第187話◆ただいま
「たっだいまああああああああ!!」
「いや、まだユーラティアに帰って来ただけだし、こんなとこで止まると他の人の迷惑になるから、早く進んで?」
ユーラティアまで戻って来た喜びで、思わず立ち止まって万歳をしたら、光の速さでアベルから苦情が飛んできた。
今日の朝オーバロの宿を出て、アベルの転移魔法でピューンとユーラティアの国境まで戻って来た。さすがに人数が多く騎獣までいるので、アベルの魔力をもってしても、途中で一度中継を挟む事になった。それでも一回中継を挟むだけで、シランドルの東と西の端をこの人数で騎獣まで連れて転移できるのだから、相変わらず化け物じみている。
今回の米探しツアーは、アベルにはとても世話になったので、帰ったらお礼をいっぱいしないとな。
シランドル側で出国手続きをして国境の橋を渡り、ユーラティア側で入国の手続きを済ませて、ユーラティア側の検問所を出た所で、帰って来た事を改めて実感して万歳ポーズをして、後ろを歩いていたアベルに苦情を言われた。
途中で戻らなかった事もあって、思ったより長く旅をしていた気分だし、実際一ヶ月ぶりの祖国で嬉しかったんだもーん。
アベルに後ろから小突かれながら、検問所の入り口から離れた。ここからも、アベルの転移魔法タクシーだ。ホント、ありがとう、チート魔導士様!!
「リヴィダスはドリーと一緒に王都だよね? 先にグランの家経由してから、王都に飛ぶね。俺もいったん王都に行くけど、夜はグランの家に戻るから夕飯よろしくね」
「了解、今日は多めに作っておくよ」
「オーバロからここまで距離があったのに、更に王都までなんて悪いな」
「さすがにちょっと疲れるけど、それを理由にさっさと帰るから、別にいいかな」
ユーラティア王国の王都ロンブスブルクは、王国の西部にある。オーバロはユーラティアとシランドルのある大陸の東端なので、アベルは今日だけで、転移魔法で大陸をほぼ横断する事になる。そして、夜は実家に泊まらず、うちに帰って来るつもりのようだ。
魔力の消費がすごそうなので、今日はたくさん夕飯を用意しておくか。
ドリーはこの後しばらく王都で仕事があるらしいので、ドリーの仕事が落ち着くまでジュストは俺の家で預かる事になった。
ジュストはジュスト自身が決めた道を進む事になるが、もう少しジュストと一緒にいる事ができる。
「もうしばらくお世話になります」
「おう、せっかくだからうちにいる間にポーション作りや、簡単な細工や裁縫も教えるよ」
「はい! ありがとうございます!」
「では、ジュストを頼むぞ。あまり変な事は教えるなよ」
変な事ってなんだよ。たまーに、アベルと一緒に悪乗りする事はあるけど、そんな変な事はジュストには教えないよ! 俺はちゃんと分別のある大人だからね!!
「じゃあ、転移す……は? なんで!?」
転移魔法を発動しようとしたアベルが、何かに気付いてそれを止め、ものすごく険しい顔になった。
そのアベルの視線を追うと、その先には白銀の鎧を身に着けた金髪の騎士風の優男が立っていた。その後ろには、部下だと思われる騎士が複数控えている。
「お帰りアベル、待ってたよ」
金髪の優男が胡散臭い笑顔でアベルに話しかけた。アベルと同じ緩い巻き毛のせいか、その胡散臭い笑顔の印象がアベルと被る。
「あちゃー、めんどくさいのが来たな」
ドリーが小声でぼそりと呟いて、空を仰いだ。
「長い間会えなくておにぃ……いたっ!」
金髪の優男さんが何か喋りかけたところにアベルが小さな氷の塊を飛ばして、額に当たった。小さいと言っても子供の拳くらいで結構痛そうだ。
「いきなりヒドイじゃないか。おにい……いたっ! いたたたたたっ!」
優男さんが喋ろうとするとアベルが次々と氷の塊をぶつけている。えげつない、大丈夫なのか!? いや、平気そうだな、というか嬉しそうだな。なんだマゾの人か。というか手加減しているとは言え、何個も氷をぶつけられているのに、この人頑丈だな。
「じゃあ、俺は行くから。転移魔法は定員オーバーだから自分で帰ってね」
まぁ、五人パーティーで騎獣までいるからな。優男さんと目が合ったので、とりあえず軽く頭を下げておく。あれ? なんか睨まれた気がする。そういえば、前世の癖でつい会釈しちゃったけど、優男さん貴族っぽいし作法間違ったかも?
と思ったら、白い手袋が飛んできて俺に当たって地面に落ちた。落とし物かな?
「手袋、落としましたよ?」
優男さんの手袋が片方外れているので、多分優男さんのだな。手袋を拾って、付いていた土を払って差し出した。
「あ、どうもありがとう……そうじゃなくて!!」
「いい加減にしないと、ホントに怒るよ? 手袋持ってさっさとどっか行かないと、もう口利かないよ」
アベルがものすごく不機嫌そうに、俺から白い手袋を取って優男さんに突き返した。というか、なんだその……子供のケンカの常套句みたいだな!? 仲良しさんか!?
「エッ!? わかった、ごめん!! じゃあ帰るね!! 帰ったらゆっくりお話ししようね!! 気を付けて帰るんだよ!!」
優男さんは、アベルから手袋を受け取って、部下を連れてそそくさとどっかに行ってしまった。何だったんだ?
「ごめんごめん。ちょっと変な人に絡まれちゃった」
確かに変な人だったけれど、知り合いじゃないのか!? すごくぞんざいな扱いしてたけどいいの!?
まぁ、俺には関係ない人っぽいしいいかー。先ほどの様子からして、アベルの仲良しさんなのだろう。アベルが戻って来るの待っていたのかな? イイヒトダナー。
アベルがちょっと変な人に絡まれてたけど、その後はアベルの転移魔法でついに自宅が見える場所まで戻って来た。
家の前だと、多分フローラちゃんが柵に巻き付いているし、幼女達やラトが家にいるかもしれないから、鉢合わせすると説明がめんどくさい。アベルもきっとその事に気を遣って、家から少し離れた場所に転移したのだろう。
少し離れた場所に、うちの門とその奥の母屋が見える。
「ほう、随分と立派な屋敷だな。敷地もよく手入れされている」
「森が近くて素敵なお屋敷ね。今度ゆっくりお邪魔させてね?」
自慢の我が家なので褒められると嬉しい。
「ああ、時間のある時にでも遊びに来てくれ」
せっかくだからお茶くらい出したいところだが、ドリー達もこの後王都で用事があるみたいだし、うちも家に人を招くなら幼女達とラトと色々口裏合わせをしないといけないしな。
あ、しまった……ドリーには、ラト達がアベルの親戚設定はバレそうだな。ドリー達が来る前に適当な言い訳を考えておかないと。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「おう」
「では、またな」
「また、一緒にダンジョン行きましょうねー」
王都へと転移したアベル達を見送った後、ジュストと騎獣達と一緒に家へと向かう。
だんだんと近づいて来る我が家になんとも感無量な思いになる。
ついに帰って来たぞおおおおおおおおおお!!!
「アイル ビー バアアアアアアアアアアアアアアック!!!!」
「え?」
思わず叫んだらジュストがキョトンしした。
「あ、すみません。英語っぽく聞こえたので」
「あ、うん、エイゴかな?」
あ、通じてない? 素でわからない反応? なるほど、ジェネレーションギャップ。いや、今世の俺はまだ十代だからな!?
「それにしても、グランさんのお家すごくでっかいですねぇ。アベルさんもここに住んでるんですか?」
「アベルは、うちに寝泊まりしているな。他にも時々泊まりに来る友人がいるよ」
時々というか、ほぼ毎日だな。
門の近くまで行くと、柵に巻き付きながらフローラちゃんが移動してくるのが見えた。
全力でこちらに向かって来ているのが何となくわかる。
「ただいま、フローラちゃん」
「ええ!?」
ジュストがこちらに向かってくるフローラちゃんを見て驚いている。やっぱそうなるよね。
「ジュスト、彼女はフローラちゃんと言ってうちに住んでる友達だ。フローラちゃん、ジュストと、あっちで一緒に旅をしたワンダーラプター達とオストミムスだ。ジュストは旅先で知り合ったんだ。しばらくうちにいるから仲良くしてやってくれ」
そう言うと、門までやって来たフローラちゃんがユラユラと揺れた後、ペコリと花の部分をお辞儀するように下げた。
「よ、よろしくお願いします」
ジュストも少し驚きながらもフローラちゃんに挨拶をする。ワンダーラプター達とオストミムス達も、グエグエとフローラちゃんに挨拶をしているようだ。なんだかすごく和む光景だなぁ。
「グランー!! おかえりー!!」
「おかえりなさいませー!!」
「おかえりなさいですぅー」
「ホッホッホッホーッ!!」
母屋の方から三姉妹が手を振りながら走ってくれるのが見えた。毛玉ちゃんもその上空をバサバサと飛んでいる。
「グランさんおかえりなさいー」
どうやらキルシェも来ていたようだ。その後ろにラトの姿も見える。
「ただいま、みんな。留守番ありがとう」
思ったより長くなってしまったが、一月ぶりに戻って来た我が家は、相変わらず賑やかだった。
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