第49話◆ファンタジーな植物
植物の茎切ったら、そこから酒が出て来るなんてどこの神話だよ!?
って思うじゃん? この世界にはあるんだなこれが。
「みーーーっけた!」
自宅の裏の森こと、アルテューマの森を散策すると、探し物はすぐに見つかった。
大きな木に巻き付いてその表面を這うように伸びる、蔓状の植物が俺が探していた植物だ。
大木に巻き付いて成長しているその植物は黄色い花を付け、また所々に人間の腕程の大きさの長細い実が垂れるように生っていた。
初夏から夏にかけて実を付ける、ポラーチョと言う名の植物で、俺の目的はその実……ではなく茎の方だ。
大木の上の方まで伸びているポラーチョの茎を根元より少し上のあたりをナイフでスッパリと切り、収納から取り出した大きな空の瓶にその茎を挿した。
切断した茎の先からチョロチョロと液体が吹き出し、挿し込まれた瓶の中に溜まっていく。これだけ大きなポラーチョならこの株だけで、持って来た瓶がいっぱいになりそうだ。
正確には茎を切断すると、そこから出て来る液体が目的の物だ。
【ポラーチョの酒】
レアリティ:E
品質:上
効果:酩酊(中)
料理、調合等に用いる
ポラーチョの茎から流れ出る酒
このままだと青臭くて飲みにくい
植物の茎を切ったらそこから酒が出て来る世界、マジでファンタジーだよ!!
このポラーチョという植物、根から吸い上げた水分を酒に変化させるらしい。理屈など知らないけどまさにファンタジー!
そして根元の辺りを切るとその酒が茎から滴ってくるのだ。
しかし、鑑定スキルさんの言う通り、そのままだとすごく青臭くて飲めた物ではない。味も良くないので簡単に手に入る酒とは言えど、好んで飲む者はあまりいない。
このままでは飲みにくいが、氷砂糖やハチミツ、それと香りの強い果実と一緒に漬け込んで時間をかけて熟成させると、果実の香りや氷砂糖やハチミツの甘味で風味と口当たりがよくなり、とても飲みやすくなる。
ただ、砂糖ですら高いこの国では、それが結晶化した物となるとさらに高価である。ハチミツは砂糖よりも安いが、それでもわざわざハチミツを購入してまで、この青臭い酒を飲むくらいなら、素直にエールやワインを飲む方が安上がりだ。
そして、飲めるまで熟成させるのに数か月から年単位の時間がかかるので、そこまでしてこのポラーチョの酒を飲もうと思う者はあまりいないのだ。
そんな不人気なポラーチョの酒なのだが、酒精だけは強い。そりゃーもう蒸留酒並の強さである。
飲みにくいが酒精だけは強く、香りが強い果実と一緒に漬けて熟成させれば青臭さは消える。
リュネの実漬けるのはちょうどよくない? ってことで、森に探しに来たらすぐに見つかった。
今回はハチミツを使う予定だが、ちょっとだけ氷砂糖を使った物も作ろうと思っている。
現在おうちでは今頃スライムさんが、砂糖の原料になる魔物を食べて、氷砂糖を作り出してくれているはずだ。はー、スライムさんマジ最高。
というわけで、無事にポラーチョを見つけて、その酒を回収中である。
持って来た瓶いっぱいに溜まるまでの間暇なので、根元で茎を切ってしまったポラーチョに生っている実を回収しておこう。
茎を根元ですっぱり切っちゃったから、後は枯れるしかないからね、実が勿体ない。
ポラーチョの実は食べてもあまり美味しくないのだが、とても繊維質な実なので実を水に浸けて皮と果肉部分を腐らせて、繊維部分だけを取り出して乾燥させればスポンジ状になるので、タワシとして使ったり、クッション材として使ったりできる。
なんか前世の子供の頃に、夏休みに似たような植物育てた記憶があるな?
木によじ登って、ポラーチョの実を捥いでるうちに、瓶いっぱいにポラーチョの酒が溜まっていた。
まだ酒が出て来そうな感じだったので、瓶を入れ替えて打ち止めになるまで回収しておこう。このまま残りを地面に垂れ流すなんて勿体ない。どうせ収納スキルの中にしまっておくので、いっぱいあっても問題ない。大は小を兼ねる。実に良い言葉である。
ポラーチョの酒を最後まで回収したら次の探し物へ。
リュネの実、つまり梅。梅といえばやっぱアレだよな!!
う め ぼ し !
くっそ酸っぱい梅干しで、アベルのお綺麗な顔が歪むの見てみたい、なんて事は思ってないから。
というわけで、次は梅干しの材料のアイツを探しに行くのだ。
少し季節を過ぎているので、あるかどうかはわからない。まぁ、なかったら来年かな。
探してるのは梅干しの赤い色の元になる赤ジソだ。
前世のシソとは少し違うが"レスレクシオン"という薬草が、緑の方のシソに酷似している。俺が探しているのは赤い方のシソでこちらは"カーマクシオン"という薬草だ。緑の方がよく見かけるが、実は赤いほうが原種らしい。
クシオン系の薬草はどれも毒消し効果が強く、ポーションの素材としても有能だ。特に赤い方、カーマクシオンは毒消しと体力回復効果の両方を持ち合わせており、人気のあるポーション素材だ。
クシオン系は繁殖力が強く、野生でもどんどん増えていく。ボロボロと種をこぼして、ボコボコと生えて、どんどん増えていく。
うちの畑に植えれば楽に採取できるかもしれないけど、幼女の祝福で植物が育ちやすくなってるところに、こんな繁殖力の強い植物を植えるととどうなるか、想像できない俺ではない。嫌な予感しかしないので、クシオン系の薬草は畑に植えないで、自生している物を採ってこようと思う。
ちなみにクシオン系の薬草の風味は前世のシソとだいたい一緒だから、青い方は天ぷらにしたらきっとおいしいんだよね。葉っぱの天ぷらも美味しいけど、花穂の天ぷらも美味しいんだよね。天ぷら食べたくなったな。
赤い方が本命だけど、青い方も見かけたら持って帰ろう。ひたすら葉っぱ天ぷらにして食べたい。
ちなみにレスレクシオンは、クシオン系の薬草の中でも特に繁殖力が強い。畑に植えておけば、レスレクシオン無限天ぷらを気軽に楽しめそうだが、こちらも幼女の加護がある畑に植えるのは、やめた方がいい気がする。畑がレスレクシオンに占拠される未来しか見えない。
レスレクシオンは丁度今の時期が旬なのですぐにみつかりそうだが、本命の方のカーマクシオンはすでに旬を過ぎているので、手に入ればラッキー程度の気持ちだったのだが、どっちもあっさりみつかった。
カーマクシオンは旬が過ぎているので、もう花が終わって種を蒔き散らす時期に突入していて少々質が落ちているが、ポーション用ではないのでよしとしよう。
レスレクシオンはまさに旬だったので、質のいい物がいっぱい手に入った。
【カーマクシオン】
レアリティ:D
品質:下
効果:体力回復/解毒
料理、調合等に用いる
赤い葉のクシオン。繁殖力が強い。
解毒、殺菌効果の他に体力回復効果がある。
【レスレクシオン】
レアリティ:D
品質:上
効果:解毒
料理、調合等に用いる
カーマクシオンの変異種の緑の葉のクシオン。繁殖力が非常に強い。
解毒、殺菌効果がある。
青い方をいっぱい毟っているのは、質が良かったから毒消しのポーションにする為だよ? 決してひたすら天ぷらにして食べようと思っていっぱい採っているわけではない。天ぷらはついでだ、いいね? もちろん、まだつぼみの花穂も回収して来た。
赤い方は旬が過ぎて品質は落ちてはいたが、量は有ったのでこちらもどっさりと回収した。こちらは砂糖漬けにしてシロップにすると、甘い物好きが喜びそうだなって。あと、赤い方で作ったジュースはアンチエイジング効果があるとかなんとか聞いた事がある。
目の前にいっぱい青と赤のクシオンが群生してて、ついつい夢中で葉っぱを毟っていて周りの警戒を怠っていた。
「ふおっ!?」
「ンヒッ!?」
クレシオンの茂みを掻き分けて葉を毟っていたら、茂みの中から突然馬の顔が現れて、変な声が出た。
慌てて後に飛んで、馬との距離を取った。
対して相手の馬も鉢合わせするまで、俺の存在に気付いてなかったらしく、変な鳴き声を出して茂みの奥へと引っ込んだ。
なんか灰色のきちゃない馬だったなぁ。
馬かー、たてがみの生えてる部分の肉美味いんだよなぁ。馬と言えば馬刺しだよなぁ。またアベルに肉食獣とか言われそうだけど、馬刺しは美味い。
クシオンを刈っている途中だが、食欲に負けて馬と鉢合わせした茂みを掻き分け、馬の後を追ってみる事にした。
しかし、何でこんな森の中に馬が?
顔というか近すぎて鼻先しか見えなかったが、まさかスレイプニルか? スレイプニルならそう簡単には倒せないかもしれないな。いや、むしろ俺一人でスレイプニルを倒すのはちょっと無理かもしれない。
スレイプニルは足が八本ある馬の魔物だ。軍馬より更に体格がよく、知能も戦闘能力も高く、魔法も使うAランクの魔物だ。
スレイプニルにしては少し小さかった気がするから。子供のスレイプニルだったのかもしれない。仔馬なら捕まえれるかもしれないな。
スレイプニルは賢いので、スレイプニルに主と認めさせれば、その背に乗る事を許してくれる。子供のスレイプニルなら比較的捕まえやすく、愛情を注げば成体のスレイプニルよりは信頼関係を築きやすいと聞いた事がある。
そんな事を考えながら茂みを掻き分けてすすんだ先で、こちらに背を向けて獣道を走り去る灰色の馬の姿が見えた。
足は四本しか見えなかったから、ただの馬だったようだ。
くそぉ、馬刺しに逃げられてしまった。
逃げられたものは仕方ない。
もうちょっとクシオンを採取したら、帰ってリュネの実を漬ける準備をする事にしよう。
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