第171話◆酒のツマミは別腹
宿に戻って夕食を済ませた後、宿の厨房を借りて色々作ってみた。家に戻るまで我慢出来なかったんだよおおお!!
ユーラティアでしか採れない食材を渡したら、快く厨房を貸してくれた上に調味料は好きに使っていいと言われた。
まずはお米を炊いて念願のおにぎりだ。梅にツナマヨ、鮭っぽい赤身の魚も収納の中に有った。昆布の佃煮のような物を宿の人に分けてもらえたので、昆布握りも作った。
しばらくオーバロに滞在する事になりそうなので、その間オーバロの冒険者ギルドで依頼でも受けてみようかと思って、その時のお弁当用におにぎりを作りまくった。
そして、醤油も手に入ったので、先日のヒカリイカを唐揚げに。これは今夜の酒のつまみかな。
「グラン、何作ってたの? 昼に買ったコメの料理?」
「うん、それもあるけど他にも色々?」
思う存分料理して部屋に戻って来たら、アベルがめちゃくちゃキラキラした笑顔で待っていた。ご飯を待てしていた犬みたいな顔をしている。さっき晩飯食ったばっかりだろ!?
「あら、何か作ってたの? 丁度お酒開けたところだから、おつまみが欲しいなって思ってたのよね」
「お? 昼に買い物してたやつか?」
「夜食ですか?」
他のメンバーも気付いて、期待に満ちた顔でこちらを見ている。多分そうなると思って色々作ってきたが、今日はこれだ!!
「何々? 今日、色々買い物してた……ウワアアアアアア……」
今日の夜のつまみに決めていた物を収納から出すと、キラキラしていたアベルの顔が一瞬で引きつった。
少し大きめ器の中に、小さく切ったルブ・ホロトゥがどっさりと入っている。さすがにこの量は、見た目がエグイな。
「さすがにこれは凄いわね……」
リヴィダスも少し引いている。
「まぁそう言わずちょっと食って見ろ」
ホロトゥを小さな皿に小分けにして、醤油をすっぱい柑橘類の果汁で薄めた物をかけて、厨房で作って来た紅葉おろしもどきこと、ララパラゴラを摺り下ろして赤唐辛子の粉を混ぜた物を少しだけ乗せた。そして最後に、厨房で貰った青ネギっぽい薬味を散らす。
昼に買い物行った時に、レモンとは違う、黄色くて丸い柑橘類を見つけたんだよね。そのままだとかなり酸っぱいやつだったので、料理に使えると思って買ってきた。
味見もちゃんとしたから、味には問題ないはずだ。
「生でいって大丈夫なのか?」
「ええ、これホロトゥだよね? あの見た目やばいやつだよね?」
ドリーとアベルの顔が引きつっている。さすがに生食に慣れていないとナマコは無理か!?
「気になるなら浄化魔法を使えばいいんじゃないかなぁ? あんま浄化しすぎると味が変わりそうだけど」
「コリコリしてて美味しいですよぉ」
ジュストは日本で食べた事があるのかもしれないな、早速食べ始めている。
「あら、生でも普通に美味しいわね。歯ごたえはあるけどツルッといけちゃうわね」
リヴィダスも生食慣れしているのか、小分けにしてしまえばあまり抵抗はないようだ。
「くっ……グランが美味しいって言うならだいたい美味しいからね、俺も食べるよ。でも見た目がすごすぎて、よくこんなの食べようと思ったよね」
確かにアベルの言う通り、ナマコを最初に生で食べようと思った人は凄い。その人のおかげで、ナマコは美味いと知る事ができたのだから、ナマコを最初に食べた人にはとても感謝している。
「……っ、確かにこれは生臭くないし癖もない。噛み応えはあるけど、小さく切ってあるしツルッといっちゃうから気にならないね。これはショウユ? 少し辛みのある酸っぱいソースのせいかな、すごくさっぱりした感じ、お酒が欲しくなるね。これは白ワインかな?」
見た目はアレだけど、味の方はアベルも気に入ったようだ。普通にモグモグと食べ始めた。
「だろ? 白ワインもいいけど、ササ酒と合うと思うぞ」
「ササ酒なら昼に買ったのがあるわよ」
ドンッとリヴィダスがササ酒の瓶をテーブルの上に出した。
「お、俺も食べるぞ……ん、海の匂いはするが、見た目ほどの生臭さは強くないな。確かに、この味付けは酒が欲しくなる」
熊がホロトゥを前にプルプルしていたが、覚悟を決めたのか一切れ口の中に放り込んだ。そういえば、リュもツブツブしてて苦手とか言っていたな。意外と見た目で苦手な食べ物が多いのかもしれない。
俺もホロトゥを口に運ぶ。やっぱ、紅葉おろしにポン酢だよな!!
新鮮なものを捌いてすぐに収納に入れておいたので、生臭さはほとんどないし、紅葉おろしの辛みとポン酢の爽やかな酸っぱさが、あっさりとしたホロトゥには合う。これは酒が欲しくなるな。
そう思っていたら、リヴィダスがササ酒の入ったグラスを俺の前に置いた。部屋が暖かいので、冷やで十分だ。
あー、この懐かしい組み合わせ最高。
ホロトゥの後は、ヒカリイカの唐揚げだ。
昨日の夜、掬ってすぐに湯がいたヒカリイカを貰って、すぐに収納に入れておいた物だから、身は新鮮でぷりっぷりだ。サックサクの衣とプリップリの身の食感マジで最高。そしてさすが唐揚げ、レモンを搾ってもマヨネーズを付けても美味い。
「あー、これ延々食べちゃいそう。さっき夕食を済ませたばっかりなのに、どんどん食べちゃう」
「一口サイズで際限なくいっちゃうから、後が怖いわね」
リヴィダスは細いからもっと肉付けてもいいと思うけどなぁ。とくにむ……やべぇ、睨まれた。
昨日たくさんヒカリイカを貰ったけれど、こんなに美味しいなら追加で買っておけば良かったなぁ。一匹が小さいからすぐ無くなりそうだ。
それから唐揚げを作ったついでに、クラーケンのフライ!! 子供のクラーケンを輪切りにして、パン粉を付けてサックサク。子供と言ってもクラーケンなので、一口で食べるには少し大きいサイズのリングだが、気にしない!!
マヨネーズがあるのでタルタルソースも作った。好みでトマトソースをつけてもいいように、少し甘みのあるトマトソースも用意しておいた。フライだからレモンも合うな。
あーもう、サックサクのイカリング……じゃないクラーケンリング!!
「イカリング! イカリングだ! タルタルソースもあるしケチャップもある!」
「これはクラーケンか。全然生臭さがなくて食べやすいな。これはエールにも合いそうだな」
こっちはササ酒よりエールの方が合いそうだったが、俺が食べたかったので仕方ない。メニューの主導権は作る人にあるのだ。
そしてジュストが色々うっかり発言しているような気がするが、俺は知らない。みんな、食べるのに忙しいようで特に気にしていないので、そっとしておこう。後でアベルあたりに突っ込まれそうだけど、俺は知らない。そこは、ジュスト自身で上手く躱す術を身に着けてもらおう。
この後、懐かしい料理と懐かしい酒を満足するまで味わって、酒豪二人が際限なく飲んでいるのを放置して、おやすみなさい。
いっぱい作ったおむすびは、明日のお弁当にするんだ。
翌日は朝からジュストと一緒にオーバロの冒険者ギルドへ。
アベルはリヴィダスの知り合いの商人と商談をしたいと、リヴィダスを伴って出かけて行った。どうやらこちらの特産品を、ユーラティアに定期的に運びたいようだ。
ドリーはドリーで何だかよくわからないが用事があるようで、ふらりとどこかへ出かけていった。
よって、今日はジュストと二人で冒険者ギルドで仕事だ!!
ジュストは登録した後ほとんど依頼を受けていない為、ランクが上がっていない。オーバロにいる間は暇だし、金を稼ぐ事も出来るのでランク上げをするには丁度いい。
俺とジュストはランクが違い過ぎるので同じ依頼は出来ないが、俺が依頼を受けて魔物を倒している間に、近くで採取系の依頼はできる。
需要の多い薬草なら、特に依頼が出ていなくてもギルドで買い取ってくれるし、採取だけでもDランクまでならランクアップは可能だ。冒険者の中には戦闘能力は低めでも、薬草の採取を専門とし、それに特化した者も少なくない。
低ランクの薬草の採取依頼は、町の周辺などの安全な場所だと、同業者と採取場所が被りやすく効率が悪い。強い魔物が出現する場所には、それに対処できない者は来ないので、そちらの方が危険はあるが採取効率はいい。このくらいの手伝いなら、今のジュストの実力なら問題ないだろう。
討伐系の依頼を高ランクの者が手伝うと楽にランクを上げる事は出来るが、実力が伴わないランクアップは危険でもあるし、どうせ実力が足りなければランクアップ試験で不合格になるのでズルはできない。
時々お金持ちの坊ちゃんが、箔付けの為に護衛や高ランクの冒険者を雇って、強い魔物を倒してもらってランクアップをしようとする事もあるが、だいたい碌な結末にならない。
ランクが上がれば、周りからも評価されるし、報酬の良い依頼を受ける事も出来るが、その反面危険を伴う仕事も多い。そこで実力が足りていないと、痛い目を見るのは自分なのだ。
低ランクの者の仕事を奪わない為に、ランクが上がると自分のランクを大きく下回る仕事は、緊急時を除き受ける事ができないようになっている。実力が足らないままランクを上げると、自分の力量以上の仕事をする事になり、そうなると失敗や負傷のリスク、運が悪ければ命の危険まである。
冒険者は常に命の危険のある仕事だ。ランクは見栄や評価の為のものではなく、命を守る為のものなのだ。
「うーん、これとこれとこれが、グランさんの依頼とだいたい場所が被ってますかね?」
魔物の出現報告を纏めた地図と、薬草の分布図を見比べながらジュストが受ける依頼を選んでいる。
「そうだな。こっちの薬草は依頼の上限数が多いし、確実にあるかわからないから、受けないでおいて見つかったら納品すればいい。受けて見つからないと達成にならないからな。後出し出来る物は、後出しにしたほうがいい」
「なるほど、ギルドが募集している数が少なくて、見つけやすい物は先に受けておいて、余裕のある物は見つけて戻ってから報告すればいいんですね」
「そういうことだ。ついでに付近で採れる薬草の依頼がでてないかも見てから行くといいぞ」
「はい!」
『あと、収納スキルの容量に余裕があるなら、とりあえず貯めておけばいい。それと収納スキルはレアだからできるだけ人に知られないようにな。人間の死体とか盗品を隠せるから悪用しようとするやつがいる、絶対知られるな。金が貯まったらダミー用のマジックバッグを用意したほうがいい』
『なるほど、わかりました気をつけます』
内緒話する時に日本語は非常に便利だ。
「じゃあ、依頼を受けたら出発するか」
「はい!」
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