第105話◆閑話:ニンジンとピーマンが嫌いな子

「ん……グラン、このハンバーグという肉のおかわりがほしい」

「ほい、皿貸して」


 ラトがハンバーグのおかわりを要求したので、俺は自分の食事の手を一度止めて席を立ち、ラトの皿におかわりのハンバーグを追加して、自分の席に戻って食事を再開しようとした。

 そして、ある事に気付く。


「アベル?」

「何? どうかした?」

「俺の皿にニンジン移しただろ?」

「え? 知らないよ?」

「お前一応貴族様なんだろ? 人の皿にこっそりニンジン移すとか、お行儀悪い事はやめろよ!」

「冒険者の時は気分は平民のアベルだから、貴族じゃないもーん」

 もーんじゃねえ! っていうかどういう理屈だよ!


 アベルは筋金入りの野菜嫌いだ。

 調理方法や、ソースをちょっとでも工夫すれば食べるのだが、ニンジンとピーマンはかなり嫌いなようで、油断するとこうして俺の皿に移動させられている。子供かよ!

 まぁ、今世のニンジンはかなり匂いが強い。というか前世のニンジンが品種改良の結果、かなり食べやすくなっていたのだろう。


 家出同然で冒険者になったと言うアベルは、冒険者になったばかりの頃に、食べ物に苦労した経験があるらしく、貴族というのに食べ残すということがあまりない。

 そこはとても好感が持てるのだが、時々こうやって自分の嫌いな野菜を、こっそり俺の皿に移そうとする。時には空間魔法を使って、転移させてくるから悪質である。

 レア魔法の無駄遣いやめれ。


 今日のニンジンはグラッセにしたのだが、いつの間にやら俺の皿に移動させられていた。子供か!









 我が家の食卓ではこうした光景がよくある。そんなアベルにニンジンとピーマンを、美味しいと言わせてみたい。











 というわけで、グラッセもアベルのニンジン嫌いの前に敗北したので、改めてリベンジだ。

 今日はついでに、ピーマンも食べさせてやる。


 グラッセは甘くて食べやすいと思ったのだが、見た目がニンジンだったのがダメなのだろう。


 ふっふっふ……今日こそはニンジンを美味しいと言わせてやるぞ!!



 まずはニンジンを親指の爪くらいの大きさに切って、一度サッと湯に通しておく。前世の記憶にある、電子レンジと言うやつがすごく欲しくなる。しかし電子レンジは、さすがに作れる気がしないので諦めている。

 次にタマネギを出来るだけ細かくみじん切りにして、これをバターを敷いたフライパンでじんわりと時間をかけて、飴色になるまで炒める。

 タマネギが飴色になったら、野菜くずやくず肉を長時間煮込んだ後、それを濾したスープを加え、そこに先ほどのニンジンを入れて、中火で水分が減って来るまで煮詰める。

 水分が減ってドロドロになる頃には、ニンジンも煮崩れているので、木ベラで潰すように混ぜた後、滑らかになるまで何度も裏ごす。

 この作業がホントめんどくさい。先日のおでんの時もそうだが、潰したり裏ごしたりする作業があるとミキサーが欲しくなる。

 ミキサーくらいなら作れるかな? 近いうちにチャレンジしてみよう。


 滑らかになるまで裏ごしたら、鍋に移しミルクと、先ほども使った野菜とくず肉のスープを加えて一煮立ちさせ、塩で味を調える。

 これに、料理用のスライムゼリーを乾燥させて粉状にした物を加えて、よくかき混ぜる。これは寒天とかゼラチンの代用品だ。

 スライムに綺麗な水ばっかり与えると、料理用のゼラチンっぽい物になってくれるスライムさんホント優秀。

 あとは、冷蔵庫で冷やせばゼリー状になるので、食べる前に崩してグラスに盛るだけだ。



 そして次はピーマンだ。

 こっちは、用意する野菜はピーマンとタマネギ、そしてスピッチョというほんのり甘味のある、濃い緑の葉っぱの野菜だ。

 ピーマンはあらかじめ細かく刻んで軽く炒めて、スピッチョは塩を入れて茹でた後細かく刻む。

 そして、タマネギは先程と同じくみじん切りにして、バターでじんわりと炒める。

 飴色になるまでタマネギを炒めたら、細かく刻んでおいたピーマンとスピッチョと白ワインを入れて、水分がなくなるまで煮詰めて、最後は木ヘラで潰してしまう。

 そして、これも先ほどと同じように滑らかになるまで何度も裏ごす。

 ホントミキサー欲しい。はー、もうミキサー作ろ。


 裏ごしする作業が終わったら、ニンジンの時にも使った、くず野菜とくず肉のスープとミルクと一緒にコトコトと煮る。ちょっとだけベーコンも足しておく。

 これでピーマンとスピッチョのポタージュスープの完成だ。

 ミルクとスピッチョの味がピーマンの苦みを打ち消すから、アベルも平気なはずだ。


 だがこのままだとスープの色が緑なので、アベルに警戒されてしまう。

 小賢しいアベルは材料が原形をとどめてない料理に対して、ものすごく疑り深い。鑑定まで使ってピーマンとニンジンを避けようとする。どこまで野菜嫌いなんだよ!

 ユニークスキルの無駄遣いやめろ。というか鑑定の超上位のユニークスキル"究理眼"のせいで、原形留めないくらい細かくして料理に混ぜても、ニンジンとピーマンを見抜いて来る。


 なのでこうする。

 熱に強い容器に作ったポタージュを入れ、上にパイ生地を被せてオーブンで焼く!!

 パイ生地作るのもくっそめんどくさかったんだけど!?


 そして出来上がったのは、ピーマンとスピッチョのポットパイだ。


 フハハハハハ!! これなら警戒心の強いアベルでも、好奇心の方が勝つだろう!!!



 くっそめんどくさかったけど、グラスの中でキラキラ輝くニンジンのジュレと、もこもこの見た目が可愛いピーマンとスピッチョのポットパイの完成だ。

 今回はホントめんどくさかった。特に裏ごし作業が。絶対ミキサー作ろ。


 ここまで手間をかけたのだから、食べてくれなかったらさすがの俺も拗ねる。








 その結果。

 無事にアベルは食いついた。

 ニンジンとピーマンとわかっても普通に食べてた。

 そして、美味しいと言わせた!! 大勝利!!!




 そして、ジュレとポットパイを気に入ったアベルが、また食べたいと言い出した。



 作るのくっそめんどくさいんだけど!?





 結局、ミキサー作ったよ!! 中の刃の部分が上手く作れないし、本体部分の容器も上手くいかないしで、タルバに泣きついたよ!! そして、モール達にもジュレとポットパイ作る事になったよ!!



 手間のかかるメニューはしばらくやらない!

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