第4話
「こちらにゲートを開きます、あまり長い時間はもちませんので……」
迎えの悪魔が申し訳なさそうにスクロールを開く。
初めて見るゲートの魔法は、中空に蜃気楼のようなゆがみが現れるものだった。
ゆがみをくぐるとそこはガンダガル魔族院、私が過ごす学び舎だ。
まず、先ほどまでいた海辺の町とはにおいが違う。
私は慣れ親しんだ潮の香りがなくなったことに、不安を覚えた。
「ツナ姫様、編入は明日でございます。今日のところは寮の居室にご案内します」
悪魔族の人は先ほどより顔色がいい。
おどろおどろしい魔木の森に囲まれた魔族院は、彼にとって過ごしやすいようだ。
敷地は広く、大きくそびえる中央校舎の他に用途不明の建物がいくつもあるのがわかる。
そのうちの一つが、私の入る寮のようだった。
「こちらです……部屋の用意はできているか?」
魔石造りの頑健そうな建物だ。
悪魔族の人が玄関先で掃除をしている管理人らしき人物に声をかける。
「セバス先生、それが手違いで……」
「なに? ふむ……それでは仕方がないか……」
二人でこそこそと話しながら、私をちらちら横目で見てくる。
(何を話してるんだろう?)
やがて話は終わったようで、悪魔族の人、もといセバス先生は大きくため息をつくと私に向き直った。
「ツナ姫様、こちらの寮ではなかったようです」
「え?」
優雅にほほ笑んだセバス先生に案内されたのは
「厄災寮です。魔族院でも歴史ある寮の一つですね」
(すごいボロボロだけど……)
先ほどの魔石造りの建物とはうってかわって、薄い板の壁はところどころ穴が開いている。
本来庭があるべきスペースには、私の腰ほどまである陸の草が繁茂していて、地面が見えない。
私は海王の孫とはいえ百人いる孫の一人だから、母に女手一つで育てられた。
だから王族って感じは全くなくて、下町のみんなが友達で家族だった。
つまり私の実家は決して豪奢ではないのだが、それにたってこの寮はおんぼろに思えた。
(陸ではこれが普通なのかな?)
セバス先生が古びた扉を開けると、そこにはシャツに腰布一枚の女子生徒がいた。
「てめ、この先公! 無言で開けるんじゃねえよ! 殺すぞ!」
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