第147話◆自分の才能が憎い

 翌日、非合法の奴隷商を釣り上げる囮になる為、朝から身支度を調えていた。身支度とは変装の事である。


 く……っ、自分の才能がこれほど憎いと思った事はない。

 そして器用貧乏さん、ほんと君便利だよね? というか序盤のスキルが伸びやすいだけじゃなくて、普通に器用さに恩恵あるよね?

 などと非常に複雑な気持ちになりながら、鏡に映る自分の姿を見ていた。

 

「く……っ! ……ぷぷっ! 変装ってスキルすごいね? それともグランのギフトの恩恵かな?」

「うるせぇぞ! 笑うならちゃんと笑え!!」

 宿の部屋で、姿見の前に立ち自分の姿を確認している俺の後ろで、アベルが笑いを堪えている。うぜぇ。

 しかし、アベルに笑われるのも仕方ない。


 一度もまともに使った事がないのに、外的要素で上がってしまった変装スキルで、獣人に変装すると意気込んだ俺の前に立ちはだかったのは、尻尾問題だった。

 そう、俺は人間だ。よって尻尾がない。尻尾を模した物は作れるが、本物のように意識して動かせる尻尾なんて作れない。

 つまり、尻尾が激しく動く種族は無理なのだ。と言うことで犬猫系が消えた。同じ理由で翼系もだめだ。角系も即席で頭に上手く固定するのは難しそうなので没。

 そして残ったのが……。


「いや、ウサギの獣人にちゃんと見えるよ。すごく良く出来てる。いや、すごいすごい!」

 そう、尻尾をあまり動かさなくてよく、なおかつ角もなく、耳も着けやすい。

 ウサギしか思いつかなかった。

 もちろん耳は動かす事が出来ないし、立ち耳だと安定も悪いので垂れ耳だ。


 先日手に入れたサッカルイタチの毛皮の切れっ端を使って、ウサギの耳を作った。垂れ耳なのでそんなに難しくない。

 耳の付け根の部分に、サッカルイタチの毛皮と同じような色のリボンを付けて、それに髪の色を毛皮と同じような色に変える付与をした。

 以前作った、髪の毛の色を変えるリボンと全く同じ付与だ。

 そして、そのリボンを髪の毛に編み込むのようにして自分の耳の少し上辺りに、作り物のウサギ耳を付けた。

 流石にこの編み込み作業は自分だと難しいので、リヴィダスにやってもらった。

 実家が金持ち向けの高級宿屋なので、その手伝いでメイドの真似事をしたことがあるらしく、リヴィダスは手際よく耳を付けてくれた。

 リボンを編み込んだ箇所は、頭の上の髪の毛で隠してあるので、髪の毛の隙間からモフモフの耳が生えているようにみえる。

 このモフ耳と髪の毛で本物の耳は隠れている。近くで付け耳を捲られなければバレないはずだ。

 鑑定されても大丈夫なのように、付け耳本体には厳重に鑑定阻害の付与がしてある。もちろん、ステータス系の鑑定阻害用の目立たないアクセサリーも着けている。


 服は冒険者用の装備だと捕まったとき没収される可能性があるので、収納につっこんでいた適当な私服に着えた。丸めたサッカルイタチの毛皮で作った尻尾を、ズボンに縫い付けている時の屈辱感と言ったらもう……。

 この服にも鑑定阻害をしっかりと付与して、ズボンのポケットの内側にグリーンドレイクの鱗を一枚貼り付けて、アベルに空間魔法を付与してもらい簡易的なマジックバッグにした。

 空間魔法の付与は非常に燃費が悪いので、付与される土台は魔力をたくさん込められる物でなければいけない。グリーンドレイクの鱗一枚だと、せいぜい小型の武器が一つ入るだけだ。いつもは腰にぶら下げている、アダマンタイトのショートソードを入れておく。


 捕まった時にスキル封じの魔道具を付けられると、収納スキルが使えなくなるので、その時の為だ。アダマンタイトの剣なら、少々頑丈な魔道具でも楽に破壊出来るし、手かせ足かせを付けられても並大抵の金属なら切ることができる。

 まぁ後は、獣人っぽく見えるように毛皮を貼り付けてモフモフさせた靴のかかと部分に着火用の布が仕込んであり、ズボンのベルトは拘束具としても使えるようになっている。

 ズボンには以前アベルに貰ったマジックバッグに付与されているのと同じ、ストーカー機能こと位置情報機能が付与されている。

 このズボンは今回の件が終わったら封印だな。


 そして今回は電撃グローブを付けて行けないので、代わりに電撃効果を付与しまくったネイルチップを両手の爪全てに付けておいた。

 仕込みのほとんどはズボンと靴なので、最悪上半身は服を取られても問題ない。いや、この辺りはもう寒い季節なので、できれば取られたくないけれど。


 後は少し眉毛の形を変えて、肌に付くと落ちにくい木の実の汁で右目の下にほくろを描いてみた。最後にキャスケットを被って、丸い眼鏡をかけて完成。

 髪の毛の色も変えているので、今日の昼間に見かけた不審者達と鉢合わせたとしても、バレないはずだ。

 自分でもびっくりするくらい別人。泣きぼくろのおかげでたぶんイケメン度上がったはず。アベル程ではなくても、俺だって平均よりはイケメンのはずなんだ!!


 そして、出来上がったのがアベルも絶賛する、黒毛のウサギの獣人である。ちょっと筋肉質だが、ウサギの獣人は拳で語る系のファイターが多いので、あまり違和感もないはずだ。




 それで、その囮作戦の内容は、至ってシンプルだ。

 俺とジュストが囮となり、うまく奴隷商に拉致してもらう。

 翌朝までに、ストーカー機能を辿って、アベルとドリーとリヴィダスが兵士と一緒に乗り込んで来る予定になっている。

 後はお貴族様の二人に丸投げ。

「隣国の上位貴族関係者のパーティーメンバーを拉致するとか、国際問題にしたいのか、ごるぁ」

 と熊が詰めてくれるらしい。完璧すぎる計画だな! お貴族様こわっ!!

 もしもの時は、やり過ぎなければ派手に立ち回っていいと言われている。


 本当は俺一人で囮になるつもりだったのだが、ドリーに「潜入作戦はペアでやる方が安全だ」と言われ、ジュストと二人で囮になることになった。

「グラン一人だと、突然意味不明な単独行動しそうだしね」

 アベルにめちゃくちゃ失礼な事を言われた。

「一人より二人の方が、お互いを気遣って無茶をしない。もし片方に何かがあれば片方が連絡役になれる。いいかジュスト、グランが何かやらかしそうな気配がしたら止めるか、駄目そうなら諦めて自分の安全を優先しろ」

 ドリーがもっともらしい事を言ったと思ったら、後半がすごく俺に失礼。

「グランいい? 貴方の方がジュストより先輩なんだからね? ジュストを振り回しちゃだめよ?」

 リヴィダスまで酷いな!!


 しかしこの作戦、囮の俺達に相手が釣られてくれないと始まらない。

 もし釣れなかった時は探索スキルと察知スキルを駆使して、奴隷商の関係者の物件をしらみつぶしにまわるしかなさそうだな。

 それはさすがにめんどくさいな。米探しに戻りたいし、バジリスク料理も早く食べたいから、あっさり釣れて欲しい。





 そう都合良く釣れるもんなのかなぁ……、って釣れたよ!! すっげーあっさり釣れたよ!!

 ジュストと二人で町の中をぶらぶらと歩き回りながら、件の奴隷商が経営しているという商店の辺りを散歩した後、治安悪そうな裏路地でうろうろしていると、不審者が近づいて来て、口を塞がれ馬車に押し込まれたよ。即、手錠とスキル封じの腕輪を付けられて、防音の付与付きの大きな袋を被せられたよ。わかりやすいな、おい!! というか手際いいな!!


 で、どこだここ?

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