第87話◆称号は正直

「そういえば小耳に挟んだんだけど、近いうちに商業ギルドに大規模な査察入るとかなんとか」

「へー、ピエモンの商業ギルドもなかなかブラックそうな職場だったしなぁ」


 フォルトビッチ商会の一件が片付いて暫くしたある日、アベルとリビングでのんびりとお茶をしていた。

 アベルの言葉に、先日、商業ギルドを辞めて冒険者の道を選んだロベルト君をふと思い出した。


 彼のやった事は決して許される事ではないし、同情もできないけど、ロベルト君がフォルトビッチ商会に言われて馬車を貸し出した件での、商業ギルドの対応にはちょっともやもやする所があった。

 あの兵士さんがこっそり教えてくれなかったら、俺だけだとロベルト君まで辿り着けなかったな。


 あの件で、誘拐未遂にギルドの馬車を使われたピエモンの商業ギルドは、職員の不祥事を隠す為"職員は何も知らずに貸し出した"という、あくまで被害者のスタンスだったらしい。

 そのせいで、商業ギルドは捜査に非協力的で、当初に貸し出した職員がロベルト君だった事以外の情報はほとんどなかったらしい。

 その陰でロベルト君には責任を取っての退職と、早めにピエモンから離れるようにと、上から言われていたようだった。

 そんな事があったので、ピエモンの商業ギルドの印象はあまり良くない。いつぞの五日市でもセコイ福引してたしなぁ。


「ロベルト君元気にしてるかなぁ」


 フォルトビッチ商会の件が片付いた後、俺はロベルト君に会いに行った。

 フォルトビッチ商会の件を片付けてピエモンに戻って来た時にはすでに、彼は商業ギルドを辞め、自首をする準備を済ませていた。

 約束だったので、ロベルト君と一緒にパッセロ商店の人達へ謝罪へ向かい、その後自首するまで同行する事にした。


 結果から言うと、予想はしていたが謝罪は受け入れて貰えなかった。

 俺がピエモンを空けている間、ロベルト君は逃げる事も出来たはずだが、逃げずに謝罪と自首の準備をしていた時点で、彼の事をこれ以上責める気はなかった。


 謝罪を受け入れて貰えない事はロベルト君も予想していたようで、謝罪後はすぐに自首をするつもりだったらしい。

 しかしパッセロさんが自首はしなくていいと言った。


 ピエモンのような小さな町で、商業ギルドの職員が町の商人に毒を盛ったとなれば、商業ギルドと商人の関係は悪くなる。そして、いくらこっそりと自首をしたとしても、すぐにその話は町に広まるだろうし、噂には尾ひれがついて被害者であれど当事者の印象は悪くなりかねない。

 馬車の件はロベルト君は知らずに利用されただけみたいだし、元凶のフォルトビッチ商会の件はすでに片が付いている。

 あまり事を荒立てたくないというパッセロさんの意向で、ロベルト君はひっそりとピエモンを去る事になった。


 謝罪は受け入れられず、罪を罰せられる事も無かったロベルト君は、なんだかモヤモヤすると言っていた。

 そのモヤモヤは自分の罪を自覚したにも関わらず、その罪を償えないという罪悪感だろう。その罪悪感があるなら、彼はフォルトビッチの連中よりかは幾分マシだ。

 小さな町とはいえ、商業ギルドの職員という安定した職を失った彼が、これから立ち直るのは相当辛いだろう。衣食住を保証される牢屋や開拓村で服役するより、ある意味辛い生活が待っているかもしれない。

 

 ピエモンを出る時に、貯えもあまりなく実家のあるソーリスにも帰り辛いと言っていたので、本気でやり直す気があるなら冒険者になってみてはどうかと勧めた。あまり、体格には恵まれてないようだが、低ランクの仕事ならお遣い系とか採取系で安全な仕事が多いので、とりあえず日銭を稼いで生活くらいはできる。

 そう思い、あまり強い魔物の出ない地域の町を勧めておいたけど、元気にしてるかな。

 彼は罪を犯したが、悔いて改める気があるなら、人はやり直す事もできる。

 当事者のパッセロ商店の人達が、その罪を追及しないと言うのなら、俺がどうこうすることはない。

 またパッセロ商店に迷惑をかけるような事あったら、新ポーションのテスターになってもらう事にしよう。




「誰の事かと思ったら、あのグラスグラスの男か」

「やっぱ気付いてた?」

「うん、だって毒系の称号付いてたもん」

「あー、結構長い間盛ってたのなら称号付きそうだな」

 "称号"とはその者の性質を表す呼称で、スキルやギフトのように上位の鑑定持ちなら、他人の称号を見る事が出来る。

 俺の場合はステータス画面に出て来る。


 "その者の性質を表す"という事は、日頃の犯罪行為を仄めかす称号が付く事もある。フォルトビッチ商会の関係者は物騒な称号多そうだな。

 俺は、変な称号なんて付けたくないから、出来るだけ事なかれ主義で生きていたい。

「というかグラン、変な称号また増えてるよ」

「え? ステータス・オープン」


名前:グラン

性別:男

年齢:18

職業:勇者

Lv:105

HP:952/952

MP:15700/15700

ST:842/842

攻撃:1159

防御:844

魔力:12580

魔力抵抗:2216

機動力:634

器用さ:18920

運:218

【ギフト/スキル】

▼器用貧乏

刀剣96/槍45/体術68/弓55/投擲39/盾68/身体強化88/隠密40/魔術40/変装3

▼クリエイトロード

採取69/耕作38/料理69/薬調合77/鍛冶39/細工66/木工40/裁縫38/美容32/調教30

分解70/合成61/付与62/強化38/美術30/魔道具作成48/飼育35

▼エクスプローラー

検索(MAX)/解体78/探索83/察知92/鑑定29/収納95/取引40/交渉48

▼転生開花

【称号】

オールラウンダー/スライムアルケミスト/無秩序の創


 マニキュア騒動であっちこっちで、他人の爪に模様を描きまくったおかげで美容と美術がやたら伸びてるな。

 木工とか付与系が伸びてるのはおそらく馬車いじったせいだな。

 ん? んんん? なんか変なスキル増えてるぞ!? 変装ってなんぞ!?

 あれか!! 女装か!! いやでもあれ俺が自分でやったもんじゃねーぞ! 途中からちょっとノリノリだったけど、それで生えて来たのか!? そんな物まで器用貧乏の恩恵うけるのかよ!!

 ていうか、称号!!

 アベルの言う通り、なんか変な称号が増えてる。



「無秩序の創って何だよ!」

 アベルの言う通り変な称号が付いてた。

「変なポーションとか付与品ばっかり作ってるからだよ」

「キューブ型のポーション便利だろ? 長期保存利かないけど瓶いらないし、時間経過の無い収納持ちなら問題ないだろう。飲みすぎてもトイレ近くならないし」

「そりゃそうだけど、時間経過の無い収納持ちって辺りが限られ過ぎてる」

 自分とアベル、それに最近ではキルシェというかパッセロ商店の人達が収納持ちなせいで、収納スキルがレアだと言う事を失念しつつある。

「でも無秩序って程の物じゃないだろう、まだ試作品だし、よく使う物がどんどん進化していくのは自然な事だし」

「キューブ型の自白ポーションだけで十分だと思うけど……、他にも爆弾ポーションとか、変な火薬とかも作ってたし、マニキュアで変な付与始めるし、思い当たる事ありすぎじゃない?」

「まぁ、それは作ったけど……」

 くそぉ、心当たりあり過ぎだし。

「それにしても無秩序って辺りが物騒だねぇ。何か悪い事した?」

「し、してないし!!」

 ちょっと狸の家にニトロラゴラとか変なキノコ置いて来たくらいだし。あれか、ロベルト君とか小番頭のおっさんで自白ポーション試したのがまずかったのか!?

「ドリーにばれないようにしないと、また怒られちゃうよ」


 フォルトビッチ商会の会長の家にニトロラゴラを置いて来たのは、即日ドリーにばれてものすごく痛いゲンゴツを貰った。

 ドリーは真面目というか、法に触れる行為に関してはわりと厳しい。俺達が道を踏み外さないように、気にしてくれてるのはわかるから、悪い事をした自覚がある時は素直にゲンコツを喰らう事にしている。

 俺は平民だし、やりすぎると自分に返って来る事もわかっている。そして、力で解決する人間になってはならない事もわかっている。

 だけど、どうしても理不尽な事もある。納得のいかない事もある。ドリーもそこは察してくれていたのか、今回はゲンコツで済んだ。

 俺がやった事は決して合法ではなかった、おかげで変な称号が付いてしまったようだ。

 まぁ、この程度ならちょっと変な物を作る生産者くらいにしか見えないだろう。それに、称号は書き換わる事もあるから、今後はあまり悪さはしないように気を付けよう。

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