第40話◆そのこどこのこ?
掃除よしっ! 料理よしっ! デザートよしっ! お土産よしっ!
「じゃあ、キルシェ達を迎えに行ってくるから、留守番よろしく」
「はいよ」
今日はパッセロ商店の姉妹――アリシアとキルシェをうちに招いてランチパーティーだ。
パッセロ商店のあるピエモンの町から俺の家までは少し距離もあり、弱いとは言え時折魔物も出るので、護衛を兼ねて町まで俺が迎えに行く事になっている。
アベルは当然のごとく参加するつもりらしいので、キルシェ達を迎えに行ってる間の留守番を任せて、道中で何かトラブルがあってもいいように少し早めに家を出ようしたところだった。
――カランッカランッ
敷地の入り口の門に取り付けた魔道具のベルが、来客を知らせた。
「んん? 誰か来たっぽい?」
キルシェ達かと思ったが、あらかじめ迎えに行くと言ってあるので、それは考えにくい。
誰だろう? うちを訪ねて来るような知り合いなんて、アベルくらいしか思い当たらないので、少し嫌な予感がする。
そもそもここに俺が引っ越した事は、知り合いに全く知らせていない。アベルの時のように、知らない間に誰かにストーカー染みたアイテムを、渡されていたのだろうか……。
「グランって家に訪ねて来るような友達いたの?」
「うるせぇ! アベルといつものシャモアくらいしかいないよ!!」
「だよねー。しかしあのシカと同列にされるのはなんか癪だな」
だよねー、じゃないが? 失敬だな! でも事実だから返す言葉がない。
くやちー!!
疑問に思いながら玄関から出て門へと向かった。
門と言ってもそう仰々しい物ではなく、俺の背丈と同じくらいの高さのエンシェントトレント素材の魔物避けの柵に、出入り口として取り付けられてる簡素な扉である。
建築初心者の作った物だし、そんな大した物ではないが、アベルが侵入者避けの結界魔法を掛けてくれているので、俺とアベル以外はアベルの魔法を破れるレベルの者でないと、勝手に門を開けて敷地には入って来れないようになっている。
いつも来るシャモア? ナチュラルに入って来てるから気にしてなかったけど、アベルの魔除けを無視で入って来てるよね? 侵入許可登録しておこうと思いつつ、いつもメシくったらスススッと帰って行くからすっかり忘れてたわ……。まぁ、勝手に出入り出来てるみたいだからいいけど。いや、アベルの魔除けを越えれる時点であのシャモア何者なんだ?
シャモアの事は今は置いといて、全く心当たりのない突然の来訪者を迎えるべく門へと向かうと、門の隙間から中を覗いている三つの小さな影が見えた。
「どちら様ですか?」
少しだけ門を開けて、門の向こうにいる小さな訪問者を見下ろした。
「ここ人間の家じゃない?」
「この中からラトの魔力の残滓を感じますわ」
「でも、結界が張ってあって中に入れないですよぉ」
門の前で見た目がそっくりな少女……いや幼女が三人、円陣を組んでぼそぼそと話している。見た目は五、六歳くらいだろうか?
なんでこんなところにこんな小さな子供が……しかもワンピースにサンダルという軽装だ。
町から子供だけで遊びに来ました、って感覚で来れるような距離じゃないし、三人揃って人形のように整った顔立ちに藤色の長い髪の毛、空のように澄んだ水色の瞳が、なんとも人間離れした空気を醸し出している。
そんな幼女が三人うちの門の前で話し込んでいる。嫌な予感しかしない。
「お嬢ちゃん達、うちに何か用かい?」
出来るだけ爽やかな笑顔を心掛けつつ、優しいお兄さんを意識して、彼女達の視線の高さに合わせるようにしゃがんで声を掛けた。
「ひゃっ!? 人間だ!」
「ラトに怒られてしまいますわ」
「だからやめとこうって言ったじゃないですかぁ」
声を掛けると幼女達が驚いてピョンっと飛び上がった。そしてその反応から察するに、彼女達は人間ではないようだ。
俺の姿を見た幼女三人組は、ズササササッと音を立てながら、門から少し離れたとこにある木の陰に隠れた。しかし逃げ帰るわけでもなく、そこからこちらの様子を覗き見てる。
うーん、どうしたものか。うちに用があるのだろうか? しかしこの反応から見ると、こちらから近づくと距離を取られそうだし、この後キルシェ達を迎えに行かないといけないので時間もあまりない……困った。
うん、時間ないし見なかった事にしよう。
幼女に見えるが人間ではないようだし、おそらく見た目通りの年齢ではないだろう。
それにここまで自力で来たのなら、住処まで自力で帰れるだろう。そもそも人外の幼女三人とか厄介ごとの香りしかしない。
何かあってもアベルが留守番してるしきっと大丈夫だ。いざとなれば、アベルのチート鑑定で、彼女たちの正体も特定して何とかしてくれるはずだ。
他人を頼ること大事。
「用がないなら忙しいから戻るぞー、じゃあの」
「あっ!」
「門閉められちゃう」
「待ってぇ!」
門を閉めて戻ろうとしたら、木の陰に隠れていた幼女達が飛び出して、こちらに駆け寄って来たので声を掛けた。
「ん? 何だ? やっぱり何か用があるのか?」
「えっと……このおうちから、ラトの魔力の残滓を感じるのですぅ」
「ラト?」
「わたくしたちの保護者ですわ」
「ここにラトが来た事があるのではないかしら?」
三人の幼女は、自分達の保護者のラトという者の魔力の残滓を辿ってここまで来たようなのだが、そんな人物全く心当たりがない。
「ラトなんて奴はここにはいないし、俺の知り合いにもいないよ。もしかして、俺の前にここに住んでた者か?」
「ううん、最近の話ですぅ」
「そうそう、頻繁にラトはここに来てるみたいだし」
「この辺りから、ラトの魔力を強く感じますわ」
そう言われてもなぁ……ここに来た事あるのはアベルくらいだし……あぁ、あとはあのシャモアもか?
「ラトってどんな奴だ?」
「ラトはわたくし達の保護者ですわ」
「とっても強いけど、まじめすぎてすごく石頭で、すぐお説教始めるの」
「髪の毛が白くて、肌も白くて、背が高くて、人間で言うとこのイケメンですぅ」
うちにいるイケメンはアベルくらいだな。頭おかしいくらい強いけど、銀髪だから白髪ではないし、説教臭いとこはあるけど、真面目で石頭っていうより、どちらかというとチャラいしなぁ。アベルの事ではなさそうだ。
「うーん、残念ながらうちには、そんな奴いないし来た事もないなぁ」
「そんなぁ……」
「やっぱり、ラトが人間の住んでるとこに行くなんて考えにくいですわ」
「きっとここからラトの魔力を感じるのも、たまたま通りかかっただけかもしれません」
「どうやらここに、探し人はいなかったみたいだな? 納得したか?」
「はい」
「ご存知ないなら仕方ありませんわ」
「ラトに限って、人間の家に忍び込んで盗み食いを働いてる、なんてことはないだろうし」
おい、なんだその盗み食いって!? しかしうちに侵入者いたら結界があるからわかるし、やっぱ心当たりないな。
「じゃあもういいな? 自分達だけで住処に戻れるか?」
「うん!」
「お邪魔しましたぁ」
「それでは失礼いたします」
幼女三人が揃ってペコリと頭を下げた。俺はロリコンじゃないけど幼女かわいい。
「ちょっと待て。せっかくだからこれ持って行け」
やっぱ子供にはお菓子だよな? 今日のホームパーティーのお土産用に焼いて、収納にしまっておいたクッキーを取り出して幼女達に渡した。少し多めに焼いて小分けしておいたので、彼女達に分けたとこで問題ない。
俺はロリコンじゃないけど、可愛い幼女には優しくしたくなるのは、大人として仕方のない事だ。
「わああああ……人間のお菓子だ」
「人間に物を貰ったらダメだって、ラトが言ってましたよぉ」
「ラトに見つかる前に食べてしまえば問題ないですわ」
「毒とかは入ってないから安心しろ。食べるか食べないかは、お前らで判断するといいさ。じゃあ気を付けて帰れよ」
「はーい」
「ありがとうございましたぁ」
「また遊びに来ますわ」
え? また来るの!?
クッキーを受け取った幼女達は、手を振りながら森の方へと帰っていった。
森の方が住処って事はやはり人間ではないようだ。
ていうか、もしかしたら森に住んでる亜人か妖精か精霊あたりだったのかもしれないな。だったらあのシャモアが知ってるかもしれな、森の主っぽいし。
まぁ聞いてみようにも、なんとなく意思疎通出来ても会話はできないけど。
幼女三人組を見送って、いったん母屋に戻って来たが、そういえばキルシェ達を迎えに行くのに特に荷物はないから、そのまま出発しても良かった。なんで戻って来たんだろう俺。
「お客さんは?」
「知らない幼女三人だった」
「え? グラン幼女まで垂らし込んでたの? それともまさかグランの子供!? ていうかそのまま返しちゃったの? 幼女を?」
「ちげーよ! 全く身に覚えない幼女だったし、やましい事は全くないし、見た目は子供だったけど間違いなく人間じゃなかったし、たぶん森に住んでる亜人か精霊かなんかじゃないのかな?」
「また気づかないうちに餌付けしたんじゃ?」
「いや、ホントに見たことのない子達だったし、こっち来てから知り合いなんてほとんど作ってないし、全く心当たりないな」
アベルが半眼で睨んでるけど、今回は本当に全く心当たりがない。
「と、とりあえずキルシェ達迎えに行ってくるよ!」
まだ何か言い足りなそうなアベルを残して、家を後にしてピエモンへと向かった。
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