第179話◆ダンジョンに潜む罠

「いいか、ジュスト。ダンジョンには罠が仕掛けられている事がある。ランクの低いダンジョンや浅い階層の罠は、ちょっと痛いくらいだが、高ランクのダンジョンや深い階層の罠は、発動すると致命的な物が多いから十分に気をつけるように」

「はい!」

 ダンジョンの中を進みながら、ドリーがジュストにダンジョンの罠について説明している。


 アベルが嬉々として雷魔法を使っているので、他のメンバーはほとんど魔物と戦っていない。

 俺はアベルの倒した魔物をせっせと回収している。平和だなぁー。


「ダンジョンの罠は探索スキルで、ダンジョンの地形を探れば気付く事ができる。冒険者ギルドでダンジョンの地図を買えば、判明している罠は記されているが、地図に罠の記載がない場所でも、常に周囲に気をつけなければならない。罠は、目視でもわかる物もある。例えばここだ。ここの岩が不自然に出っ張っているだろう? コレを触るとこのように罠が発動する」


 おい?


 って思った時には、もうドリーがあからさまに怪しい岩を押していた。

 そこは実践しなくていいだろおおおおおお!?

「ちょっと、ドリー?」

 リヴィダスもドリーの行動に気付いて眉をひそめた。

「大丈夫だ、この罠は地図で確認済みの罠で、問題ない罠だ。念のため、探索スキルで確認もしたが、下に空間はないから落下系でもないし、壁や天井に不自然な穴も空間もないから、何か飛んでくる事もない。それに天井の色が違う場所があるから、おそらくあそこから何か出てくる」

 ドリーがドヤ顔で天井を指差しているが、そういう問題じゃねぇ!!


 ガコンッ!!


「ブモオオオオオオオオオオオオッ!!」


 ドリーが指差した部分の天井が開いて、野太い咆吼と共に、四足歩行のずんぐりとした青い鱗の大トカゲの魔物が天井から落ちてきた。ドスドスという足音がこちらに向かって来ている。このダンジョンの感じからして、おそらく水属性のトカゲだろう。

 Cランクくらいの魔物かな、ランクの低いダンジョンだし、まぁそんなもんか。罠を実際に体感するには、ほどよい相手ではある。

「罠が発動するとこのように魔物が出現する事もある。Dランクのダンジョンならこの程度で済むが、ランクの高いダンジョンになればAランクやSランクの魔物が出てくる事もあるので、罠には気をつけるように。他にも、発動すると矢や槍が飛んでくる罠や、床が抜けて下に落ちる罠、水や岩が落ちてくる罠もある。その辺りの事はグランが詳しいので、グランに聞くのが一番いいだろう」

 走ってきた青い大トカゲをドリーが大剣で両断して俺に話を振った。

 水属性の素材うめぇーってそうじゃなくて、そこは俺に振るんだ。

 まぁ、罠を避けるより踏み抜く事の方が多いドリーが、罠について教える方が不安だしな。 

 ドリーのパーティーに入っている時は、だいたい俺が罠の察知と解除役だったし、やはりここは俺が教えるのがいいだろう。




「あ、この先もしかして落とし穴系の罠があります?」

「お、気付いたか」

 ジュストにダンジョンの罠について説明しつつ奥へと進んでいると、大人が二人横に並べる程度の広さの通路の途中で、ジュストが足を止めた。

「はい。地面の下に空間っぽいのがありますね。一つだけじゃなくて連続してて、所々ジグザクに穴が空いてます」

 おー、ジュストの探索スキルは順調に上がっているようだ。

 呪いのせいで敵を倒せないジュストだが、こういった補佐系のスキルを身に付けておけば、回復以外でも活躍できる。

「正解。落とし穴系の罠は、上に載ったり衝撃を与えたりすると、床が抜けて下に落ちるんだ。その下には更に危険なトラップが仕掛けられているから、絶対に嵌まらないようにしろ。物によっては別の場所に転移させられて、そこで魔物が出たりする」

「ひえぇ……き、気をつけます」

「それじゃあ、罠を解除するぞ。そぉれ」

 俺は身体強化を発動して、収納から取り出した人の頭ほどの石を、落とし穴のある辺りに投げた。

 石が床に落ちるとその床が抜けて、俺が投げた石は落とし穴の中に吸い込まれていき、落とし穴の左右の安全に通れる部分がわかりやすくなった。

 自分一人だけなら避けて歩けばいいのだが、他に人がいる場合はこうやって落とし穴を可視化すると避けやすい。


「なるほど、衝撃で床を先に落としちゃうんですね」

「そうそう、ジュストなら土魔法で岩を落とせばいいんじゃないかな?」

 俺は魔法が使えないから石を投げているが、魔法が使えるなら魔法で衝撃を与えてしまえばいい。

「ジュスト、君は土魔法が使えるのだから、床を落とさなくてもこうして通路を岩盤で覆って、その上を歩けば安全だよ。君の場合、岩を落としてうっかり魔物を巻き込んで殺したらいけないからね。俺はこっちの方がいいと思うな」

 確かにアベルの言う通り、土魔法が使えるなら岩を落とすより、岩盤で新しい床を作る方が、ジュストに安全だな! さすがアベル!!

「なるほど、そっちの方がいいですね!!」

「ちょっと、貴方達、ジュストに変な事を教えたらダメじゃない!」

 ジュストに落とし穴の解除方法を教えていたら、何故かリヴィダスがすごく渋い顔をしている。

 え? めちゃくちゃ合理的で楽な方法だと思うけど!?

「何か変?」

 ほら、アベルも不思議そうに首を傾げている。


「まず、グラン。普通はでっかい石なんて、でっかいマジックバッグでもないと、持ち歩いてないでしょ!! 魔法で石を落として罠を落とすのはありかもしれないけど、わざわざ無駄な魔力を消費する事もないわ。それにあまり大きな音を立てると、魔物が寄ってきて無駄な戦闘が増える事になるわ」

 え!? 石や岩は収納持ちの嗜みだけど!? 多分ジュストの収納にも入っている。あ、そういえばジュストの収納スキルの事を、リヴィダスは知らないんだっけ? リヴィダスは勘がいいので、気付いてそうな気がするけど。まぁ、俺の収納スキルも表向きはマジックバッグって事にしてあるしな。少しうるさいのは言われてみるとそうかもしれない?


「そしてアベル。床の上に人が歩ける強度の岩盤を作り出すって、貴方の魔力量基準でしょ? それに生半可な岩盤だとドリーが駆け抜けたら壊れそうだわ」

 確かに、言われてみたら、アベル基準な気がするし、ドリーみたいな体格がよい者を支える事ができる岩盤を作るのは大変そうだな。じゃあやっぱり、石を投げるのが正解じゃないか!


「いい? 冒険者ギルドでマーカー用の魔道具売ってて、そんなに高くないから、それを買っておくのよ? それを使って、罠を避けて安全な場所にこうやって線を引きながら、他のメンバーを先導するの」 

 そう言って、リヴィダスがマーカー用の魔道具を使って、落とし穴を避けて床に線を引きながら通路を進んでいく。

 そういえば、初心者の頃はよくそれをやっていたな。途中から面倒臭くなって石を投げてたけど。

「はい! 戻ったら買っておきます!」

 うむ、石を投げるのが楽だけど、リヴィダスの言う通り最初は基本に忠実なのがいいかもしれない。


 そんな感じで罠のある場所では、ジュストに罠の解除方法を教えながら、時々リヴィダスにダメ出しをされながら進んで、十階層目にあるセーフティーエリアまでやってきた。

 今日はここで一泊して、明日最深部まで行って、そこから脱出用の転移魔方陣で帰る予定だ。




 この日の夕飯は、パンチをしてくるシャコっぽいエビだ。

「うわぁ……またすごいの出てきたぁ。今朝カサカサいってたのコイツ? ロブスターと似てるけど、似ているのは頭とハサミだけで、下半身が妙に長くて気持ち悪っ! ジャッパって名前で、一応魔物みたいだね」

 これから調理する為にまな板上に載せているエビっぽい何かを見て、アベルが顔を引きつらせている。


 アベルの言う通りこのジャッパ君、上半身はエビというかロブスター、下半身はエビをずんぐりさせてまっすぐ伸ばした感じというか、前世の記憶にあるシャコ。下半身だけシャコ。

 そして、目が合うとハサミで殴ってくるあたりすごくシャコ。シャコ系なのかエビ系なのかはっきりしてほしいが、シャコでもエビでも食べられそうだから、お前は今日の夕飯だ!!


 一応不安なので湯がいた後に鑑定してみると食用可のようだ。

 このジャッパちゃん顔も結構エグいし、大きさも50センチを超えていて、なかなか迫力がある。そして、胴体の長い甲殻類なので、虫っぽさが滲み出ていて、形が残っている状態だと貴族勢には抵抗がある食材かもしれない。

 端っこを切って炙って食べてみたら、ふんわりしたエビという感じだ。プリプリ感はエビの方が強く、ジャッパの食感はシャコに近く、少し白身魚っぽさがある。

 というわけて頭をちょん切って、殻や足を取り除いて身と尻尾だけを残すことにした。

 そして、小麦粉とはたいて、小麦粉と卵と水で作った衣を付けて油で揚げるうううううう!!!


 ジュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!


 あぁ、もう揚げ物の音だけでお腹が減る。

 揚げ終わったシャコ天ならぬジャパ天を、器に盛ったご飯の上に載せて、醤油とイッヒ酒と砂糖で作った甘辛いタレをかけてジャパ天丼の完成!!

 一匹が大きいので一人一匹だが、おかわりしたい人用に余分に揚げてある。

 こんもりとご飯が盛られた器の上に、50センチ級のテンプラがドーンと載っているのは、圧巻である。


 サックサクでほっこほこのジャパ天丼は、みんなで美味しく召し上がりました!!



 あー、やっぱ醤油と米のある食生活はいい!!

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