第163話◆祭り最終日

「さっきの大きな雪玉はワンダーラプターが作ったんだよね? で木に擬態したり、雪玉を魔法で転がしたり?」

「ああ。三匹とも魔法も使う上に、頭もいいな」

「ワンダーラプターは賢いからな。間近で人間の行動を見ていたから、学習したのだろう」

「あの子達そんなに賢いんですね。僕、未だにワンダーラプター達に舐められてますよ」

 四人でテーブルを囲んで朝食をとりながら、先ほどの不幸な事故の話をしていた。


 朝食の時間が近づいてお迎えに来てくれたアベルには、非常に申し訳ない事をしたというか、不幸な事故でした。

 人が通る可能性のある場所に向かって、巨大な雪玉を転がしてはいけない。

 アベルにはちょっとお小言をもらったが、雪玉を作ったのがワンダーラプターだと話すと、そちらに興味を持ち始めた。そして今、その話を朝食の席でしている。

「ダミー用の穴を掘って、奇襲の為に木に擬態していたな。ガバガバの幻影魔法だからすぐにわかったけど、そのうち察知スキルなしだと見分けられなくなるかもな」


 移動の為に三匹纏めて買った当初は、魔法はあまり使わず、機動性を生かした噛みつきを主とした戦い方だった。三匹とも思うがままにバラバラに戦っていたが、移動手段と格下の魔物の処理はそれだけ出来れば十分だった。

 だが、かれこれ一月近く共に行動をしているうちに、俺達を乗せている時は俺達の癖に合わせた動きをするようになり、ワンダーラプターだけに魔物の処理を任せている時は、いつの間にか三匹で連携するようになっていた。

 そして、先ほどのように少し抜けているところはあるが、三匹で連携して格上に勝ちに来る。

 ワンダーラプターは賢いと言うことは知っていたが、思っていた以上のようだ。そしてそれがまた可愛いんだよなぁ。


「魔法も使えるとなると、Cランクくらいの強さになってそうだよねぇ」

「あんまり鍛えすぎると、手放す時に断られるぞ。それに情が湧くと手放し辛くなるぞ」

「お、おうわかってる」

 騎乗用の魔物が強すぎると、オーナーを格下と認識して指示に従わなかったり、襲いかかったりする事もあるので、必要以上に強い騎乗用の魔物は乗り手が限られてしまう。

 その為、強すぎる騎乗用の魔物は、買い取りを拒否される事がある。強すぎる個体は買い取った後、襲われる事もあるからだ。

 騎乗の為だけの魔物を取り扱った店では、オーナーや店員が魔物の調教スキルを持っていなかったり、低かったりする事も珍しくない。

 特にワンダーラプターは気難しく、気性も激しい肉食の魔物だ。信頼関係のない相手を格下と見なせば、襲いかかって餌にする可能性すらある。


 特に鍛えたつもりはないのだが、一緒に戦ったり、俺達の戦っているところを見たりして、学習したんだろうなぁ。時々俺が遊んでやってるのもまずいのかなぁ。でも遊んでやらないとストレスが溜まりそうだしな。

 そして、なんだかんだで感情豊かなワンダーラプター達に情が湧きつつあるのは否定できない。

 ダメだダメだダメだ!! 動物なんか飼ったら長期で家が空けられなくなる!!

 三匹か……三姉妹のお散歩に丁度いいのでないだろうか? ワンダーラプターに乗った幼女……悪くないな。

 いや、そうじゃない。うちではワンダーラプターは飼いません!!




 朝食を食べた後は、部屋まで迎えにきたリヴィダスの案内で、バジリスクの養殖場を見学させてもらった。

 広い敷地に放し飼いにされたちっこいバジリスクが、走り回っていてとても可愛かった。こんなの見たら、食べにくくなりそうな気が……やっぱ肉を出されたら、普通に食べるな。

 タンネの村で養殖されたバジリスクは毒を持たず食用に出来ると言っても、齢を重ねるとやはり少しずつ毒を作って体内に蓄積するらしく、バジリスク達は生後一年ほどで食用にされるそうだ。

 それに、Aランクの魔物なので成長すると危険である。安全の為にも成長して強くなる前に肉になる。

 鱗や骨は食用にはならないので、装備品に加工されて村の土産物屋で売っているとの事。

 骨も鱗も毒耐性に優れているので、バジリスク素材の装飾品は冒険者に人気だ。ジュストの装備にバジリスクの鱗を使って、毒耐性を付けておくかな。

 また、バジリスクの血液は、バジリスクの毒専用の解毒ポーションになる。バジリスクの養殖をしているタンネの村では、このポーションが他よりも安いので後で買っておこう。

 美味しく頂いたけれど、野生のバジリスクはめちゃくちゃ強い。交戦になるとほぼ確実に毒を貰うので、バジリスク用の解毒ポーションを持っていないと、毒に苦しめられる事になる。




 そして今日はタンネの村で催されている祭りの最終日なので、村には露店が多く出ていて、観光客の姿が多い。

 バジリスクの養殖場を見学した後は、ふらふらと屋台で食べ歩きだ!!


 シランドルは蒸し料理の発祥の地だ。そして、寒い季節は蒸し料理だ。

 あるよあるよ! 蒸し料理の屋台!!

 流石にバジリスク料理の屋台はないが、蒸し料理の屋台は多い。

 肉まんを串に巻き付けて蒸したような物や、串に肉を巻き付けて蒸した物、大きな葉で肉や野菜と一緒にリュを包んで蒸した物、どれも美味い。


「ひえええ……皆さんよくそんな食べられますね」

 ひたすら買い食いをしている俺とアベルとドリーに、ジュストが少し引いている。

 冒険者は体が資本だからな! それに普段動きまわるし、魔力を消費すれば腹も減る。つまりいっぱい食っても太らない。

「ぬ? ジュストは少し小食過ぎだな。ここは俺が奢ってやるからもっと肉を食え」

「えぇ……さっき朝ご飯食べたばかりでは」

 ドリーがジュストに蒸した肉の刺さった串を渡している。

「訪れた先で地元の料理を買い食いするのは、冒険者の醍醐味なんだよ」

 アベルってお貴族様なのに、平民の屋台料理が結構好きだよな。


 タンネの村の屋台にはイッヒやリュを使った料理が多い。寒い季節なので温かい物が中心だ。

 イッヒの果肉に木の実や豆の類を砕いて練り込み、串に巻き付けて炭火で焼いた物に、甘辛いソースが掛けてあるやつは美味かった。

 煮込んだ野菜と肉をイッヒで包んで蒸したやつも美味かったし、丸めて焼いたイッヒに色々なソースを掛けて楽しむ田楽のようなのも美味かった。

「グランさんが食べているのは、おも……」

「ジュスト、これはイッヒと言うでっかい木の実の果肉だ。一つ食べてみるか?」

 これは餅ではないイッヒだ。すごく餅っぽいがイッヒだ。ジュストはまだこちらに来て間もないので、うっかりポロリが多い。

「イ、イッヒですね、覚えました! 一つ頂きます!」

 イッヒはかなり餅っぽいので、俺にとっては懐かしさのある食材だ。


 買い食いもたくさんして、タンネの村の名産品も色々買った。

 昨夜リヴィダスに聞いた溶岩石を加工した板やポットも買ったし、溶岩石その物も買えた。

 俺、家に帰ったら石焼き芋をするんだ。

 ジュストにはバジリスクの骨を使った装飾品を勧めておいた。あとで毒耐性の付与を教えつつ、実際に一緒に付与をしてみよう。

 ある程度の付与が自分で出来ると、装備品を自分で改造できるし便利だしな。知識や技術はいくらあっても損はない。


 そして、現在進行形でやっているお祭り!!

 露店で売っているお守りを買って、村の中央に設置されている針葉樹に飾るそうだ。

 このお守りが、持ち主に降りかかっている災厄を吸い取ってくれるとかなんとか。その災厄を木に飾ったお守りと共に、最終日に燃やすらしい。

 実際に軽い浄化作用があるらしいので、参加してみることにした。

 俺は昨日温泉で龍神様の気まぐれ加護を貰ったおかげで、すでに浄化されている気がするので、俺の分の浄化効果をジュストに上乗せできればいいのになぁ。ついでに龍神様の浄化効果をジュストに譲りたいくらいだ。

 スタートで失敗してしまったが、ジュストは真面目で素直な子だ。少しでもジュストの呪いの進行が遅れますように、呪いが浄化されて人間に戻れますようにとお願いしたい。


 露店でお守りを買って、広場へ。

 お守りは色々な形があって迷ったが、俺はシンプルな丸いやつにした。

 星形や靴下型もあって、どことなく転生者か転移者の気配を感じてしまう。最後に針葉樹を燃やすあたりに、よくわからない親近感がある。


 ぶらぶらと買い食いをしたり、買い物をしたりしているうちに、祭りのクライマックスの針葉樹に着火する時間が近づいてきていた。

 買ったお守りを、広場の中央の大きな針葉樹へと飾った。

「こんな大きな木を村の中で燃やして大丈夫なんですかね?」

「広場の周囲に防火用の結界が張ってあるみたいだから、燃え広がったりはしなさそうだね」

 祭りの為に村の中央に設置された針葉樹は巨大で、その高さは十メートルをゆうに超えていた。

 燃えながら倒れたら大事故になりそうだけど、そこは伝統ある祭り、ちゃんと対策はされているようだ。


 日没が近づき、広場ではシアモワ族達が楽器の演奏を始めた。

 どうやらそろそろ針葉樹に着火する時間のようだ。



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