第151話◆通りすがりのただの生産者

 騒ぎに気付いて出て来た破落戸のような男達を倒しながら、サンダータイガーの子供の気配がする部屋の方へと向かった。

 今のところあまり強い者との遭遇はなく、俺が一方的に張り倒してジュストがスリープの魔法をかけている。


「いいかいジュスト。屋内では長い得物は使えない、もちろん弓も不利だ。そして炎系の魔法も自分の身に危険があるのであまり使わない。武器は短い得物――ダガーのような短刀、飛び道具はスロウナイフや小型のクロスボウ、後は素手での戦いがメインになる。魔法は知らない。まぁつまり、小回りの利く戦い方がメインになると言うことだ。奇襲には気をつけろ、いつでも攻撃を防げるようにしておくんだ」

 廊下の幅は二メートル半程度で、戦闘を行うには広いとは言えない。狭い屋内での戦いでは大型の武器は、壁や天井、家具が邪魔で戦いにくく不利である。

 ドリーみたいに、小回りもクソもなく壊して回って、物理的に風通し良くする系のゴリラタイプや、魔法で全て更地にしてしまえばいいと言う、アベルのようなデストロイヤータイプもいるが、奴らは例外的存在なので基準にしてはいけない。

 弓もまた、悠長に構えて撃てるほど相手との距離もなく、遮蔽物も多い屋内は不利である。

 俺のような凡人はスピード重視で小回りの利く戦法をとるのが普通だ。魔法は知らん。俺が使えないから知らん。火は使わない方がいい事だけは知っている。アベルを見ている限り、屋内のでの魔法で一番気をつけなければいけないのは、建物ごと吹き飛ばす爆破系だと思う。

 しかし、屋敷内の気配には魔法使いらしき気配がないので、今回は魔法はあまり警戒しなくてよさそうである。

 つまり気をつけなければいけないのは、スロウナイフや小型のクロスボウと言った中距離の飛び道具と、小型武器による奇襲である。


「は、はい」

「部屋の多い屋内は扉の前を通り過ぎた後が一番危険だ。相手の気配を見落とすなよ。まぁ、面倒臭いから扉封印しちゃうけど」

 面倒臭いので人の気配のする部屋の、扉のドアノブの金属部分に魔力を流し、取っ手をぐにゃりと鍵穴の中に押し込んでおいた。これで扉は開かなくなる。部屋から出るには扉を壊さないといけないので、通り過ぎたあと気配を消して背後から出てくるのは出来なくなる。

「それ生産用のスキルですよね?」

「そうだよ。この世界の金属は殆ど魔力を通すからな。魔力を通す金属は、魔力を注げば粘土みたいにグニャグニャになるんだ。だからドアノブの金属部分を変形させてしまえば、ドアが開かなくなるんだ」

 生産向けのスキルだって、使い方によっては戦闘の役に立つ。アベルやドリーのような火力はないが、スキルを利用して戦況を有利に運ぶ事は可能だ。

 通り過ぎた扉からガチャガチャという音がしている。扉を破って出て来たら面倒臭いから、部屋からでた所にマキビシでも蒔いておくか。


 そろそろ屋内の騒ぎに気付いた外の奴らが戻ってきそうだな。階段は壊しておいたけれど、身体強化があったらジャンプで登って来る事は出来るだろう。

 追っかけて来られたらめんどくさいから、廊下を分解して穴を空けておくかな。身体強化持ちだと飛び越える事もできるから、着地点辺りにマキビシを蒔いておこう。ついでにニトロラゴラも置いておこう。踏まなくても、着地の振動で爆発するだろう。小さいニトロラゴラなら命の危険はない。

 通り過ぎた廊下を分解して穴を空け、その縁にマキビシを蒔いて、小さめのニトロラゴラを置いて静かに離れた。

「アクションゲームでやられたら、コントローラー投げるやつだ」

「え?」

「いえ、なんでもないです」

「いいかい、ジュスト。人数的にこちらが不利な場合、無駄に戦わず相手の戦力を削るのは重要だぞ」

「は、はい」

 先輩冒険者としてのアドバイスも忘れない俺偉い!!


 間もなくサンダータイガーの子供と、家主らしき者達がいると思われる部屋だというところで、背後から爆発音と悲鳴が聞こえた。

 あー、誰かニトロラゴラトラップ踏んだのかなぁ。

「来るぞ、ジュスト構えろ」

「はい! ブレスいきます」


 ブレスの魔法をジュストが発動した直後、俺達が進んでいる廊下の先、突き当たり手前の左の部屋――家主達のいると思われる部屋の扉が開いて、護衛らしき男が二人飛び出して来た。

 すかさず、左手のクロスボウから矢を二発続けて発射する。

 矢は一本ずつ男達の肩に刺さるがあまり効いていないようだ。やはり金持ちの護衛ならそれなりの装備を着けているよなぁ。

「賊だ!!」

 男が声を上げるが、どちらかというとお前らの方が賊ではないのか? まあいいや。

 男達がショートソードを抜いてこちらに向かって来た。

 いや、こんな狭い廊下で大の男が二人ショートソードとは言え、それなりの長さのある得物を抜くと動き難いっしょ?

 案の定、お互いの武器が邪魔で前後に並ぶ形でこちらに向かって来ている。


「そぉれっ!」

 地下室でなんとなく収納に入れておいた樽を二つ出して、こちらに向かってくる男達の方に向かって転がした。

 たいした速度じゃなくても、狭い廊下に樽を二つ転がしたら邪魔だよなぁ。

 前を走っていた男が樽を避ける為に速度を落とすと、その背中に後ろの男が突っ込んで、バランスを崩したところに転がる樽がぶつかり二人揃ってこけた。

 もうちょい、頭のいい護衛雇お?


 こけている護衛のとこに素早く駆け寄り、男達の下の床を分解した。

「さよならぁ~」

 下は使用人の食堂だったようで、下を覗き込むと一階に落ちていった男二人はテーブルの上に、折り重なるように倒れ、その横には一緒に落下した樽が二つ転がっていた。

 その男達にダメ押しとばかりに、ジュストがスリープを掛けている。優秀。


 俺達が進んでいる廊下のつきあたり――俺達の場所から見て、家主達がいると思われる部屋を通り過ぎた先に外に出る扉があり、その先がおそらく階段だ。

 部屋の中にいると思われる奴隷商とお客様があの扉から逃げる前に、あの階段を潰しておきたいが、俺の場所からだと少し距離がある。

 ええい、やっちゃえ。


 収納から少し威力低めの爆弾ポーションを取り出して、身体強化を発動して扉めがけて投げつけた。

 ドォン!! と音がして扉周辺が吹き飛ぶのとほぼ同時に、部屋からスケイルアーマーを身に着けた傭兵風の男と、小太りのおっさんとひょろ長いおっさんが出て来て、爆風を浴びて首を竦めた。

 ひょろ長いおっさんの腕の中には、首輪を付けられてぐったりとしているサンダータイガーの子供が見える。

 爆風が収まると廊下の突き当たりの周辺が綺麗に吹き飛んでいるのが見えた。威力を押さえた爆弾ポーションだったが、逃げ道は無事潰せたようだ。

 その光景を見たおっさん二人はあわてて部屋の中に引っ込み、部屋の前には傭兵男が立ち塞がった。

 こいつをどうにかしなければ部屋の中のおっさんから、サンダータイガーの子供をとりかえせない。


 って思うじゃん?


 自分で空けた穴の前に立ち壁に左手を付いた。

 俺の行動を見た男がこちらにナイフを投げた。それを右手で受け止めながら、左手に魔力を集中させて、おっさん達の逃げ込んだ部屋の、廊下に面している壁を全て分解した。

 壁は砂のようになって崩れ落ち、風通しの良くなった部屋の中で、おっさん二人が間抜け面でこちらを見ていた。

「逃がさねぇよ」

「化け物かっ!?」

 一瞬で砂と化した壁を見て、傭兵の男が唸るように言った。


「失敬だな、ただの通りすがりの生産者のうさぎさんだウサァ」

 


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