第126話◆便利スキルのオンパレード

「さすが勇者だね、戦闘系のスキル充実してる。魔法スキルもいっぱい持ってる。あと自動翻訳だって。いいなー、超レアスキルじゃん。ちなみに称号は"理の破壊者"だって。あれだけ生態系破壊すれば当然かな」


 とりあえず、河原にコーヘー君を降ろしてポーションを使った後、応急処置をしている。

 体力の消耗も激しそうだが、傷も多い。レイヴンと戦った後、ほとんど傷の手当をしていなかったのかもしれない。

 体力を消耗しすぎているせいで、ポーションで一気に回復させるのは危険だ。

 魔力で傷の回復を早める為、体力があまり残ってない状態でのポーションの使用は、身体に負担がかかり逆効果になる事もある。

 ポーションでの回復は、使用される側が急激な回復に耐えられるだけの状態でなければならない。


 俺がコーヘー君を手当している横で、アベルがコーヘー君の個人情報を覗き見しまくっている。

 称号の意味は生態系破壊だけではなさそうだが、俺の心の中に仕舞っておこう。

 しかし、自動翻訳は羨ましいな。転移者だからなのかな? 翻訳スキルないと、言葉通じなくて更に苦労していただろうな。

 俺も自動翻訳欲しい。外国語の勉強したくないけど、遠くの国には行ってみたい。


「何このユニークスキル? "簡易食料生成"だって。食料を作り出せるって事? すごくない? つまり彼がいたら、遠征時に食料持って行かなくていいし、遭難しても食料が尽きる事がないんだよ? スキルで作った食料って美味しいのかな? 料理が出て来るのかな?」

 このイケメン、食い物に興味持ちすぎでは。

「簡易食料って事は簡単な物とか、保存食とかか? それにしても便利そうだな。指名手配されて町に入れない状態でも、生き延びれたのはそのスキルのおかげか。だが、食事が出せるのはグランも同じだからな」

 ドリーもコーヘー君の謎スキルに興味を示している。

 そして俺の出す食事は、作った物を収納の中に保存しているだけだからな!? スキルでしてるわけじゃないからな!?

 もし、食料を作り出すスキルだったら便利すぎるだろ。材料とかどうなってんのかな? コーヘー君が起きたら質問攻めにしてしまいそうだ。



 それにしてもドリーの言う通り、コーヘー君が指名手配されている状態で、一人で旅を続ける事が出来たのはこのスキルがあったからかもしれないな。

 魔物を狩ってそれを食料にすることも出来るが、俺と同じ時代から来た日本人なら、魚はともかく獣の肉を食べられる状態にする方法なんて知らないのが普通だし、生き物を解体する事に抵抗があるはずだ。

 町に寄れないと言う事は買い物も出来ないので、調味料関係も手に入れ辛いから味付けにも困りそうだし。食文化レベルの高い時代から来たのなら、生臭い肉なんて無理だろう。


「この子収納スキルも持ってるし、鑑定スキルっぽいのもあるね。グランみたいに生産系のスキルとかギフトはないけど、かなり戦闘特化した万能型だね。転移無双ってギフトは何かよくわからないけど、なんとなくグランの転生開花と似てるよね? そういえばグランのあのギフトって、結局何なの?」

「お、おう。アレは俺にもよくわからないかな? 多分生産系の補助スキルかな?」

 うむ、嘘ではない。転生開花は物作りで一番使ってるしな!? 前世の事が思い出せる以外、他はよくわからないしな?


 しかし、転移無双か。アベルの言う通り俺の転生開花と似ているな。アベルはこういう事に関しては妙に鋭い。

 俺は転生でコーヘー君は転移だからだと思われるが、無双って事は戦闘系のギフトなんだろうな。

 そう考えると、こちらに転移して来てそう時間もかからず、上位の魔物を倒せるほどの強さを手に入れたのもわかる気がする。

 なんかすごく俺より勇者っぽくないか!?

 べ、別に羨ましくなんかないもんねーーー!!


「しかしこの少年のスキルはまずいな」

 ドリーが顎に手を当てて考え込んでいる。

「うん。戦闘系のスキルはかなり充実していて戦力としても強力だけど、自動翻訳に収納スキル、それから食料を出せるスキル――詳細は話を聞いてからじゃないと何ともだけど、戦争が好きな人が喜びそうなスキルだね」

「本人にその気が無くても、無理やり利用することも可能だからな。ましてや子供だ。シランドルとは友好国家だが、南の方はきな臭い国もあるからな。さて、どうしたものか、とりあえずスキル封じの魔道具を付けておくか」

 ドリーがマジックバッグから腕輪を取り出した。

 犯罪者を捕まえた時によく使う、スキルの使用を制限する魔道具だ。

「待てドリー。この少年、この辺りの国では見かけない顔立ちをしているから、スキルを封じると会話できなくなるかもしれないぞ」

 自動翻訳というスキルがあるなら、そのスキルのおかげで言葉が通じているに違いない。

「ああ、自動翻訳スキルか。確かに、大陸では見かけない顔立ちだな。会話出来ないのは困るから、スキル封じはやめとくか」

 そう言ってドリーがコーヘー君に付けたのは、魔力を制限する魔道具だった。


 これなら、魔力の消費の多い魔法やスキルは使用できないが、生活魔法程度の魔法なら使える。

 コーヘー君の体格から見て、ほとんど鍛えてはなさそうなので、魔法と身体強化系のスキル頼りの戦い方だったのだろう。それなら、魔力を制限してしまえば、戦闘能力はかなり下がるはずだ。

 しかし、スキル頼りでもAランクの魔物と戦えているのだから恐ろしい。

 これが転移チートってやつか!!


 コーヘー君のユニークスキルがどういう物なのかは、彼が目を覚ましてからじゃないとわからないな。対話できる子ならいいのだが。

 先ほどは、俺の言う事を素直に受け入れてくれたので、おそらく対話は出来る相手だと思っている。

 ただ、話した後どうするかはコーヘー君次第だ。

 初めて会う同郷者だ、悪い結果にはしたくない。レイヴンは手遅れだろうと言っていたが、まだ間に合うかもしれない。





「ていうかさ、お腹すいた」

 真面目な会話の流れをアベルがぶった切った。

「そうだな、朝食った後から何も食べてないからな。飯食いながらこれからどうするか決めよう」

 え? そこ納得するとこなの?

「ご飯なら帰ってからの方がいいだろ? 物騒な魔物がいる森の目の前だし」

 先ほどのあの巨大な肉食恐竜は、今思い出しても背筋がゾクゾクする。

「帰るってガンダルヴァのとこ? 大丈夫? 目を覚ました時にトラブルならない?」

「町に連れて行くと公安に引き渡す事になると思うぞ。その前にこの少年と話をしたいのだろう?」

「ああ。少し話してみたい」

 本心を言えば、話の内容次第では力になりたいと思っている。だが、ドリーの前で法に触れる話はしにくい。

「昨日はグランにデカイ借りを作ったから、多少の事は見なかった事にする。お前の好きなようにやれ。どうせ、その子供に同情してるんだろ」

 くっ、見抜かれた。だが見なかった事にしてくれるのなら有り難い。

「そんな事言ってドリー、どうせその子をシランドルに渡したくないんでしょ?」

「まぁな。物騒なスキルかもしれないからな、火種を放置したくない」

 アベルとドリーが完全に貴族の顔になっている。

「そういうことだから、ちょっとお腹に何か入れながらこの先の事決めよ」


 こうして、物騒な恐竜が住む森の目の前の河原で、今後の事を話し合いながら食事をする事になった。


 何を食うかって? 河原と言えば焼き芋でしょ? アルミホ……じゃなくてギブ箔あるし、サツマイモっぽい芋ことイポメアをギブ箔で包んで焼き芋だよ!!






「イポメアって甘味が強い芋だと思ってたけど、枯れ葉を集めて一緒に焼いただけでこんなに甘くなるの? 不思議ー!!」

 ただの焼き芋だけど、甘い物好きのアベルの好みには合ったようだ。

「これは簡単でいいな。これなら俺にも作れるな? イポメアなら長期間保存も利くしな」

 あー、これドリーはダンジョンに籠もる度に焼き芋始めそうだな。まぁ、燃やせる物が有ればどこでもできるしな。


「でさ、この子どうすんの? ってグラン何やってるの!?」

「え? 芋の皮はいらないかなって?」

「そうじゃなくて、何でその変な虫に食べさせてるの!?」

「ごみ処理?」

 焼き芋をモグモグしながら剥がした皮を、近くをもぞもぞと這っていたダンゴムシに食べさせていた。

 ダンゴムシと言っても俺の拳くらいのサイズだ。


 野外で出したゴミはちゃんと始末しなければいけない。それは前世も今世も人として当然だ。アウトドアの鉄則。

 命の無い物は、時間と共に分解されるダンジョン内ならともかく、人の住む町の近くで生ゴミなんか放置すると、魔物が寄って来る可能性もあるしね。人里離れた場所でも、人工的なゴミを捨てて帰って、そのゴミを食べた魔物が突然変異しても困るし。

 まぁ、芋の皮くらいなら何ともないと思うけど。ギブ箔はちゃんと回収して持って帰るよ!


 というわけで、たまたま近くを這っていたダンゴムシっぽい生き物の前に芋の皮を出したら、モシャモシャと食べ始めたので、そのまま皮を剥がす度にダンゴムシちゃんに与え続けている。

 合法的生ごみの処理である。


「うーん、とりあえず相当弱ってるみたいだし、どこかで休ませないとな?」

「でも、この子がどういう子かわからないからね、ユーラティア側には連れていけないよ」

「だな、もし逃げられてシランドルと同じ状況にされたら困る」

 だよなぁ。

「町は無理だし、魔力封じの腕輪を付けてるなら、ガンダルヴァ達を頼るのがいいか……あっ!」

 横でモシャモシャとイポメアの皮を食べていたダンゴムシちゃんが、突然走って来た二足歩行の小型のトカゲに咥えられて行ってしまった。

 あー、大自然は無情である。連れ去られたダンゴムシちゃんは、川のほとりでトカゲ君のご飯になってしまった。


「そうだね、ガンダルヴァの長が連れて帰って来ていいって言ってたのなら、素直にガンダルヴァを頼ればいいと思うよ」

「うむ。魔力を封じてるなら問題の起こしようもないし、俺達で順番に見張っておけばいい」

「そうだな、他に行くとこもなさそうだし、そうするしかなさそうだな。おぉっ?」

 水際でダンゴムシちゃんをバリバリと食べていた小型のトカゲ君が、空から舞い降りてきた足の長い白い鳥に捕まって、そのまま空中へと持ち上げられた。

 食物連鎖だなぁ。

 トカゲ君を捕まえた足の長い鳥が、川の上を横切るように俺達のいる河原から離れて行った直後――。


 ザバァッ!!

 

 水の中から飛び出して来た巨大なナマズのような魚が、大きな口で足の長い鳥をトカゲごとバックリと咥えて、水中へと戻って行った。

 無慈悲な食物連鎖である。だが、これが自然のあるべき姿だ。


「ケルピーに乗って来た時は、全く魔物に遭遇しなかったけど、あんな大物までいるのか」

 アベルが芋をかじりながら、波立っている水面を見ている。その水面には白い羽がプカプカと浮いていた。

 水中の気配は掴みにくいので、近くに来るまで気づかない事が多い。

「さっきも大型のワニを捕まえて来ていたし、この辺りの魔物よりケルピーの方が圧倒的に強いと言う事なのだろうな」

 ドリーの言う通りなのだろうなぁ。レイヴンに紹介されたケルピーさん、ワニをサクっと捕まえて来たし。


「食べ終わったら、ガンダルヴァ達の集落に戻るかー」

「そうだね。戻ったら、少しゆっくりしたいや」

「うむ、この森は強い魔物が多くて、精神的にも磨り減ったしな。少し休みたいな」


 そうだなぁ、昨日もひどい目にあって、今日は上位の魔物の殺気に当てられて、肉体的にも精神的にも疲れが貯まってそうだ。

 コーヘー君が目を覚ますまで、俺達もゆっくりするかなぁ。








 この時の俺は、レイヴンの言っていた"手遅れ"の意味を、あまり深く考えていなかった。



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