第119話◆酒豪美人

 料理を持ってスノウが待っている居間に行くと、さっきのラミアのおねーさん達もいた。

 ラミア達の食事スタイルは、テーブルも椅子も使わず、床に座るスタイルのようだ。

 下半身をくるんと丸めてソファーみたいにして座っていて、床に座っているのに妙に優雅だ。


「ずいぶんとたくさん作ってくれたみたいだねぇ。村の子達も来たから一緒するよ」

 たくさん作ったけど、人数増えたから足りるかな?

「来ちゃった」

 はにかんで笑う美人はずるい。俺は健全な男子なので、美人の前では余裕でデレてしまう。

「足りないようなら、追加作って来ようか?」

「いいよいいよ、この子達が勝手に来ただけだから。それにこの子達も、酒とつまみ持参してるよ」

「そういう事でおじゃましまーす」

 そう言ってラミアのおねーさん達が、持ち寄ったお酒やおつまみを出して来た。


 床にズラリと料理と酒を並べて、それを囲む。

「さぁ、今日はどんな酒を出してくれるんだい?」

「そうだな、じゃあコーヒーの酒なんてどうかな?」

「ああ、酒なら何だっていけるよ。それで、コーヒーの酒かい?」

「ちょうど、コーヒーのリキュールが手に入ったからな」


 ロックグラスを収納から取り出し、氷の魔石で大き目の氷をグラス中に出す。その氷の周りに飾るように、以前作って収納に入れておいたコーヒーゼリーを崩しながら入れた。

 それに、クックーの村で買ったコーヒーリキュールをグラスの三分の一より少し多いくらいまで入れた。そして最後にミルクを足す。今はまだ混ぜてないので、リキュールの層とミルクの層に別れている

 少し濃い目だが、スノウは強い酒が好きだと言っていたので、これくらいでいいだろう。

 ちなみに、クックーで買ったコーヒーリキュールは、あまり癖のない蒸留酒がベースのようだった。前世のコーヒーリキュールはバニラの香りが付けてある物もあったが、クックーで買った物には残念ながらそれはなかった。バニラめっちゃ高級品だから仕方ないね。


「酒にミルクを入れるのかい? それに何だいこの黒いゼリーみたいなのは?」

「これはコーヒーで作ったゼリーだよ。このカクテルのベースはコーヒーの酒だから、相性はいいはずだ」

 さっき台所で試作して味見はしてるから、俺的にはありだと思う味だった。ただミルクが入って甘めの口当たりになっているが、結構強いカクテルなのでうっかり飲みすぎるとヤバイやつだ。

 マドラーでクルリとかき混ぜて、スノウにグラスを渡した。


「ん? これはミルクが入ってるから酒じゃないみたいな味だね。一緒に入っているゼリーのせいもあって、まるでデザートのようだ。でも、そのミルクの甘さ中に苦さがあるのもいい。それに、飲みやすい味のわりに強さのある酒だね」

「アタシもそれ欲しいー」

「アタシも!」

 他のラミアのおねーさん達も、コーヒーの酒を使ったカクテルをリクエストして来た。

「酒に弱い子は薄めにしてもらいな。これは飲みすぎるやつだよ」

 スノウさん面倒見いいな。姉御肌かっこいい。


 ラミアのおねーさんのリクエストに応えながらカクテルを作って、美女達に囲まれた飲み会が始まった。

 スノウをはじめラミアのおねーさん達は、作った料理もコーヒーリキュールのカクテルも気に入ってくれた。

 ラミアのおねーさん達が持って来た料理も美味しかった。綺麗なおねーさんの手料理は最高だな。


 ラミアのおねーさん達が持って来た料理は、スパイシーな料理が中心でお酒が非常にすすむ。

 材料はなんだろう、リュを挽いて粉にした物にスパイスが加えてあるのかな? 薄くてパリパリした、前世の記憶にある煎餅のような料理がとてもお酒に合って、ついお酒と交互にポリポリと食べてしまう。

 後で作り方教えてもらおう。

 他にもユーラティアでは見かけない料理が並んでいる。コ・ピンの件があるので一応鑑定して食べてるけど、今のところ大丈夫だ。

 寝ているアベルとドリーには申し訳ないけど、綺麗なおねーさん達に囲まれてちょっと気分がいい。










「次はどんなの作ってくれるんだい?」

「じゃあ、こんなのはどうかな」


 ロックグラスの縁にレモンの果汁を塗って、皿の上に広げた塩の上にそのグラスを伏せた。

 そうすると、グラスの縁に塩が付着して、まるでグラスの縁に雪が積もってるように見える。実はちょとスノウの名前を意識して、このカクテルを選んだ。


 そのグラスの中に氷を入れて、妖精に貰った少し辛口であまり癖の強くない蒸留酒を指二本分くらいまで入れる。それに、ポメロという柑橘類のジュースを足してかき混ぜれば完成。

 辛口の酒と酸味の強いポメロのジュースのカクテルに、グラスの縁の塩味が加わると、なんとも絶妙な癖になる味わいになる。

 出来上がったカクテルをスノウの前にススっと出す。


 前世の記憶にあるカクテルで、材料が揃っていて作りやすい物を選んで、スノウに出している。色んな酒を試したいと言うので、あれこれ組み合わせを変えて出している。

 チャンポン飲み大丈夫か!? って思ったけど一向に平気らしい。かなり飲んでると思うのだが。恐ろしい酒豪である。


 一緒に飲んでいたラミアのおねーさん方のうち何人かは、すでに潰れて床で寝てしまっている。

 薄着で床に転がって寝て大丈夫なのか!? 暖かい地方だけど、この辺りは山奥で標高も高い場所なので、夜はちょっと肌寒そうだけど大丈夫なのかなぁ? 体も痛くなりそうだ。


「全く器用な男だねぇ。料理も酒もセンスあるなんて、どうだいこのままこの村で暮らさないかい?」

「美人にそう言われるのは嬉しいけど、祖国にマイホームがあるからな」

「そうかい、残念だねぇ。またこっちに来たら遊びに来ておくれよ」

「ああ、またコーヒー買いに来るから。その時は立ち寄るよ」

 美人に囲まれて暮らす生活はちょっと憧れるが、俺には買ったばっかりのおうちがある。

 それにこの村にいると、肝臓に負担がかかりそう。


「それにしてもこの、チーズのフライ気に入ったよ。後、このキノコのオイル煮は最高だね。アタシは料理が苦手だからねぇ、良かったら料理の得意な子に作り方教えといてくれないかい?」

「わかった。じゃあ、酒のつまみになりそうなレシピ、メモに残しておくよ」

「そりゃありがたいね。この魚の切り身が入ってる料理も美味しいけど、この魚は海の魚だよね」

「多分そうじゃないかな。貰い物だからよくわからないけど、おそらくダンジョンの海エリア産だと思う」

「それじゃあ、この辺じゃ手にはいらないねぇ」

 ラミア達は魚の生食に抵抗が無いらしく、生の魚の切り身を使っているカルパッチョは好評だった。

「食べ物を保存して置けるスキルか魔道具はあるかい? すごくでっかい魚でまだ残ってるから、保存手段あるなら分けるよ」

「いいのかい? じゃあ、こっちも何か対価を用意しておこう。物々交換だ。あー、あとこの生ハムという奴、良かったらこれも分けてほしい。これはすごく酒にあうね」

「おう、それは俺が作った奴だし、俺の住んでるところはグレートボア多いから、いくらでも作れるからな。原木を一個置いて行こう」

 俺が住んでいるピエモンの周辺はグレートボアが多いので、収納スキルのインチキ技を使えば、生ハムを作るには時間がかからない。

「ありがたいね。じゃあそれも対価を用意しておこう」

 物々交換で、普段手に入らない物が貰えるのは、非常にありがたい。



 結局その夜はかなり遅くまで、スノウ達と飲み明かす事になった。



 その流れでこの辺りの話も色々聞かせてもらった。

 クックーの村がある山の辺りはスノウ達の縄張りで、この辺りの主というか頂点に立っているのがスノウらしい。

 わかる、すごく女王様の風格あるよね。

 そして、麓の広がる森がレイヴン達の縄張りで、その森の主がレイヴンだそうだ。

 お隣さんで仲良しなので、よく一緒に酒盛りをしてるらしい。


 ラミア達は強くて賢い者が好きらしい。なるほど、レイヴンは王者の風格漂ってたしな。

 俺もラミア達に勝負を挑まれたが、山の主レベルのスノウはもちろん、他のラミアのおねーさん達もものすごく強そうなので、丁重にお断りした。

 それに、綺麗なおねーさんに剣を向けるのは躊躇する。どうしても勝負したいなら、アベルとドリーを紹介しよう。





 すっかり夜遅くなってしまったが、ちょっと気になったので、酒盛りが解散になった後こっそり村を抜け出して、未消化のコフェアの種を探しに行って来た。

 あのクソ鳥に遭遇したらめんどくさいなとか思っていたが、夜は活動していないのかそれらしき気配は近くになかった。


 そんなにたくさんは拾えなかったが、未消化のコフェアの実を拾う事はできた。後で綺麗に洗って、アベルが目を覚ましたら浄化もして貰っておこう。

 恋の実も何個か混ざってたから、見なかった事にして収納の奥深くにしまっておいた。今後、絶対使う事はないと思っている。


 手袋をして拾ったが、それでもやっぱり色々気になるので、近くを流れていた川で水浴びをして帰って来た。

 こんな時、生活魔法さえ使えないのが不便だ。

 しっかり洗ったから、臭くはないはずだ。

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