第10話◆やっぱりけしからん
ポーション作りを一日で終わらせた翌日は、作ったポーションをパッセロ商店に納品する為に、朝からピエモンの町に来ていた。
パッセロ商店に到着した時は、開店準備中だったようで、キルシェが店の前の掃き掃除をしていた。
この世界にはめずらしい、女性のショートカットでボーイッシュな恰好をしているが、改めて見ると女性らしい整った顔立ちだ。
それに黒髪に鳶色の目という配色が、前世で暮らしていた国の住人のそれと近い配色な事もあり、何となく親近感が湧く。
そのキルシェがこちらに気付いて手を振った。
「グランさん、おはようございます!」
「おはよう、キルシェ。ポーションが出来上がったから持って来た」
「え? 昨日の今日でもう!? 中で確認するので中入ってください」
促されて店の中に入ると、アリシアが商品を棚に並べているところだった。
「おはよう、アリシア」
「おはようございます、グランさん」
相変わらず、輝かしい笑顔と、けしからんまでの巨乳である。
「ポーションを持って来たので、確認をお願いしたい」
ポーションをマジックバッグから取り出して、種類ごとに分けてカウンターに並べた。
「早速これだけの量納品していただけるなんて、在庫があったのですか?」
「いや、材料が近場ですぐ集まる物ばかりだったので、昨日まとめて作ったんだ」
「こんなにたくさん、しかも特上品質ばかりで助かります。これだけあれば一週間は、在庫が持ちそうです」
「じゃあ、また一週間後に同じくらいの数持ってくればいいかな?」
「お願いします。それでは、確認して代金用意するので、少々お待ちになって下さい。キルシェ開店準備お願いね」
アリシアを待ちながら、店の商品を眺めていると、カランカランとドアベルの音がして、男が一人店に入って来た。
「すみません、まだ開店してないので少々お待ち……あら」
「やぁ、アリシアさん。開店前の忙しい時にごめんね」
「ロベルトさん、おはようございます。ちょっと待って下さいね」
「あれ、開店前なのにお客さん?」
俺より頭一つ背の低い、茶髪の細い男と目が合ったので、軽く会釈しておいた。
「いえ、新しい取引先さんです。ポーションを定期的に売ってもらう事になったんです」
「へー、ポーションを? 今日はそのポーションの話で来たのだけど、もしかしてもう仕入れは間に合いそうなのかな?」
「はい、おかげ様で、高品質のポーションを十分な量売ってもらえそうなので、商業ギルドさんのお世話にならなくてよさそうです」
「そうでしたか。それなら僕はこれで失礼しますね。パッセロさんが復帰されるまで大変だと思いますので、またお困りでしたらいつでもどうぞ」
ロベルトという男はそう言って、こちらをチラリと見て店を出て行った。
「今の人は? ポーションの話がどうとか言ってたけど?」
「はい。ロベルトさんは商業ギルドの職員の方で、うちがポーションの仕入れ先を探してると知って、一緒に探してくれてた方です。なかなか条件に合う仕入先が見つからなくて、少し離れた大きな町の薬屋に一緒に直接交渉に行かないかって話だったのですが、グランさんに引き受けて頂いたおかげで、遠くまで足を運ぶことにならなくて済んで良かったです」
遠くの町に一緒にねぇ……。
出来るだけ意識しないようにはしているが、やはりアリシアの巨乳に意識がいく。
「日帰りでいけない距離の町に、ねーちゃんと二人で行こうとか、下心しかない奴だよ!」
キルシェがぷんぷんと息を荒くしながら、床の掃き掃除をしている。
「そうは言ってもね、キルシェ。グランさんに会えなかったら、ポーションの仕入れがままならなくて、うちだけじゃなくて町の人達も困るとこだったのよ。グランさんがいなかったら、商業ギルドに頼るしかなかったのよ」
アリシアが頬に手をあて、困ったように首をかしげた。
「ねーちゃんはもっと男を警戒するべきだよ! この店に来る男なんて、子供から老人までねーちゃんのおっぱい見てるんだから! ねぇ? グランさんもそう思うでしょ!?」
俺に振るな、俺に。
「まぁ……人それぞれじゃないかな」
その人それぞれに、俺も含まれるわけだが。
コホン。
アリシアが咳払いをした。
「グランさん、代金の用意できましたよ。確認お願いします。それと領収書と納品書用意してないのでしたら、こちらで用意しますので、サインして下さい」
そういえば、商店と正式に取引するならそういった書類も用意しないといけないのか。すっかり失念していた。
冒険者は、報酬や物品の買い取り価格から税金引かれてたから、今まで全く気にしてなかったけど、商売をするなら税金を自分で計算しないといけないのか……めんどくさいな。
しかし、領収書とか納品書とか聞くと、生産者っぽくなった気分だ。
「そういえば、よかったらお裾分けなので、家族でどうぞ」
マジックバッグから、昨日解体したグレートボアの肉を取り出して、アリシアに渡した。
「まぁ、ありがとうございます」
「先日、キルシェが遭遇したグレートボアの肉だ」
「えぇ~? 馬車から落っこちてすぐ気うしなっちゃったんで、あまりよく覚えてないのですが、あのでっかい奴らですよね? ボアだからイノシシみたいな方ですよね?」
「あぁ、蛇の方もあるけどいるか?」
「蛇はちょっと……」
「蛇の肉は淡泊で結構うまいのに」
「おいしくても蛇は……ていうか、グランさんあんなでっかい魔物解体したんですか?」
「あぁ、冒険者だからアレくらいなら解体できるよ」
「ほぇ~」
俺は収納のスキル持ちだからあまり関係ないが、収納系のスキルもマジックバッグもなければ、持って帰れる量に限りがある。どちらもない冒険者は、狩った獲物は出来るだけ早く解体して、必要な部位を厳選しなければならない。解体の腕前は稼ぎにも直結するので、冒険者をやっているとある程度解体の技術は、自然と身に付くのだ。
「ところで、こないだ買った鍋と同じくらいのサイズかそれより大きいくらいの鍋が欲しいのだが、在庫はあるだろうか? あとポーション用の小瓶も欲しい」
ポーション用の小瓶は、ポーションの品質保持のために"停滞"という劣化防止効果が付与された専用の瓶が使われる。
ポーションを取り扱ってる商店が、専用の瓶も取り扱っている事が多く、使用済みの小瓶は買い取って浄化してリサイクルしてる。
ポーションは自分でも使うし、商店に定期的に売る事を考えたら、少し多めにストックしておくに越したことはない。
「あります、あります! お肉貰ったからその分値引きします! いいよね? ねーちゃん?」
「もちろんですよ、今後とも御贔屓に」
肉は差し入れだったんだけどな? 結局こちらがオマケしてもらう形になってしまった。
全く知らない土地に来て、知り合いがゼロからのスタートだったけど、早々に感じのいい姉妹と仲良くなれてよかった。
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