第31話◆色々あったけど最後はトロットロッで終わる一日

「さっきの人は~?」

「商業ギルドの方で、いつもお世話になってる方ですよ」

「ねーちゃん目的のムッツリスケベ系ですけどね」


 キルシェは何故かロベルトって人に、刺々しい。

 でも、アリシアみたいな巨乳美人に、釣られない男の方が珍しいと思うんだ。

 そんなキルシェの辛辣な言葉に、俺もアリシアの胸を見ないように視線が泳いだ。


「ふ~ん」

 自分で話を振っといて、興味薄そうな反応するあたり、すごくアベル。

 そして、俺に生暖かい眼差しを向けた。


 なんだよ、巨乳好きで悪いのかよ!

 

「グランってさ、ほんとグランだよね~?」

 は?

「なんだよいきなり!? 意味わかんねーぞ」

「いや、何でもないよ」


 そんな生暖かい目で見ておいて、何でもないとか言われても気になるだろう。




「はいはい、アベル、お店の開店したら、店の真ん中にいると邪魔になるから、ちょっとすみっこでおとなしくしててくれ」

「え? ひどくない? グランのお願い聞いたのに」

「う、うん。それは感謝してるから、ちゃんとお礼するよ」

 不満げなアベルを店のすみっこに追いやって、用意して来たポーションをマジックバッグから出してカウンターに並べていく。

 パッセロさんの件で開店が遅れてしまったので、店内にはまだお客さんはいないが、店が忙しくなる前に本来の目的のポーションを買い取ってもらわなければいけない。


「これがいつものヒーリングポーションとリフレッシュポーションと解毒のポーションね。それでこっちが今回新しく作った、酔い覚ましのポーションで、これが筋肉疲労回復の軟膏、こっちは新作のリフレッシュポーションで、通常のリフレッシュポーションの疲労回復効果に加えて、眠気醒ましの効果も付いてる」

「新作ですかー? グランさんのポーション効果高いって好評なんですよー」


 ぽよよんっと、たわわなお胸を揺らしながらアリシアが納品したポーションを鑑定していく。

 やっぱ、この胸に目が行くのは男として仕方ないんだよなぁ……俺は健全な十八歳男子だし、正常な反応だ。


「あとコレは試作品なんだが、良かったら使ってみてくれないか? 手に塗る軟膏で、カサつきとかヒビワレみたいな手荒れに効くはずだ」

 前世の記憶を頼りに作った、手荒れ対策用の軟膏こと"ハンドクリーム"の試作品をアリシアとキルシェに渡した。

 先日作った、蒸留器で抽出した精油を使って作った物だ。

「ありがとうございます。軟膏ですか? 薬なのにいい香りですねーこれはラヴァンの花の香りですか?」

「さすがだなー、正解。ラヴァンから抽出した精油で作ってるから、リラックス効果もあるはずだ」


 ラヴァンとは、春から初夏にかけて穂のような紫色の花を付ける、香りの強く揮発性の油を多く含む薬草だ。

 炎症を抑える効果の他に、香りはヒトに対してはリラックス効果が高いが、虫が嫌う香りでもあり忌避系のポーションの材料にもなり、多様な使い方のできる素材である。

 繁殖力も強く、森の浅い場所で手軽に手に入るわりに使い勝手の良いので、お気に入りの薬草だ。


「それで、こっちがラヴァンから作った蒸留水なんだけど、お肌の手入れにどうかなって?」

「肌の手入れ!?」

 やっぱり、女性はスキンケアの話になると顔色が変わる。

 アリシアがカウンターから乗り出して、ラヴァンの芳香蒸留水の瓶をガン見している。

「女性はこういうの好きかなって作ってみたんだけど、どうかな? 肌の保湿効果とか引き締め効果があるから、顔洗った後とかに使うといいかなー。個人差で合う合わないあるから、いきなり顔に使わないで見えないとこで試してからがいいかな?」

「ああああありがとうございます!!! 早速今日から試してみますね!!!」

 よっしゃ! 好感触!!


「グラン何それ? 俺そんなの聞いてないけど!?」

 会話に突然アベルが割り込んできた。

 聞いてないって言うか、言ってないし。

「俺もそれ欲しいから、俺にもわけてよ」

「え? 男なのに肌の手入れとか気にしてるの?」

「変わった物あると試してみたくなるじゃん? あとその手に塗る軟膏もほしい」

「はいはい、帰ったらね」

「ホント、グランはやっぱりグランなんだよなぁ」

 なんか、アベルがブツブツいってるけど何なんだよもう。


「あ、そういえばグランさん、頼まれてた農具届いてますよ!」

「おっ、それはありがたい」

「倉庫に置いてあるので持って来ますね」

 畑を作ろうと思い、先日頼んでいた農具が届いたようで、キルシェが店の裏にある倉庫へ向かおうとした。

「結構重いだろ? 俺が取りに行くよ」

「大丈夫ですよーグランさんに貰った指輪のおかげで、重い荷物も楽に運べて力仕事が楽しいくらいです」

 引き留めた俺にそう言い残して、キルシェはパタパタを足音を立てて倉庫へと走って行った。

 指輪が役に立ってるようで何よりだが、やりすぎてゴリマッチョ系女子にならないか不安だ。付与の身体強化で重い物持ってると言っても、体を使えばそれだけ鍛えられてしまう。


「キルシェが奥に行ってる間に、ポーションの代金お渡ししますね?」

 アリシアが先日渡したソロバンをパチパチと弾いて、ポーションの代金を計算する。すっかり使い慣れたようで、その指先に迷いはない。

「何それ? 初めて見る道具だけど、計算する道具? こっちの方はこんな道具使ってるの?」

 アベルが俺の後ろから、アリシアがソロバンを使う様子をまじまじと覗き込んだ。


 あ、まずい。



「異国の数字の計算をする為の道具だそうです。グランさんが作ってくれたんですよ、とても便利で帳簿つける作業がとても速くなりました」


 あ~、バレちゃった。

 別にバレるのはいいけど、また根掘り葉掘り聞かれるのめんどくさいなって。


「へぇ、グランがねぇ……ふーん」

「や、これは東方の商人が売ってるの見つけて、それを真似て作っただけで、俺が考えたわけじゃないよ」


 アベルが何やら、もの言いたげな視線を向けたので、事情を話す。

 使い方は前世の記憶だが、物自体は先日の五日市で見つけてそれで思い出して作った物だから、全くもって嘘はついてない。


「グラン、俺にもコレ作って? 使い方も教えて」

「え? 商人じゃないからいらないだろ、てかお前こんなの使わなくても計算はやそうだけど?」

「目新しい物見ると欲しくなるの! それに計算が楽になるなら役人にも需要あるからね」

 今日はアベルには借りあるので、頭が上がらない。




 ポーションの代金と農具を受け取った後、帰り際に、五日市で売るために作っていた防毒効果を付与してある、ブレスレットをアリシアに渡した。

 あまり強い効果ではないが、グラスグラスくらいの毒なら無効化してくれるはずだ。

「今度ちゃんとしたの作って来るからとりあえず、これパッセロさんに着けてもらってて。グラスグラスの毒くらいなら無効化できるから」

「ありがとうございます。何から何までお世話になって、なんとお礼を言っていいのか。グランさん、アベルさん、本当にありがとうございました」

 アリシアとキルシェに深々と頭を下げられた。

「気にしなくていいよ、その分お店の軒先貸してもらえるなら。これはその軒先の家賃ってことで」

「はい、グランさんの商品なら喜んで取り扱わせてもらいますよ」



 一悶着あったけど、予定していた用事を終えてパッセロ商会を後にした。

 その後はアベルを引き連れたまま、ピエモンの商店街で買い出し。


 農具も手に入れたし、念願の畑でスローライフだ!!


 商店街で、野菜やら薬草の種を購入してアベルタクシーで帰宅。

 種見てたら色々欲しくなって、つい買いすぎてしまった気がするけど、使わない分は収納の中にしまっとこうね。

 大丈夫、忘れずにちゃんと植えるから。今日植えれなくても、後日ちゃんと植えるから。今年植えれなくても来年もあるから。







「畑作るの? 土魔法で耕しちゃう?」

「んや、自力でやってみる。冒険者になる前は実家の農業手伝うことも多かったし、何となくはわかるからいけると思う」


 ピエモンから戻って昼食を取りながら、農具を受け取ったので午後から畑を作るつもりだとアベルに話すと、土魔法で手伝ってくれると言われたが、せっかくなので自力でやってみる事にした。


 土魔法で耕してもらえるとはやいし楽だけど、農業系のスキル伸ばしたいなって。

 別に魔法で何でも出来ちゃうのが悔しいわけではない!!!!! 魔法使えなくても悔しくなんかないもんね!!!!!



 お手伝いの申し出を辞退すると「じゃあ、ちょっと出かけて来るわ」とアベルは転移魔法でどこかに飛んで行ったので、午後からは予定通り畑を作り始めた。


 元は農場だったところを買い取ったので敷地は広く、放置されて荒れていたとはいえ農地には向いている。

 ここに越して来てからぼちぼちと、敷地内の草を毟ったり、森から浸食してきていた木を撤去してたりはしていたので、耕していけば畑として形にはなっていくと予想している。


 全部一日でやる必要はないから、できる範囲からやるつもりだ。スローライフらしく自分のペースでやるんだよおおお!!


 農業系のスキルは、子供の頃に手伝いで畑仕事をすることもあったので、低いながら"耕作"のスキルは持っている。

 スローライフと言えば農業!! 畑でお野菜自給自足!! 耕作スキルもがっつり伸ばしたい!!


 麦わら帽子被って、首にタオル巻いて、軍手して、汗流しながら鍬で畑耕すのが、憧れの俺のスローライフ像だ。

 そういえば麦わら帽子持ってないな? どっかで藁あったら作れるのかな? 作った事ないけど。

 あと今世のタオルはあんま質よくないんだよね。もっとこうふわふわで水しっかり吸うタオル欲しいな。

 よく考えたら、皮手袋はよく見るけど、軍手的な物は見た事ないな? 皮手袋は頑丈だけど、蒸れるし固いし、ちょっと農作業するのは向いてないんだよなぁ。


 いや、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて、畑だ畑! 俺は畑を耕すんだ!


 耕作のスキルは低いが身体強化のスキルはそこそこ高い。

 畑を耕すという作業なら、耕作スキルでなくても身体強化のスキルでごり押しでいい。疲れたら疲労回復ポーション使えばいいな? というか、力任せに地面耕すのわりと楽しいな?


 耕すだけなら力任せでいけたけど、畝作るの意外と難しいな!? なんかちょっと歪な形になったけど、何となくそれっぽくできればいいかな?

 適当に作ったから、ちょっと畝の幅が狭かったかもしれないな? 隙間ももうちょっと広くした方がよかった気もしてきた。

 まぁ、細かい事は気にしない。植えるのは初心者向けのハーブだし、たぶん大丈夫。


 畑を耕して畝を作って、土に肥料を混ぜて、青菜系の野菜や薬草としても使えるハーブ系の植物の種をバラバラと撒いた。

 ちゃんと芽が出るかわかんないから、ちょっと多めに蒔いて、多かったらあとで間引けばいいよね?


 ピエモンでも買える野菜は後回しで、耕作初心者でも育てやすくて、成長の早い青菜系から育て始めることにした。とりあえず自分のうちで消費する分だけ、練習がてらに色々と作ってみるつもりだ。


 ちなみに肥料はスライムゼリーを乾燥させた粉だ。

 スライムは餌によって性質が変わるので、人為的に与える餌を調整すれば任意の性質のスライムを育てる事ができる。

 汚水処理用に浄化槽で飼っていたスライムが、分裂して増えて来たので間引きして回収したスライムゼリーを、乾燥させて肥料にしたものだ。

 ゴミ処理にも使えて肥料にもなるし、与える餌によっては食材にもなるし、魔力付与やポーションの素材にもなるので、スライムはとても便利な生物だ。


 フィーリングで作った畝に、何も考えずにバラバラと蒔いた種が、予想以上に大きく育ってまるで茂みのようになってしまい、収穫に苦労したうえに、しばらく食卓が野菜だらけになり、野菜嫌いのアベルからめちゃくちゃ苦情を言われるのは、もうちょっと先の話。

 育てやすいとは聞いていたけど、この時点で買って来たハーブが、あんなに大きく育つなんて思ってなかったんだよ!!







「ステータス・オープン」


名前:グラン

性別:男

年齢:18

職業:勇者

Lv:104

HP:943/943

MP:15550/15550

ST:834/834

攻撃:1148

防御:836

魔力:12460

魔力抵抗:2183

機動力:628

器用さ:18740

運:216

【ギフト/スキル】

▼器用貧乏

刀剣96/槍45/体術68/弓53/投擲39/盾68/身体強化87/隠密35/魔術37

▼クリエイトロード

採取69/耕作26/料理64/薬調合76/鍛冶38/細工63/木工36/裁縫35/調教13

分解65/合成57付与41/強化30/美術15/魔道具作成47

▼エクスプローラー

検索(MAX)/解体77/探索83/察知92/鑑定18/収納95/取引30/交渉43

▼転生開花

【称号】

オールラウンダー



 畑弄りが一段落したのでステータスを見てみると、目論見通り耕作スキルががっつり伸びてた。どさくさで身体強化もちょっと伸びてるのも嬉しい。


 "器用貧乏"の恩恵なのかどのスキルも30くらいまではサクサクと成長する。

 それ以降のスキルの成長はだんだん緩やかになり、60くらいからとても渋くなってくる。80超えてからは伸びたらラッキーくらいの感じでしか成長していない。ついでに言うとレベルも最近さっぱり上がってない。まぁ、あんまり強い魔物と戦うこともないから仕方ないけど。



 この後は夕飯の支度をして、明日の五日市に備えて商品の最終チェックをして、今日は早めに寝るとしよう。





 ちなみにこの日の夕食は、先日の黒くてテカテカしたでっかい魚を、美味しくいただいた。

 黒くてくそデカイ魚だったけど、身は脂の乗ったトロットロの赤身だった。

 唐揚げにしたり、フライにしたり、炙ってみたり。

 目の周りの肉とか最高だよね!!

 でも一番美味いのはやっぱ刺身だよなぁああああ!!!!

 って前世のノリで生食したら、アベルどころかシャモアにまで、ドン引きした顔をされたとかなんとか。

 

 黒くてでかくてトロットロッの魚の料理頑張ったので、昼間のツケはたぶん全部返したと思うんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る