第39話◆反省会と男の事情
「それでさ、ランドタートルの血液……いや素材について色々聞きたいんだけど?」
「あ、はい」
昨夜はランドタートル三昧の夕食のあと、元気が満ち溢れてしまったアベルに、夜の王都まで連行される羽目になった。
ピエモンは田舎なので、そういうお店があまり期待できないので、勝手知ったる王都まで連れて行かれたのだが、なんというか転移魔法の無駄遣い感ぱない。
結局、アベルに付き合ってあちらに一泊するはめになり、せっかくの王都なのでついでに色々と買い出しをして、先送りにしまくってた魔道具ギルドや商業ギルドで手続きまで済ませたら、自宅に帰って来たのは昼前だった。
そして、昨夜は俺はあくまでアベルに付き合わされて、仕方なく王都で一晩過ごしたということを強調したい。
かなーーーり薄めたけど、ランドタートルの血液の効果すごいな!! ポーションにしたらもっと大変なことになるのでは!?
そんなわけで王都から戻って来てから俺は今、リビングで優雅に紅茶を飲むアベルにめちゃくちゃ詰められてる。
その、めちゃくちゃ高そうなティーセット、うちのじゃないよね? もしかしてわざわざ空間魔法で持ち歩いてるの? というか、そのお高そうなお茶も、うちにあるのじゃないヤツだよね?
なんかアベルの周辺だけ、お貴族様のティータイムみたいな空間が、出来上がってるんですけど。
そして俺は、アベルと向かい合った椅子の上で正座をして、素直にお説教を聞いている。
何で正座かって? そりゃあ前世の記憶にある反省してますアピール? 今回は、先にランドタートルの血液の効果を説明しなかった俺が、全面的に悪いので仕方ない。
「ランドタートルの血液もそうだけど、ランドタートルと戦った時の話もしたいな? とりあえず、あの時使ってた弓とポーションと爆弾の話も聞かせて?」
「あ、はい……」
やべぇ、アベルの目が据わっている。
「えっと、とりあえず使った弓はコレ」
ランドタートルへの初撃で使った弓を、収納空間から取り出して、ゴトンと床に置いた。ちょっと大きいし重いからテーブルに置いたら、お茶の邪魔になるしね。
「うわっ! 何これ!? 身体強化なしだと持ち上げれないてか、動きもしないんだけど!?」
ちょっと重いから、あまり体を鍛えていない魔導士のアベルだと、持ち上げるのは厳しいかもしれない。
「以前使ってたエンシェントトレント素材で作った弓を、ミスリルと魔法鉄で改造して、威力上昇系の効果を付与したんだ。弦は、ヒポグリフの尾の毛を、メタルスライムゼリーでコーティングした物を使ってる。矢はミスリルの鏃に、エンシェントトレント素材のシャフト、ロック鳥の羽で作った矢羽だよ。こっちは威力上昇の付与以外に、他人から見られないように、視覚阻害の付与もしてある。ぶっちゃけ重量もヤバいし、弦も硬くなりすぎたから、身体強化なしだと使いにくい。こんだけの重さと弦の硬さだと連射もキツいし、これを手に持って立ち回るのはかなり厳しい。収納スキル前提で、こっちに気付いてない相手に初撃専用だね。この先出番あるかどうか……」
とても普段使いするには厳しい弓になってしまったが、あまり強くない小型のランドタートルを狩るのには丁度いいかもしれない。ランドタートルは個体数が多くない魔物なので、あまり出番はなさそうだけど。
「なるほど、これだけの重さとその素材だと汎用は無理そうだね? と言っても威力のわりにコスト低めの素材だけど……まぁそれはグランだし、うん。で、ランドタートル持ち上げた時に使ってたポーションも残ってたら見せて? ついでに、その後に投げてた爆弾もあったら」
ちょっと隙間が出来るくらいしか持ち上げてなかったのに、そこまで見てたのか……さっすがぁ!
「あの時使った爆弾は、ニトロラゴラの根で作ったポーションで、衝撃で爆発するから家の中では出したくないな」
ニトロラゴラとは刺激を与えると、自爆するニンジンに似た植物の魔物である。
つまり攻撃すると爆発する。素材としてニトロラゴラが欲しい時は、魔法や睡眠効果のある薬や魔道具で、眠らせた後に核になっている魔石を取り出して倒すしかない。ただし、衝撃を与えないように、そっと魔石を取り除かないと爆発する。
しかし、無事に倒したその後も火気や衝撃で爆発してしまうので、収納系のスキルかマジックバッグがないと非常に扱いにくい。
ちなみに魔石を抜いて倒した後は、湿っていると爆発しないので、加工する時は十分に水を含ませてから加工する。
なお、生きてる状態で水をぶっかけると、その衝撃で爆発する。
見た目がニンジンそっくりなので、その辺に生えていたら爆発事故が多発しそうな植物系の魔物だが、幸いにもこいつらの生息地はダンジョン内だ。たまにダンジョンで足元に生えている事に気付かず踏んでしまって、重傷を負うという事故が起こる。
「ニトロラゴラってポーションにしたら、あんな勢いよく爆発するの……というかあんな素材よく加工しようと思ったね? むしろなんで持ってたのみたいな」
「ダンジョンで見かけたから、もったいなくてつい回収して収納に。あぁ、もちろん爆発しやすいように、他にも火薬系素材混ぜたからあの威力だよ。もっと魔力の高い爆発物混ぜたら、更に威力上がるんじゃないかな? いる? 衝撃与えたらすぐ爆発するから、売れなくて困ってるんだ」
「そんな危ない物いらないよ!!!! もうそれ収納の中から出さないで!!!!」
ですよねー? 作ったはいいけど、柔らかい素材は爆発で傷つくから使い道もあんまないし、ちょっとした衝撃で爆発するから売るわけにもいかないし、持て余してるんだよね。収納スキルなかったら、持ち歩くのにも困るところだったよ。
爆弾ポーションの話が終わったので次は、ランドタートルと戦った時に使った二本のポーションを、収納から取り出してテーブルに並べた。
「これが、あの時の身体強化のポーション。アベルが持って来たグリーンドレイクの血液から作ったやつだよ。こっちが血液を薄めて作った普通の方で、こっちが魔力触媒だけ入れて薄めてない血液で作った方。ランドタートル持ち上げるのに使ったのはこっちの薄めてない方。効果も高いけど、副作用でひどい酒酔い状態みたいになるし、実際俺もあまりの気持ち悪さにすぐ吐いたし、あんま実用的じゃなかった。あ、副作用の酒酔いみたいな症状は、酔い覚ましのポーションで治ったから、実質身体強化効果のある酒みたいなもんだね」
「それもう劇薬だよね? あ、普通の効果の方、量産できる? そっちは副作用ないんだよね?」
「副作用ないわけじゃないよ。酒に弱い人は使わない方がいい。後いっきにたくさん飲むと、酒飲んで酔っ払ったみたいな状態になるから、あまり連続使用はおすすめしない。身体強化系のポーションは、だいたい何かしら副作用がある。グリーンドレイクというか、竜種の血液から作ったポーションは、だいたい酒酔いみたいな副作用がある。酔い覚ましのポーションがあれば効果も切れるけど副作用も治るよ」
「なるほど、そんなに濃くなければ大丈夫かな? じゃあ本題、ランドタートルの血液の効果について詳しく」
アベルの爽やかな笑顔が怖い。
「あーうん、あれは強壮効果と興奮効果が強すぎて、精力増強効果も出ちゃうみたいな感じかな? 媚薬効果とはまた違うね。オークの睾丸みたいなもんかな?」
オークの睾丸とは文字通りの物で、男性向けの精力増強効果のあるポーションの素材だ。部位的に産出数もあまり多くないわりに、需要が多く大変高価である。
オークの集落が発見されると、睾丸目的にオークの雄が乱獲されるという、男としてはなんとも言い難い出来事も起こる。
雄のオークと言えば、前世のえっちな創作物の中では女性を襲う役の定番級のキャラクターだったが、この世界ではそういう事もありはするが、どちらかと言えば雄のオークが、素材目的に人間に狩られる事のほうが多い印象だ。
冒険者の女性達は逞しいからね。お金絡むと人格変わる人もいるしね。見た目麗しい女性の上級冒険者達が、雄オークを狩ってるところを見ちゃうと、ちょっとヒュンってなるよ。
「少量でも効果高いからかなり昨夜は希釈したけど……うーん、他にもランドタートル結構食べたからかなぁ? 血液は強壮効果以外に興奮効果とか精力増強効果あって、他の部位も強壮効果と、おそらく美容効果つか軽い老化防止効果……うーん、そこまで仰々しくないかな? 食べたら健康で元気になって、お肌もツヤツヤするみたいな? 料理とか調合で他の素材と混ざって多少効果にぶれがあると思う」
収納からランドタートルの血液と肉を出して、アベルに差し出した。
「なるほど、俺の鑑定で見ても血液は強壮と精力増強と興奮だね。精力増強効果素材なんて高値で取引される物だから、今まで知られてなかったのが不思議なくらいだ。ランドタートルは遭遇率が低い上に、討伐がめんどくさいから害がなければ放置する魔物だし、食材として使おうと思った人が今まで表立っていなかっただろうし気づく人もいなかったか、気づいても表に出てこなかったのかもしれないね」
俺もおそらく前世の記憶がなければ、食べようとか血を飲んでみようとか思わなかったと思う。
そう思うと、オークの睾丸を初めて調合に使った人は、よくアレを使おうと思ったな、というか持って帰ろうと思ったな。ちょっと猟奇的なものを感じて背筋がひんやりした。
「血をポーションにしても副作用低めで精力増強効果出るなら、お悩み抱えた金持ちからかなり搾り取れそうだね」
アベルの笑顔が黒い。
「ポーションだと更に効果上がる可能性高いから、ちゃんとテストしないと売り物にするのは怖いかな?」
テストと書いて人体実験と読む。
興奮作用付とか自分ではあまり被検体をやりたくない類のポーションである。
「その辺はやるなら俺の実家に相談したら、丁度いい人材は確保できると思うよ。だからグランは、この血液でポーション作っておいて」
何それお貴族様怖すぎ!! 詳しくは聞かないどこ。被験者に心の中でそっと手を合わせておいた。
「それとさ、露店で試作とかって女の子に渡してた、爪に塗るポーションについても詳しく聞きたいな?」
しまった! その話もあったか! 俺が忘れてる事までよく覚えてるな!!
この後、めちゃくちゃ詰められた。
結局アベルに、五日市で取り扱ってた物についても洗いざらい吐かされ、気づけばお昼ご飯もまだなのに、午後のおやつの時間である。
散々俺を詰めたアベルは昼飯を掻きこんだ後、ポーション類を持ってどこかへ出かけて行った。たぶん王都の実家にでも行ったんだろう。
「悪いようにはしないよ? グランが生産者をエンジョイしたいなら、親友の俺が全力で応援するよ? グランの作る物はちゃんと正しく評価されて、その利益はちゃんとグランに還らないといけないからね?」
いい笑顔の時のアベルはだいたい何か企んでる。まぁ、俺に悪いようにはしないと信じてるけど、俺がエンジョイしたいのは生産者じゃなくてスローライフだ。
きっと知り合いのお貴族様に、俺の作った物を売り込んでくれてるのだろうが、それであまり忙しくなるのは困る。
昔からアベルの繋がりで、ちょこちょことお貴族様相手に小遣い稼ぎをさせて貰っていた。平民の俺が、貴族に苦手意識があるのをアベルも知っているので、ほとんどの場合がアベルを仲介にして、直接お貴族様に関わった事は少ない。
あまりあれやこれややる事が増えるとめんどくさいので、たまに小遣い稼ぎ程度でアベルに仲介してもらっている、今の状況くらいが丁度いいと思ってる。
アベルは出掛けたし、明日キルシェ達に振舞う料理の仕込みと、ランドタートルの素材の整理だ。それにボロボロにしてしまった防具の修理と、攻撃特化にした付与の書き換えもしないとなぁ。
意外とやる事あるな?
あぁ、せっかくだからスイーツも用意しとこうかな?
女性はだいたい甘い物好きだしな。ケーキがいいかな? タルトやパイでもいいな?
冷凍庫あるしアイスでもいいな? そういえばアベルは、あの顔でプリンが好きだったよな? せっかくだからお土産も用意しておきたいな?
というか料理のメニュー考えるの楽しいな!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます