第88話◆先生は女神様の末裔
「へーなるほど、組み合わせで全く意味が変わるんだね。神代語はちょっとかじっただけだから、知らない事だらけで面白いね。文法は古代語に近いけど、文字の形式は精霊語に近い感じだから、精霊語は神代語の影響受けてるのであってる?」
「ですですぅ。アベルは飲み込み早いですねぇ」
「そお? 子供の頃に語学の勉強した時に神代語も少し触ったからね。神代語はほとんど解読されてるけど、文字の数多すぎて使いこなせる人が少ないんだよね。この国だと、使いこなしてるのは魔道具の専門機関の関係者くらいだよ。あ、もしかして創世語とかもわかる?」
「わかりますよぉ~、でも創世語は本当に神様の言葉なのでぇ、人間が魔力とか込めようと思うと、生命力まで吸われちゃうかもしれませんねぇ。発音も人間には難しい言葉ですねぇ」
「なるほど、だから創世語に関する記述は残ってないんだね?」
「ですですぅ」
最近では空いた時間に、クルに付与と相性の良い言語を教えてもらっているのだが、今日はアベルもそれに参加している。
俺? アベル達が小難しい話をしている横で、クルが書いてくれた神代語の書き取り練習をしてるよ。前世の"漢字"の書き取りみたいで懐かしい。
まだ上手く書けないし、憶えてる文字も少ないので、使いこなせるようになるのはまだまだ先になりそうだ。
アベルは少し神代語の知識があったらしく、クルと話し始めてすぐに神代語の文法を理解し始めた。魔力だけじゃなくて頭脳もチートかよ! くやちー!! 流石に文字の種類は多くてアベルも苦戦しているようだが、俺よりも断然進みは早い。
「クルちゃん、これあげるからグランにはぜぇーーーーーーーったいに創世語とか教えないでね?」
「わぁーい! アベルの持って来るチョコレート大好きですぅ! そして創世語は危ないから内緒にしておきますねぇ」
「うんうん、おねがいね。チョコレートいっぱいあるからね、ウルちゃんも、ヴェルちゃんも食べてね。それで、グランが変な事しないようによく見張っておいてね? そしたらまた王都のお菓子持って来るよ」
「やったー! アベルは気が利くわね!! グランの監視ならまっかせなさい!」
「アベルの持って来るお菓子は綺麗ですわね。このチョコレートもお花の形をしてて食べるのがもったいないですわ」
アベルがめっちゃ高そうなチョコレートで幼女達を餌付けしてる。そしてその会話が、微妙に俺に失礼な気がする。
変なことなんかしてないよ!!
アベルとクルが言ってた創世語と言うのも気になるが、聞いた感じ危なそうなので触らない事にしよう。
俺だって触っていい物と、そうでない物の区別くらいちゃんとできるもん。
創世神が世界を作る為に作った言葉が創世語で、そこから神々が生まれた神話の時代の言葉、神代語が生まれ、更にそこから古代語や精霊語、エルフ語などの言葉に派生して、古代語からこの世界で日常的に使われるさまざまな国の言葉へと派生分岐していったという話を、アベルとクルがしているのを聞いてて途中ですごく眠くなってきた。
古代語は古代人が使ってた言葉で、魔法を使う人達が使っていたものが上位古代語、庶民が使ってたものが下位古代語で、その下位古代語が現在の様々な言語の元となって……ここら辺で寝てた。
「……棺って言うからには、やっぱり…………が入ってるの?」
「そんなわけ…………でもね、棺に入ってるのは……だけとは限らない……ね」
近くでアベルと幼女達が話しているのが聞こえる。ひつぎ? 何の話だ?
「ヒッ……怖い話は苦手ですわ」
これはウルかな? 何か怖い話でもしてるのかな?
「怖いけど、気になりますぅ」
だんだんと意識が浮上して、はっきりと会話が聞こえてくるようになった。
「それは秘密。って、実は俺もよくわからないんだけどね。きっと何かが入ってるんだろうね」
アベルとクルの言語の歴史談義を聞きながら、神代文字の書き取りをしていたのだが、いつの間にか座っていたソファーの上で寝落ちしていたようだ。
アベルと幼女達の声で目が覚めて、体を起こした。
「わりぃ、寝てた」
「あ、起きた? グランは王都の冒険者ギルドに居た時も、言語系の座学苦手だったよね」
「う……そうだな」
大きな町の冒険者ギルドでは時々、初心者や庶民向けに武器の扱い方の他、語学や薬草学、魔法学、魔術、付与等の初歩的な知識の講習会が開かれる。比較的お手頃価格で誰でも参加することができるので、俺も初心者の頃、王都の冒険者ギルドでこの手の講習会には一通り参加した。
薬草学は調合の実習もあって楽しかった。魔法学とか魔術は前世から魔法に憧れていたのですごく楽しかった。付与も前世にはなかった物だし、講習は実技が多く楽しかった。語学は……座って話聞いてるだけだからね……寝ちゃうよね。
古代語系は付与に使うので頑張ったけど、他国の言葉はもうダメだった。
冒険者は護衛や輸送の依頼などで他国へ行く事も多く、近隣諸国の言語をある程度習得している方が依頼を受けるには有利だ。
人間得手不得手はある。だから、俺が座学が苦手なのも仕方ない。
幸い同じ大陸内で国境を接している国とは言葉が似ており、語学が苦手な俺でも何とかなった。遠くの国の言葉はー……、ギルドで講習会受けたり、アベルに教えを乞うたりしたが、結局途中であきらめて言葉の通じない国に行かなければいいという結論になった。
翻訳機能のある魔道具は存在するけど、市場にはほとんど出回らないし、見つけたとしてもクソ高い。マジックバッグより高い。仕組みすらわからないから、自分で作る事も出来ない。
「そういえばグラン、コメを探しにシランドルの東の方まで行くつもりだろ?」
「ああ、そうだな。やっぱり自分で現物見たいし」
「ならシランドルの東の方の言葉、少しくらい勉強しといた方がいいよ。シランドルとユーラティアの言葉は似ているけど、東の端まで行くとかなり訛ってると思うよ」
「ええー、マジで!?」
やっぱ翻訳用の魔道具を買うか……、いや、もしかしたら幼女達にアドバイスを求めれば、ワンチャン自作できる!?
「ちょっと、三姉妹に聞きたいのだが、翻訳用の魔道具の仕組みってわかる?」
「私、魔道具とか付与とかさっぱりよ」
わかる。ヴェルはなんか脳筋っぽいというか、すごく駄女神オーラ出てる。
「魔道具と言ったらクルですわ」
ウルもそっち系得意そうなイメージだったけど、やっぱクルが得意なのか。
「なんとなくならわかりますよぉ」
クルが頬に手を当てて、首を傾ける仕草をしながら答えた。
「え? グラン翻訳用の魔道具作るつもり? それなら普通に言葉覚える方が楽だと思うけど……でもグランだしなぁ、努力の方向いつも斜め上向きだし」
うるせぇ! 人間誰だって得手不得手があるんだよ!!
「クル、良かったら翻訳用の魔道具の仕組みを教えてくれないか?」
素直にお願いしてみた。
「いいですよぉ、時間魔法で翻訳元の言語を一度その派生元の下位古代語に変換してぇ、それからもう一度時間魔法で翻訳先の言語に変換する感じですねぇ。つまり、時間魔法の付与を覚えるとこからですねぇ。付与する人が翻訳元と翻訳先の言語を習得する事も必要ですね」
結局覚えないといけないんじゃないか!! 翻訳用の魔道具が高い上に数出回ってない理由がわかったよ!!
「だから言ったじゃん、普通に言葉覚えるほうが早いって」
アベルが呆れた顔でこちらを見ている。
「ちなみにクルなら作れたりする?」
「私たちはこの森から出た事ないのでぇ、現代の人間の言葉はこの周辺の言葉しかわからないから無理ですねぇ」
ガックリ。
「あきらめて自力でおぼえよ? 基本的にはユーラティアと同じだから、固有の単語覚えるだけだからね? というか文法の同じ言語は全部それでいけるよ? 単語覚えるだけ! ホラ、簡単!!」
んなわけねーだろ!!
結局、後日アベルが子供の頃使ってたという本を持って来て、それで読んで頑張ったのだが、毎度途中で寝落ちしてあまり捗らなかった。
米を探しに行く時に言葉に困ったらアベルに通訳してもらおう。
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