第3話ーつかの間の休息。
☆★☆★
【大魔界学園行
「うぅん……んー? ここはどこ……」
ガタンゴトンとリズミカルに揺れる中、少しずつ意識が覚醒していく。
ボクは確か大魔界発の列車を見つけてそれから……。
「にょろろー! 気が付きましたか?」
耳元に女の子の声がして慌てるようにしてボクは飛び起きた。
「わわわ! いだたたたたた!」
「にょろにょろー! 良かったぁ……傷薬が効いたのですね! ただまだ完全に傷は塞がってはいないから無茶はしちゃダメなのですよ!」
頭に大きな角のある魔族の女の子だった。
体には緑色の蔓が巻きついており、恐らくは植物系の魔族であることは分かった。
どうやらボクはこの子の肩に頭を乗せていたようだった。
「ここ、どこ!? それに君は……っ!?」
『安心しろ、ここはもう列車の中だ。お前が倒れてからかれこれ1時間くらい経ってる』
「列車の中!? じゃ、じゃあこの子は……」
「改めまして! わたしは
ルビィは自分に巻きついている蔓をボクの手元に伸ばしてきた。
植物系の魔物流の握手みたいなものなのかな?
怪訝に思いながらも伸ばされた蔓を手で握った。
「よ、よろしく……ボクは
「にょろー♪ よろしくなのですー♪」
不思議な魔族だなぁ。
独特の雰囲気があるというか。
「……っ!」
ボクは今自分の心に浮かんだ思いを飲み込む。
まだ決まったわけじゃない。そんな簡単に友達ができるなら今までも苦労なんてしてないんだから。
『……』
「にょろー? どうかしましたかー?」
「な、なんでもないよ……あははは」
『感謝しな。あの
「そうだったんだ……あの、ありがとうございます」
「にょろにょろー! またどこか痛い所は無いですかー?」
「おかげさまで痛みはほとんど無いよ。ただなんか汗をかいたにしてはやけに身体がすごいヌメヌメするくらいで」
「にょろ? あぁ! それは傷ついた身体に治療薬を塗っておきましたのでそのせいでしょう! わたしの体液は即効性の傷薬になるのです。身体から滑りが取れた頃には傷は完全に塞がっていると思うのですよ」
「ありがとう……え? 君の……た、体液!?」
「にょろーっ♪」
『エル……こいつ、一見のほほーんとしてるがかなりの変態魔族だぞ。傷ついたお前が身体に体液を塗りつけるためにこいつのアレであーんなことやこーんなことを……』
「え!? えぇぇぇぇぇぇ!?」
「へ、変態とはなんですか! 変態とは! アレは魔族救助のための医療行為なのですよ!? えちちな想像しないで欲しいのです!」
「ボクが寝ている間に何があったの!? 何をされたの!?」
『まぁなんだ……お前は知らねえ方がいい……忘れろ? いいな?』
「にょろろ?」
それから大魔界学園に向かうまでの間、ボクはルビィといろいろと話をした。
といってもボクにはロクな身の上話がなく、ほとんどはルビィが話しているのを横で相槌を打っているだけではあった。
でもそれでも楽しかった。
こうして他愛のない会話をしている間だけはボクはここにいていいと言われているような気がしたからだ。
ルビィはちょっと変わっていたが、とても心の優しい魔族だった。
話下手なボクとも何か気分を害した素振りも見せず、話をしてくれるし聞いてくれる。
故郷のこと、幼少期の思い出など彼女の身の上話からもその優しさが感じられた。
「密林魔界?」
「そう。それがわたしの育った魔界です」
「密林魔界にはいろんな魔族がいます。泳ぎが得意な魔族、お空を飛べる魔族、お歌を歌うのが上手な魔族、力持ちな魔族、でも何故かみんな喧嘩ばかりしているのです」
「そうなんだ……喧嘩、ねぇ」
そこで育ったというルビィを見ているととてもそんな物騒な魔界には思えないけど。
「わたし達の先祖は過酷なジャングルの生存競争を息抜いて進化をしてきたがために、周りを蹴落とすことしか頭にない魔族がとてもとても多いのです。だからこうして生き残った後も『俺の方が強い』『私の方が素晴らしい』とおバカな理由で口論になってお互いを攻撃し合うのです」
「そういうものだと思うけど」
そう答えるとずっと会話を続けていたルビィがボクの顔を凝視してきてボクはドキリとした。
もしかして怒らせてしまったのではないか? という懸念が脳裏をよぎり、掌が汗ばむのを感じていた。
「えっと……君の言っていることが間違っているってことじゃなくて……なんていうのかなーあははは」
「エルも戦いたいんですか?」
「そうじゃないけど……強くなりたいんだ」
「同じじゃないんですか?」
「なんか違う気がする、上手くは言えないんだけど……」
「……」
まるで頭に散らばった言葉をパズルのように組み上げるように下手くそながらにも必死に言葉を紡ごうとする。
その間もルビィはボクの言葉を待っていた。
「戦いたくはないけど逃げたくもないって思っちゃうんだ。周りから怖がられてしまってるけど仲間にはなりたいんだ」
「エル……」
「わ、わがままだよね……でも喧嘩ってそういうお互いのわがままを我慢できなくなった時に起こるものだから。きっとルビィの故郷の魔族もそうだったりしないかなー……なんてね。誰だって痛いのは嫌だと思うから」
「エルはとても優しいのです」
「怖いものが多いだけだよ」
「失う怖さを知っているからエルは優しいのです」
「そ、そうかな?」
「そうなのです」
「……っ」
褒められることに慣れていないからか気の利いた言葉が浮かばない。
何か、何か言わなければと頭を巡らせるこの瞬間ですらボク楽しいと感じていた。
「そういえばさ、ルビィはなんでボクとペアになったの?」
「お友達センサーです!」
「お、お友達センサー?」
「エルからは優しい魔族からしか受信出来ないお友達電波をキャッチしたのです! ピリピリー!」
ルビィは特徴的な大きな角に両手を置き機械のように手をクルクル回し始めた。
全然意味が分からなかった。
「ぷっ……なんだよそれ」
「にょろろ?」
「あっははははは! ルビィは面白い魔族なんだね」
「そうですかー? ピリピリー! ピリピリー!」
笑いのツボに入ったらしく、今まで抑えていた感情が噴き出すように止まらなくなってくる。
「あっはっはっは! やめて! なんか良く分からないけど笑いが止まらなくなって! あはははははは!」
「やっぱりエルはもっといっぱい笑った方が素敵だと思うのです」
あはははははは! はぁはぁ……え?」
「そんなわけないよ……怖い見た目してるってみんな言うしボクもそう思ってる」
「いろんな見た目の魔族がいていいと思うのです。その黒い目の隈もクルンと丸まった赤い髪も可愛らしいし、その赤い唇も色鮮やかでせくちーだと思います!」
「…………っ!?!?!?」
「ど、どうしたんですか? エルそんな慌てて!」
『おいルビィその辺にしてやれ! コイツ褒められることに慣れてないからすぐ真っ赤になるんだからよぉ! ケッケッケ!』
「そうだったのですか?」
「もうカリス! からかわないでよ!」
ふとボクはある事に気付く。
「そういえばルビィはカードの……カリスの声が聞こえるの?」
選ばれし魔族に扱えないマジカルカードの中でも魔王のカードの声が聞こえるのはさらに一握りだ。
しかし考えてみればルビィはさっきからカリスとも何不自由無く会話をしていた。
「ずっと聞こえていました。そういう魔族だと思っていたのですが違うのですか?」
「あはは、なんかルビィらしいね」
「にょろー?」
「ううん、なんでもないよ」
『うーんラブコメの風を感じるぜ。ヒュールリラー♪』
『あーあー、聞こえるかな? マジカルカードに選ばれた300名の魔族達よ』
「……っ!」
ここは個室だ。
ボクとルビィ以外はいない。
でもどこからか声がする。
「この声……どこから!」
『車内アナウンスだ! 空間魔法を利用して何処か違う場所から話しているんだ!』
『初めまして、僕は大魔界学園の理事長をやっているマクラというものだ。君達が来るのを心から待ち望んでいたよ。次期大魔王を選抜する特殊教育機関、大魔界学園の一生徒として』
「カリス、この人って確か」
「あぁあの時のやつだ。突然現れカードバトルを仕掛けてきたと思ったら入学案内と切符だけ渡して帰ってったやつ!」
『あいにく王族管理委員会の要請で入学式は開催出来ない決まりとなっている。だから我々学校側の方で独自に入学式に変わるイベントを用意した。名付けて列車バトルデスマッチだ』
「れ、列車バトル!?」
『デスマッチだぁ?』
『ルールはいたって簡単だよ、クックック……』
『今ペアとなっている魔族とマジカルカードバトルを行い、負けた者は王位継承権を剥奪され文字通り命を落とすというルールだ』
「にょろっ!?」
「な、なんだって!?」
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