☆第一章☆
第1話ー魔王のカード。
ここは大魔界。
幾多ある魔界をまとめ上げる
その大魔界に一つだけ存在する教育機関が王立大魔界学園であり100年に1度、神聖な催しを執り行うだけのために開校する特殊な学校なのだ。
魔族の子供達を競わせ、次期大魔王を選抜するという魔界全土の命運を決定づける重要な催しを。
大魔界学園に入学するための必須条件は一つ。
一握りの選ばれし魔族にのみ扱うことが出来るマジカルカードを所有していることである。
【大魔界学園 理事長室】
「この男子生徒が噂の……」
「あぁ、今度大魔界学園に入学予定の
「お言葉ですがマクラ理事長、宜しいのですか? この大魔界学園に
「もう決まったことだよ。それに彼はマジカルカードを扱えるだけでなく魔界でも数えるほどしか確認されていない魔王のカードの所有者であることも確認が取れている。大魔界学園への入学資格を十分満たしていると思うがね」
「なんで他の魔族の子を推薦しなかったんですか? 大魔王候補として相応しい子ならもっとほかにおりましたでしょうに」
「魔王のカードの所有者であるなら素質は十分。なんせ百年に一度開校されるこの大魔界学園は次の大魔界を治める大魔王を選抜するための場所なんだから」
「し、しかし……もしこの生徒が大魔王選を勝ち抜いて
「私が今回の大魔界学園の募集要項に各魔族毎の定員制を設けたのはね……どの魔族にも平等に大魔王になるチャンスを与えるべきだと思ったからさ。いくら上級魔族だからといえ、いい加減
「もうどうなったって知りませんよ」
「とりあえず見守ろうじゃないか、大魔界に芽吹いた新たな可能性を」
☆★☆★
【大魔界駅 12番ホーム→13番ホーム連絡橋】
「うーん困ったなー」
駅の路線図を見る限り、大魔界駅発大魔界学園行の直通列車があるってことらしいんだけど……。
【
【
【モフモフ魔界行→5番ホームへ】
【
ど、どこなんだ……。
外には随分と変な名前の魔界が多いんだな。
『どうしたエル?』
「あぁカリス、いやその……また迷っちゃったみたいで……あははは」
腰に装着しているマジカルカードケースから一枚のカードが光り出しボクの頭に語りかけてくる。
カードの名前をカリスといい巷では魔王のカードと呼ばれているカード群の一枚だ。
自ら意思を持ち、こうして会話が出来るのが魔王のカードの特徴らしい。
マジカルカードには特殊なレジストがかけられていて素質の無い魔族には真っ白なプレートにしか見えないらしいがボクにはマジカルカードのテキストも絵柄もハッキリと見えていた。
正直マジカルカードが扱えようが無かろうが日常生活が見違えて豊かになるわけではないが、おかげで高級魔族でもなければ何のツテもないボクのような魔族の子供でも大魔界学園に入学することが出来たのだから一応感謝はしている。
『またかよぉ……これで何回目だよオメー! わざとやってんじゃねーだろうな? ギリギリを演出してんじゃねーぞこのスカタン!』
「違うよ! メインストリートがこんな迷路みたいに複雑なんて知らなかったんだから!」
『そうかぁ? 前からエルの迷子癖は酷かったような気がするがなぁ……ケッケッケ』
「うるさいよ!」
カリスはボクと違って本当にお喋りな奴だ。
口下手なボクの分まで喋っているような気さえしてくる。
とにかくこのままじゃ拉致が開かない。
あんまり気が乗らないけど、誰かに聞くしかないか。
ぼんやりと辺りを見渡していると
あの駅員さんにしよう。
自分から話しかけるのは少し抵抗があったが意を決して後ろから声をかけた。
「あの」
「はぁい何か御用、で……」
尻尾を振りながら上機嫌に振り返る駅員さんだったが、ボクの姿を見ると見るからに不愉快そうな顔をして毛を逆立て始める。
「大魔界学園行きの列車は何処のホームに行けばいいですか?」
「…………君、
「そ、そうですけど……」
「じゃあ入界パスポートと切符見せて?」
「えっ、いやあの……」
「どうしたの、有るんでしょ? 早く見せて」
『なんだコイツ? 感じ悪いな、エル! こんな舐めた奴もっとガツンと言ってやれ!』
「パ、パスポートも何もボクは元々大魔界の出身で……切符はありますけど」
『ハァ……ダメだこりゃ……』
「そんなわけないだろ。どっかの地方魔界ならともかく
駅員さんはそう言うとボクの手を掴み、無理矢理事務室に押し込もうとしてきた。
成体となった
「わわわ! 痛い痛い痛い! 引っ張らないでください!」
「黙れ! どうせ不法入国なんだろ? ん? 本当は
「そ、そんなぁ!」
『チッ、あーもう見てらんねーな! エル! 俺様と代われ!』
「へ? いや! ちょっと待っ……っ!」
突如マジカルカードが光り出し、意識が
まずい、この感覚は。
「なんだ今の光は!? ますます怪しい! 隠している物全部出すんだ!」
「……」
「この汚れた一族め!」
「……っせーな」
「!?」
「キャンキャン吠え散らかしてんじゃねーぞワンコロがぁ」
「なっ、あが……」
『し、しまった! カリスの奴に身体を乗っ取られた!』
今ボクの体はカリスに乗っ取られている。
喋っているのも、駅員さんに怪しげな瞳術をかけて脅しているのもカリスだ。
カリスが憑依している間、ボクの魂はカリスと入れ替わるようにカードに移る。
理屈はよくは分からないがそういう仕組みらしい。
「体動かせねえだろ? そうだ、もっと俺様を見ろ。俺様の瞳に映るお前自身に直接語り掛ける。二度と俺様から目を離すな、嘘も隠し事も許さねえ」
「こ、これは……瞳術……っ!? 何故
カリスは瞳に力を込め、無防備な腹に拳を押し込んだ。
瞳術の拘束が一層強くなったからなのか駅員さんは叫ぶことも出来ず、区籠ったような唸り声をあげる。
「誰が許可無く喋っていいつったよワンコロ。両手両足全て引きちぎって体の穴という穴に挿し入れてもっとキャンキャン言わせてやろうか? ちなみに俺様のおすすめは両手を耳穴に突っ込んで片足をケツに」
「アガガ……アァ……ッ」
駅員さんが激しく尻尾を振り、とうとう白目を剥き始めた。
危険を感じ、急いでボクの身体にいるカリスに語りかけた。
『待ってカリス! これ以上力込めたら駅員さん死んじゃうよ! 早く戻してあげて!』
「チッ……良かったなーワンコロ? エルの顔に免じて命は取らねーでやらぁ! あー俺様優しー! 抱いてー! イェイイェーイ!」
「ゲホッ! ゲホッ! ハァハァ……」
「ただしそのかわり
☆★☆★
『おーいなーにむくれちゃってんのよー! エルきゅーん! エルちゃまー! エルちゃそー!』
「なんであんなことしたの……?」
『な、なんでってお前が困ってるみたいだったから助けてやったんだろうが』
「あの時はっきりと言えなかったボクにも責任はあるし助けてくれたことに一応感謝はしてる……けどやっぱり暴力はダメだよ!」
『エル……』
「乱暴されたからって必ずしも暴力を奮っていい理由にはならないよ! そんなこと続けていったらあの駅員さんの言うように」
「
『ハァ……わーったよ! ったく……ただエル、一つだけ言っとくぞ』
「なに?」
『弱い奴がいくら正しいことをしようとしたって筋は通らねえぞ。それは理不尽でもなんでもねえ、ただのお前のわがままだ』
「……っ!」
「もしお前が本当に暴力が嫌だってんなら他の力を身につけろ。もっと強くなれ。有無を言わせるな。好き勝手させたらどうあがいてもお前の負けだぜ」
「わかってるよ……そのためにボクはここに来たんだ」
『分かってるならよし! さすが俺様の見込んだ
「今
『細えこたぁいいんだよ! さっさと先へ行こうぜ! 場所も分かったことだし!』
「え?」
『0番ホームだってよ。さっき去り際にあのワンコロの頭覗いたらそう言ってた。心配すんな俺達と会った時の記憶は俺様が食べといたからよ』
「でも0番ホーム? そんな名前のホームどこにも無かったと思うけど」
『改札口に認証パネルあったろ? そいつに切符とマジカルカードを重ねてかざすと転移魔法が起動して0番ホームに行けるんだってよ。タネが分かれば呆気ねーぜ』
「なら急ごう! 大魔界学園の列車は朝と夜で一日に二本しか通ってないらしい。次の列車逃したら夜だよ!」
『あぁ、行こうぜ…………ん?』
「どうしたの?」
『おいおい……もしかして全員参加かよ!? ケッケッケ! こりゃあ面白くなって来たぜ! 豪勢な同窓会になりそうだな!』
「な、なんだよいきなり」
『気にすんなこっちの話だ。それにいずれ分かることだ。お前が魔王のカードの所有者である限りな』
「え?」
『しゅっぱつしんこーう! ブロロロロ!』
「いたたた! カードケースごと引っ張るなよ!」
『今回の大魔王選は貴様も参加するのか。鏡の魔王カリスよ』
「えっ? まさかあの
『……ッ』
「ちょっと! 無視しないでちゃんと聞かせなさいよ!」
『詳しい話は列車で話す……だからこんな場所で大声で騒ぐなお転婆娘。
「んなぁ! カードのくせに生意気ね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます