第29話◆閑話:捨てられない人

「インベントリ・リスト」


 言葉と共に、目の前に俺にしか見えない画面が現れ、収納スキルで収められてる物の一覧が表示された。

 これは、俺の持ってるスキルの"検索"というスキルで、収納スキルの中身の一覧を可視化出来るスキルだ。

 他の収納持ちの人が収納スキルで収納した物を、どうやって管理してるかわからないけど、たぶんこういう風に一覧として可視化出来るのは、前世の記憶がある俺だからだと思ってる。


 この検索スキルで表示される、収納空間の中身の一覧画面は、前世の記憶にある"ビデオゲーム"の画面を思い出させる。

 魔法やスキルの多くは、イメージや知識でその幅が広がるものが多い。この収納空間の中身を見れる検索スキルや、自分の能力を数値化して見れる"ステータス閲覧"スキルは、前世の記憶にある"ゲーム"の画面に酷似している。

 それを考えると、前世の知識とイメージに紐づいたスキルではないかと思っている。

 まぁ、便利なのであまり深く考えない、あってラッキーだったなって思いながら使ってる。


 いや、だってさ、収納スキルと魔力が成長して、それに比例してどんどん収納空間の容量が増えるから、めぼしい物を見つけると、とりあえず収納スキルで回収しとけばいいやって、脳死状態で突っ込むじゃん? そうすると当たり前だけど、中身が増えて混沌としてきて管理に困るんだよね。


 俺は検索スキルで一覧化出来るからまだ何が入ってるかはわかるけど、ズラーーーーーッと表示される内容物のリストを、目で追うのはめんどくさいなって思う。

 いや、まぁ、このズラーーーーーッと並んでるのも、なんかちょっとワクワクするので嫌いじゃないんだけどね。

 さすがに、増えすぎるとめんどくささの方が強くなってくるので、何事もほどほどが大事。


 取り出したい物は、取り出したいって思えば出て来るから、中身の一覧が無くても困りはしないけど、もしこの検索スキルがなかったら、入れてそのまま忘れてる物とか絶対ありそうで、もっと混沌としてたんだろうな。

 てか他の収納スキル持ちの人達どうしてるんだろう?

 アベルは几帳面そうだし、記憶力もよさそうだから、中身ちゃんと覚えて整理してそうだな。



 それに引き換え、俺の収納の中身と言ったら。



「ブラックバッファローのロース、バラ、ハラミ、サーロイン、ヒレ、モモ、スネ、スジ、タン、ネック、カルビ、ランプ、イチボ、ミスジ、テールに……えーと、ツラミ、プップギ、ハツにレバー、ミノセンマイハチノスシマチョウテッポウマルチョウギアラ……うおおおおおおおおお!!! 牛肉の部位細かく分かれすぎいいいい!!!!!!!」


 まぁ、部位ごとに分けて保存したの俺自身なんだけどね? 同じ肉でも、部位で食感も違うし使い道も違うから、仕方ないよね。うん、これは必要な分別だ。


「ええと、グレートボアの肉は……ロースにバラ、モモ、ヒレ、カルビ、ウデ、肩ロース、トロ、白肉、タン、足、耳、テール、カシラ、ハツガツレバーテッポウコブクロピートロ……こっちも部位多すぎ問題」

 いや、分けたの俺だけどさ、焼肉食べたくなったな。

 今世はこんだけ肉があるから、他人の金じゃなくても気兼ねなく肉食食べ放題。




 俺は今、庭先の空いた場所で収納の中身を整理している。しかし、肉の整理を始めてすぐに現実逃避をしたくなってきた。

 後々料理に使いやすいように、解体する時に部位ごとに細かく切り分けて収納したので、"インベントリ・リスト"で一覧を出すとそれが全部ずらりと表示される。

 ブラックバッファローに至っては、アベルが群れを丸ごと狩って来たのを押し付けられたので、量もすごい。同時に押し付けられたバカデカイロック鳥の肉も大量に残ってるし、やっぱ、焼肉パーティするしかないな?


 日ごろから無計画に、拾った物を収納スキルで回収して貯め込んでるので、溢れる前に整理をしようと始めたのだが、肉の量を見たらそれだけでお腹いっぱいになってきた。

 貯めるのは好きなんだけどね? 整理するのはめんどくさいじゃん? まぁ、肉は料理で使うし、収納の中なら腐らないし、このままでいっかぁー。


 次行ってみよーーーー!!!


「ヤーロ草、マロ草、ヨモ草、乳香、ナズ草、ベニバナセンブリ、ミルクアザミ、リュウノアカネ、ドラゴンフロウ、ボタ、ポポ、ニュン、ブラッドナッツ、ラヴァン……薬草系は調合に使うから、いくらあってもいいよな? どうせ収納空間の中なら腐らないし、薬草なら肉ほど容量も大きくないし……さあ、次だ次!」

 薬草系はパッセロ商店に買い取ってもらうポーションで大量消費する予定だし、いくらあっても問題ない。


「鉄に鋼に銀に銅、ブロンズ、金、白銀、コバルト、ギブサイト、アダマンタイト、ウロボタイト、ミスリル、ギブ鉱……鉱石は絶対使うし腐らないし、いくらあっても足りないくらいだし、宝石と魔石はたくさんあるに越した事はないな」

 鉱石系は集めるのも手間かかるし、宝石と魔石は言わずともだし、あとは材木系は場所取るけどこれも使うしなぁ。魔物素材系もいつか使いそうだし、捨てる物とかないな。


「後は、拾って来た武器とか防具とか装飾品の類かー。これは、レアな特殊効果な物以外、分解して素材に戻しとけばいいかー……、あーいや武器はいざという時の投擲用に使えるから残しとくか」






 ………片付かない。







「ただいまー、家の中にいないと思ったら、こんなとこで何やってるの? って何これ!?!? ゴミの山!?!?」

 気づけば収納の整理を始めてかなりの時間が過ぎていたようで、陽はかなり西に傾いており、いつもより少し早く帰宅したアベルが、俺がいる庭先までやってきた。


 そこに積み上がるのは、整理するつもりで収納の中から取り出した不要な装備品や、半端に余ってる素材の数々。

 分解スキルでコンパクトに分解して、後々加工するのに適した状態にして保存しとこうと思い、とりあえず収納の中のいらなさそうな物を引っ張り出してみたけど、思ったより量が多くて整理するのに飽きたところだった。


「ゴミじゃないよ!! バラせば資源だよ!!」

「いや、どう見てもこの錆びた鉄鎧とかゴミでしょ? というかグランって金属製のプレートアーマーとか使わないでしょ? むしろなんでそんな物持ってるの?」

「ダンジョンで落ちてたの持って帰ってきたやつかな? まぁ使わないけど、錆取って溶かしてインゴットにしとけば、後々使うかなって?」

「どうせそれ溶かしてもそんな量ならなくない? その手間かけてる間に、素材の需要高い魔物狩って素材集めて、それ売った金で鉄のインゴット買った方がよくない?」

「え?」

「え?」


「魔物の素材は魔物の素材で売らずに残しておくし?」

「え?」

「え?」


「それ使ってるの?」

「いつか使うかなって? いや、あればそのうち使うと思う。うん、たぶん時々使ってる?」


「……」

「……」


「とりあえずこのガラクタ、スライムの餌にしたらすぐに片付くんじゃないかな?」

 アベルの笑顔がいつにも増してドス黒い。

「やめろ! ガラクタじゃなくてちゃんと処理すれば資源なんだ! それにスライムの餌やりは計画的にだな……」

「あー! もー! グラン昔っからそうだよね? 収納スキルの容量に余裕あるからって、無計画に放り込みすぎ!! むしろ収納スキルに余裕あるせいだよね!? いつか必要な時に、容量足りなくなって困るかもしれないから、無駄な物は捨てろって言ってるでしょ!」

 やばい、アベルがキレかけてる。ガチギレだけは回避しないと、長時間のお説教コースが待っている。


「だから分解してコンパクトに……」

 それに素材にして貯めるの楽しいし。

「もーーーーー! だったら素材別に分けるの手伝うから、それをさっさと分解して片づけよ」

「はーい」




 結局、アベルに手伝って貰って片付いたのは、辺りが薄暗くなり始めた頃だった。

「うん、だいぶすっきりした! 要らない金属製品はインゴットにして来たし、助かったよ、ありがとう」

「お礼の気持ちはご飯であらわして?」


 分解スキルは、少ないとは言え魔力を消費するので、量が量でさすがに疲れた。

 必要ない物は分別して、スライムの餌にする為に収納に戻して、お片付け終わり。


「その、スライムの餌用のゴミ忘れないで処理するんだよ? てか、結構な量あるから処理しきれないなら、町のスクラップ屋に持ち込んだらいいんじゃないかな?」

「スクラップ屋に持ち込むなら自分で分解して……」

「そうやって、どんどん要らない物溜まってるんでしょ? わかる?」

「まったくその通りで反論できないな」

 スクラップ屋に持ち込まれた物は分別して、素材としてリサイクルされるから、それなら自分で~となってしまう。なんというか貧乏性?ってやつ? しかも、スクラップ屋持って行くとお金取られるし?


「そこは威張るとこじゃないからね? もー、おなかすいた! ご飯にしよご飯!」

「はい」

「あ、そうそう、お土産あるんだった」

「ん?」


 パチン


「おい、待て」


 アベルが指を鳴らすと同時に視界が陰った。反射的に身体強化をして落ちて来た物を受け止める。

「あのさー、俺の今、収納整理したばっかりじゃん? てゆーか、アベルの持って来た食材もたいがい容量食ってるよな?」


 アベルが空間魔法で取り出して来たのは、五メートルを超える巨大で黒光りする魚の魔物の死体だった。

 反射的に身体強化で受け止めたけど、あまりの重さに、即座に自分の収納の中に放り込んだ。というか、捕れたてをそのまま空間魔法で収納したようで、とても海の香りがする。つまり生臭い。磯臭い。そして濡れている。

「前言ってた、食材ダンジョンの海の階層で捕れたやつだよ。グラン魚好きでしょ?」

「まぁ好きだけど、これはデカイから解体しないといけないから、今日は食べれないよ」

「うん、わかってるよ。明日の夕飯ね?」

「あーはいはい」

「海の階層の攻略しばらくかかりそうだから、また魚捕って来るよ。今度はもっとでっかいのいっぱい持って来るね?」

「いや、だから、折角収納整理したばっかりだし、てか無駄に貯め込むなって言ったのアベルじゃん?」

「食材は必要な物だからいーの!! それにどうせグランの収納の容量規格外だし?」

「さっきと言ってることちげぇ……」

「そんな事よりご飯ご飯ー。はやくご飯作らないとそろそろシカ野郎も来る頃だろ?」

「あー、はいはい。今日はもういい時間だから簡単なもんな?」

「美味しければなんでもいいよ」


 なんかちょっと腑に落ちないと思いながら、アベルに引きずられながら母屋へと帰る。

 まぁ、まだ収納には余裕あるし問題ないんだけど、アベルの持ち込む食材の量を考えると、収納の容量を増やす事――つまり収納のスキルアップと魔力の底上げをした方がいいのかなぁと思った。


 うん、容量多かったら貯め込める量も増えるしな? 多いに越した事ないよね? 大は小を兼ねるとはよく言ったもんだ。

 やっぱリサイクルできそうな物は捨てるのは勿体ないし? そうだ、スキルと魔力を上げて容量を増やしまくろう!!





 というわけで、夜はお外でバーベキューにしたのだが。


「肉焼くだけなら普通の野営とかわらないじゃん?」


 めちゃめちゃ不評だった。


 やっぱ、焼肉のタレがないとダメなのか!?

 それとも焼肉にはカクテキか? ビビンバか? ユッケも欲しいな?


 くそ! 焼肉のタレを作ってリベンジしてやる!

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