第143話◆ウージの森
確か前世では、とある植物の事をウージと呼ぶ地域があった。
そして目の前にはそのウージにそっくりな蛇がいる。植物ではなく、植物そっくりな蛇だ。
ある地方ではウージと呼ばれていた植物――サトウキビだよサトウキビ!!
でも、目の前にいるのはウージと言う名前でサトウキビにそっくりだけれど、めっちゃシャーシャーいってる蛇だよ!!
サトウキビをぶっとくして何本もつなげたような蛇の魔物、それがこの世界のウージだ。
ていうか、こいつの名前付けた奴、絶対に前世ニホン人だろ!?
サトウキビに擬態出来そうな程、体はサトウキビにそっくりだけれど、顔はめっちゃ蛇だしめっちゃ鋭い牙が見えるし、君サトウキビの"こすぷれ"したハブだよね!?!?
何というか、異世界ファンタジー生態系ーーーーー!!
サルサルでカニを堪能した翌日から街道を更に東へと移動し、俺達はサッカルという町にやって来た。サルサルよりは若干北寄りで、やや気温は下がったが、それでもピエモンの晩夏くらいの気温だ。
そしてこのサッカル周辺は亜熱帯性の植物の森と草原が広がっており、そこには砂糖の原料となる魔物が多くいると聞いて、その魔物を探して寄り道中だ。
その魔物というのが、今、俺達の目の前でシャーシャーと音を出してこちらを威嚇している、サトウキビの茎を太くして長く連ねたような毒蛇ウージである。その長さは五メートルを超えている。
そして、このウージの血液は濁った白色で非常に甘ったるいらしい。これが砂糖の原料となる。
またウージの血液を利用した蒸留酒も造られており、ウー酒と呼ばれている。これ、ラム酒だよね? だいたいホワイトラムだよね!? もちろんいっぱい買ったよ!!
というわけで、せっかくなのでそのウージを狩りに来たのだが、見た目が植物っぽいので非常に見つけづらい。
亜熱帯性の木々の隙間に、身の丈を越える芦の生える場所の為、足元も見づらい上に視界もよろしくない。ウージはあまり強い魔物ではないので、気配も拾い難い。
ウージは強烈な毒を持つ蛇系の魔物だが、毒が厄介なだけなのでDランクという位置づけである。しかしこんな場所で、気配を消して近づいて飛びかかって来られると、とても危険である。
「おっと」
シャーシャーといっていたウージがドリーに飛びかかり、その左腕に噛みついた。噛みつかれた場所は、ドリーの着けている金属防具の隙間部分なのだが、ドリーは顔色一つ変えていない。
そして腕に噛みついているウージの頭を素手で掴んで握りつぶして、こちらに投げて寄越す。それを受け取って収納の中にすぐにしまうが、なんか少しウージに同情したくなる。というか、頭を握りつぶしたら、毒袋回収できないだろう。毒蛇だから毒袋が素材になるんだぞ!!
「ドリーさん、毒蛇に噛まれたみたいだけど大丈夫ですか? アンチドート要ります?」
「筋肉の上からだから大丈夫だ」
防具じゃなくて筋肉。
ちなみにドリーは素で頑丈なだけで、タンクのような防御を主としたスキルやギフトは持っていないはずだ。たしかドリーのギフトは物理攻撃ガン振りの、筋肉質なギフトだった記憶がある。
蛇の牙が筋肉に刺さらなかったって事かな!? ホントに防御系のギフトは持っていないんだよなぁ!?
ヒーラーの出番がないのは良い事だが、ジュストは暇そうだ。ドリーとアベルが全部倒しているので、暇なのは俺も同じだが。
「出てくるの待つのめんどくさいからもう、トレースで纏めておびき出しちゃおっか。いざとなったらドリー盾にすればいいでしょ」
ドリーを盾にするのはありだと思うが、数が多すぎてうっかりジュストが噛まれたら危ないだろぉ!?
「おい、アベルま……」
止める前にアベルを中心に魔力が広がって行くのがわかった。この無詠唱野郎めえええええ!!!
周囲にあった小さな気配がざわつき、その注意がこちらに向いたのを感じ取って、剣を構えて迎撃の体勢をとった。
「ジュスト、教えた通りやってごらん」
「は、はい! イリュージョンウォール!!」
アベルに促されたジュストが防御系の魔法を発動した。
俺達の周囲を囲むように円柱状の光の壁が現れ、飛び出して来た細かい魔物がそれにぶつかって地面に転がった。
少し大きめの魔物が数匹、壁をすり抜けてきたが、それは俺とドリーが切り捨てた。
地面に転がっている魔物は、光の壁に触れた為か麻痺しているようで、ピクピクと痙攣していた。それにトドメを刺して、収納に回収していく。ウージ以外にも、細々した魔物が色々と混ざっていた。後で鑑定して整理しないといけないな。
「うん、上出来。少し漏れたけど、威力を上げすぎて、細かいのを殺したら呪いが進行するからね。今はこれで上出来だよ」
アベルがうんうんと頷きながら、ジュストを褒めている。ジュストは俺が思っていた以上に、魔法を使えるようで驚いている。
先日、ドラゴンゾンビと戦った時、ドリーはジュストをEランク相当の強さだと言っていたが、Dランクくらいはありそうだ。
Dランクと言えば、冒険者として一人前の仲間入りの強さだ。俺の知らないうちに、アベルとドリーに相当鍛えられたのだろう。
しかし、強さだけでは一人前にはなれない。冒険者としての知識も必要だ。それは一緒に旅をしているうちに、徐々に身につけて行けばいい。
このペースなら、ジュストが独り立ちする日はそう遠くないかもしれない。
「ん? 何かこっちに来てるな、ちょっと大きい」
ジュストの成長ぶりに感動していたのだが、少し離れた場所にこちらに向かっている気配を感じた。
蛇っぽいからウージかな。しかし、今まで相手にしていたウージよりもかなり大きい感じがする。
魔物は魔力の影響を受けやすいせいか、時々平均サイズよりも遥かに巨大に成長する個体がいる。何でもデカくすりゃいいってもんじゃねーぞって思うけれど、環境次第で魔物は巨大化しやすい。
近づいてきている気配は、大きく成長したウージだろう。巨大な毒蛇とか勘弁してほしい。
ん? もう一匹中型の魔物がいるな。すごい勢いでこちらに来ている。これは四足歩行の生き物が走っている感じだ。俺達を狙っているのか、巨大ウージを狙っているのかまではわからないな。
後から来ている方がウージより足が速い為、俺達の前に姿を現すのは二匹同時くらいかもしれない。
「一匹は多分巨大化したウージだと思うけど、その後ろから中型の魔物がもう一匹来ている」
「ジュスト、戦闘準備だよ」
「はい! ブレス!」
ブレスとは聖属性の魔法で、周囲の者の身体能力を上げる魔法である。その効果から"祝福"と言われることもある、ヒーラーが使う定番魔法だ。
もうそんな魔法まで使えるようになったのか。
近づいて来ている二匹は、アベルとドリーがいれば問題なさそうな魔物だが、これもヒーラーの立ち回りの練習である。
そうしているうちに、二匹の魔物の気配はどんどん近づいて来て、茂っている芦をなぎ倒して、十メートルを超える長さのウージが姿を見せた。
そして、その背後からそのウージに飛びかかるように、胴長で短い足の四足歩行の黒っぽい獣が飛び出して来た。
つぶらな瞳で一見可愛い顔をしているが、ものすごく鋭い牙が生えているし、大きさはゆうに三メートルを超えている。
君、間違いなく肉食だし、人間もご飯にする系の魔物だよね?
確かサッカルの町のギルドで見た資料には、サッカルイタチという名前の魔物で、ウージの天敵とあった。
そして、その毛皮は上質でとても手触りが良く、付与にも適した素材だとか。付与に適した毛皮という事は、防寒具に向いた素材である。
ピエモンはこれから冬になる時期だ。帰る前に防寒具の確保をしておかないといけないな!?
三姉妹は薄手のワンピースだし、もこもこの毛皮の洋服を彼女達に作るのもいいな!!
「グラン、顔に欲望がにじみ出てるよ」
「サッカルイタチの毛皮で防寒具を作りたいよなぁ? できるだけ傷つけずに倒すぞ! いいかい、ジュスト。素材を傷つけずに魔物を倒す事は重要だ。綺麗な素材ほど、高く買い取ってもらえる」
「はい!」
アベルやドリーは殲滅速度重視の力押しで魔物を倒す為、素材を傷つける事が多い。
そんな勿体ない倒し方をジュストに教えるわけにはいかない。たとえ自分で魔物を倒す事はなくとも、綺麗な状態で魔物を倒さなければいけないという事は、頭に置いておかなければいけない。
楽しい素材集め、はーじーまーるーよー!
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