第6話◆冒険者ギルドと商業ギルド
一番近くの町までは、のんびり歩けば片道二時間程度かかる。
"身体強化"のスキルを使って駆け抜ければ、三十分足らずで到着しそうではあるが、特に急いでるわけでもないのでのんびり道草でもしながら向かう事にした。
道端に生えてる薬草を摘んだり、時々飛び出してくるゴブリンやホーンラビットと言った、細かい魔物や獣を切り捨てたりしながらのんびり町へと向かった
ちなみに、魔物と獣の違いは、その身に魔力を宿しているか、そうでないかだ。魔力を宿せる物は魔物、もしくは魔獣と呼ばれ、宿せないものは獣という扱いだ。
魔物から採れる素材は、魔力が蓄積できるので魔法付与や魔道具の素材になるが、獣から取れる素材は魔力が蓄積できないのでそういった物の素材にはならない。
獣素材は魔力が蓄積できないと言っても、肉は食用になったり、毛皮も衣料素材として需要があったり、骨や内臓も製薬素材として使えたりするので狩っても無駄にはならない。
こういった生物素材は早めに血抜きをしないと、素材として使い物にならなくなるものも多いので、こういう時に収納スキルで収納してしまえば時間経過が無くなるので"収納"様々だ。
道端に生えてる野草の中には、強力な効果はないものの、日常生活で役に立つ効能の薬に加工できる物も多くある。そういった物も目についたら収納スキルで回収しながら町へと向かう。
まさに道草である。
道端に生えている、一見雑草に見える薬草を摘んで"鑑定"のスキルを使ってみる。
【ヤーロ草】
レアリティ:E
品質:普通
効果:止血/解熱
調合に用いる、食用可能だが不向き
どのような環境にも適応しやすく生命力、繁殖力が強い
僅かではあるが魔力を含む為、ポーションの素材にもなるが効果は高くない
花を含め全ての部位が使用可能
自分のステータスやインベントリリストを見る時と同じように、俺にしか見えない半透明の画面に、鑑定の結果が表示された。
鑑定スキルはこんな感じで、スキルを使った対象の情報を知る事のできる、便利なスキルだ。
しかし、鑑定スキルは魔力を使って対象を解析するスキルなので、魔力を具現化することのできない俺は、自分が触れている物にしか鑑定のスキルが使えない。
俺の鑑定スキルは、知能の上下関係なしに意思のある者には効果がないようで、つまり生きているもの以外、生物なら死んでいるもの限定になる。もちろん、死んでいると言っても、収納スキルと同じで、アンデッド系の魔物には効果がない。
そしてこちらも収納スキルと同じく、植物や微生物は意思がないものとして判定されるらしく、精霊や魔物の類に分類されるものでなければ鑑定できる。また、魔力を消費する事により、対象をより詳しく知る事もできる。
ちなみに、生きてるものも鑑定できる上位の鑑定スキルもあり、この上位の鑑定スキルの所持者はかなり稀少で、他人のギフトやスキルまで見れるレベルの鑑定スキル持ちは、教会や役所に高待遇で勧誘されるそうだ。
多少制限のある俺の鑑定スキルだが、すごく便利なスキルには変わりない。
鑑定スキルは、前世の記憶が戻る前からすでに発現していたが、スキル値が低かった事もあり、何となくわかる程度の効果で今のように可視化もされてなかった。
しかし、前世の記憶が戻り、前世の知識が流れ込むと同時期に、鑑定の精度が飛躍的に上昇し、今のように鑑定結果が自分限定で可視化されるようになった。
魔力が使用者の想像力に影響される特性がある事から考えると、おそらくは前世の記憶にある"ゲーム"のイメージの影響を受けているのだと思っている。レアリティの表記なんか、まさしく前世のゲーム画面のそれである。
【マロ草】
レアリティ:E
品質:上
効果:皮膚再生
調合に用いる、食用可
水はけが良く日当たりが良い場所を好む
僅かではあるが魔力を含む為、ポーションの素材にもなるが効果は高くない
葉と茎は食用可、花は茶にすると咳止め効果有
【ヨモ草】
レアリティ:E
品質:普通
効果:解毒
調合、料理に用いる
どのような環境にも適応しやすく生命力、繁殖力が強い
料理、薬用に使えるが、魔力を蓄積しやすく、ポーションの素材にも向いている
葉と茎は食用可、花は茶にすると咳止め効果有
【陽輝石】
レアリティ:E
品質:上
属性:無
効果:痛み止め/魔力触媒
調合、魔力付与などに用いる
太陽の光から魔力を僅かながら吸収し蓄積した石
道端に生えている植物や、落ちている石も立派な素材だ。鑑定スキルで品質も確認できるので、回収した素材の品質を確認しながら、収納にポイポイと放り込んでいく。ここら辺で採取できる物の品質は"普通"~"上"の物が多いようだ。
こういった感じで、鑑定スキルは素材集めととても相性がいいので、とても重宝している。この鑑定スキルの便利さも、つい素材を貯め込みたくなる原因の一つである。
そうやってのんびりとした歩みで町に到着したのは、太陽が位置が真上に近くなる頃だった。
今世、俺の住んでいる国はユーラティア王国という。大陸の西側の海に面し、豊かな森と肥沃な大地を領土に持つ大国だ。
そのユーラティア王国の王都ロンブスブルクから、街道沿いに東へ馬車を二週間ほど走らせた所にあるソートレル子爵領の町ピエモン。王国の東側の田園地帯から森林地帯への境目に位置する町だ。そこが俺の家から一番近い町だ。
国境へと続く街道沿いの町ということもあって、王都から離れた田舎町といえど、そこそこの人と物の行き来がある町である。森林地帯へ向かえば魔物も生息している為、町には小規模ながら冒険者ギルドもある。
また、辺境地方と中間点にもあたるので、物流の拠点として商業ギルドと宿場街もあってそれなりに賑わっている町だ。
適当な店に入って昼を済ませた俺は、冒険者ギルドへと向かった。
こっちにきて住居の手入れを優先したので、一度も足を運んでなかったが、活動拠点を近くの町に登録し直しておいたほうが便利なので、この町のギルドの様子見も兼ねて冒険者ギルドを訪ねた。
昼過ぎのギルドは、冒険者達も出払い閑散としている時間帯だ。受付のおねーさんが、人もまばらなロビーの受付カウンターに、暇そうに座っていた。
まずは受付のおねーさんに声を掛けて、活動の拠点を以前登録してた王都の冒険者ギルドからピエモンのギルドへと変更の手続きを申し出た。
冒険者ギルドは、魔物の討伐や護衛から調査や素材の収集、町や家屋の清掃まで様々な仕事――主に力仕事を請け負って、登録をしている冒険者達に仕事を紹介してくれる場所だ。各国の首都にその国の冒険者ギルドの本部があり、各地に支部が置かれている。
登録している冒険者にはランクがあり、仕事の達成状況でランクが上がったり下がったりする。
ランクは個人を特定する魔道具のギルドカードで管理されており、国境を越えて冒険者ギルド全体で情報を共有されている。
仕事をどんどんこなせばランクは上がるし、失敗したり依頼人や他の冒険者とトラブルが多いとランクを下げられることもある。
冒険者ギルドは、様々な素材の売買もしており、こちらから素材を持ち込んで売るだけではなく、持ち込まれた素材を市場に出す前に安めに売ってもらうこともできる。
他にも、手数料はかかるが他の町の冒険者ギルド間での輸送サービスや、預金口座サービスもある。
活動拠点として登録した町のギルドに、自分宛ての荷物を自動的に輸送して預かって貰えるサービスがあり、あちこち遠出の多い冒険者にはとても重宝する。
Bランク以上になると、少し高めの保証金が掛かり荷物のチェックも厳しくなるが、自分の身元や活動拠点を相手に知らせず荷物のやり取りもできたりもする。
この国の通貨は、銅貨、銀貨、金貨なので重量があり、大量に持ち歩くのは重量面にも安全面にも難があるので、冒険者ギルドでは金銭の預かりサービスもやっている。冒険者ギルドに預けたお金は、どこの冒険者ギルドの支店でも引き出す事ができるし、遠方のギルドや依頼人から受けた依頼料をギルド経由で受け取ることもできる。
ちなみに冒険者ギルド以外にも商業ギルド、運送ギルド、土木ギルドなど他のギルドでも同じようなサービスがある。
ここらへんのサービスは、ギルドに登録してなくても利用できるが、登録しないで使うと保証金の意味合いの手数料がバカ高くなる。
本拠地を変更する為の書類を記入して、ギルドカードと共に受付のおねーさんに渡すと、カードを見て驚いた顔になった。
「Bランクの方ですか!?」
「あぁ、近くに越して来たので、この町を活動拠点にしようと思ってね」
「うちの支店は高ランクの方が少ないので、Bランクの方に拠点にしてもらえるととても助かります」
おねーさんの表情がとてもキラキラしている。
あまり強い魔物のいない地方の冒険者ギルドの支店は、活動する冒険者が多くなく、それに比例して高ランクの冒険者も少ないので、難易度の高い依頼が滞る傾向がある。どうやらピエモンも例外ではないようだ。
「Bランクとは言え、そんなに強くないので期待しないでくれ」
これは謙遜ではなく本当だ。器用貧乏すぎて、ここぞという時の決め手に欠けるのだ。
「まだ越して来たばっかりだし、自宅も町から離れてるので、しばらくはそんなに仕事しない予定かな」
「そうですか……残念ですね。気が向いた時でいいのでC~Bランクの依頼を受けて頂ければ助かるのですが」
「少し落ち着いたら協力させてもらうよ」
当たり障りのない返事をしておく。
とはいえ、あまり依頼を受けないでいると、ランクが下げられる。それが長期間ともなると登録抹消になることもあるので、時間の隙間を見て、あまってそうな依頼を受けようとは思っている。
ギルドに登録していると貰えるギルドカードは、身分証明書にもなるし、Bランクの冒険者だとそれなりに信用度も高いのであると便利なのだ。
冒険者ギルドのランクはFから始まって最高でSまである。ただし、Sランクの冒険者は全世界回っても両手で数えれるくらいしかいない。
Sランクに次ぐAランクの冒険者も、ほとんどが大規模な都市や、実入りの多い魔物が生息する地域、ダンジョンのある地域に集中して滞在している。
ピエモンのようなダンジョンもなく、魔物も多くない地域では、Bランクの冒険者ですら高ランク扱いされることが多々ある。
高ランクの冒険者が少ない支店は、その少ない高ランクの冒険者に高ランクの依頼が集中して、スケジュールが過密になりやすい。
それは出来るだけ避けたい。登録者の少ない冒険者ギルドは、結構な確率でブラックな職場になる傾向がある。
チラリと依頼の貼り出されてる掲示板を覗いて、残っているCランク以上の依頼を確認する。
貼り出されてるのは、Bランクでもそう難しくない物ばかりだったので、次に来た時にまだ残ってたら受けるくらいでいいかな。
冒険者ギルドでの用事を終わらせた後は、商業ギルドへと向かった。
商業ギルドは商人の為のギルドで、以前から小遣い稼ぎで露店をしたりもしてたので、商業ギルドにはすでに登録はしてあるが、出店する為には各都市で商業ギルドへの申請が必要だ。
店舗を構えなくても、マーケットエリアでの露店の出店だけでも可能で、それだけなら比較的安い年会費で商業ギルドの会員になれる。
せっかく生産向けのギフトがあるので、たまに露店を出しての小遣い稼ぎは以前からの趣味だ。
ちなみに商業ギルドのランクは、商業ギルドに支払う登録料と年会費で変わって来る。年会費を多く収めるほど、商業的な特権が増えて来る。
ただし、SランクやAランクといった高位のランクになるには、登録料と年会費だけでなく、実績と有力者からの推薦、一定の規模の店舗もしくはキャラバン隊としての登録も必要になって来る。
俺はせいぜいバザーで露店を出すくらいなので、登録料も年会費も安い最低ランクのEである。
商業ギルドのランクは取引先との信頼度にもかかわるので、大手の商会や貴族と取引するのならある程度のランクまで上げたほうがいいのだが、露店しかしないのなら最低ランクで十分である。
ピエモンへの登録移転の申請が終わってギルドカードも更新してもらい、商業ギルドの掲示板を確認する。掲示板には、登録されてる商店からの取引の案内や求人、バザーやフリーマケットの予定などが貼り出されている。
毎月五の付く日に行われるバザーに申し込みをして、商業ギルドを離れた。
商業ギルドを出たあとは、食料品と日用品の買い出しの為、市場へと向かった。あまり人口の多い町ではないので市場の規模はそう大きくないが、大きな街道沿いの町ということもあって、品ぞろえは悪くない。
野菜、調味料を中心に買い物をし、ついでに畑に植える野菜の種をいくつか購入した。
購入した物は収納のスキルではなく、収納の劣化版のポーチ型の魔道具――マジックバッグにしまっていく。ポーチと言っても、大型の荷馬車数台分程度の荷物は収納できるので普段使いには困らない。
収納スキルはわりと珍しいスキルらしく、あまり人目に付くとこで使うと面倒事に巻き込まれる可能性があるので、人目の多い場所では極力マジックバックを使うようにしてる。
マジックバッグも一般的には高価で、あまり出回ってない品ではあるが、冒険者の間では使ってる者もちょくちょくいる。
このマジックバッグという魔道具は、空間魔法を付与した物で、内部の収納量に比例してその値段が上がっていく。また、時間魔法も同時に付与されて、内部の時間経過が遅い物はさらに高価である。
それを考えると、俺の収納スキルは容量は無駄に多い魔力のせいでほぼ詰め放題、時間経過も任意で弄れるという、なんとも都合のいいスキルだ。ただし、詰め込みすぎると整理がとてもめんどくさいという欠点もある。
買い出しも無事に終わり、ピエモンの町を出て家路につく。
王都方面へ続く大きな街道をしばらく進み、自宅のある森へと続く道の分岐手前まで来た時、街道の道のど真ん中に大きな影と砂煙が見えた。
目を凝らすと、砂煙の中に巨大な生物が二匹絡み合ってるのが見えた。
なんだ、あれは。
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