第43話◆デザートは別腹

 午前中のうちに作っておいたプリンを、冷蔵庫から取り出して、ガラスの器に盛って行く。

 アベルがつまみ食いしてもいいように、多めに作っておいたので、ちゃんと人数分ある。でもよく見ると数が減ってるので、やはり待ってる間につまみ食いしたのだろう。


 プリンの周りに、リンゴやオレンジ、バナナ、ブルーベリーと言った色とりどりのフルーツを、可愛くなおかつ食べやすくカットした物を飾り、プリンの上にはカラメルを掛けて、その上に生クリームを絞ってチェリーを載せた。

 そして冷凍庫に入れて昨夜から固めておいた、ミルクと生クリームと卵で作ったアイスクリームを取り出した。

 それを半球型の大き目のスプーンで掬って、プリンの横に添え、その上にクランベリーから作ったソースを掛けたら完成。

 手作りアイスクリームなので、多少シャリシャリ感が残っているのは愛嬌だ。

 滑らかなアイスクリームを作るのは、人力だと大変なんだよおおおおお!!


 前世では"プリン・ア・ラ・モード"と呼ばれてたスイーツだ。


 今日のメンツならきっと、甘い物は好きだろうと思って、張り切って作ったのだ。

 以前は何となく、男で甘い物好きなのは引かれるかなって思っていたけど、アベルが甘い物が好きで人目を気にせず甘い物を食べるので、俺も気にせず甘いものを食べるようになった。


 さぁ、楽しいデザートの時間だ。






「お待たせ! デザートは、プリンとアイスクリームのフルーツ添えだ」

 プリン・ア・ラ・モードの"ア・ラ・モード"という言葉が、前世の世界の言葉なので、アベルのツッコミが怖くて使わないでおいた。最近詰められすぎて、少し危機管理能力が上がったのだ。


 自画自賛だが、自信作なのでドヤ顔でテーブルに並べると、アイスを目にしたアベルが目を見開いた。

「氷菓子だ! しかもバニラの香りがする! 氷菓子も作れるなんて、さすがグラン! ていうかバニラなんてどこで手に入れたの!?」

「ちょっと手間はかかるけど冷凍庫さえあれば作れるよ、バニラの香りはラトが以前に持って来てくれたお土産の中に、バニラビーンズがあったんだ。ありがとうラト」

「ん、世話になってる礼だ、気にしなくていい」


 バニラビーンズは前世でも高価だったが、今世では更に高価で、一般的な市場にはほぼ出回らない。

 バニラビーンズは金持ちのお貴族様の間で、高級な香料として僅かに取引されているくらいだ。その価値は金にも匹敵するくらいだ。アイスの香りがバニラだとわかる辺りさすがアベルである。末端貴族の子息を自称しているが、実はかなり高位の貴族か、金持ち貴族なのではないかと思ってる。


 そして、前世で暮らしていた国では、高性能の冷凍庫付きの冷蔵庫が一般的に普及していた為、氷菓子は馴染みが深かったのだが、今世は、保冷用の魔道具に使われる氷の魔石が、他の属性の魔石に比べて割高で燃費も悪い為、冷凍庫どころか冷蔵庫も高級品で、氷菓子は非常に高価で平民はなかなか口にする機会がない。

 前世の記憶で冷凍庫と冷蔵庫の便利さを知っていた俺は、それなしで生活するのが辛くて、ここに引っ越して来てすぐに冷蔵庫と冷凍庫を自作した。冷凍庫さえあれば氷菓子作り放題だからね!!

 氷の魔石は他の属性に比べて、魔力消費が激しく燃費が悪いのだが、そこはせっせと自分で魔力を補充している。自分で魔力を補充できるとは言え、魔力の消費が激しい分、魔石自体の劣化は速い。しかし、そんな事より冷蔵庫と冷凍庫の方が大事だ。


「こ……これが……バニラビーンズを使った氷菓子? この香りがバニラですか……? 僕達みたいな田舎の平民が、まず見る事もないような高級品じゃないですか……」

「この一皿でどれほどの金額が……」

 キルシェとアリシアが、スプーンを握ったままプルプルと震えている。

「せっかくラトがくれた物だから、金の事考えるより、バニラの香りを楽しんで美味しく頂こう」

 俺がもしこのバニラビーンズを市場に出して、出所がこの森だと知れて、バニラビーンズ目的の人間が森にたくさん押し掛けてくるのは、森で暮らしてるラト達の生活が荒らされる可能性もあるし、せっかく田舎でスローライフを始めた俺としても本意ではない。


「ん……」

 ラトが目を細めて頷いたので、俺の選択はラトとしても間違ってなかったのだろう。

「氷菓子だから早く食べないと溶けるよ、さ、食べて食べて」


「見た目も綺麗ですごい良い香りがしますわ、食べるのが勿体ない気がしてきますわ」

「何これ! 初めて見るお菓子だ! プルプルする! こっちの冷たいの美味しい!」

「甘いの大好きですぅ」

 幼女達はやはり甘い物が大好きなようで、大はしゃぎしながら食べている。


「彼女達は甘い物が好きでな、こうした甘いデザートを食べさせてやることができて、グランには感謝している。礼を言わせてくれ、ありがとう」

 ラトに真剣な顔で言われて、こちらも照れ臭くなる。

「いやいや、ラトが自然の食材を色々分けてくれたから、こうして料理の幅が広がったんだ。こちらこそありがとう」

「ラトー、グランー、食べないならこの冷たいやつ頂戴?」

 ラトと話していると、アイスを平らげた三姉妹の次女ヴェルが、ラトのアイスを狙って来た。

「これから食べるからダメだ。それに他人の皿に手を出すのは、はしたないからやめなさい」

「ちぇー」

 自分のデザートの危機を察知したのか、ラトがパクパクとアイスを口に運び始めた。あー、一気に食べると……あ、やっぱり額を押えてる。

 冷たい物を一気に食べると頭が痛くなるのは、人間じゃなくても同じらしい。


 そしてもう一人、眉間を押さえてるのはアベルだ。ゆっくり食べればいいのに。

「まさか、グランが氷菓子作れるとは思ってなかったよ。はーーー、何この舌ざわりも滑らかでとろける氷菓子。こんなことなら、王都にいた頃に氷魔法付与した、氷冷箱作って渡しておけばよかった」

「あの頃は冒険者がメインだったからね? 確かに冷凍庫のような物があれば、氷菓子は作ってたと思うけど」

「ほらー! 何年損したと思ってるんだ、これからは常時氷菓子をストックしておくことを所望する。そういえば母屋の横の倉庫に氷冷室あったよね? そこにいっぱいに作ろ? そうしよ?」

「いや待てそんなに食べきれないだろ?」

 それにアイスクリームは手間がかかるから、シャーベットとかジェラートで勘弁してほしい。


「食べきれないなら私も手伝うぞ」

 額を押さえながらラトが参戦してきた。

「ラトだけずるいですわー、わたくしもお手伝いしますわ」

「私もー私もー」

「私も及ばずながらお手伝いしますぅ」

 三姉妹まで混ざって来た。

「わかったわかった、作り置きしておくから、いつでも好きな時に食べに来ていいから」

「「「わーーい」」」


 幼女達をなだめていると、視線を感じてそちらを見ると、キルシェとアリシアがアイスを食べながらこちらをじっと見てた。

「お店にお邪魔する時は、氷菓子持って行くよ」

「「ありがとうございます!!」」


「もちろん、プリンも作ってあったら食べるからね?」

 満面の笑みを浮かべながら、アベルが当然のように言うが、そんなにうちの冷蔵庫をスイーツだらけにしたいのか!?

 というか甘い物食べすぎると病気になるぞ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る