第44話◆ようじょはすごい
「グランさん、たくさんご馳走してもらって、今日はどうもありがとうございました」
「ごちそうさまでした、とても豪華な料理ありがとうございました。このお礼はちゃんとさせてもらいますからね?」
「キルシェとアリシアには、いつも取引してもらってるからな。キルシェとアリシアに会えなかったら、こんなに早くこっちの生活に馴染めなかったよ」
「僕らの方こそ、ポーションの事といい、とーちゃんの事といいお世話になりっぱなしなので、パッセロ商店としてもちゃんとお返しはしますよ!」
キルシェが何やら張り切っているから、その時は楽しみにしておこう。
デザートを食べ終わって、締めのお茶を飲んで、ランチパーティは終了。片付けは、キルシェとアリシア、そして幼女三人も手伝ってくれたのですぐに終わった。テーブルとか椅子とかは、アベルの空間魔法の収納空間の中に帰ってもらった。
そろそろ夕方も近づいてきたのでお開きの時間だ。
「あ、これアップルパイ、お土産ね。家で食べてくれ。それと、ご両親にも、ランドタートルのスープとリゾットだから、きっとお父さんも食べられるんじゃないかな?」
そういって、お土産の料理を入れた取手のついた金属の箱を、キルシェに渡した。前世の記憶にある、料理を配達する為のオカモチという箱を参考に作った箱だ。アベルに頼んで、時間魔法の"停滞"を軽めに付与して貰ったので、半日くらいなら中身の品質を落とさずに、持ち運びと保存ができる。
「何から何まで、ありがとうございます。入れ物はまたお店にいらした時にお返ししますね」
「わかった、次に店行った時に回収するよ」
「じゃあ、彼女達送って来るよ」
「頼んだよ、気を付けてな」
ピエモン周辺は魔物が少ないとは言え全くいないわけではないので、街道から外れた町までの道のりを、女性だけで帰らせるのは不安だったので、俺が送って行こうと思ったら、アベルが帰りは転移魔法で戻れるからと、彼女達をピエモンまで送る役を引き受けてくれた。
お礼は氷菓子でいいと、こっそり耳打ちもされた。さっきも食っただろ!?
アベルが御者をする、キリシェとアリシアの馬車を見送って、残っているラトと幼女三人を振り返った。
アベルが御者してるのって相当レアな気がする。
「ラト達にもお土産のアップルパイ焼いてあるよ」
「やったー!」
「パイ!!」
「甘い物ならいくらでも食べれますわ!」
アップルパイと聞いて幼女達がはしゃぎだした。
「今食べると晩御飯が食べれなくなるから、食べるのは明日だぞ」
ラトはお父さん……いやお母さんみたいだな。
「えーーーー!」
「晩御飯と言えば、ラトは最近夕食の後になるといなくなるのは、こちらでご飯を頂いてたのではないですかぁ?」
「そうですわ、最近ラトから知らない食べ物の香りがしてましたわ」
「……」
「そうそう、ラトが最近夜どこかへ行くから、どこに行ってるのかと思ってラトの魔力辿ってたら、グランの家に着いたんだよね」
「ラト、グランの家でこっそりご飯貰ってたんですねぇ?」
「ラトだけずるいですわ」
「いや、それは、森の近くに人間が棲み付いたから、見回りも兼ねてだな」
「ラトはわたくし達と夕飯食べた後、こちらでも頂いてたのですね?」
「ラト意地汚い」
「そういえばラト最近太りましたねぇ」
「なっ!?」
自分ちでも食って、うちでも食ってたのか。
「まぁまぁ、みんなで夕飯食べに来ればいいんじゃないかな? どうせ最近はずっとラトもうちに来てたし」
「やっぱりラトはこちらに来てたのですねぇ」
「証言頂きましたわ」
「食い意地張りすぎ」
フォローしたつもりが逆効果だったようだ。
「わ、私は森の見回りをして結界も維持しているから、魔力の消費が激しくてとてもおなかがすくんだ! それにグランの料理を食べていると調子がいいんだ! 森の番人としては重要な事なのだよ!! そんなわけでこれからもよろしく頼む、好意にすがるようだがこの子達も一緒に頼む。その代わりといっては何だが、森の更に奥に入る事を許可しよう」
え!? ご飯提供するだけで森の更に奥まで入る許可くれるの? それでいいのか森の番人!?
あまりの好条件にちょっと引きながらも、森の奥地への魅力には抗えなかった。
「お、おう。どうせ男三人分作るのも、そこに追加子供三人分作るのもそんな変わらないしな」
「子供じゃないですぅ」
「人間より私達の方がずーーーっと年上なんだからね」
「そうですわ、私達のほうがグランよりお姉さんですわ」
お姉さんというには、ちょっと色々と小さすぎるかな? 年齢は気になったが、聞かない方がいい気がしたので黙っておいた。
「そうですわ、わたくし達の力をグランに見せましょう!」
えぇ……何か嫌な予感しかしないんだけど?
「そうよ、私達こう見えても女神の末裔なのよ!」
ポンコツ女神臭しかしない。
「ご飯のお礼に私達の力を見せてあげますぅ」
ラトの方に助けを求める視線を送ると、無言で首を振られた。
えぇ、保護者でしょ……止めてよ。
「グランの家には畑がありましたわね」
「畑に行きましょう」
「森の守護者の力見せてあげるわよ!」
幼女達が畑の方へと駆けだした。そして、ラトにポンっと肩に手を置かれる。
「大丈夫だ、彼女達は人間から見ると子供のような姿かもしれないが、立派な森の守護者だ、心配する事は無い。悪いようにはしないはずだ、たぶん」
"たぶん"ってなんだ!?
幼女達を追いかけて畑へ行くと、長女のウルが野菜の植えてある畑の前で、祈るようなポーズをしていた。
「大地に祝福を授けますわ~」
ウルの体がキラキラとして、畑の野菜がニョキニョキと目に見える速度で成長した。
「えぇ……」
「これで、このお野菜は収穫できますわ。収穫した後も、グランの畑は作物が良く育つはずですわ」
「すごいな、それはありがたい。今夜は野菜をたっぷり使ったスープでも作るかな」
野菜が一気に成長したばかりか、その後も作物が育ちやすいとか、幼女の祝福すごいチート。
「次は私の番ですぅ~、お庭には地面の中でまだ眠ったままの大きな種がありますね?」
「あ~、以前貰った種を庭の隅っこに植えたんだけど、さっぱり芽が出なくてなぁ……水と肥料はやってるんだけど」
三女のクルが言った"大きな種"には心当たりがあった。以前ピエモンの五日市で商人に貰った、「リュネの種」という何かわからない大きな種だ。
「種の殻がとても硬くて、芽が出るにはたくさんの魔力と、自然の祝福が必要だと、その種が言ってますぅ。私が、その種の芽生えと成長を手助けしますねぇ」
そう言ってクルは、例の種が植えてある敷地の隅っこへと走って行った。
「恥ずかしがり屋さんですねぇ。大丈夫ですよぉ、グランさんは貴方をきっと大事にしてくれますよぉ。だから起きてくださ~い」
クルがそう言って、あの大きな種を植えてある付近の地面に手を付くと、クルの体と地面が眩く光り、ボコリと音がして地面が盛り上がり、一本の木が生えて来てみるみると成長した。
「今日は、グランさんに美味しい物いっぱい食べさせて貰ったので、いっぱいサービスしちゃいますよぉ」
クルがそう言うと、木はどんどん大きくなって、青々と葉っぱを茂らせて、ピンク色の小さな花をいっぱい咲かせた。
その花は、俺の前世の記憶にある花にとてもよく似ていた。
「ほぉ、これはこれは、リュネの木か……遥か東方に大昔に生えていた植物だ。珍しい」
「東の方から来たって商人に貰ったんだ」
ラトの言うように東から来た商人に貰った物で、前世の記憶でも米を食する地域では、よく料理に使われてた食材の花に似ている。
「実をそのまま食べると、弱いながら毒があるから、人間はあまり食べないと思うが、酒に漬けると美味い」
あー、やっぱり。俺が知ってる食材と似ている。
「毒と言っても、熟してない実を大量に生で食べると、ちょっとおなかが痛くなるくらいじゃないか? あと酒以外にも、結晶化した砂糖と一緒に漬けても美味しいはずだ」
「何だ、リュネを知ってるのか?」
「あぁ、知識として知ってるだけだけどな。酒に漬けるやり方も、たぶん俺が知ってるやつであってると思う」
「ほぉ? リュネが人間の住んでる場所から消えて久しい、今はエルフの里などの森の奥深くにわずかに生えてるだけのはずだ。まさか人間で調理方法を知ってる者がいたとはな」
「そうなのか。実物を見るのは初めてだよ、知識として持ってただけだ」
俺の前世の記憶にある植物とおそらくほぼ同じ物だと思うが、この世界ではかなり珍しい植物のようだ。
「酒に漬ける方法がわかると言ったな? では……」
ラトが、生えて来た木に手をつくと、満開だった花がパラパラと散り始め、その後に小さな緑の実を付けた。
あー……やっぱり俺の知ってる"ウメ"の木だ。前世の実家の庭にも植えてあったんだよなぁ、懐かしい。
前世を思い出してると幼女達が騒がしくなった。
「あーーっ!綺麗な花だったのにラトひどいですぅ」
「花が咲いたあとは実が生るのは自然の摂理だ」
「ラトはお酒が飲みたいだけでしょ!」
「情緒が足りませんわ」
幼女達がプープー言っているのをスルーしてラトが俺に言った。
「酒に漬けるのは、未熟な実と熟した物とどちらがいい?」
「うーん、俺は青い方が好みかな? 熟す前の方がすこし酸味が強く出て爽やかな口当たりになるんじゃないかな? 熟してる方だと甘味が強くて果実感が強くなると思う。あとは実が柔らかくなりすぎない方がいいかな」
「ずいぶん詳しいな? まるで実際に作って味を知っているようだ」
「え? そ、想像だよ想像!!」
やば、梅を漬けた酒――梅酒が前世ではなじみ深すぎて、ついうっかり口が滑ってしまった。
実家でお袋とか婆ちゃんが毎年作ってたんだよね。梅の実を綺麗な物と傷の入った物とで選別して、ヘタを取る作業がめちゃくちゃめんどくさくて、よく手伝わされてた。
しかし、ラトは意味有りげにニヤリと笑っただけで、それ以上何も追及しなかった。アベルみたいに根掘り葉掘り聞かれるのも困るが、意味有りげに追及止められると、何だか見透かされてるような気がして困る。
そんな事を思ってるうちに、リュネの木に付いた実はどんどん成長して、酒に漬けるのにちょうどいいサイズの緑の実になった。
「グランの作るリュネの酒、期待しているぞ」
「あ、はい」
今日はもう日暮れが近いから、収穫は明日以降だな。酒に漬けるって言っても、下ごしらえに手間かかるし。
「はいはいはいはい! 次は私ー!!」
たわわに実ったリュネの実を見上げていたら、次女のヴェルが元気よく手を上げた。
「畑もリュネの木もウルとクルがやっちゃったから、私はー……どっちみち私、大地の祝福とか植物の成長とか苦手なのよね。だからー、出でよ!!!」
なんか嫌な単語が聞こえた、その直後ドーンと空中から緑の塊が降って来た。
「私の眷属のフローラちゃんよ!! どう? かわいいでしょ!!!」
どう? っといわれましても……目の前にはヴェルが呼んだらしき、太い蔦がウネウネと動く植物がいた。
上の方には真っ赤な薔薇のような花が咲いていて花弁が口のようにぱくぱくしてる。その中心になんか牙みたいなの見えるぞ?
森の中であったら間違いなく魔物だと思うわ……というかなんか土管から生えてきそうな植物だな。
「えぇっとこれは……?」
ぶっちゃけ、若干引いてる。
「私の眷属のフローラちゃんよ!! とってもおりこうで、正義感の強い子なの。植物のようだけど、もちろん自分で移動もできるわ。だから、彼女にグランのおうちを守ってもらうの! あ、あまり難しい事はできないけど、グランがお願いしたら畑の手入れくらいなら手伝ってくれるはずよ」
「畑手伝ってくれるのはありがたいけど、護衛は……」
嫌な予感がビンビンしてる。
「人間って、家を守る為に犬を飼うんでしょ? それと同じよ? 悪い人間や魔物が来たら追い払ってくれるわ! 普段は、そうね……丁度いいエンシェントトレント製の柵があるから、そこに巻き付かせておけばいいわ。太陽の光を魔力に変換して糧にするから、特に世話の必要もないけど、時々美味しいお水とか肥料をあげると喜ぶわ」
犬と同じ……なのか?
「追い払ってくれるって、致命的な攻撃したりしない?」
「大丈夫よ、ちょっと威嚇して追い払うくらいよ。フローラちゃん強いから、それだけで彼女より弱い魔物は寄ってこなくなるわ。攻撃加えなければ、フローラちゃんから手を出す事はないわよ。そうね、侵入者は捕まえるくらいでいい? 捕まえたらグランにお知らせすれば大丈夫でしょ?」
「あ、あぁ……」
すでにアベルの結界があるから、すごく過剰戦力な気がしてるけど、畑手伝ってくれるし、変な物威嚇して追い払ってくれるならそれはそれでいいか。
フローラちゃんが活躍するような事態はないと思いたいが。
「何か一回の飯で、色々貰いすぎた気がするな」
森の守護者パワーすごい。
「これからお夕飯お世話になることですし、女神の末裔の名にかけてこれくらい当然ですわ」
「そうそう、森の中だと食べる物偏るからね、果物も山菜も飽き飽きだわ」
「グランの料理いっぱい食べたいですぅ」
「ということだ、これからもよろしく頼む」
「お、おう」
ラトが人間の姿で、家の中に入れる大きさなので、今後は普通に家の中で食事が出来そう。外で星空見ながらの夕食も悪くないから、たまには外で食事でもいいな。
しかし、食堂のテーブルが六人掛けにするのはすこし小さいので、大きいテーブル用意したほうがいいかな? アベルに相談してみよう。
こうして、初めてのホームパーティは無事終了して、うちの夕飯の面子に幼女が三人増えたのだった。
なお、この後帰宅したアベルが畑の様変わりや、フローラちゃんに気付いて一悶着あった。
そういえば、この度のランドタートル騒動やランチパーティのおかげで、どさくさでレベルもスキルもちょっと上がってて地味に嬉しい。それと、マニキュアを作って色々試したり、五日市で女の子に塗ったせいか"美容"なるスキルが生えてきていた。
名前:グラン
性別:男
年齢:18
職業:勇者
Lv:105
HP:952/952
MP:15700/15700
ST:842/842
攻撃:1159
防御:844
魔力:12580
魔力抵抗:2216
機動力:634
器用さ:18920
運:218
【ギフト/スキル】
▼器用貧乏
刀剣96/槍45/体術68/弓54/投擲39/盾68/身体強化88/隠密39/魔術38/
▼クリエイトロード
採取69/耕作28/料理67/薬調合77/鍛冶39/細工63/木工36/裁縫38/美容5/調教18
分解70/合成60/付与45/強化34/美術17/魔道具作成48
▼エクスプローラー
検索(MAX)/解体78/探索83/察知92/鑑定20/収納95/取引32/交渉44
▼転生開花
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オールラウンダー
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