第153話◆危機一髪は救われた!?
「すみません、グランさん」
男に捕まっているジュストが、耳を伏せて申し訳なさそうなオーラを醸し出している。こちらからは見えないが尻尾も多分シュンと垂れている。
ジュストは悪くない、増援の殲滅に夢中になりすぎた俺が悪い、というかその傭兵男が大体悪い。大本を正せば奴隷商人が悪い。
よって、ジュスト無罪。
それより今の状況は非常に不味い。
ジュストが捕まっているので、俺も下手に動けなくなってしまった。
ジュストも俺も見た目は獣人という、奴らにとっては大事な商品なので、無駄な抵抗をしなければ命の危険はないと思うのだがこの状況は非常に不味い。
何がまずいって、サンダータイガーの親がすぐそこまで来てるんだよおおおおお!!!
こんなすぐ近くまで来ている事に気付かなかったのは、本当に大失態だ。
いや、いくら戦闘中でもサンダータイガーなんていう強力な魔物が近づいていたら気付くはずだ。
俺達が中で暴れていたせいで、外の見張りが中へ援軍に来て庭の警備が手薄になっていた為、誰にも目撃される事なく、ここまで気配を消したまま近づいて来たのだろう。
むしろ、今でも気配を殺している。ちょっとした魔力の揺らぎがあった為、気が付く事ができたのだ。
気配だけでもわかる。めちゃくちゃ怒っている、とてもまずい。とても逃げたい。
そう思った直後、ものすごい爆発音がして閃光と共に、ジュストと傭兵男の背後の壁が吹き飛んだ。
「うわああぁっ!!」
バチバチと飛び散る火花に巻き込まれて男が悲鳴をあげて床に倒れた。
ジュストも壁を破壊した閃光に巻き込まれたようだが、身に着けていたニーズヘッグの鱗を使ったマントのおかげで無傷だったようだ。
男から解放されたジュストが、崩れた壁の瓦礫の傍でうずくまっているサンダータイガーの子供を抱き上げた。
あーーーっ! ジュスト君! 今その子を触るの非常にまずいんだ!!
その直後、崩れた壁から巨大な白いトラが、のそりと室内に顔を見せた。
でけぇ……。俺の位置からは頭と肩辺りしかみえないが、そんな巨大な魔物が、この穴だらけで壁も壊しまくっている二階に乗り上げたら非常にまずい。
乗り上げるなよ? いいか、絶対そこから二階に上がって来るなよ!?
ドンッ!!
でっかい前足が片方二階の床に置かれた。
おい、やめろ!!
ドンッ!!
更に反対側の前足。
今からでも遅くない!! やめるんだ!!
サンダータイガーがそのまま壁を崩しながら、室内に体をねじ込んで来て、子供をぎゅっと抱きしめているジュストの方をジッと見た。
まずい、色々まずい。
ミシミシと床が悲鳴を上げている。
床だけではない、部屋の周囲の壁も悲鳴を上げている。
この部屋の周辺は、ニトロラゴラを投げたり、床や壁を分解したりでかなりボロボロになっている。それでも、ぎりぎり崩れないくらいに残しておいたつもりだったが、サンダータイガーの親が壁をぶち破って突入して来たせいで、この部屋周辺は上の階を支えるだけの強度が残っているか非常に怪しい。ちょっとの衝撃で崩れてもおかしくない。
ミシミシという音はだんだん大きく、はっきりとした音となる。
ガララララララッ!!
サンダータイガーの親が乗り上げていた部分の床が音を立てて崩れた、というか抜けた。二階の床が抜けて、サンダータイガーの親が一階に足をついたドンという音がした。
その振動で、屋敷がグラリと揺れた。
「まずい! 崩れる!! この部屋から離れろ!!」
思わず声を上げるが、ジュストはサンダータイガーの子供を抱っこしているし、奴隷商とその取り引き相手はスヤスヤしているし、サンダータイガーの電撃をもろにくらった傭兵男はこんがりして倒れている。
そこに、建物が崩れて来たら、死人がでてしまう。こいつらは首謀者っぽいから、生かしておきたい。そして、首謀者死亡とか間違いなく俺がドリーに怒られる。
しかしもう、この部屋の床は抜けてしまいそうだし、そうすれば残った壁も崩れて天井も落ちてきそうだ。
じゃあどうするって、こうするしかないよなぁ。
「ジュスト!! 自分の周辺だけでいい、降ってくる物は収納しろ!! 自分の身とトラの子を守れ!」
そう叫んだ後、俺は近くの壁に右手をついて、俺達のいる部屋の周辺を上から下まで全て分解した。
直後、ザアアアアアアアッと建物が分解され砂となる音がした後、屋敷を分解して出来た砂がドサドサと降り注いだ。
床も壁も天井も繋がっている部分なら分解できる。崩れて瓦礫の下敷きになるよりは、崩れ始める前に分解して砂が降って来る方がまだいい。しかも床を分解して砂にすれば落下してもクッションになる。俺達がいる部屋の周辺を、上から下へと分解すれば被害は最小限で済むはずだ。
しかし、建物以外に建物の中身、つまり家具類は屋敷本体と結びついていない為、分解できない。つまり建物が崩れ始めた後、空中に投げ出された物は分解できないのだ。更に砂も、瓦礫が降ってくるよりましだが、この量だと押しつぶされて危険だ。
分解と同時進行で手の届く範囲だけ、落下してくる物を片っ端から収納で回収した。
分解と収納を同時に使うって俺すごくない???
なんて自画自賛しているうちに、俺達のいる部屋周辺の床も崩れ始めたので、分解のスピードをできる限り上げた。
俺の足元の床も分解して砂になり、空中へと放り出された。
「ぺっぺっ! 砂が口の中に入ったし! ジュスト無事か!?」
砂を払いながら立ち上がり、俺達がいた部屋のあたりを見上げた。
俺達がいた部屋の辺りで、まるで包丁でケーキを切ったかのように、スッパリと建物がなくなって、屋敷の残った部分の断面が見える。
俺が廊下に空けた穴の辺りから向こうが残っている感じだ。
ホホエミノダケの効果でゲラゲラ笑っている奴らが、上からこちらを見下ろしている。ホホエミノダケの効果なのはわかるが、何となくイラッとくるな。
そして、一階に落とした奴は分解後の砂に巻き込まれたようで、砂に埋もれながらゲラゲラ笑っている。うむ、生きているようでよかった。
周囲は屋敷を分解した砂と、分解されなくてそのまま落ちてきた物が散乱していた。
「いてててて……ちょっと着地失敗しましたが、大丈夫です。魔物の子供も無事……うわああっ!!」
ジュストはサンダータイガーの子供を、落下物から庇うように抱きしめて落下して、着地を失敗して尻餅をついたようだ。
そのジュストが、サンダータイガーの子供の上にかかっている砂を払いながら体を起こして、叫び声を上げた。
ジュストの上に覆い被さるように、サンダータイガーの親が立っていた。
サンダータイガーがブルブルと体を振るうと、その上に積もっていた砂が周囲に飛び散った。
こっちまで砂が飛んできてペチペチと砂が当たって地味に痛い。
サンダータイガーの親が崩れる屋敷から、子供を守ったようで、一緒にいたジュストもほぼ無傷である。
が、問題はその親のサンダータイガー。
背中から脇腹にかけて大きな傷跡が残っている。完治しているようだが、切り裂かれた跡のような傷がばっちり残っている。
もしかしなくてもお母さん、カリクスにいらしたサンダータイガーさんですよね!?
雄か雌か見た目ではわからないけれど、なんとなくこのオーラは怒れるママンの空気だと思う。
そして傷を付けたのは、コウヘイ君ですよね!?!?
めっちゃめちゃ、まずううううううううう!!
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