第2話ーまだ見ぬライバル達。
『あった! アレだぜエル!』
「うん」
少し歩いたところで認証パネルを見つけ、カリスが聞き出した手順通りマジカルカードデッキと切符を重ねて上に置いた。
「こんな感じでいいんだよね」
『おう』
ほどなくしてマジカルカードと切符をかざしたパネルからピピピと電子音が鳴った後音声ガイドが起動した。
『マジカルカードを認識しました。0番ホームへ転移します』
ボクの身体が満遍なく光に包まれ妙な浮遊感を感じた後、0番ホームへ転移した。
☆★☆★
【0番ホーム 大魔界学園行列車前】
ここが0番ホームか。
造りは普通のホームに比べてレトロチックで歴史ある観光地のような内装だ。
見たことがない魔族もいっぱいいる。
生物的な見た目の魔族もいれば岩や鉄を模したような無機質的な見た目の魔族もいた。
『ざっと300名くらい……コイツら全員次期大魔王候補か』
「そうだね」
「おいあれ……」
「間違いねぇ
「まさかアイツも大魔王選に参加するのか……」
「やだ怖ァい」
『ケッ……ムカつく奴らだな。聞こえる距離にいるなら堂々と言いに来いよ』
「……っ」
『ん? どこ行くんだエル?』
「隅っこの方に行く……やっぱりこの姿は目立つみたいだから」
両目に大きな黒い隈と血を湿らせたように真っ赤な髪と唇。それが
まるで生物の本能的恐怖を煽るような外見をしているからなのか
ボクもそんな自分のことが嫌いだった。鏡を見るたびうんざりとするほどに。
「いちいち相手にしてたらキリが無いよ。それに」
『……』
「もう慣れてる、から」
「おんやぁ? 坊ちゃんも次期大魔王候補ですかい?」
呼びかけられ顔を向けるとそこには顔のついた列車の姿があった。
しっかりと顔に【大魔界学園行】と書かれていることからこれがこれから乗る列車であること、そしてこの列車も魔族の一種らしいことも分かった。
初めて見る魔物だ、それに身体が列車だけあってデカイ。
「そうだけど……君は?」
「あっしは
けたたましい汽笛とともにボクの顔に煙が吹きつけられ激しく咳き込む。
「うっ! ゲホッッ! ゲホッッ!」
「あぁこりゃ失敬! つい力み過ぎて屁ぶっこいちまった! 時にその目元の隈と特徴的な赤い髪! 坊ちゃんはいわゆる
「うん……」
「こりゃ珍しい!
『だろうな』
10回ぶり、大魔王選は100年に1度の開催だから単純に考えると1000年ぶりということになるのだろうか。
「やっぱり
「んまぁ……ひたすら走り屋やってるあっしは細けえことはよく知らねーが世論は荒れるようですぜ」
「だよね……」
「とはいえあっしの仕事は目的地まで迅速にみなさんを運ぶこと! お客さんがどんななりだろうが関係ありませんんんんんん!」
「ゲホゲホッッ! ゲホッッ!」
再び煙が噴射される。
さっきのといいわざとやってない?
『まもなく時間でーす! 座席は自由なので各々好きな魔族同士で二人一組のペアを作って列車に乗り込んで来てくださーい!』
ホーム内アナウンスが鳴った。
「そろそろあっしも準備に取り掛かりますかね! そんじゃエル坊っちゃん! 良い旅を!」
「うん、いろいろありがとうミミー……さてとどうしたものか」
『なんか浮かない顔だな』
「ボクとペアになってくれるような魔族がいるとは思えなくてさ」
『なってくれるかじゃねえ! お前が行くの! ほら! 待ってても誰も来ねえぞ!』
「わ、わかった! わかったから引っ張らないで!」
うーん既にグループが出来ているところへは入りづらいしな。
一人になっている魔族を探そう。
「……」
あ、あれは……。
口元から飛び出た鋭い犬歯、金色のしなやかな髪と整った美少年の容姿。
身につけている衣装も高級品ばかりだし上級貴族かもしれない。
尚更近寄りがたいなぁ、でも背に腹は変えられない。
ボクは意を決して話しかけてみた。
「あの、避ければボクとペアに……んぐっ!? ガァァァァァァ!」
その
『エル!』
そうか、ボクは攻撃されたのか。
「近づくな、汚れた血族め」
「なんだなんだ乱闘か?」
「元大魔王直系の名家、ヴァンデルセン家の
「命知らずな奴だなぁ……ヴァロンに話しかけるなんて」
「身の程をわきまえろ、オレはヴァロン・ヴァンデルセン。かつて大魔王にも選ばれた由緒正しき高血の末裔だ。貴様のような汚れた血族が気軽に話しかけて良い存在ではない」
「ハァハァ……」
「そもそも人……のくせに……ばれた? 不正……使っ……ここ……貴……如きが…………」
「……っ」
駄目だ、視界がボヤける……何を喋っているかも聞き取れない……。
「どうした? 分かったのならここから早々に立ち去れ。立ち去らぬというなら私が手を下すまで」
「アイツ! あの
『エル! おいエル!! ケッ……緊急事態だ! 身体借りるぜ!』
「誰か止めた方が……」
「ヴァロン・ヴァンデルセン、噂以上のイカレっぷりだぜ。たかが
「血族と潔癖を重んじる
「おい馬鹿! 聞こえるぞ!」
「フン……魔界のゴミ掃除をして何が悪いものか? 終わりだ」
ヴァロンは再び眼に魔力を込め倒れ伏すエルに見えない衝撃波を放った。
巨大な破裂音が0番ホームにこだまする。
「鏡……?」
しかしヴァロンの攻撃は突如現れた大きな鏡によって防がれた。
気絶したエルに代わり、鏡の魔王カリスが自身の魔力で呼び出した鏡である。
「さっきから黙って聞いてりゃゴミ掃除だぁ? ゴミはテメーだ没落貴族が」
「…………今何と言った?」
「あーれぇーっ? かつて大魔王でいらっしゃった優秀なご先祖様の脛をかじって威張り倒してるだけの七光りがなーんか言ってらーっ! ケッケッケッ!」
「貴様……偉大なるヴァンデルセン家を侮辱した罪は重いぞ……っ! その身をもって贖え!!」
「上等だ、テメーで末代にしてやるぜ! エルには悪いが俺様は昔から
「そこまでよヴァロン・ヴァンデルセン! そして…………鏡の魔王カリス」
一即触発の二人の間に割るように空から舞い降りて来たのは紫色の鱗にステンドグラスを思わせる美しい翼を持った竜人の女だった。
「あん? 誰だオメー?」
「いきなり誰だとはご挨拶ね。ルディエの言う通りだわ……こんな気品の欠片のない粗暴な奴が魔王のカードの精霊なの?」
「おーいエルー生きてるかー?」
『ほへー……』
「駄目だすっかり伸びてら」
「まぁいいわ……わたしはフィオレ・ラ・フィーネよ。忘れないようにしっかり覚えておくことね」
「フィ、フィオレ!? フィオレだ!! 現大魔王の娘!!
「あーーっ! 誰かと思ったらオメーーっ! 水の魔王ルディエちゃんじゃあーりませんかぁ! ひっさしぶりーー! イェイ! イェイ! あれもしかして髪切った?」
「人の話聞きなさいよ! さっきからなんなのコイツ!?」
『カリスは昔からこうだ、礼儀を知らん』
「ほんで何お前、今はこんな小便臭いクソガキのお守りなんかやってんの?」
「誰が小便臭いクソガキよ! カードのくせに!」
『だからコイツとまともに会話を合わせようとしても徒労に終わるだけだぞ。貴様もいちいち反応するな小娘』
「そうだゾ小娘? 大人になれ?」
「はぁ、もういい……疲れた」
「そこをどけフィオレ」
「嫌よ、わたしがどいたらこの魔族を殺す気でしょう?」
「今は貴様の相手をしている場合ではない」
「大魔王選前なのに下らないことで揉め事起こすなって言ってるの」
「どうしようとオレの勝手だ」
「あなたが短絡的な行動をする度に
「大魔王学園の規定に従いマジカルカードで決着つけてみる?」
「チッ……」
ヴァロンは不服そうに舌を打ち鳴らすと人込みの中に消えていった。
「その身体の持ち主はカードの中にいるの? 今話せる?」
「まだ意識が戻ってねえんだ。伝言があるなら聞くぜ?」
「別にいいわ、意識がある時にまた来るから」
「そーかい」
「あ」
フィオレは少し考えるようにピタリとその場に立ち止まると再びカリスの方へ身体を向き直した。
「やっぱり伝言頼めるかしら?」
「なんだよ?」
「勝ち残っていたらまた会いましょうとね♪」
そう言い残した後フィオレも人ごみに紛れていった。
フィオレもまたペアを探しにいったのだろう。
さてこの身体のケガはどうしたもんかな。
「だ、大丈夫ですかー! うわわっ! ななな……っ! いやァァァァァァァ!」
フィオレと入れ替わるように新たな魔族の子が現れた。
羊のような特徴的な角と身体に巻きついた植物の蔓から植物系の魔族のようだな。
膝を強く擦りむいたのか傷になっているようだ。
「いたたたたた……」
「ったくなんだよ、次から次へと騒々しいなぁ…………ん?」
なんだこのガキ。
今さっき擦り剥いた膝の傷がもう塞がりかけてやがる。
治癒能力に優れた魔族なのか。
「私は
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