第35話◆Aランクの魔導士

 物理、魔法共に高い耐性を持っているランドタートルの倒し方。


①耐性が高い甲羅部分や手足を避けて、比較的柔らかい頭を狙う。

 ただし、ランドタートルは身の危険を感じると、甲羅の中に引き籠り、その後直接頭を狙うのが不可能になる。


②お腹の部分の殻は甲羅よりは柔らかいので、甲羅の中に引っ込ませた後、ひっくり返してお腹を狙う。

 あの巨体をひっくり返すのに手間がかかる、そして腹の殻が柔らかいと言っても、あくまで「甲羅と比べて柔らかい」だけなので、実際は結構固い。というか、ひっくり返せるくらいの大きさなら、ごり押しで殴ってもそんなに苦戦しない。


③耐性を上回る攻撃でぶん殴る。

 ランドタートルの成分になっている鉱石より硬い素材の武器、耐性を上回る火力の魔法ならいけないこともない。が、ランドタートルの取り込んでいる鉱石の成分次第では全く歯が立たない。


④甲羅の中に爆薬を投げ込む。

 素材が傷つくのであまりやりたくない。似たような理由で、毒を使うのも素材に影響が出るので却下。


⑤水中に落して溺死。

 そんな深い場所に沈めると、後で引き上げて素材を回収するのが難しい。むしろどうやって運ぶんだって話。そもそも近くにランドタートルを沈められるほどの大きな水場がない、つかあんなデカイ物を水に沈めたら水が溢れて近隣の水害がヤバイ。ついでに言うとランドタートルは多分泳げる。亀だし。

 水魔法で作った水で顔の回りを覆って……も、上位の魔物なら魔力で解除してしまうからダメぽ。


 とまぁ倒し方は色々とあり、一長一短である。物理でぶん殴って倒せる硬さの個体なら楽なんだけどねぇ。

 とはいえ、稀少鉱石を取り込んだ個体を倒して素材が欲しいという欲望もある。


 色々作戦はあるのだが、どんなケースでもほぼ対応できる作戦をアベルに伝えたところ、眉をひそめられた。

 俺としては、そのやり方が一番確実だと思うので、アベルに頑張って貰うために、魔力回復のポーションを山ほど用意して渡しておいた。もちろん、ちゃんとアベルをアシストできるように自分の準備もしっかりしたよ!!

 色々な状況を想定して、あらゆる状況に対応出来るように、あれこれと仕込んでいたらすっかり遅くなってしまったが、明日は俺はサポートに回りながら、チートな友人にがんばってもらうだけだ。

 ちゃっちゃとランドタートル倒して、帰ってきたらスッポンフルコースだ!!






 翌朝、夜明け前に出発して明るくなる頃には、ランドタートルが目視できる場所まで来ていた。

 街道でランドタートルを警戒してる兵士に、調査依頼の許可証を見せてランドタートルが良く見える場所に陣取っている。


「おー、思ったより大きいねぇ。朝からカツサンドは重いけど美味しい」

「十メートルくらいありそうだなぁ。ここから見える限りだと黒っぽい灰色だなぁ。これから仕事するんだから朝はしっかり食べないと」

 まだ朝靄の残る中、俺とアベルは朝食のカツサンドを齧りながら、遠目にランドタートルを眺めていた。


 話に聞いていた通り、ランドタートルの周りは落下時に出来たと思われるクレーター状になっており、ランドタートルのいるあたりは特に地面が重量で沈み込んでいる。

 そしてそこから這い上がろうと、土魔法を使って暴れた痕跡も残っており、その周辺の地面は陥没したり盛り上がったりとガタガタになっている。それは、側を通る街道まで達しており、整備された街道が無残に破壊されているのが見えた。

 これ直すの大変そうだな。空からランドタートル降って来るとか、まさに天災。修繕費用を考えて、ちょっと領主様に同情した。


「黒っぽいって鉄とか?」

「いや、銅や鉄だとたぶん赤っぽい事の方が多いと思う、ミスリルだと紫っぽい青だろうし、アダマンタイトやマグネタイトが黒かな? オリハルコンは実物見たことないけど赤とか虹色とかって聞いたことある。ここまででかいとなると、それなりに高魔力の鉱石食ってると思う」

 遠目に見えるランドタートルを観察しながら、その材質について思いつく鉱石を上げていく。

 金属製の武器を扱うことが多いと、その素材や品質には気を使うので、その原料の鉱石にはおのずと詳しくなる。


「アダマンタイトは勘弁してほしいな。魔導士殺しすぎる」

 アベルですら眉を顰めるアダマンタイトは、魔力に対する抵抗が高く、魔力をほとんど通さない為、魔導士の天敵の金属である。

 アダマンタイトは高魔力の中に晒された金属系の鉱石が、長い年月をかけて魔力を吸収し変質して硬質化かつ高い魔力抵抗を持つようになった物である。

「あーもう、ランドタートルはめんどくさい亀だね!」

「だが、倒せば今夜の夕飯だ」


 さて、今回はあくまで"調査"という事で請け負ってるので、こちらから手を出すのを他人に見られるのはあまりよろしくない。あくまで調査中にランドタートルに敵認定されてしまい、仕方なく処理としたという体にしなければならない。


「鑑定が届く距離まで近づきたいな」

 アベルの鑑定は俺のと違い生物も鑑定できる。ランドタートルもアベルが鑑定すれば、材質が判明するはずだ。

「俺は"隠密"のスキルで近くまで行くけど、アベルはどうする?」

「ハイドの魔法でいけるよ」

 ハイドとは隠密スキルの魔法版のような物で、存在の希薄化と視覚誤認、認知不可といった効果の魔法だ。


ピエモン周辺は、南北を大きな森に挟まれたその隙間にある平原地帯で、東には千~二千メートル級の山々が連なっている。それを越えた先はオルタ辺境伯領である。西側には大規模な平原が広がり、その先は王都へと続いている。また南の森を越えた先には岩山地帯があり、その更に先には荒野が広がっている。

 アベルの予想では、その荒野か岩山辺りから運んで来られたのではないかという事だ。


 ランドタートルの主食は硬い岩石であり、その中でも魔力を含んだ物を好んで食べる。そしてピエモン周辺は平原なのでそういった岩石がほとんどない。そしてランドタートルは移動が遅く、食料を求めて遠くまで移動するという事がまずない。


 じゃあ食料どうしてるかって?


 その場で土魔法で地面ひっくり返して岩盤の層探してるみたいで、ランドタートルの周辺の地面が大きく掘り返されてる。

 そのせいでランドタートルに近づくにつれ足場も悪くなり、時々地面を掘り返す余波で土の塊や岩の破片が飛んできた。それらをひょいひょいと避けながらランドタートルに近づいていく。でかいから結構近づいたつもりでもまだ幾分か距離がある。


「ここまで近づけば"見える"かな」

 ランドタートルの土魔法によって盛り上がった地面の陰から、アベルと並んでランドタートルを観察する。

「近寄ってみると濃い青っぽい灰色と緑っぽい部分あるな……ウロボタイトか、それから変質した純度の低いアダマンタイトあたりかな? 緑っぽいとこはーロック鳥が運んで来たって事は地上にいたって事だから、透輝石系……ヒスイ輝石あたりか?」

 わりとこの近場にありそうな鉱石で、思い当たった物を上げてみただけなのだが。

「あのさ……俺の鑑定いらなくない?」

「ん? あってた?」

「うん、だいたいあってる。ヒスイが混ざってる輝石が主成分っぽいね。あとはグランの言った通り純度の低いアダマンタイト、と他諸々っぽい」

「高純度じゃないから魔法ある程度通るかな? ヒスイなら硬いと言ってもまだごり押しでいける範囲かな? ランクはA+でだいたいあってるってとこか?」

「ある程度通るも何も、高純度のアダマンタイトと比較してある程度通るって言われても、ほとんど魔法が効かないようなもんだよ」

 魔法が効きにくいランドタートルに、アベルが少しむくれている。

「とりあえず、調査っぽいことはしたな?」

「うん、ちゃんと鑑定もしたしね」

「それじゃあやりますか、作戦は昨日打ち合わせした通りで」

「了解。この距離なら、多少大きな魔法の準備しても、見張りの兵士には気づかれないかな。じゃあ、亀のヘイトコントロールは任せたよ」

「開幕一回くらいは広範囲に反撃来ると思うからその時は気合で避けてくれ」


 一応は調査という名目なので、こちらから仕掛けたのが見つかるとめんどくさいので、"隠密"スキルを使いランドタートルの頭が良く見えて、なおかつランドタートルの見張りをしている兵士からは死角になる位置へと移動する。

 ランドタートルが暴れても周りに被害が及ばないように、もとい見張りの兵士たちがすぐには駆けつけて来れないように、兵士たちがいる位置からはかなり離れた位置から攻撃を仕掛ける予定だ。



「ほいじゃ、やるかな」

 収納から大型の弓とそれに合わせた矢を取り出す。今日の為に昨夜急ぎで作った得物だ。


 以前から使っていたエンシェントトレントの材木で作った弓をミスリルと魔法鉄で補強し、弦はヒポグリフという頭は鷲で胴体は白馬というAランクの魔物の尻尾の毛を、メタルスライムゼリーでコーティングした物に取り換えた。そして、これでもかというくらいに、威力上昇系の付与をしておいた。


 強力な付与に耐えれるように魔石やら金属をあれこれ付けて付与を上乗せしたので、結構な重量になった上に弦もめちゃくちゃ硬くなったので完全に初手の一撃用である。

 戻ったら普段使い用の弓作りなおさないとな……。


 矢はシャフトの部分はエンシェントトレントの材木から切り出し、鏃はミスリル、矢羽にはロック鳥の羽を使った。こちらは、威力重視付与と共に、他人やランドタートルに攻撃を見られない為の認識阻害の付与も付けてある。


 昨夜のうちにやっつけで作った装備にしては頑張ったと思うんだ。問題は俺の弓スキルが低い事だが……当たればいいんだよ当たれば。

 矢じりには威力上昇の付与の他に、幻影効果が付与してあり、着弾すると暫くの間視界を阻害できるはずだ。ランドタートルは魔力に対する抵抗が高いので、効果時間は短いと思うが少しでもこちらに気付くまで時間が稼げれば問題ない。


 以前ランドタートルを倒した時は、遠距離から気づかれる前に弓で頭を撃ち抜いたのだが、鉄成分多めの小振りという、ランドタートルでも弱い方の個体だったので弓で制圧出来たが、今回は大きくてかなり硬さもありそうなので、初撃の弓で勝負を着けるのは無理だと思ってる。

 それでも、幾ばくかランドタートルの体力を削れて、俺の方に意識が向いてくれれば、その間にアベルの魔法で決めて貰う予定だ。

 俺の仕事は、アベルの魔法が確実に決まるようにランドタートルの足止めと、大きな魔法を使う為に膨大な量の魔力を操作しているアベルの存在を、ランドタートルに気付かせない事だ。


 矢をつがえて、じっくりとランドタートルの頭に狙いを定め、身体強化を最大まで発動した。弓と矢それぞれに魔力を通しながら、ゆっくりと弦を引いていく。

 狙うのはランドタートルの目。最低でも頭部に当たればいい。できれば目に当てて片目を潰しておきたい。それに皮膚より目の方が柔らかいので少しでもダメージを稼いでおきたい。

 キリキリと弓を引き絞り、最大まで引いた所で矢を離した。


「いけっ!!」


 視覚阻害の付与がされた矢が、俺の手を離れ風属性の付与効果で加速され、ランドタートルの左目に突き刺さった。

「よっしゃ」

 やはり一撃で仕留めるのは無理だったが、上手く目に矢が刺さり、ランドタートルが頭を振るいながら甲羅の中に頭、そして手足もひっこめたのが見えたので、最初の攻撃は予定通りで成功だ。


 俺はすぐに弓を収納にしまい、次の攻撃の為にランドタートルとの距離を詰めた。まだ隠密のスキルは発動させたままだ。

 ランドタートルは、矢に付与された幻影効果のせいですぐには視界が戻らないはずなので、直後に反撃してくるとしたら、広範囲攻撃だ。

 土魔法の広範囲攻撃で予想されるのが地震系だ。

 地震攻撃に備えて一時的に少しだけ浮き上がれるように、ブーツに"浮遊"の効果を付与してある。ブーツに魔力を通す事によって浮遊効果が発動するが、この効果はとんでもなく魔力を食うのであまり長時間使えない。

 そろそろ地震攻撃が来るかと、浮遊効果を発動させて浮き上がるが全く来ない。


 来ると予想していた反撃が来ないので拍子抜けすると同時に、嫌な予感がした。

 地震攻撃を回避した後は、距離を詰めてランドタートルの動きを封じる攻撃に移るつもりだったのが、何となく距離を取りたい気がして一度距離を取る事にした。

 こういう時の勘には従った方がいいと、冒険者としての経験で知っている。


 ランドタートルから少し距離を取った所で、キィンという耳鳴りがして反射的に身体強化のポーションを取り出して飲み干し、更にランドタートルから高速で距離を取った。

 その直後、体にズシンっと重い物が載るような感覚がして体が重くなり、手に持っていたポーションの空き瓶も鉛のような重さになったので、その場で投げ捨てた。


 重力操作の魔法か!?


 重力操作の魔法は上位の土属性の魔法だ。ロック鳥に運ばれて来て、上空から落とされてもこの巨体が無事だったのはそれでか!

 魔法に対する抵抗力はそこそこ高い方なのと、身体強化で何とか耐えてはいるが、装備が重くなり動きが鈍くなるし、体内の血液にかかる重力も増えているせいで頭痛もしている。


「くそ! 重力操作の魔法とかSランク相当じゃねーか!」


 重力操作の魔法で重力を大きくされれば、重装備になるほど被害が大きくなる。

 全身を金属の鎧で装備を固めてるような騎士や兵士、半端にしか鍛えてない者だと簡単に重力魔法の餌食になってしまう。ピエモンにいた兵士と合同にしなくて正解だった。

 俺は軽装備というほど軽装備ではないが、ある程度の軽さに拘って竜皮と金属装備半々なので、重力魔法の影響はそこまで致命的ではなかった。 


 重力魔法に耐えつつ体勢を立て直して、仕切りなおそうとしたところで、頭と手足を甲羅にしまった状態のランドタートルがガタガタと揺れ始めた。


 まずい!!


 ランドタートルの背中の甲羅には、火山の噴火口のような形をした砲台のようなものが何個もついており、まるで火山が噴火するようにその砲台から岩石を噴き出して周囲に降らせてくる。この甲羅に閉じ籠ってガタガタと揺れるのはその噴火行動の前兆だ。

 重力魔法の効果はまだ続いており、この状況で岩石を降らされて当たると致命的すぎる。


 ドーン!ドーン!と音がしてランドタートルの甲羅からいくつもの岩石が噴き出した。それがドスンドスンと音を立てて地面に降り注ぐ。


「うおおおおお…っ!!」


 重力魔法の効果の中ドスドスと降って来る岩石を避けながら、強引にランドタートルとの距離を詰める。

 先ほど使った身体強化のポーションの効果が約五分。それが切れるまでに自分の仕事を完了してアベルに引き継ぎたい。

 それに重力操作の魔法は効果が大きいほど魔力を馬鹿喰いするので、そろそろその効果が切れてもおかしくない。ランドタートルが岩石を吐き出し終って息切れしているところで一発入れてやりたい。


 降って来る岩石を、重力魔法の影響で鈍くなった動きで何とかかわしつつ、隠密スキルで気配を消してランドタートルに近づいていく。甲羅の中に頭をひっこめてる以上、目視はされないはずなので、気配さえ消しておけば近づくことは出来る。


 ランドタートルが降らせた岩石のせいで、ボコボコになった地面の上をひょいひょいと駆けて、ランドタートルに手が届く距離まで近づいた頃には、重量魔法の効果も切れて装備と体の重さも元に戻り、ランドタートルの噴火攻撃も打ち止めになっていた。


 さて、これで失敗したらアベルにメッチャ怒られそう、……っせーの!!


 ランドタートルの甲羅の縁に手をかけ、身体強化のスキル最大で持ち上げようと力を込めた。

 俺の役目は、ランドタートルにアベルの存在を気づかれないようにしつつ、ランドタートルを無力化する事。


 やっぱり、びくともしないな。しかし、背に腹は代えられないからアレ使うしかないか。


 装備の付与も全て身体強化なのだがランドタートルはびくともしない。自力で持ちあげる事を諦め収納から赤黒い色をしたポーションを取り出した。


 先日、アベルが狩って来たグリーンドレイクの血液から作った、身体強化効果のあるポーションだ。ポーションというかほぼグリーンドレイクの血液原液に近い。

 竜種の血は秘薬の素と呼ばれ、高い効果のポーションの素となる。グリーンドレイクの血液には強い回復効果と強い身体強化の効果がある。しかし、人間よりはるかに強度のある体の竜種の血液を濃いまま摂取すると、それなりのリバウンドもあるのでかなり危険である。


 グリーンドレイクの血液から作った赤黒いポーションを一気に飲み干すと、酒精の強い酒を飲んだ時のような感覚に襲われる。喉と胃が焼けるような熱さと、激しい眩暈と胸やけ――酒酔いならぬポーション酔いである。そしてそれと同時に体中の血液が沸騰するような感覚が込み上げてきた。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 さきほどまでびくともしなかったランドタートルの体がわずかに持ち上がり、腹の下に隙間が出来た。

 それを片手でなんとか支えつつ、反対の手で収納から爆弾系のポーションを数本取り出してランドタートルの腹の下に投げ込み、そのままランドタートルの体から手を離しその場を素早く離れた。


 背後で大きな爆発音がして、小石交じりの爆風に背中を押される。元々防具に付けていた防御系の付与を全て身体強化系に書き換えているので地味に痛い。

 爆風が収まって、ランドタートルの方を振り返ると、砂煙の中から爆弾ポーションによって大きくえぐれた地面に、横向きに嵌るような形で埋まっているランドタートルが見えた。結構な火力の爆弾なので素材に傷がつきそうだったが、背に腹は代えられなかった。


「あちゃー、あれでも綺麗にひっくり返らなかったか……でもあれならしばらく何も出来んだろ。あとはアベルに……うぐぅっ」

 グリーンドレイクの血液から作ったポーションで胸やけがしていたところに、全力ダッシュしたので胃がひっくり返るような吐き気がして、嘔吐してしまった。完全に酔っ払いのソレである。

 その直後、足元に魔法陣が出て一瞬で景色が切り替わった。


「開幕一回くらい広範囲攻撃来るかもって、二回来たよね?」

「一回も二回も誤差だよ」

 頭の上からアベルの声が聞こえたので、声が聞こえた方を見上げると頭上にローブをはためかせたアベルが浮いていた。

「ランドタートル動けなくしてくれたみたいだから、こっちも準備出来たし後はやっとくよ」

「任せた。保険で持って来たグリーンドレイクの身体強化ポーション飲んだらくっそ気持ち悪い」

 そう言って、収納から酔い覚ましのポーションを取り出して飲み干し、地面に座り込んだ。


 見上げた視線の先で、アベルが一度腕を振るうと明らかに高密度の魔力が動いたのを感じた。その魔力の先には地面に嵌ったランドタートルがいた。

 ランドタートルの周りを包囲するように立方体の薄い光の壁ができあがり、もう一度アベルが腕を振るうとぶわりと空気が振動した。

 上空で銀色の髪と漆黒のローブを風になびかせて、恐ろしい量の魔力を操りながら、うっすら口の端を上げて微笑んでるその整った横顔は、思わず魔王様と呼びたくなる。


「あー…持つべきものはチー友だなぁ」


 おそらくもう間もなく終焉を迎えると思われる、アベルの一方的なランドタートルへの攻撃を見ながら、ポロリと呟いた。

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