第3話

 圧倒的だった。

 ふらふらと広場の中央に出たミシェルを、だれも気に留めていなかった。

 しかし一息吸って歌い始めると、文字通り空気が変わったのだ。

 手足を大きく使って、見たこともないステップを踏みながら、激しいリズムの歌を歌う。

 二フレーズほど歌う頃には、広場の魔族たちが皆、手拍子でミシェルを応援していた。


「みんな、どうもありがとう!」


 優雅な動作で礼をするミシェル、見物人たちもしばらく拍手を送っていたが、やがて散り散りになっていった。

 残っていたのは私だけだ。


「ねえ、なに今の? あいどるっていうの?」

「そう、今のが『アイドル』のステージさ」

「私も……!」


 私も? やりたいっていうの? どうして、こんなのはじめてだった。


「やりたくなった?」


 ミシェルは優しく微笑んでいる。


「やりたい! 私もあいどる、やりたいです!」

「それは素晴らしい。私の歌もたまには響くことがあるんだね」

「でも、君にはお迎えが来ているようだ」


 ミシェルは器用に右目だけつむってみせた。


「お待たせして申し訳ありません……ハア、ハア……海王マグロ陛下のご令孫、ツナ姫様でお間違いありませんでしょうか?」


 ガンダガルからの迎えが来ていた。

 走ってきたようで、息を切らしている。

 人型をしているが、額から生えた角から、悪魔族と思われた。


「はい、私がツナです。ミシェルさん……」

「ツナ、というんだね。かわいい名前だ」

「あの、私これから学院で暮らすんです。だからミシェルさんとはお別れに……」

「大丈夫。君の中にはもう『アイドル』の光がともっているから、いずれまた会えるよ」


 その時はステージでね、と言い残してミシェルは去っていった。

 私と迎えの悪魔族だけが、その場に残された。

 あいどる、意味はわからない。

 けれどミシェルの言った通り、私はあいどるが気になって仕方がないのだった。

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