第9話◆ポーションを作ろう

 昨夜はパッセロ商店に併設されてるキルシェの家に泊まる事になり、ついでに朝食もご馳走になり、流れで店の開店準備を手伝った後、キルシェとアリシアに見送られ帰路に就いた。


 パッセロ商店に定期的にポーションを卸す事になったので、今日はポーションの材料確保と作成をやらなければならない。

 ピエモンでの需要は冒険者向けより住民向けのが多いようなので、効果はほどほどで安めの物が好まれると言う事。

 また、ヒーリング系のポーションより体力の回復のポーションの方が需要あるらしい。付近にあまり強い魔物がいないせいで、冒険者向けでもハイポーションはあまり需要がなく、値段の安い通常のポーションの方が人気があるらしい。






「インベントリ・リスト」


 帰り道に道すがら、収納スキルで保存している素材の一覧を表示して眺めながら考えて、近所で手軽に確保出来る素材を材料にしてポーションを作ることにした。

 収納スキルで保存している物の中に、ポーションの素材になる物は多くあるが、継続して納品することを考えると、遠くまで材料確保に出向かないといけない素材より、近所で間に合う物にしたい。

 それに、高すぎる効果は求められていないので、コスパ優先で可能な限りの高品質を目指す事にした。


 ポーションの素材は案外身近にある物で、道端に生えている植物もポーションの材料になったりする。


 日当たりのいい場所にならわりとどこでも生えている、ヤーロ草やマロ草、ナズ草はヒーリングポーションの材料になる。どこでも見かけると言えば、ヨモ草もそうだ。こちらは解毒ポーションになる。

 あまり好んで使う人はいないが、土を掘り返せばどこにでもいる、ミミミズという手のひらサイズのミミズの魔物も解毒ポーションの材料になる。


 ポーションの素材は、素材に込められる魔力の量に比例して、完成した時の効果も決まる。つまり、魔力を多く込められる素材ほど効果の高いポーションが作れるのだが、値段も比例して上がっていく。

 そこで、込める魔力を水増しする為に触媒となる魔力を内包した素材を、使うこともある。しかし、この触媒を多く入れすぎると元の素材が魔力に耐え切れず、失敗してしまうので加減が重要である。


 そして、その触媒となる素材が、その辺で拾える陽輝石という太陽の光の魔力を溜め込んだ、ぱっとみ石ころである。日当たりのいい場所ならわりとどこにでも落ちている。


 こう言った素材は身近にたくさんあるのだが、意外と知られてないという。鼻歌交じりに素材を回収しながら自宅へと帰って来た。









 帰宅してまずやること。昨日倒してそのまま収納スキルで回収した、ロックパイソンの血抜きである。

 ロックパイソンの内臓や骨はポーションの材料になる、肉は食用になる、ついでに皮や牙も服飾の素材として需要がある。


 馬鹿でかいのでとても面倒である。

 首を刎ねたロックパイソンの死体を、敷地内の大きな木に引っ掛け、ついでに同じように首を刎ねて倒した、グレートボアも血抜きの為に木に吊るしておく。

 庭が少し血生臭いが、魔物避けの柵があるのでそうそう魔物は入ってこないだろう。




 ロックパイソンとグレートボアはいったん血抜きの為に放置して、ヒーリングポーション作りへ。


 ヒーリングポーション用に採って来た、ヤーロ草、マロ草、ナズ草はどれも内包魔力が少ないので、陽輝石を混ぜて魔力を水増しなければならない。


 陽輝石をポーションにするには粉末状にしなければいけないので、これを粉砕する作業に入る。とは言えこれはスキルでいけるので楽である。


 "クリエイトロード"のギフトの中に、魔力を使って細かく分解できる"分解"というスキルがある。この"分解"というスキル、分解以外にも粉砕にも使えるので、岩石を粒状にすることもできる。どのくらい細かく分解できるかはスキルの成長具合に依存している。


 ただ細かく分解するだけならそんなに難しくはなく、複雑な分解や魔力が多く含まれる素材ほど難しくなる。石を粒状に粉砕するのは今のスキルの成長具合ならそんなに難しくはない。

 ちなみにこの分解スキル、生きている者には効果がない。生きてる者にまで効果があると、最強クラスの攻撃スキルなんだが。分解スキルの効果が出る範囲は、例によって収納や鑑定と同じ、意思のない物だ。


 大きな器の上で陽輝石を両手で掴んで、魔力を流して、粒状にしていくだけの簡単なお仕事。感覚としては、砂の固まった柔らかい石を、素手でほぐしていく感じだ。


 それが終わったら、パッセロ商店で買って来た大きなすり鉢に、よく洗ったヒーリングポーション用の薬草を入れ魔力を込めながらゴリゴリとすり潰していく。様子を見ながら陽輝石の粉末を少しずつ加えて、ペースト状になるまでひたすらすり潰す。

 魔法は使えない体質だが、こういった物に直接触れて魔力を流し込む作業は得意な方だと思う。魔力も有り余っているので、延々と作業が出来る。


 滑らかになるまですり潰したら、これもまたパッセロ商店で買って来た大きな鍋に、水の魔石から出した魔力の籠った水を張り、その薬草と陽輝石をすり潰してペースト状にした物を入れて、含まれている魔力が均等になるように調整しながらグツグツと煮込む。



 一時間ほど煮たところで火を止めて冷めるまで放置して、先ほど血抜きの為に放置してたロックパイソンとグレートボアの所へ。



 収納から取り出した敷物の上に、血抜きの終わったロックパイソンを降ろして、解体作業に取り掛かる。魔物解体用の大きなナイフを手に持ち、"解体"のスキルを使いながら、部位ごとに丁寧にバラしていく。


 この"解体"というスキルは"クリエイトロード"のギフトの恩恵を受けるスキルで、魔物を捌く作業や、建築物を解体する作業など、バラすという作業に恩恵がある。

 解体のスキルが高いと、固い魔物の肉にも柔らかい粘土でも切るように、スッとナイフが獲物の体に食い込み、手引きでもされてるようにスイスイと切り分けたい部分にナイフが食い込んでいく。


 "分解"と"解体"は何となく似ているが、"分解"の方は魔力を使ってバラすスキルで、"解体"の方は物理でバラす技術のスキルである。


 ロックパイソンが終わったら、次はグレートボアも解体する。

 どちらも解体が終わったら、ロックパイソンの内臓以外は収納空間に放り込んでおいた。


 ロックパイソンの内臓のうち、肝臓は毒消しに、それ以外は疲労回復効果のあるポーションになるので、ポーションの材料にする予定だ。

 だが、そのままでは使えない。

 ポーションにするにはカラカラに乾燥させて粉末状にして使うのだ。これらを乾燥させるのは時間がかかる。


 そこで収納スキルである。


 新しく収納空間を作り、そこにロックパイソンの内臓を収める。俺の収納空間の内部の時間経過は、任意で加速減速できるのだ。

 この辺の作業は"インベントリ・リスト"を開いて、ゲーム感覚で操作しながらできる。我ながら便利でズルイスキルだと思う。

 ロックパイソンの内臓を入れた収納空間の時間経過を加速にして、乾燥を待つ間に再びポーション作りに戻る。


 放置していた鍋に入ったままのヒーリングポーションを、パッセロ商会で買った小瓶に小分けして、出来上がったヒーリングポーションを確認の為鑑定しておく。


【ヒーリングポーション】

レアリティ:E

品質:特上

効果:傷回復D

軽度の傷の回復と痛み止め効果

副作用なし


 普通~上品質の薬草と陽輝石を使ったけど、出来上がったポーションの品質は特上だった。

 ポーションの品質は素材の品質と調合時の魔力操作が影響する。素材の品質が一定以上なら魔力操作次第で、特上品質のポーションを作る事も可能である。そこらへんを含めての調合スキルである。


 もちろん調合スキルが低く、魔力操作の技術が足りなければ、いくら品質のいい素材を使っても、出来上がったポーションの品質は低くなる。

 そして、魔力を多く含み、効果の高いポーションの素材は、要求される調合のスキルこと、調合の為に必要な魔力操作の技術は高くなり、失敗しやすくなる。


 俺くらいの半端なスキルだと、無理して高いスキルを要求されるエクストラポーションを作るより、普通のポーションやハイポーションで特上品質を作る方が、コスパもいいし効果もバラつきなく安定する。しかも、今回は普通のポーションでいいので、スキル的にも特上品質を作るのは楽なのだ。


 ちなみにポーションは効果によって大きく三段階に分けられており、効果がC以上の物は俗にハイポーションと呼ばれ、A以上でエクストラポーションと呼ばれている。



 ヒーリングポーションが出来がったので、次はヒーリングポーションと同じ手順で、ヨモ草を使った解毒用のポーションの作成に取り掛かった。

 ヨモ草がたくさん自生してたので、今回はミミミズは捕ってこなかった。




 解毒のポーションを煮込み終わったところで、腹が減って来たので時間を見るとすでに昼を過ぎていた。

 簡単に昼食をすませた後に、煮込み終わったポーションが冷めるのを待ちつつ、ポーション作り再開。


 鍋で冷ましておいた毒消しポーションを小瓶にわけて、これも品質の確認の為に鑑定をする。


【解毒ポーション】

レアリティ:E

品質:特上

効果:解毒D++

軽度の毒の解毒

副作用なし


 さすがのヨモ草、どこにでも生えてるレア度の低い薬草なのに、効果がD++だ。

 ヨモ草はわりとポピュラーな毒消しの薬草で、ポーションにしなくとも解毒効果があり、丸薬や軟膏にしたり煎じてお茶として飲んだりする、平民には馴染みの深い薬草だ。

 手軽に手に入るわりには、その解毒効果は高く、解毒ポーションの素材の中で最もコスパのいい素材の一つである。




 解毒ポーションの作成が終われば、次はロックパイソンの内臓をポーションにする作業に移る。時間を加速させておいた収納空間から取り出したロックパイソンの内臓は、いい感じにカラカラに干からびていた。

 これらをすり鉢ですり潰して粉状にして、あとは他のポーションと同じように触媒になる陽輝石の粉と混ぜ煮ると完成である。


 まずは、肝臓から。これは解毒ポーションになる。同じ毒消しポーションでもヨモ草よりロックパイソンの肝臓から作った物の方が効果が高い。


 そして、心臓。これは疲労回復系のポーションこと、リフレッシュポーションになる。肝臓以外の他の部位もリフレッシュポーションになるが、心臓だけは他の部位より特に効果が高いので、心臓だけ分けてポーションにする。


 残りの部位もポーションにして品質を確認したら、今日のポーション作りは終了。


【解毒ポーション】

レアリティ:D

品質:特上

効果:解毒C

中度の毒の解毒

副作用なし


 ロックパイソンの肝臓から作った毒消しポーションを鑑定すると、これも特上品質だった。

 ロックパイソンの肝臓から作った解毒ポーションは、通常は効果Dのポーションなのだが、特上品質になると解毒効果がCになり、ポーションでも効果がCランク以上はハイポーション並の効果になる。よって、表記上は特上品質の通常のポーションでも、取引する際の扱いは通常品質のハイポーション相当になる。


【リフレッシュポーション】

レアリティ:E

品質:特上

効果:体力回復D

軽い疲労回復

副作用なし


【リフレッシュハイポーション】

レアリティ:C

品質:上

効果:体力回復B-

高い疲労回復効果

副作用なし


 心臓以外の内臓から作ったリフレッシュポーションの品質は特上だったが、心臓から作ったリフレッシュハイポーションの品質は上だった。

 やはり効果の高い素材で安定して特上品質のハイポーションを作るのは、まだ安定してないようだ。効果はB-なので、おそらくは特上に近い上なのだろうが、ハイポーションも安定して特上品質で作れるようになりたいところだ。


 ピエモンは、ハイポーションよりただのポーションの方が需要があるようなので、この上品質のリフレッシュハイポーションは自分用かなぁ。


 


 出来上がったポーションを収納スキルに収め、キッチンを片付けて、外を見るとすっかり夕暮れ時である。

 せっかくコンロは三つあるのに、大きな鍋が一つしかないので、一種類ずつしか作れなくて時間がかかってしまった。

 パッセロ商店へ行った時に大きな鍋を追加で買って来るかなぁ。


 しかしキッチンがそこまで広くないので、あまり大量の物を作るのに向いていない。そこでふと思い出したのが母屋の隣の倉庫だった。


 あそこ、改装するか。



 その後は、夜更けまで我が家の改造計画をあれこれ構想しながら、紙に書き出してベッドに入った。




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