第86話◆閑話:人混みの中に紛れる者達
とある夜の、とある料理屋個室。いつもの定期会合、いつもの情報交換という名の"推し"について語る会。
「皆さまはもう"マニキュア"は手に入れられました?」
「ええ、もちろんですことよ。"ネイルチップ"も入手済ですわ」
「相方様――飼育員様直々に"ネイルアート"を施してもらいました」
「本人様直々の"ネイルサロン"と言う物は、最高のファンサですね」
「ええ、しっかり売り上げに協力して、宣伝もいっぱいしました」
「しかし、今回は何やら大変だったみたいですね。飼育員様がお怒りになられてるなんて、非常に珍しい場面を見てしまいましたわ」
「ちょっとそれ、詳しくお願いします」
「この度は、飼育員様が懇意にされている方々に手を出した輩がいたようで、飼育員様が直々に処しておられましたわ。いつものゆるふわ系も良いですが、ドSモードも良いですね」
「私もソーリスで飼育員様見ました。ソーリスの腹黒商会が、飼育員様にご迷惑を掛けていたようなので見張っていたら、飼育員様のご宿泊先の御屋敷の前で、飼育員様に処されてました。もしもの時は、私が処すつもりでしたが、さすがは飼育員様、お見通しだったみたいですね。あとスーツ姿もワンピース姿も眼福でした」
「ワンピース姿について詳しく」
「ソーリスの商会で、女装してマニキュアの販売をしてらっしゃったの。胸も盛って、声まで変えて完璧でしたね」
「ええ、私もその現場にいました。あれは獅子様の仕業ですね」
「く、その場に行けなかった事が悔やまれますわ。こうなったら"カメラ"の開発を急がせて、ターゲット様と飼育員様の御姿を保存できるようにしなくては」
「そ、それが完成しましたら絶対に買います!」
「私も買います!!」
「ええ、我が家の優秀な魔道具師が開発に励んでおりますので、もう少々お待ちくださいませ。完成しましたら。この会の皆様には優先でご用意いたしますわ」
「そういえば、ターゲット様を最近よく王都の夜会でお見掛けしますね」
「爪に関する商品の宣伝と地盤固めをしてらっしゃるようですね。ターゲット様の付けてらっしゃるネイルチップは、飼育員様直々の物のようですね」
「相変わらず公式が私達を殺しに来てますわ」
「クロクマ様もついに参戦されて更に……」
「ついに保護者様に見つかってしまわれたのですね」
「ところで件の商会はどうなっておりますの?」
「あの商会でしたら、会頭が交代されたとか。何でも、事故で怪我をした前会頭にかわって、前副会頭が会頭に上ったとかなんとか。でもすぐに息子さんに会頭を譲るのではという噂もありますね」
「そうそう、なんでもあの会頭さん怪我が治った後自首されたらしいですよ。商会の不正の証拠を自ら持って、ゲラゲラ笑いながら自首されたそうで、出来るだけ強固な牢に入れてくれと、お役人さんに笑いながら泣きついたとかなんとか」
「あ、その話私も救護院で聞きました。ホホエミノダケでしたっけ? 結構レアなキノコで胞子吸い込むと笑いが止まらなくなるやつですね。その胞子を大量に吸い込んだとかで、救護院で治療されてたらしいですよ」
「ホホエミノダケですか。あの胞子は魔力に耐性が低い人が大量に浴びてしまうと、何日も笑いが止まらなくなるといいますね……かなり珍しいキノコなのにどうしてそんな物に」
「薬品関係にも手を伸ばしてたみたいですし、商品の中にまざってたのでは?」
「なるほどー、そうかもしれませんね。珍しい物が大好きな商人だったみたいですしね」
「それで、会頭が今までの不正の証拠もって自首したもんだから、商会は今まで払ってなかった分の税金とその利息払う事になって、かなり規模を縮小する事になったみたいですよ。といっても、元の服飾問屋に戻るだけみたいですが」
「元々地元ではあまり評判のいい商会ではなかったですからね、今回の件を期に取引先がかなり減ったらしいですよ。新会頭さんが駆けまわって信頼回復に努めているようですが、なかなか難しいようですねぇ」
「そうですか、その商会が今後また飼育員様にご迷惑を掛けるようなことがあれば、わたくしにも教えてくださいませ。今回はターゲット様の根回しが早くて、我が家の出る幕がありませんでしたが、またこのような事があるなら我が家もお力添えを致したいところですわ」
「しかし、あの商会どうしましょう?」
「すでに、当事者様達が解決されてるのなら、私達の出る幕はないでしょう。しかし、また何かあるようなら……」
「そうですね、また何かあるようなら」
「そういえば、ピエモンで飼育員様に処された小者が、私の住んでいる町で冒険者ギルドに登録して、活動を始めたようです。あまり向いてないようで、相当苦労してるようですが」
「飼育員様が直々に絞められたという方ですか」
「ええ、今は真面目に冒険者ギルドで活動してるようですね」
「そちらは害がないようでしたら放っておいてよいのでは?」
「わかりました。不穏な動きがないか一応見張っておきますね」
「それにしても、かの町の商業ギルドはちょっといただけませんね。今回は尻尾を切って逃げ切った形ですかね」
「どうでしょう? 商業ギルドはどこも隠蔽体質ですからねぇ。尻尾切りは早いですね」
「あら、商業ギルドの事でしたら、うちの兄様に相談してみたら、何かわかるかもしれませんわ」
「さすがお姉様、心強い」
「では皆さま、状況の報告が済みましたのなら、次は会誌の内容について話し合いましょう」
ここは、推しの殿方を応援し、推しの平和を願う、私達の推活の場。
決して本人様方に気付かれる事なく、迷惑を掛けぬよう、日陰から見守る者達の集い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます