第11話◆倉庫大改装計画
パッセロ商店にポーションを納品して戻って来たら、まだ昼前だった。ちょっと早いけど先に昼飯食って、昨夜散々考えた、倉庫大改装計画を実行しようかな。
ピエモンの町で買って来たサンドイッチを取り出してかじりながら、昨夜思いつくままに紙に書き出した、改造計画と設計図を確認しながら細かいとこを練り直し、収納空間にある素材と照らし合わせて準備を始めた。
母屋に隣接している倉庫は、石造りの屋根裏付きの二階建てで地下室もあり、高さにも広さにもゆとりがある。地下室はちょっと修理だけして常温の倉庫、一階を作業場に、二階を冷蔵の倉庫に、屋根裏を冷凍倉庫に、という予定だ。
うん、結構な数の魔石と素材と手間がかかりそうだな。
検索スキルで収納空間の中に収めてある素材類の在庫のリストを開いて、倉庫を改装するくらいの素材の在庫は十分ある事を確認した。レンガとか建材とかは引っ越し前に、多めに購入しておいたのでまだまだ余裕がある。
快適マイホームの為に手間を惜しみたくない。
前世で暮らしていた国は狭い国だったので、今世に比べてこぢんまりした家が多く、俺が住んでいたのも狭い集合住宅だった。
今世でも、田舎のあまり裕福ではない平民の生まれで、実家はそこまで大きくなく兄弟も多かったので、自分だけの空間と言うのはほぼ無かった。
だから、ようやく手に入れたこの自分だけの広い土地と家を、好き勝手弄るのは楽しくて仕方ないのだ。自分の手で少しずつ、手探りながら自分好みの空間に仕上げていくのがとても楽しい。
さぁ、頑張って改装するぞーーーーー!!
まずは一階に、レンガで大型の窯というか、調合用の大鍋が複数使えるサイズの、キッチンを作ることにした。
母屋のキッチンと同じく火を使わないで、炎の魔石を使った、前世の記憶にあるクッキングヒーターをイメージした物だ。一度母屋のキッチンで同じ物を作っているので、同じ要領でサクサクと作れる。
母屋のキッチンと同じく"断熱"を付与したレンガを積み上げて土台を作り、その上に大きな鍋を余裕を持って並べれる間隔で、焜炉を四つ配置した。焜炉の下はオーブンになっている。
その横に作業スペースとツルツルしたタイルで流し台を作る。ちなみにレンガやタイルの固定は、分解スキルで貝殻を粉々に粉砕して、燃やして作った灰と砂を水で捏ねた、漆喰もどきでやっている。
火も水も、その属性の魔石で事足りるから、とても便利だ。
俺の場合魔法は使えないが魔力は有り、直接触れている物には魔力を流す事が出来るので、魔力を蓄積できる鉱物が有れば、自分で魔石を作る事が出来る。
土台となる鉱物によって蓄積できる量も変わる。魔力を多く蓄積できる鉱物ほど高価になっていくが、大きい魔石は天然の物を買うより、自作したほうが安上がりだ。
魔石は込められた魔力を全て消費してしまえば、ただの石となって砕けてしまうが、魔力を全て使い切らなければ人為的に、あるいはわずかながらだが自然にでも、その魔力は回復する。
しかし魔石には耐久限界があり、魔力を補充して繰り返し使っているうちに、貯蓄可能な魔力の量が下がり、最終的には魔力が貯蓄できなくなって、ただの石ころになって砕けてしまう。
前世の記憶にある"バッテリー"のような物だ。
キッチンが完成したら、壁に分解スキルで穴を空け排気用の窓を作って、流しからの排水は家の裏にある下水処理用のため池に流れるように、排水溝を作った。
排水用の溝も、魔力の消費は激しいが、分解スキルでボコボコと地面に溝を掘ればそんなに時間はかからない。
途中でめんどくさくなって、掘った溝を合成スキルを使って、無理やり土と粘土を混ぜ合わせてコーティングした。合成スキルは魔力の消費が激しいので、これでかなり疲れてしまった。
前の住人が母屋に残して行った、使ってないテーブルと椅子と棚をこちらに運び込んで、鍋やら食器やらという器具をそこに収めたら、調理場はだいたい完成だ。
これだけの事を、前世の記憶となんとなくの感覚で一日で出来てしまうのだから、クリエイトロードのギフト、おそるべし。
熟練職人ほどの出来ではないけど、そこまで悪い出来ではないと思う。むしろ手作り感ある方が、スローライフっぽい?
ここまで作ったとこで、すっかり日も落ちて薄暗くなって来たので、改装作業はここまでにして続きはまた明日に。
夜は、ピエモンで五の付く日にある"五日市"という、バザーに出店する為の商品作りをする予定だ。
この後、夕飯と風呂を済ませて、自分の部屋に戻り、せっせとアクセサリーを作って夜が更けていった。
翌日も早朝から倉庫改装作業の続きを始めた。倉庫の二階を冷蔵倉庫に、屋根裏部屋を冷凍倉庫に改造するのだ。
まずは一階に冷気が漏れないように、断熱効果を付与できる素材で一階と二階から上を仕切る。
二階と屋根裏部屋の床は、エンシェントトレントの材木で作った板を、床に隙間なく敷いた。石造りの壁は、エンシェントトレントの樹皮を、壁紙がわりに隙間なく張り付けて行く。
この床板や壁紙の貼り付けの為の糊には、エンシェントトレントの樹脂から作った接着剤を使った。
冒険者として活動してた時に、アホのように大発生したエンシェントトレントを狩る機会があり、その時の素材をほぼ残していたのでエンシェントトレント素材には困らない。
ちなみに、エンシェントトレントとは、動き回る木の魔物で、サイズは樹齢によってかなり幅がある。
エンシェントトレントの素材は魔力を取り込み易く、付与素材に適しているので、木工製品の素材としても、建材としてとても人気がある。
床、壁、天井とエンシェントトレントの素材を張ったら、隙間をエンシェントトレントの樹脂で埋めていく。そして、それらに"断熱"の効果を付与する。
断熱はよく防具に付与される効果で炎や冷気に対する耐性が上がる効果だ。トレント素材は防具にもよく使われ、断熱とは相性のいい素材だ。
二階と屋根裏に断熱を付与したら、それぞれの入口に、こちらもエンシェントトレントの材木で作って断熱を付与した扉を付ける。最後に氷属性の魔石を取り付けて、温度設定の魔道具と組み合わせたら完成。
冷蔵と冷凍の倉庫は作ったけどまだ入れる物がないので、出番が来るまでは魔石を起動させないでおく予定だ。氷の魔石は水属性の魔石の上位の魔石になり、他の属性の魔石に比べて魔力の消費が激しいので、節約の為使う時まで起動はしないでおく。
エンシェントトレントの樹皮を壁紙替わりにしたせいで壁の表面がガサガサなので、はやめにスライムを養殖してスライムゼリーでコーティングしてしまいたい。
スライムの養殖は比較的簡単なので、倉庫の地下室にスライム養殖エリアを作るつもりだ。
丸二日かけて、倉庫の大改装は完了。あとは使いながら、その都度手を加えて行く予定だ。そして、明後日はピエモンの五日市に出店するので、次はその売り物も作らないといけない。
あ、あれ? なんか冒険者やるより忙しい気がしてきたけど?
いや、きっと家の改修が落ち着いたらのんびりできるはず。
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