第54話◆終わりよければ

「アベルウウウウウウウウウ!!!!!! できたぞおおーーーーー!!!!!」


 今日は出掛けないでリビングで寛いでいるアベルのところに、出来上がったペンダントを持って乗り込んだ。

「え? もうご飯? 早くない? さっき午後の紅茶タイムしたばっかりだよ?」

「違うよ! アベルに頼まれてた状態異常耐性盛りまくったアクセサリーだよ!」

 アベルはどこにも行かないで家にいる日は、よく自前のティーセットを持ち出して優雅に紅茶を楽しんでいる。お貴族様め!!

「ホント!? ついに完成したの!? 見せて見せて!!!」


 布に包んで持って来た二つのペンダントを、リビングのテーブルの上に並べた。

 タルバに作って貰った、薔薇をイメージした繊細な作りの淡い紫みのある銀色のペンダントトップの、透かし彫りにされた花弁部分に魔石を嵌め込み、中央にはユニコーンの角を加工した物が嵌め込まれている。そして小さく加工した、古代竜の魔石の欠片は、ペンダントトップとチェーンの留め具部分の、二か所に分けて取り付けてある。


「すごい、すごく細かくて繊細な細工だね? まるでモールの作った芸術品のようだ」

 アベルがペンダントの細工を、うっとりとした表情で見入っている。そりゃー、モールのタルバに頼んだから、正真正銘モールの作った芸術品だ。

「実際モールに頼んで細工してもらったからな」

「え?」

「え?」


 あれ? 俺なんか変なこと言った?


「グラン、モールの知り合いなんていたの?」

 アベルの目が、スッと細くなった。

「あ……ああああ……あああああああ……」


 完全に忘れてた。


「グラン?」

「そういえば言ってなかった。ご近所さんにモールの集落がある」

「は? はあああああああああ?」

「週に一回くらい顔出してて、先週はこれを作る為に昼間はずっと入り浸ってた。言うの忘れてた」

「いやまぁ、俺も聞かなかったし……うん……グランの事だから、モールと偶然出会って誑し込んでても不思議じゃないし、どうせまた餌付けしてるんでしょ? もう驚かないよ」

 いや、さっき驚いてただろ? というか誑し込んでるとか、餌付けしてるとか失敬だな。


「細工が素晴らしい理由はよくわかった、それで、鑑定したら効果がおかしなことになってるんだけど?」

「あぁー、お気づきに?」

「巧妙に鑑定結果偽装してあるけど、俺の究理眼なら見えたよ……たぶん高位の鑑定スキル持ちじゃないと気づかないと思うけど」

「あー、やっぱアベルの鑑定には勝てないかー、偽装頑張ったんだけどなぁ」


 先日のアベルの話を聞いてちょっと感動したわけではないが、母親の形見を使うほど大切な人に贈る物なら、と思わず張り切りすぎた結果、素材も付与も混沌としてしまい他人に鑑定されてしまうと、ガチガチの防具だと気づかれてしまうので、鑑定偽装の効果を付与してただ守護系の付与しかないネックレスに見せかけていたのだ。


「内容は約束した通り状態異常耐性だよ。アベルの持って来た古代竜の魔石の破片の魔力で、打ち消せないものではない限り無効化されるよ。毒、麻痺、催眠、石化、呪い、魅了、洗脳全部いけるはず。使ってる素材の魔力も多いので、少々の状態異常で傷ついたり壊れたりしないよ。ユニコーン素材も使ってるからS+ランククラスの魔物の使う状態異常攻撃なら複数回耐えられると思う。もし耐えられなくて、ペンダントトップの魔石とユニコーンの角が全て壊れた場合、チェーンの首の後ろの部分の留め具に、"浄化""回復"と"停滞"が時間差で発動するように付与されてるので、発動した場合、先に"浄化"が掛かって、それでも状態異常残ってる場合は"停滞"が発動して、状態異常の進行をかなり遅らせる事が出来るはずだ。あ、ついでに魔力に余裕あったから、リジェネーション付与しといたよ。あと魔石その物に、空気中の魔力自動で吸収するようする術式書き込んどいたから、急激に魔力消費しなければ魔力補充なしで使えるよ、あ、もちろん劣化防止の"停滞"も付与してあるよ」

 リジェネーションは、ゆっくりとしたスピードで傷や疲れが回復する効果である。


「…………」

「あれ? もしかしてダメだった?」


 アベルが何も言わないので、すごく不安になって来る。状態異常防御に特化するあまり、物理や魔法に対する防御は、投げ捨ててしまったのがまずかったのだろうか。

「直接攻撃に対する防御はできないけど、一応ペンダントトップをチェーンから外すと、"浄化"と"回復"と"停滞"は発動するから、いざという時はそれで……ダメ?」

 コテンと首をかしげて、あざとく言い訳をしてみた。


「全然ダメじゃない。むしろやりすぎて表に出せないレベルの代物になってる……いや、これくらいでいいんだ、ありがとう、感謝するよ」

「あぁ、問題なければいいんだ」

「うん、デザインも付与の内容も最高すぎる。本当にありがとう!」

 ペンダントの説明をしたときは、若干引き攣った顔をしてたアベルだが、今はニコニコと嬉しそうなのでよかった。


「これは、俺の腹違いの兄とその奥さんに渡そうと思ってね。子供の頃から可愛がってくれてて頭が上がらないんだ。政敵が多い人だけど、家を出て冒険者になった俺が近くで守るわけにはいかなくてね。本当に感謝するよ。ありがとう、グラン」

「ん、俺もアベルには色々世話になってるし、これで恩返しできたなら、よかった」


 珍しく自分の家族の話をするアベルの表情は、今まで見たことのないような穏やかな表情だった。

 妾腹って言ってたから、複雑な家庭っぽいけど、お兄さんの事は大事なんだろうな。

 いつも、作ったような芝居臭い笑顔を浮かべる友人の本音を、垣間見たようで何だか嬉しかった。




「ところでさ、素材に月金って見えるんだけど、素材に関してはすごく素人で知識不足で申し訳ないんだが、月金って何かな?」

 アベルの笑顔がいつもの、少し胡散臭い超笑顔に戻っている。やっぱ、素材も気付きますよねー?


「あーうん、ミスリルと魔法白金の合金? アベルに捕まえて来て貰ったあの臭いスライム使って作ったんだけど、出来上がった物が月金って名前だったんだよね? 俺としても初めて聞く金属の名前だから、若干戸惑ったけどそういう金属あるのかなって気になってた。アベル知ってる?」

「知らないから聞いてるんだよ!!!!!」

 さっきまで仏のような笑みは、目の錯覚だったのかもしれない。

「あ、はい」

「そもそも、魔法白金ってミスリルと混ざるの!? 俺の知識が正しかったら魔法白金って錬金術師ですら合金作れる人少ないよね!? 混ざってるとしても、ムラが多くてこんなキラキラした色にならないよね? 天然でも他の鉱物と偶然混ざったやつもあるけど、品質もすごく低いよね?」

「そこはスライムががんばった、スライムすごい!」


 混ぜる事が出来た理由は、おそらくアベルに捕まえて来てもらった、火山周辺の臭い物質やガスをたっぷりと取り込んで育ったスライムと、俺が"魔法の粉"こと重曹を作る工程で、塩水を分解した時に出来る強酸性の液体のせいだとは思ってるけど、説明するのもめんどくさいのでスライムのおかげということにしておこう。


 アベルが珍しく真面目に険しい顔で考え込んだ後に口を開いた。

「この金属の事絶対に他言したらダメだよ。今まで作った物の中にも、金に目がくらんだ連中に目付けられそうな物はいっぱいあったけど、これはちょっと今までのとはレベルが違いすぎてまずい。下手したら誘拐されて幽閉されてもおかしくない、絶対にこの金属のことは、他に漏らしちゃだめだよ」

「うん、何となくそんな気はしてた。あ、でも、その金属の加工が上手くできなくて、モールの知り合いにペンダントトップとチェーン作って貰ったから、彼らはその金属知ってるよ、あとお礼に少しあげちゃった」

「モールなら人間と交流があまりない種族だし、温厚な気質だから大丈夫か……いやモールはドワーフに繋がってるから、あの鉱物キチの種族が黙っているかどうか怪しいな。まぁドワーフはエルフと仲が悪いから、エルフに漏れる事はないだろう……エルフはめんどくさいエルフは」

 アベルが顎に手をあててブツブツと呟きながら考え込み始めた。


「鑑定偽装しっかりされてるから、少々のことではバレないと思うけど、その魔法白金の合金については、信頼のできる然るべき場所に知らせる必要が出てくると思う。その時は、グランに火の粉かからないようにするし、その金属の権利者としての金も入るようにするよ。もしかしたら、協力を頼まれるかもしれないけど、グランの意思を尊重することを約束する。もしもの時は俺が排除するから、俺がグランを守るから安心してくれ」

 すごく真剣な顔で言われたが、"排除"という言葉が不穏すぎて安心できないんだけど??



 なんだかんだで俺自身もノリノリで魔法白金とミスリルの合金作って、付与も張り切りすぎた結果、ネックレスその物はアベルに納得してもらえる物が作れて良かったし、俺自身も楽しかったんだよなぁ。

 魔法白金の合金は珍しいとは思ってはいたけど、俺の予想を超えていたようだ。魔法白金については俺が勉強不足だった結果だろう。いつものノリで、白金とミスリル合わせて両方の特性引っ張り出そうって、思っただけだったんだよね。


 後にこの月金のせいで、騒動に巻き込まれる事になるとはこの時予想してなかっ……いや、少しそんなフラグが立ってるような気はしてたんだ。



ところでアベルに頼まれたペンダント作りでめちゃくちゃスキル上がった。高級素材と高難易度付与すごい。細工のスキルが料理に追いつきそうだし、付与がめちゃくちゃスキル育っててびっくりした。そしてスライムを弄りすぎたせいか、調教と飼育のスキルがガッツリ伸びてた。


名前:グラン

性別:男

年齢:18

職業:勇者

Lv:105

HP:952/952

MP:15700/15700

ST:842/842

攻撃:1159

防御:844

魔力:12580

魔力抵抗:2216

機動力:634

器用さ:18920

運:218

【ギフト/スキル】

▼器用貧乏

刀剣96/槍45/体術68/弓54/投擲39/盾68/身体強化88/隠密39/魔術38/

▼クリエイトロード

採取69/耕作35/料理68/薬調合77/鍛冶39/細工66/木工36/裁縫38/美容13/調教30

分解70/合成60/付与60/強化34/美術17/魔道具作成48/飼育35

▼エクスプローラー

検索(MAX)/解体78/探索83/察知92/鑑定26/収納95/取引35/交渉46

▼転生開花

【称号】

オールラウンダー/スライムアルケミスト









 そして後日、このペンダントの報酬としてとんでもない額が、俺の冒険者ギルドの口座に振り込まれていた。




 あれ?? 俺もうこのままニートになってよくない????




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