第132話◆閑話:ょぅじょっょぃ
「じゃあ、また来ますね」
家の外に出ると、空は夕焼けで赤くなり、空気は冷たくなり始めていた、
門の付近に置いていた馬車の所まで行くと、フローラちゃんが急に門の方へと走って行った。
「あら? 誰か来たのかしら?」
「こんな時間にお客様?」
「誰でしょうねぇ?」
「グランさんからは誰か来ても帰ってもらうように聞いてますが」
馬車を出すのをやめて、幼女達と一緒に門まで行くと、ピエモンの方から馬に乗った人達がこちらに来ているのが見えた。
フローラちゃんが門に巻き付いて。キシャーッと威嚇するような声を上げている。
「お客さんって感じじゃなさそうですね」
「なんかいっぱいいるわね。フローラちゃん、危ないからこっちおいで。知らない人は中には入れないから大丈夫よ」
ヴェルちゃんがそう言うと、門に巻き付いていたフローラちゃんが戻って来た。
そうこうしているうちに、馬に乗った人達は門のすぐ外まで来ていた。
真っ白くてすごく高そうな鎧を付けた金髪の騎士っぽい人を先頭に、全部で五人ほど騎士のような恰好をした人が、門の前で馬を止めた。
先頭にいる人以外は少しくすんだ銀色の鎧で、先頭の人の鎧程高そうではないので、おそらく白い鎧の人がリーダー、もしくは一番身分の高い人なのだろう。
その風貌からして白い鎧の人は身分の高い人だ。この金髪の人の顔はなんだか見覚えある気がするけれど思い出せない。
すごく美形だけど、アベルさんを見慣れているので、そうでもない気がして来るから不思議。
「もし、君たちは留守番かい?」
先頭の白い騎士が、門の脇から柵ごしに話しかけて来た。
「はい、そうですが何か御用ですか?」
「ここの家主の友人なのだが、中に入れてもらえないかな?」
「留守中誰も入れるなと言われているので、申し訳ありませんが日を改めて貰ってもいいですか?」
僕達に留守番かと確認したので、この人達はグランさんが留守だとわかっていて、ここに来たと言う事だ。
そして、僕達がいた事はおそらく予想外だったのだろう。
グランさんの友人と言っているけれど、本当かどうか怪しい。
「あら貴方、嘘はいけませんことよ」
「嘘つきは泥棒の始まり、ってグランが言ってましたぁ。この人達は泥棒さんですねぇ?」
「ねー、私達に嘘は通じないのにね。嘘つきの泥棒なら追い返してもいいよね?」
この子達は嘘が嘘って見抜く事が出来るスキルを持っているのかな? すごいなぁ。
でも、ヴェルちゃんがなんだかすごく強気な事言っているけれど、騎士五人相手にどうしよう。ラトさん帰って来ないかな。
グランさんが、アベルさんとラトさんが、知らない人は入れない結界を張ってくれていると言っていたので、中にいれば安全なはずだけれど、相手は強そうな騎士さん五人なので不安だ。
「おやおや、お嬢ちゃん達は俺が嘘を言ってるって言うのかい?」
「うん。私達は嘘を見抜けるもんね」
ヴェルちゃんが、えっへんと胸を張っている。
「そうかい、じゃあ本当の事言うよ。俺はね、エク……じゃなくてアベルのお兄ちゃんなんだ、アベルに会いに来たんだけど中で待たせて貰えないかな?」
あー、見た事あると思ったのは、アベルさんにちょっとだけ似ているからだ。
「アベルのお兄さんなのは本当みたいですねぇ。でも何で嘘をついたのですかぁ?」
クルちゃん鋭い。何でわざわざ嘘をついたのだろう。
「う、それは客人の友人と言うより、家主の友人と言った方がわかりやすいかなって」
「なるほど、それは嘘ではないようでわね。ですけど、家主のグランから留守中は誰も入れないようにと言われてますので、お引き取り下さいませ」
「と言ってもなぁ、遠くから来たんだ。ちょっとだけ入れてくれないかい?」
言い方は優しいけれど、かなり怪しい。
「グランさんもアベルさんもいつ帰ってくるかわかりませんので、帰って来た時にお伝えしますよ」
アベルさんのお兄さんなら、アベルさんが帰って来た時に伝えれば、転移魔法で会いに行くはずだ。
「うーん、ちょっとアベルの部屋を見せて欲しいだけなんだけど、ダメ?」
グランさんの家には、グランさんが作った物がたくさん置いてある。
その中にはあまり人に見せない方がいい物もある。アベルさんのお兄さんと言っても、本人の許可なく中に入れない方がいい。
それに、二人が留守なのをわかっていて来たのなら、本当はこっそり入るつもりだったのかもしれない。
「家主許可なしではダメですね。それに知らない人は入れないってグランさんとアベルさんが言ってましたよ」
「アベルの結界なら、俺は多分通れるよ」
そう言って、白い騎士さんが門に手を掛けようとした。
「あー、やめた方がいいですよぉ」
クルちゃんがそれをみて止めようとしたけれど手遅れだった。
シュルルルルルルルルッ!!
「なっ!? うわああああああああ!!」
「隊長!!」
音がして門からたくさんの植物の蔓が生えて来て、白い騎士さんを吊し上げた。
吊し上げられ白い騎士さんを見て、他の騎士さんが剣を抜いた。
「あーあ。アベルの結界だけじゃなくて、ラトの結界もあるのにぃ」
「ど、どういうことだ!? なんだこれは!? すぐに解除するんだ」
一人の騎士さんが、こちらに剣を向けて凄んだ。
その直後。
「う、うわああああああああ!!」
今度はその騎士さんが吊し上げられた。
「今、助けうわああああああああ!!」
今度は蔦を剣で斬ろうした騎士さんが吊し上げられた。
「剣は蔦に捕まるから、炎で蔦を焼くんだ」
残った騎士さん二人が、手のひらの上に炎をだした。
「森の近くで炎の魔法は禁止ですわ」
ウルちゃんがパチンって指を鳴らすと、騎士さんの手のひらの炎が花弁になって消えた。
「煩いから残りも吊しときましょ」
ヴェルちゃんが指を鳴らすと、地面からでっかい蔓が生えて来て、残っていた騎士さんも吊し上げてしまった。
ヴェルちゃん強い。
「馬鹿な……、俺達は王都の騎士団だぞ、油断してたとは言えこんな子供に」
蔦にぐるぐる巻きにされて、吊されている騎士さん達が、蔦から抜けようともぞもぞしている。
「この泥棒さん達どうしましょうかぁ?」
「ラトが帰って来たら、どっかに捨てて来てもらいましょ?」
捨てるってどこに捨てるつもりなんだろう。アベルさんのお兄さんなら捨てたらマズイのでは……。
「ま、待って! もう中に入れなくていいから降ろしてくれないかな!?」
白い騎士さんが慌てた様子で言った。
「えー、でも何だかこの人達怪しいですよぉ? どうしましょ?」
「きょ、今日はとりあえず帰って、日を改めてくるからね?」
「それは、アベルさんとグランさんが戻って来てからって事ですか?」
「う、うん!」
「あ、また嘘ついた! また留守中に来るつもりだ! いいや、やっちゃえ!」
「う、うわあああああああああ!」
ヴェルちゃんがそう言うと、白い騎士さんが更に高い位置まで持ち上げられた。
「ホッホーッ!!」
吊し上げられた白い騎士さんを見上げていると、黒くて立派なフクロウが飛んで来て、白い騎士さんが捕まっている蔦に留まった。
「あ、毛玉ちゃんだ!」
「ホーッ!!」
毛玉ちゃんは、グランさんに懐いている森のフクロウさんだ。立派な見た目のわりに、あざとい仕草がとても可愛い。
「毛玉ちゃん、その人空き巣みたいだからやっちゃっていいわよ」
「え? ちょっと待って!?」
騎士の人が声を上げたがもう遅い。
「ホッホッホーッ!!」
毛玉ちゃんが鳴くと、黒い靄で出来た鎖が白い騎士の人に巻き付いた。
「うわっ! 何これ!? 呪い!?」
パリンッ!
音がして毛玉ちゃんが出した黒い靄が消えて、白い騎士さんからキラキラしたガラスの破片のような物が飛び散った。
「ええ? マジ!? エクシィに貰った耐呪装備壊れたけど!? 何なんだこのフクロウ!? ってゴメン! 帰るから! もう帰るし、留守中には来ないから!」
「あら、これは本当のようですわね。どうします?」
「もう来ないなら降ろしてあげていいんじゃないですかぁ?」
「アベルさんのお兄さんだから、あまりやりすぎない方がいいのでは?」
王都の騎士団って言っているのが聞こえたから、やりすぎるとグランさんに迷惑がかかりそうだ。
「そうね。このまま大人しく帰るなら許してあげるわ。でも、また来るようならいいわね?」
「ホッホッホッホーッ!!」
ヴェルちゃんが凄んだら、その肩に毛玉ちゃんが舞い降りて、バサバサと翼を広げた。
「うん、うん。わかったよ。もう帰るし、来ないからね!! 降ろして欲しいな!!」
「約束よ」
ヴェルちゃんがパチンと指を鳴らすと、吊し上げられていた騎士さん達が、蔦から解放されてドサドサと地面に落とされた。
「騒がせてすまなかった。もう、帰るし来ることもないから! 後、今日俺が来た事はアベルには内緒にしておいてくれ! うん、これでみんなで美味しい物でも食べて!」
そう言って、金貨を五枚ほど握らされた。
え? ものすごく大金なんだけど!?
「何を騒いでいる?」
低い声がして振り返ると、白いローブを着た白髪の綺麗な男の人が、森の方からこちらにゆっくりと歩いて来ていた。
「ラトだ!」
「おかえりなさいですぅ!」
「ラトが遅いから、わたくしたちが空き巣を撃退しましたわ」
「ぬ? 空き巣だと?」
ラトさんが、騎士さんの方へゆっくりとした動作で向いた。
「い、いや、空き巣ではなく、こちらで世話になっているアベルの兄だ。留守中に邪魔して悪かった! で、では!!」
白い騎士さんはそう言って、凄い勢いで馬に乗って帰って行った。その後を他の騎士さん達も追いかけて、薄暗くなった道をピエモンの方へと消えていった。
結局、アベルさんのお兄さんは何しに来たのだろう。
留守中のグランさんの家に何か用事があったのかなぁ。
口止め料を貰っちゃったし、アベルさんにも聞きにくいな。どうしよ。
あ、グランさんには言うなとは言われてはいないから、グランさんに言えばいいだけだった。
グランさんが帰って来たら、グランさんには報告しておこう。
帰り際のお呼びで無い来客のせいで、すっかり日が暮れてしまい、帰りは毛玉ちゃんが町の近くまで送ってくれた。
毛玉ちゃん、カッコよくてかわいくて頼りになるなぁ。
手持ちに気の利いたお礼が無かったので、いつも収納に入れているお菓子をあげたら喜んでくれた。
確かグランさんが毛玉ちゃんはパウンドケーキが好きだと言っていたから、次にグランさんの家に行く時は、パウンドケーキを焼いて持って行こう。
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