第152話◆ヴォーパルバニーと傭兵おじさん

『ジュスト、あのおっさん二人とサンダータイガーは任せた。護衛は俺がやる』

『はい!』

 おっさん二人は、戦闘能力ほぼなさそうだからな。ちょっとぶん殴れば終わりそう、ってスリープでもう寝てるし、サンダータイガーの手当に取りかかっている。さすが、優秀!!

 ジュストが、サンダータイガーの子供を保護している間、俺は傭兵のおっさんの相手だ。


 自分で空けた床の穴を飛び越えて、傭兵の男との距離を詰めた。

 壁を崩したのでロングソードを振り回しても平気そうだけど、あのミスリルのロングソードは切れ味が良すぎて人には使いたくない。

 切れ味ならアダマンタイトのショートソードもエグイし、人間の肉を斬る感触が手に残るのは嫌なので素手だ素手。

 男なら黙って拳で語る。


 距離を詰め、鳩尾を狙って拳を繰り出すと、男は大きく後ろに下がってそれを躱し、ショートソードを抜いた。

 その手を目がけて、収納から出したスロウナイフを投げるが、これもあっさり躱される。それは予想済みで、男がスロウナイフを避けている間に再び距離を詰めた。

 男は横に大きく回り込むように移動しながら剣を振るう。妙に距離を取りながら、短い剣を振るって来るので非常に避けやすいのだが、こちらは素手なので距離を詰めるのが面倒臭い。


 あー、分解スキルを警戒されているのか。もしかして、生き物も分解出来るって思われているのかな?

 生き物は分解できないんだけどね。まぁ、勘違いしているならちょうどいいや。

 ほら、そんな無駄に距離取って戦うと後ろがなくなるよ。

 普通に戦えばそれなりの腕の者なのだろうが、分解スキルを警戒しすぎて腰が引けている。男が無駄に距離を取りながら剣を振るうので、それを躱しながら間合いを詰めるだけで簡単に壁際に追い込めた。

 背後に壁が近くなると動きも制限され、次の行動も読みやすくなる。

「くそっ!」

 斜め前に踏み込んできたので、左手で剣を持つ手を掴んでグローブの電撃を発動させる。

「ぐあっ!」

 結構強めに入れたのにひるんだだけで持ちこたえた。

 えー、アベルならこれより弱くても落とせたのに。意外と頑丈だな。

 だが、ひるんだ隙に男の剣を収納スキルで没収する。分解すると勿体ないからな、バラせば資源だ。貰える物は貰う! これ冒険者の基本。

 突然、手から剣が消えた事に驚く男の鳩尾に、身体強化を乗せて右手でボディブロー。男の体がぐらりと揺れたので、左手で頬にフックをいれるとそのまま床に倒れた。

「おっと」

 勢い余って床に倒れた男を踏んでしまったが、もう完全に意識を失っているようだ。


「グランさん! 後ろから来てます」

「あれは俺がやるから、そこの男にもスリープ掛けといてくれ」


 先ほど、一階に落とした奴らかな? 復活して穴から登ってきたようだ。男二人が、こちらに向かって来ている。

 他にもこちらに来ようとしている気配がある。逃走経路破壊の為にニトロラゴラを投げたからなぁ。屋内での騒ぎに気付かないほうがおかしいな。

 まぁ、バラバラやって来ているみたいだし、ちょうどいいや、片っ端から迎撃させてもらおうか。


 男二人は相変わらずショートソードを持っている。先ほど廊下と家主の部屋の間の壁を分解してしまったので、剣を振り回す広さがあるので少しやっかいだ。しかし、ソファーや棚と言った家具があるので、剣の性能は生かしきれないのだが。

 といっても、床分解しちゃうから、関係ないんだけどね。

「少しは学習しろ」

 床に手を突いて、男達が向かって来ている周辺まで広範囲で分解した。

 広範囲で分解したので、男達と一緒に周囲の家具も一階へと落下していった。あー、痛そう。そこそこ鍛えてそうだったし。これくらいじゃ死なないだろう。生きてればポーションか回復魔法で何とかなるし、死ななきゃ安いな!?

 しかし悪徳奴隷商のとこの使用人とは言え、非戦闘員を巻き込むのは少し忍びないので、崩れた床の下に人がいない事は、察知スキルで確認済みだ。


 床に空けた穴は、先ほど空けた穴と繋がって、廊下から俺達のいる部屋にかけて大きな穴が空いている。

 これで、廊下から纏めて増援が来る事はない。下から這い上がってくるか、穴を飛び越えて来るかになるので、こちらに近づく時に大きな隙が出来てしまうので、狙い撃ちの的だ。


 対人でもっとも怖いのは人数によるごり押しである。

 アベルのような、チート魔法使いなら近づかれる前に一掃する事も可能だが、俺のような魔法が使えないレンジ弱者は、物量で押されると逃げることすらままならなくなる。

 故に、相手に足並みを揃えさせる訳にはいかない。

 相手がこちらの状況を掴めずバラバラと少数で来る状況を作りだし、敵がまとまる前に戦闘不能にしなければならない。


 というわけで、穴の向こう側にやって来た奴らを、順にクロスボウで狙い撃ちしている。あまり威力はないが、どんくさい奴は勝手に当たって下に落ちてくれている。

 弓の方が威力は高いが、俺の弓は対魔物用なので、破落戸上がりの三流護衛に使うには威力がありすぎる。うっかりスプラッタになって、ジュストの目を汚したくない。

 屋敷の護衛なので、相手は遠距離戦を想定した弓を持っていないのも、こちらに有利だ。


 バラバラとやってくる奴らをクロスボウや毒を塗ったスロウナイフで無力化しているのだが、完全に戦闘不能にはなっていないので、復帰してくる。下から上がってくるのは足蹴にして、一階にお帰りいただいているけれど面倒臭いなこれ。

 穴の向こうには、屋敷の外から来たと思われる増援も見え始め、身体強化持ちが穴を飛び越えてこちらに来そうな雰囲気だ。そうなるとかなり不利になる。

 うーん、対岸に結構な人数見えるし、やってしまうか。


「くらえ!! 困った時のホホエミノダケボンバー!!」

 対岸に集まっている男達の方にホホエミノダケをぶん投げた。

 ただ笑いが止まらなくなるだけという殺傷能力は全くない効果なのに、相手をほぼ無力化できるという、なんとも人道的で優秀なキノコである。

 ついでに穴から一階にも投げ込んどこ。

 無駄な殺生をせず、笑顔で無力化!! なんて優しい攻撃なんだ!! しかも範囲攻撃!!

 ふはは、これで増援も無力化完了!!


 後はおっさん達を縛り上げて、サンダータイガーの子供を手当して、獣人さん達を解放してミッションコンプリート!!

 あれ? ドリー達来る前にほぼ解決してない?

 ドリー達が来る前に屋探り、いや奴隷売買と麻薬の取り引きの証拠を探す時間もあるな。

 俺めちゃくちゃ有能!! いやー、これはめっちゃ褒められても仕方ないな!! しかもこれだけ仕事した後なら、少々ボーナス貰って帰っても怒られないよなあああ!?


 と、思わず油断して周囲の気配を見落としてしまったのが不味かった。


「動くな!!」


 背後から声がして振り返ると、復活した傭兵風の男がジュストを後ろから拘束して、その首に剣を当てていた。

 これはかなりまずい。

 俺としたことが、順調に事が運びすぎて気が緩みすぎていた。

 電撃グローブの攻撃を耐えた時点で気付くべきだった。

 魔力に対する抵抗の高いアベルでさえ落とせた電撃に耐えたと言うことは、この男、魔力に対する抵抗力が高いのだろう。

 ジュストにスリープをかけるように頼んでいたが、ほぼ効果がなかったようだ。


 これはちょっと、いやかなりまずいかもしれない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る