第109話◆お外でご飯

「あー、もう! 魔物多すぎ! めんどくさいな! もう近くの森ごと焼き払いたい」

「やめろ、そんな事したら俺達も討伐法違反になるじゃないか」

「わかってるよ! でもホント鬱陶しい」


 宿場町で一泊した翌日、俺達は街道を更に東に向かっていた。

 街道の上をブンブンと飛んでいるドラゴンフライの群れを焼き払いながら、アベルがキレ散らかしている。


 ドラゴンフライとは巨大なトンボの昆虫の魔物である。ちなみにサイズは二メートル近くあるので普通にキモいし、雑食なので人間を襲う事もある。ついでに言うと火も吹く。しかし所詮昆虫なので氷にも火にも弱い。何なら石鹸水でもぶっかけとけば勝手に死ぬ。そんな大したことのない魔物でも、こう頻繁に街道で遭遇すると、めんどくさい事この上ない。


 街道に出てくるような魔物なら、いくら狩っても罰せられない。狩らないと危険だし、それが冒険者の仕事でもある。

 人間の生活に影響が少ないような場所に住んでいる魔物を、狩り過ぎるような事をしなければ、普通は討伐法に引っかかる事はない。というか少々狩り過ぎてもバレる事はあまりない。

 アベルも個体数が多い魔物をかき集めて、広範囲魔法で纏め狩りをすることが多い。しかし、それでも討伐法に引っかかった事はない。まぁ、その辺の絶妙な匙加減がアベルなのだが。

 バレてお尋ね者になるってどんだけ狩ったんだよ、みたいな。


 低級の魔物が街道まで溢れ出し居座っており、そのほとんどは食物連鎖の下位のものだ。この周辺の生態系が崩壊しかけている証拠だ。

 おそらく、食物連鎖の上位の魔物の個体が、著しく減少しているのだろう。

 そりゃ、領主の名前であんな奇妙な依頼が出されるのも納得するし、指名手配もされるよ。


 最初のうちは素材を回収していたが、出て来る魔物の数が多すぎる上にランクも低いので、途中からもう素材の回収は諦めた。収納につっこんでおけばいいって言っても、後で解体するのがめんどくさい。かと言って、これだけ数が多いと放置するわけにいかない。

 仕方ないので、倒した魔物はアベルが燃やして回っている。そのせいで、アベルの機嫌がめちゃくちゃ悪い。

 魔物の死体を放置してると、他の魔物が寄って来るし、場合によってはアンデッド化するので、魔物を倒した後はちゃんと後始末しなければいけない。

 森とか山などの魔物の生息域だとそのまま放置しても、他の魔物が処理してくれるから楽だけど、街道沿いはそうもいかない。



「そろそろ昼飯休憩にしねーか?」

「そうしよ。魔物多すぎて魔法使いっぱなしだから、おなかすいたよ」

「そうするかー」


 街道からやや外れた場所でワンダーラプターから降りて、昼食の準備を始める事にした。

 ……と、その前にワンダーラプター達にご飯をあげよう。彼らは賢い魔物なので、美味しいお肉をあげて世話もしてやれば、とてもよく言う事を聞いてくれる。

「今日は何の肉がいいかなぁ? ロック鳥がいっぱいあるけど、昨日からロック鳥だったしそろそろ飽きたよな?」

「ギャウギャウ」

 特に返事を期待したわけではないが、話しかけながらどの肉にするか考えていたら、俺が乗っていたワンダーラプターが元気よく返事した。

「やっぱ、飽きたかー。じゃあ今日はロックパイソンにする?」

「グギャー」

「ロックパイソンは嫌か、お、そういえばまだランドタートルが余ってるな。いっぱい走って疲れただろうからランドタートルの肉にしようか」

「ギャッギャッ!」

 ワンダーラプターが機嫌よく返事をしたので、ランドタートルの肉に決定。

「グラン、ワンダーラプターの言葉わかってるの?」

 アベルに困惑気味に聞かれた。

 言葉なんか全然通じてない、前世で犬とか猫に話しかけていたのと同じ感覚だ。

「いんや? 適当。それより、これアベルとドリーのラプターの分な」

「おう、助かる」

「ラプターにランドタートルの肉なんて贅沢だね」

 自分の乗るワンダーラプターには、自分で餌をやった方が信頼関係を築きやすいので、餌は各自でやる。肉は貯め込んでいる俺の分を食べさせている。まぁ、俺の収納に入ってる肉は、だいたいアベルが持ち込んで来た肉なんだけど。


 ワンダーラプターの顔は、前世の記憶にある肉食の恐竜っぽい顔をしていて、大きさもあるのでかなり迫力があるのだが、見慣れるとなかなか表情豊かで可愛い。爬虫類可愛いよ、爬虫類。

 お肉モグモグしてるのはとても可愛いし、縦長の瞳孔も、時々する瞬きも、とても可愛い。


「スンスン」

 ランドタートルの肉を食べ終わったラプターが、頭をこすりつけてきたので撫でてやる。

 すると、アベルとドリーのラプターまでこっちに寄って来て頭を擦って来た。可愛い奴らめぇ。

「もう~、しょうがないなぁ~」

 追加で、いつぞやにアベルが持って来た魚の魔物の身を出してやった。食後のデザートになるのだろうか。

「またそうやって餌付けしてる」

「まぁグランだから仕方ないな。あんま餌付けすると、情が湧いて後で手放しづらくなるぞ」

「お、おう」

 魚を食べているラプター達の頭を撫でてやって、自分は昼飯の準備に取り掛かる事にした。

「魔物が来たら適当に始末よろしく」

 ラプター達にそう言うと、ギャッギャッと返事をした。ちゃんと言葉通じてるみたいで可愛いな。



 見張りはワンダーラプター達がやってくれるっぽいので、次は俺達のご飯だ。

 旅に出る前に、食料は自宅で色々下ごしらえをして、すぐに食べれる状態で収納に突っ込んでいたのだが、途中でドリーが増えてしまったので、結局現地で作る羽目になっている。

 二人分で下ごしらえをした状態の物を、少し改造して三人分にするので、ゼロから作るよりは楽だけど。


 ピロン。

 俺が収納から取り出したのは銀色のペラペラの金属。ギブ鉱という鉱石から作った金属を、薄く引き伸ばして作った箔だ。前世の記憶にあるアルミホイルを模した物だ。俺的にはだいたいアルミホイル。


 魔力を帯びている金属は、こちらから魔力干渉をすれば、粘土のようにグネグネと変形させることが出来る。とは言え、流石にシート状というか"箔"と言われる厚さに加工するのはしんどかったよ。

 この手の作業で困ったらモールに相談する事にしている俺は、迷わずタルバに相談して、タルバに協力してもらいながらなんとか作った。お礼にいっぱい、栗のケーキを作る事になった。ちょうど栗の季節だったしね。


 というわけで、旅に出れば外で食事をすることもあると思い、アルミホイルもどきことギブ箔を作っておいたのだ。

 ギブ箔を広げて、輪切りにしたタマネギを並べて、その上に塩と胡椒を振ったサーモン系の魚の切り身を載せて、更にその上に輪切りのタマネギを載せる。最後にマヨネーズをかけてギブ箔で包んで、網の上で焼いたら完成だ。折角なので、キノコやらロック鳥の肉やらニンニクやらも片っ端からギブ箔に包んで焼いてみた。

 ロック鳥の肉は、ニンニクとハーブをたっぷり乗せた後、塩コショウをしてトマトソースをかけて、チーズをたっぷり載せてやった。


 野外での料理と言えばやっぱホイル焼き……でなくギブ箔焼き!! なんか語感悪いな?


「またグランが妙な物を作ってる」

「え? ギブ箔なら普通に魔道具なんかで使われてると思うけど?」

 アベルが網の上に載せて焼いている、ギブ箔焼きを興味深そうに覗き込んでいる。魔法金属系の箔は、装備品や魔道具なんかにもよく使われるので、ギブ箔もそんなに珍しくはないと思うけど。

「いや、そっちじゃなくて、ギブ箔を料理に使ってる方」

「あー、ポーの葉っぱとか紙とかでもいいけど、ギブ箔だとうっかり火が強くなっても、引火して燃える事がないからな」

 ポーの葉は分厚いでっかい葉っぱで、包む系の料理や受け皿代わりに使われる葉っぱだ。身近に生えている広葉樹なので、庶民料理ではよく使われる。

 ギブ箔焼きを作っている間に、小さなテーブルを収納から出して、パンとスープを並べておく。スープは自宅で作った物を、鍋ごと収納に突っ込んで来たので、そのままカップに入れて出すだけだ。


 冒険者メインで活動してた頃は、外で料理するのは日常だったが、マイホームを持ってからは野外で料理する事がほとんどなかったからな。たまには、外で料理するのも楽しいな。







「やっぱ、遠出する時はグランの同伴必須だよなぁ!」

 ギブ箔の中で蒸し焼きにされ、ピンク色になったサーモンの切り身を、ペロリと平らげたドリーが非常にご機嫌である。


「グランいないと野外での食事事情は悲惨だからな。アベルだけいつも一人でいい物食ってるし、聞いてもグランの居所吐かねぇし」

「教えたら絶対押しかけて来るのわかってるから教えなかったんだよ、ていうか、火を通してもマヨネーズは美味しいね。マヨネーズの酸味が不思議なくらいサーモンと相性がいいし、マヨネーズの脂っこさが全然感じられない。俺この料理好きだな」

 アベルは元々マヨネーズが好きだったが、火を通したマヨネーズにもハマったようだ。マヨネーズはだいたいの物に合うからね、マヨラーが生まれる理由もよくわかるよ。


「こっちはロック鳥とトマトソースとチーズか。魚もいいがやっぱり肉だな!」

「これなら、野菜も青臭くないし普通に食べれるな」

「何だ、アベル、お前相変わらず野菜が嫌いなのか?」

「昔ほどじゃないよ! グランのおかげでニンジンもピーマンも食べれるようなったし!」

 その食べれるようになったというのは、先日作ったあのクソ手間のかかる料理に限っての事だよなぁ?

「あ! ちょっとドリー、野菜こっちに入れるのやめろよ!」

「野菜食えるようになったんだろ? 俺のもやるから遠慮せず食えよ!」

「いらないよ!!」

 ドリーがせっせとアベルの皿に野菜を移してる端から、アベルが空間魔法でドリーの皿に野菜を戻している。戻しているというか、どさくさで自分の分の野菜も、ドリーの皿に移しているように見える。

「お前ら行儀悪いぞ! 食べ物で遊ぶ奴は明日から肉抜きにするぞ!!」

 コイツら、お貴族様だよな!? お行儀悪すぎ!!



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