第155話◆派手にやっていいって言ったじゃないか!?

「それで、申し開きはあるか?」

「多少派手にやってもいいって言ったじゃん?」

「これのどこが多少だ!! どうやったら、こんな風に屋敷が一部だけスッパリなくなるんだ!?」

「えーと、分解スキルが頑張った?」

「そういう意味ではない!! その上、主犯格と取り引き相手は瀕死、護衛の男は重傷。しかもホホエミノダケ中毒者多数って何だ!?」

「それは正当防衛とA+級の魔物の乱入かな? いやー、もう、サンダータイガーが突っ込んで来たのに、死者ゼロって奇跡じゃない? 俺すごくない!? イタッ!!」

 ゴンッ!

 くそ痛いげんこつが降ってきて視界に火花が散った気がする。

「ばっか野郎! 現場崩壊させやがって! 証拠品が埋もれてるだろ!! というかなんでお前、階段全部壊した!? 上の階の調査に梯子が必要じゃないか!!」

「階段屋内での戦闘の為の戦略かな? 梯子なら地下の倉庫にあった……ああ、俺が回収してるからすぐに出せ……イタッ!!」

 再びゲンコツが降ってきた。

「梯子がどうとかという問題はないし、どうして梯子を回収したのかは後で詳しく聞く事にしよう」

 えー、俺めちゃくちゃ頑張ったのにー、奴隷商一味も無事?全員お縄に出来たのにー。階段だって戦略的な事情だから問題ないだろお!? ていうか、梯子は余計な事を言ったかもしれない。



 予想外のサンダータイガーママの乱入により、若干現場の混乱はあったが、奴隷商一味は無事全員お縄となった。

 ママさんの強烈咆吼により、近くにいた奴らほぼ全員気絶していたから、ママさん帰った後にひたすら縄かけて回るだけで終わった。

 数名動ける戦闘員もいたが、ちゃっちゃとのして終了。

 護衛や破落戸っぽいのは縄で縛った上でジュストにスリープをかけておいてもらったけれど、非戦闘員の使用人のみなさんには、一つの部屋でドリー達が来るまで待機してもらった。

 逃げたかったら逃げてもいいけど、まだ近くにさっきのサンダータイガーがいるかもと言ったら、みんな大人しくなってくれたよ。

 うん、多分さっきのママさんタイガーより更に強いパパさんも、近くにいたと思うんだ。こわいこわい。

 気配が拾えたのは一瞬だけだったけどSランク級じゃないのかな? パパさん突っ込んで来なくてよかったよね。あんなの無理、絶対無理。


 主犯と、子虎誘拐の実行犯は母虎がボコボコにしてしまった為、すぐに事情聴取が出来る状態ではなさそうだった。これは、俺は悪くないと思う。

 屋敷にいた者の半数近くがホホエミノダケ中毒で、これも効果が切れるまで話にならない。眠らせて閉じ込めていた使用人とか後から駆けつけた護衛がほぼ無傷で残っているだけだ。護衛と使用人は奴隷取り引きの件を知っていた者も多く、今はそちらから事情聴取中だ。


 まぁそんな感じで、奴隷商関係者全員捕縛して、捕まっていた獣人さん達も無事全員保護。これ全部ドリー達が来る前に俺とジュストでやったんだけど、俺達すごくない? めっちゃ大手柄!!


 と思ったのになぜかドリーにめちゃくちゃ説教をされているし、アベルとリヴィダスにはすごく生温い目で見られている。

 ドリー達がグローボの兵団と領主から派遣された騎士達を連れて到着した後、その場で簡単に事情を説明して、ジュストは疲れただろうって馬車の中で休んでいる。

 そして、俺は現場検証に付き合わされながら、ドリーにめちゃくちゃ説教されている。解せぬ。


「しかしサンダータイガーの子供か。全くとんでもないものを町の傍まで連れて来やがって、このまま町まで持ち込まれてたらと思うとゾッとするな」

「だろ? それはまずいしと思って超がんばった結果こう……いたっ!」

 またゲンコツが降ってきた。解せぬ。


 俺達が連れて来られた屋敷はグローボの町から二時間近く馬車を走らせた場所にある森の中だった。所有者は主犯とおぼしき奴隷商の嫁さん方の親戚の物らしい。これがどっかの男爵かなんだかの血縁者らしく更に複雑な事になっているらしいが、俺は知らない。

 グローボ辺りの領主様は子爵様らしく、男爵より階級上なので屋敷分解したのは多分大丈夫!! ドリー達が来るまで色々くすねたけど多分バレない! そっちも大丈夫!!

 ついでに麻薬の原料も見つかって、現場は混沌としているが俺は悪い事はしていない。むしろ事件解決にめっちゃ貢献した。ボーナス貰っていいレベルじゃない!?


 ドリー達と一緒に来た、領主様が派遣した騎士達を纏めていた隊長さんは領主様の血縁者らしく、かなり本気でこの奴隷商を捕まえに来たことが窺える。

 もしかして、ドリーさんかなり圧力かけた? まぁ、何も言わなくても顔だけで迫力あるからね。

 で、現場に来た騎士を纏めていた隊長さんには、何だかものすごく上機嫌で感謝された。


「いやー、おかげで面倒臭い奴らを纏めて挙げられそうで助かったよ。後は、砂の中に埋まってる証拠品を見つけ出すだけかなぁ!」

 あ、はい、すいません。 

「おい、グラン。お前まさか証拠品まで分解してないよな?」

「俺が分解したのは屋敷だけのはずだ。証拠品って取り引きの書類とかだよな? だったら範囲外のはずだ」

 書類関係なら棚とか机の引き出しに入っているはずだし、俺の分解スキルの範囲外だと思うので、おそらくその辺に埋まってるんじゃないかな!? 屋敷の一角をくずして発生した砂の量は半端ないので、この中から掘り出すのは大変そうだけど。

 証拠品の回収は俺達が手伝っていいのかわからないな。重要な情報だし、たまたま巻き込まれただけの俺達は手を出さない方がいいだろうなぁ。というわけで、大量の砂はすまんかった!!


「ねぇ、君。この屋敷を砂にしたの君だよね? いやー、建造物を砂にするってすごいね?」

「いやぁ、それほどでもぉ」

 褒められると照れるぅ。

「それでさ、この砂だけなんとかできない?」

 隊長さんにものすごくいい笑顔で聞かれた。

 あ、はい、ごめんなさい。

 この後めちゃくちゃ後片付けを手伝わされた。

 砂は面倒臭くなってマジックバッグにしまった事にして全部収納に突っ込んだ。もしかしたら何かに使うかもしれない。



 捕まっていた獣人達は、やはり近隣で相次いでいた獣人行方不明事件の被害者だった。

 リヴィダスの故郷で行方不明になっていたシアモワ族の獣人も無事保護できた。

 しかしすでに売られた者や、港町から船で海外に連れ出された者もいるようで、これはこれからの調査で追跡する事になるそうだ。

 そして、俺達が見つけてしまった麻薬の原料の、その入手ルート、製造販売ルートの調査もあるので、関係者の方々は大変そうだなぁ。

 ドリーとアベルが隊長さんと難しそうな顔をして話しているのを見たが、他国の法や情勢なんて、学のない俺にはわからない。

 俺は通りすがりの冒険者なので関係ない。

 奴隷に麻薬、一介の商人だけでやるような事ではない。この屋敷の持ち主も貴族の関係者らしいし、おそらく背後に貴族の絡んだ組織がいるのだろう。

 すごく闇が深そうだけど、俺は巻き込まれただけの平民冒険者なので関係ない。


 関係ないので、がんばったご褒美に温泉でゆっくりしながら、バジリスク料理を食べたい。

 後でまた話を聞くことになるかもと言われたけれど、俺はリヴィダスの故郷でのんびりした後は、米を見つけてお家に帰る予定なので知らない!! 難しい事は全部ドリーにお願いします!! 俺は平民なので難しい事はわかりません!!











 というわけで、事後処理でドリーからゲンコツを何度も貰う事になったのだが、それも無事片付いて、やって来ました!! リヴィダスの故郷、シアモワ族の里!!

 グローボの町からワンダーラプターで丸一日かけてやって来た山奥にある村タンネ、そこが猫の獣人シアモワ族達が暮らす村だ。

 背の高い針葉樹に囲まれたその村は、グローボより標高の高い場所にあり、雪が降り注ぐ銀世界。


 寒いと聞いていたので、出発前にワンダーラプターやオストミムス達には防寒具をつけておいた。

 もちろん、俺達もしっかり防寒具を身に着けているのだが、寒いもんは寒い。


 雪の積もった山道を抜け、針葉樹に囲まれた村に入ると、こぢんまりとしているが、カラフルで可愛い外見の建物が雪を被っている景色は、なんともメルヘンで童話の世界のようだ。

 やたら宿屋が目につくのは、観光地だからだろう。

 村というか町といった感じで、人も多く整備されているが、住人よりも観光客の方が多いのかな?

 リヴィダスに案内され、立ち並ぶ宿屋の中でも大きな宿屋にやって来た。


「ここが私の実家よ」


 "ホテル・シアメーゼ"

 積雪の多い地域ならではの三角屋根の小洒落た宿屋が、リヴィダスの実家のようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る