第120話◆ラミアの秘密

「グラン……、グラン! グラン起きて」


 昨夜はすっかり遅くまで飲んでしまい、しかもその後フラフラとコーヒーの実を拾いに行ってしまい、戻って来てそのままアベルとドリーが寝てる部屋で、毛布にくるまって床に転がって寝てしまった。

 スノウに付き合って結構飲んでしまった後更に動き回ったので、横になった後はすぐスヤァっとなって、朝まで爆睡である。

 そして、気持ちよく寝ているとこを、名前を呼ばれ揺すられて目が覚めた。


「んぁ? おはようアベル、目が覚めたのか。体の具合はどうだ?」

「うん、ちょっと脇腹が痛いけど、だるさとかはないし、思ったより調子悪くない……ていうか、グランすごく酒臭っ! お酒以外にもなんか臭っ! 何の匂い? 掃除してないニワトリ小屋みたいな匂いするよ」


 体を起こすと、臭いと言われて浄化魔法で念入りに消毒をされてしまった。

 すっかりいつものアベルに戻っているようで、一安心だ。

 臭いのは心当たりはめちゃくちゃあるな。昨夜帰ってくる前にしっかり水浴びしたつもりだったのに、やっぱ臭かったらしい。

 というか、掃除してないニワトリ小屋って……俺そんなに臭いの!? ていうかお貴族様なのに、どうして掃除してないニワトリ小屋の臭いなんて知ってるの!?


「んんん……っ」

 アベルに浄化魔法をぶっかけられていると横から、ドリーの声がした。

「ドリーも起きたか」

「んん? グラン? アベル? どこだ、ここ? アベルに吹き飛ばされてから記憶がないのだが、俺はどれくらい寝て……ぐぬっ!?」

 目を覚ましたドリーが混乱気味に体を起こした後、すぐに前かがみに蹲った。

 昨日、アベルの雷魔法でこんがりしてたから、傷は治っても痛みはまだ残ってそうだ。

「これからその話をするよ。とりあえずこれ痛み止め効果あるから食べてくれ」

 昨日ラミアに貰った木の実をアベルとドリーに渡した。


 アベルの眉がピクリと動いたので、木の実を鑑定したのだろう。

 俺もよく知らない木の実だったが、昨日俺も食べてみて体の痛みは消えたので効果は確実だ。


「昨日、アベルとドリーが相打ちになった後、村に戻ろうとしたら、知り合いのラミアのおねーさんが助けてくれたんだ。二人を手当してくれたのも、そのラミアのおねーさんだ」

「は? アベルと相打ち? 魅了くらってるアベルに吹き飛ばされたまでは覚えているが、どういうことだ? それにラミアってあのラミアか?」

「ドリーも俺も、変な鳥の魅了食らったんだよ。ドリー大暴れするし最悪。っていうかラミアってどういうこと?」

 ラミアはその姿から魔物だと思われる事も多く、人間とはあまり交流がない。

 人間と敵対しているラミアもいるが、スノウのように話が通じるラミアもいるので、俺の中でラミアは獣人と同じようなイメージだ。






「そうか、あのコーヒーの実のせいで魅了されたのか、すまない」

「そういえば、種が二個あって食べにくいのと、一個だけで食べやすいのあったね。鑑定した後だったから完全に油断してた、ごめん」

 事情を話たら、アベルとドリーがしゅんとしてる。


 あんだけ大量に実が生ってたら一個一個鑑定しないな。何個か鑑定して大丈夫そうだったら、普通気にしないよなぁ。まさか、レアな実があるというか、その違いが種の数だけというも気付きにくい。

 昨日採ったコーヒーの実を、後でより分けるの大変そうだな。あの鳥がいないところで使うとしても、何となく不安だし恋の実は避けておいたほうがいいだろう。



「ともかく、金輪際つまみ食いと拾い食い禁止な」

 今回は珍しく、俺が説教する側だ。

「つまみ食いはしたことあるけど、拾い食いはさすがにないよ!」

「うむ、今回はちょっと弛んでいた、すまなかった。ところで、宿を抜け出して、ラミアと知り合ったとはどういう事だ?」

「しかも、今朝グランすごく酒臭かったし? 俺達が寝てる間に何してたの?」

「え? ラミアのおねーさんとは、夜に宿抜けて散歩した日に山の麓の森でたまたま会って、知り合っただけ? 偶然だったとはいえ運がよかったなー。それで昨夜? 昨夜は、アベル達を手当してもらったお礼に料理をしただけかなー」


 連日で酒を飲んでたけど、やましい事は何もない。

 昨夜は、アベルとドリーが重傷で寝ている間に、綺麗なおねーさん達に囲まれてお酒を楽しんだだけだ。しかしこれは、二人を手当してもらったお礼も兼ねてたからな。

 うん、頑張っていっぱい色んな料理やお酒作っただけだからな。やましい事なんて何一つない。




「ところでグラン、ラミアに勝負挑まれて勝負とかしてないよね?」

「うん? 勝負しようとかは言われたけど遠慮しといたよ」


 そういえば、スノウや他のラミア達に勝負しないかって言われたな。

 スノウはめちゃくちゃ強そうで普通に負けそうだったし、他のおねーさん達も強そうだったし、本気出されたら遊びじゃ済まなくなりそうだったし、丁重にお断りをした。

「それならよかった。ラミアって種族は強い者が好きだから、勝負に勝っちゃうと婿にされるところだったよ」

「は???」


 ラミア達はそんな事は一言も言ってなかったけど!?

 綺麗なおねーさんがお嫁さんになるのは悪くないけど、俺はまだ十八歳だから婿とか早い。いや、今世だと十八なら結婚しててもおかしくない歳だけど。もっとこう、ラブでコメな甘くて酸っぱい恋愛をして、青春を謳歌しまくりたい。まだ十八歳だしチャンスはいっぱいあるし。あるよね?

 しかし、勝負に負けたらどうなってたんだろう。負けたからって取って食べるとかするような人達ではなさそうだけど。


「もし勝負に負けたらどうなるんだ?」

「さあ? 異種族の雄ならどうなんだろうね。ちょっとそれはわからないや。でもラミアには女性しかいないから、ラミア同士の場合は勝負をして勝った方が雄になって、負けた方と番になって子孫を増やすって聞いたことあるよ。だからラミアが勝負挑んで来たら、それは求愛行動で、勝負を受けた時点で番確定なんだよ。ラミア同士の話だけどね」

「へ、へぇ……」


 なんというか生命の神秘というか、ファンタジーの神秘だな。

 負けたら俺がお嫁さんにされてた可能性があるのか!? いやいや、俺は人間だから人体の構成上それは無理だな!!

 ……勝負しなくてよかった。

 もしかして、あの置いてあったコ・ピンというコフェアの種は……いや考え過ぎか。

 可愛い顔して、ラミアのおねーさん達こわっ!!



「おや、起きたのかい?」

 アベルの話を聞いて胆を冷やしていると、俺達が起きた事に気付いてスノウが部屋にやって来た。

 スノウの顔を見て、思わずちょっと笑顔が引き攣ってしまった。目が合うと意味有りげに微笑まれたので、俺達の会話が聞こえてたのかもしれない。



「お、おはよう、スノウ。昨日は助かったよ。おかげで仲間も目が覚めたみたいだ。アベル、ドリー、彼女がさっき話した、二人を手当してくれたラミアのスノウだ」

「グランから話は聞いた。世話になったようで、感謝する」

「おかげですっかり良くなったし、痛みもほとんどないよ。ありがとう」

 ラミアのスノウを前にしても、普通に会話できるのはさすがアベルとドリーだ。

「いいってことさ。おかげでアタシ達も、グランに美味しい酒と料理を食べさせてもらったからね」

「また、そうやって誑し込んだんだね?」

 アベルの視線がなんだか生温いけど、今回はそのおかげで助かったんだ。

 どこで何があるかわからないから、一期一会は大事にしないといけないよな。


「一泊させてもらったし、朝ごはんも俺が作るよ。アベルとドリーも昨日から何も食べてなくて腹減ってるだろう?」

 とりあえずアベルの視線が生温いので、台所に逃亡しよう。

「ああ、じゃあお願いするよ。その間に、アンタの仲間にもう一度回復魔法かけといてやるよ」

「助かるよ、ありがとう」


 スノウはすごく面倒見がいい姉御肌だな。

 今回の事はスノウには感謝しかないな。

 村を離れる前に、張り切って朝ごはんを作ろう。

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