 明日は少し手の込んだ料理にしようかな。


 夜は収納の中身とにらめっこしながら獣舎の設計をざっくりと考えて、翌朝から作り始める事にした。

 何だかんだでやる事が多い気がするが、やはり我が家は安心するな。







「グギャーーー」

「グエエエエ?」

「グェグェェ」

「ホッホホー?」

「ク、クエェェ」


 翌日は朝から獣舎を作る作業に取りかかった。仮でいいので、騎獣達の寝床を作ってやらないと、外は寒すぎる。

 獣舎は倉庫の横に作る事にして、その作業をしているその横で、ワンダーラプター達とオストミムスと毛玉ちゃんが、何かを話している。

 何を話しているのかよくわからないが、仲良くなれたようでよかったよかった。


 すぐに立派な獣舎を完成させるのは無理なので、とりあえず寒さと雨風をしのげる簡単な仮住まいを先に作ろう。

 ジュストに協力してもらい土魔法で地面を平らにして基礎を作り、俺の合成スキルで地面の表面を固めながら、エンシェントトレントの材木で大まかな骨組みを作った後、防水と保温効果を付与した厚手の布を張って、仮住まいにしておいて、できるだけ早いうちに完成させる予定だ。

 中が透けて見えるローパー系の魔物の触手が収納の中にあったので、それとバケツと水を使って水平を測った。ローパーの触手は獲物の体液を啜る為に中が空洞で管のようになっており、液体を通す事ができるので地味に便利なのだ。

 さすがに建物を一から作るのは、転生開花のギフトとクリエイトロードのギフトをフル活用しても、かなり骨が折れそうだ。


 ずっと獣舎に閉じ込めておくわけにもいかないし、騎獣達が自由に走り回るスペースも作らないといけない。

 そのスペースを作るのは今の敷地だと足りない為、周囲の森の木を切り倒して敷地を広げていいかとラトに聞いたら、その程度なら好きにしていいと言われたので、少しだけ敷地を広げる予定だ。俺の家の周辺は元々人間の領域なので、その範囲なら好きにしていいとの事だ。

 この家を買った時に、周囲は森に飲まれかかっているので、開拓できるなら好きに開拓してもいいって、不動産ギルドで言われていたしな。


 しかし、森の開拓って、どこから手を付ければいいんだ? 普通の木なら分解できるけれど、もったいないよな!? 木を切り倒して、切り株を撤去して、地面をならせばいいのか? 伐採用の斧はあるけど、めちゃくちゃしんどそうだな!?

 切り株はー……そうか、分解すればいいか? 分解して土にしてしまえ!!

 それにオーバロのダンジョンで大量消費した丸太も、補充できそうだな。下草や低木は面倒臭いから分解か!?

 あ、いや、木を燃やした灰は何かに使えそうだから、丸太として使い難い物は灰にしてしまおう。 

 よぉし、そうと決まったら伐採だーーーー!!



「森の木を切るんですか? 僕やりますよ? ちょうどいい筋トレになりそうだし、むしろやらせて欲しいくらいです。その間にグランさんは獣舎作りに専念してください」

 獣舎作りを一旦切り上げて、伐採作業に行こうとしたら、獣舎作りを手伝ってくれていたジュストが、伐採をやりたいと言い出した。

 その理由が筋トレ。熊の影響を受けていそうだが、伐採はジュストの体力作りには良さそうだし、伐採をジュストに任せれば俺は獣舎作りに専念できるし、任せちゃうか。


「じゃあお願いしようかな。切り株は残しておいていいよ。下草や低木は燃やした灰が欲しいからどこかに集めておいてくれ。でっかい木は枝を落として丸太かな。斧はコレを使うといい。怪我しないように気を付けろよ」

「わかりました!」

 伐採用の斧をジュストに渡して、切り開きたい大体の場所にロープを張って、後はジュストに任せた。



「グランー!!」

「ワンダーラプターさんとお散歩したいですぅ」

「わたくし達が森の中を案内して差し上げますわ」

「グエエエ?」

 小屋作りの続きに取りかかろうとしたら、三姉妹達がやって来た。

「ワンダーラプター達がいいなら構わないけど? どうする?」

「グエエエーッ! グエッ!!」

 この返事は、行きたい返事だと思う。


 ワンダーラプター達は賢くて強いが、それでも三姉妹の方がずっと格上だ。ワンダーラプター達もそれを理解しているのか、昨日の初対面の時から三姉妹達には逆らわない。さすが女神様の末裔。

 幼女の姿をしていていつものほほんとしているが、女神の末裔と言うからにはその辺の魔物よりずっと強いと思われる。

「ホッホーッ!」

 毛玉ちゃんがオストミムスの背中の上で足踏みをしながら、羽を広げて鳴いている。もしかして毛玉ちゃんは、オストミムス君と一緒に行きたいのかな?

「オストミムス君も一緒に行ってくるかい?」

「クエエッ!」

 明るい返事が返って来たので、行きたいのかな?

「じゃあ、コレオヤツな。気を付けて行ってくるんだぞ? 夕飯までには帰って来いよ」

 袋に入れたクッキーと肉を取り出して、ウルに渡した。

「「「はーい」」」

 三姉妹達が返事をすると、ワンダーラプター達がスッとしゃがんで、彼女達を背中に乗るように促した。

 え? 俺達が乗る時でもそんな事しないのに!? 何これやっぱ女神補正!? 女神補正なら仕方ないな?


「グッグッググエーッ!」

「ホホーッ!!」

「クックェ!?」

 俺にはわからない会話をしながら、三姉妹を乗せたワンダーラプターと、毛玉ちゃんを乗せたオストミムスが森の中へと消えて行った。なんだこのすごく和む光景は!?

 はー、もうがんばって獣舎作ろ。



 獣舎以外にもやる事はたくさんある。

 ずっと作りたいって言っている干し柿もだし、スライム達の世話もしないといけないし、ポーションも作らないといけないし、ソジャ豆が手に入ったので豆腐も作りたい。

 畑はフローラちゃんが面倒を見てくれているから、落ち着くまでフローラちゃんにお任せしよう。

 留守にしている間に、置いて行った種の中から色々植えてくれたみたいで、畑は野菜がいっぱいだ。敷地を囲む柵の周辺も何やら色々やってくれているようだ。おそらく春には綺麗な植え込みになっているのだろう。

 やる事が多くて手が回らないし、畑やガーデニングはフローラちゃんのセンスに任せて、出来上がるのを楽しみにしておこう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る