第162話◆贅沢な加護の使い方
気まぐれな龍に加護を貰って一晩過ぎた翌朝も、元気が有り余って朝早く目が覚めてしまったので、朝ご飯前にワンダーラプター達と遊んでやることにした。
贅沢な加護の使い方かもしれないが、ワンダーラプター達と全力で遊んでやるぞおおおお!!
ホテルには騎乗用の魔物を放せる広場があったので、そこでワンダーラプター達と早朝雪合戦だ。
オストミムスは臆病というか気弱なので、雪玉なんて投げつけるとビビってプルプルしてしまうので、オストミムスは不参加だ。
「くらえー!」
「グギャーッ!」
俺が投げた雪玉をワンダーラプター君一号こと、俺がいつも乗っているワンダーラプターが尻尾で粉砕した。
「グゲーッ!」
二号が地面の雪をこちらに向けて蹴ってくる。二号はアベルのワンダーラプターだ。
「ギョッギョッ!」
ドリーの体格に合わせて少し大きめのワンダーラプターが三号。三号は雪と一緒に泥まで飛ばしてくる。
大雑把なところがドリーにそっくりだ。
ワンダーラプターは賢く自尊心も強い。そして自分より強いと認めた者には従順で、更に力以外でも信頼関係を築く事ができると、ものすごく懐いてくれる。
そりゃあもう大型犬の如し。
そしてワンダーラプターは、遊ぶことも大好きである。その為、時々こうしてワンダーラプター達と遊んでやっている。
遊びながらどちらが上か、力関係をはっきりさせるのも重要だ。
ワンダーラプターが飛ばしてきた雪と泥を避けて、体勢を低くして地面の雪を掬い手早く丸めて、体が大きくて狙いやすい三号に投げる。
「ンギャッ!」
三号の太ももの辺りに雪玉が当たった。君、最近ちょっと太ったよね? ダイエットしよ?
「ギャッギャッギャッ!!」
おい二号、魔法は反則だ。二号の周りに小石くらいのサイズの氷がバラバラと浮かんだ。
ワンダーラプターは魔法を使う事もできる。長生きをしている個体だと、人間の魔道士もびっくりなほどの、強力な魔法を使う事もある。二号はいつもアベルの傍で、奴の魔法を見ているから覚えたのかもしれない。
俺は魔法が使えないのにズルい。
「ギャギャッ!」
二号が短く鳴くと、氷の弾がこちらに飛んできた。小さいのであまり痛くなさそうだが、防具は着けていないので当たりたくない。
「お前がやるなら、俺もやるぞぉ!」
普段使う事のないラージシールドを収納から取り出して、氷を盾で受け止めるついでにそのまま打ち返す。
「ギャッ!」
俺が打ち返した氷の弾が二号に当たって、恨めしそうに俺を見る。先に魔法を使ったお前が悪い。
残るは一号なのだが、二号と三号の相手をしている間に見失ってしまった。
ええ? そんな広い場所じゃないのに、どこ行った!?
と思ったら地面に穴が空いているのが見える。土魔法で穴を掘ってその中に隠れたのか!? 無駄に賢いな!!
穴の中に籠もられて、そこから雪玉を投げられると、こっちが不利になる。籠城作戦とは卑怯な!!
というか、ホテルの敷地に穴なんて掘って、後で元に戻しておかないと。
穴の方に注意を向けながら、雪を掬って玉を作る。
「そこだ!」
俺は穴ではなく、穴の脇に生えている大きな木の葉が密集している場所に、雪玉を投げつけた。
「ギャッ!」
雪玉は一号にあたったようで、一号は木の上から降りてきた。
「察知スキルは使ってねーぞ。幻影魔法まで使って擬態してたみたいだけど、一箇所だけ不自然に葉っぱがモコモコしすぎだし、そこだけ雪がないっておかしいだろ」
「ググギャー」
一号は悔しそうにこちらを見るが、一号がいた場所は不自然に葉っぱが多かったし、雪景色の中そこだけ雪が積もっていなかったから、気付かないほうがおかしい。
おそらく、俺が穴に気を引かれて見に行ったら、上から雪を落とすつもりだったのだろう。無駄にズル賢い。
「ふはは、賢いようだがまだまだだな!」
「グギャ」
「ギャフゥ?」
「ギャギャギャ」
俺が腰に手を当てて胸を張ると、ワンダーラプター達は顔を見合わせ、何やらヒソヒソ?と話し合っている。
「なんだ? 作戦か? よぉし受けて立とう。かかってくるがいい」
右手を突き出して、指でチョイチョイと煽ってみると、ワンダーラプター達はギャウギャウと何かを言って、こちらを向いた。
コイツら何だかすごく悪そうな顔をしているぞ? まぁ、ワンダーラプターはDランク程度の強さだし、少々暴れても何とでもなるだろう。
「グギャー」
「ギャー」
「ギャギャギャ」
三号が鳴くと、泥混じりの雪玉が彼らの足元に出来上がった。
続いて二号が鳴くと、その雪玉に周囲の雪と泥が吸い寄せられるように集まって、雪玉が俺の身長より少し小さいくらいのサイズまで成長した。
おいい? 何やってんだこいつら!?
最後に一号が、その巨大な雪玉を後ろ足で俺の方へと蹴飛ばした。その顔は、すごく悪そうな歪んだ笑みを浮かべているように見えた。
「ちょっ」
ゴロゴロと転がってくる巨大な雪玉を慌てて避けると、雪玉は不自然な軌道で俺の方に曲がってきた。
「はあ?」
「「「ギャッギャッギャッ!」」」
ワンダーラプター達は小躍りするように体を揺らしながら、機嫌良く鳴いている。
ワンダーラプターの得意な属性は風だ。おそらく風魔法で雪玉を動かしているのだろう。おのれ、小賢しい。
雪玉は転がっているうちに、地面の雪を巻き込んで更に巨大化しているが所詮は雪玉だし、このままワンダーラプターの方に誘導して、ぶつけ返してやるか。
そうと決まれば、逃げるふりをしてさりげなくワンダーラプターの方へと誘導していく。
直線で誘導すると、この小賢しい亜竜達は俺の意図に気付きそうなので、バレないように大回りをしながらさりげなくだ。
広場の中を大回りに周りながら、少しずつワンダーラプターとの距離を詰めて行く。
さぁ、このまま行けばもう少しでワンダーラプター達に、この巨大雪玉をぶつける事ができるぞ!!
っていうかデカいな、おい。いつの間にかドリーの身長くらいになってるぞ。
「グギャァ?」
「アギャ?」
「ギャフギャフギャーー!?」
もうすぐワンダーラプター達にぶつける事ができそうだという時に、ワンダーラプター達が急に騒ぎ出した。
ん? 気付かれたか? いや、違う。
俺の後ろを付いて転がって来ていた巨大雪玉が、急に向きを変えて違う方向に転がり始めた。
あー、こりゃ雪玉が大きくなりすぎて制御出来なくなったのか。
俺の計画も無くなったが、まぁしょうがないな。雪玉は広場の外側の方へと向かって転がっているので、広場を囲う柵にぶつかって壊れるだろう。いやこの軌道だと少し入り口辺りに着弾しそうだが、壊れた後に分解して水にしておけば通行の邪魔にならないだろう。
巨大雪玉が広場の入り口辺りまで転がって行った時――。
「グラン、朝ご……はあっ!?!?」
「あ……」
「ギャフ?」
雪玉が入り口の扉にぶつかるまさにその瞬間、アベルが入り口の扉の前に転移魔法で現れた。
直後、アベルに雪玉が直撃するのが見えた。
転位魔法は転位先が安全だとは限らないので、こういう事故は起こってもおかしくない。便利だが危険な一面もある魔法だ。
って、そうじゃない。アベルは雪玉がぶつかったくらいでどうこうなる奴ではないので、そこは安心なのだが、これはまずい。ただの不幸な事故だがまずい。
不幸な事故だが、人が通りそうな入り口に向かって転がる雪玉を放置した俺も悪い。むしろ、ぶつかったのがアベルでよかった気もするな。いや、よくないけど。
このままでは怒られそうだな。
「逃げるか」
「ギャギャギャ」
逃げて解決するわけではないが、とりあえず逃げないといけない気がしたので、ワンダーラプター達と顔を見合わせて逃げの体勢に入った。
「グーラーンーーー」
声の方を振り返ると、雪とドロにまみれたアベルが見えた。
そして逃げようと思ったのに、何故か足が地面に縫い付けられたように動けない。ワンダーラプター達も動けないようで、目を白黒させてギャアギャア鳴いている。
足元を見ると、俺とワンダーラプター達の影に、真っ黒い闇でできたナイフが刺さっている。
闇属性の影縫い系の魔法である。
いやぁ、いつの間に魔法発動したのか全くわからなかったな!! さっすがアベル!!!
「朝から何やってるの!!!!」
爽やかな朝の空の下に、アベルの怒声が響いた。
正直すまんかった。
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