思い出の子

バブみ道日丿宮組

お題:記憶の女の子 制限時間:15分

思い出の子

 恋人は小腹が空いたからと進言し、一緒にレストランに入った。

 注文の待ち時間に、

「ねぇ、この子覚えてる?」

 すっと恋人は、1枚の写真をテーブルの上に置いた。

「うーん、見覚えはあるような気がするけど、確かじゃないかな」

 そこには白いワンピースをきた金髪女子が笑ってた。

「そっか。そうだよね」

 残念そうな顔を恋人は見せる。

「これは一体誰なの?」

 そんな残念がるような有名人なのだろうか?

 俳優の子役ぐらいは見たこともあるし、聞いたこともある。

 だから、その子達ではないことは確かだ。もちろん、名前が知られてない俳優の可能性もあるだろうけど、あまりそういった話を恋人はしないし、それもないだろう。

「これ、幼い頃の私なんだ」

「……そうなんだ」

 そんなものをいつも持ち歩いてるの? という素朴な疑問がわき、

「大切なものだったりするの?」

 言葉が続く。

「覚えてないかな? 小学生の頃なんだけどさ、一緒に遊んだことがあったんだよ」

 恋人との出会いは、大学生の頃だと思ってたが、それは違ったようだ。

「……覚えてないかな。少なくとも記憶に該当する女の子は思い浮かばない」

「そうだよね。よく公園で遊ぶことはあっても、学校で話したりってことはなかったものね」

 同じ学校で、同学年なら、遭遇することはなかったのだろうか?

 こんな可憐な子がいれば、男子が騒ぐはずだ。

「私って存在感がないせいかさ、よくいないことにされてたんだ」

「それはいじめじゃなくて?」

「ううん、嫌われてたとかはなくて……単純に忘れられてた感じかな」

 恋人は人指し指でお茶の入ったグラスをつつく。

「見えない人。それは先生でもたまに見えなくなる」

 とてもそうとは信じられない。

「当時は魔法のように思ってた。人に観測されないってさ。子供の考えだよね」

 でもさ、と言葉が続く。

「やっぱりいることには変わらなくて、人をつついたりすれば反応が帰ってくるし、体育でかけっこをすれば悔しがられたり、ちゃんといたんだ」

「それで急にどうしてこの写真を?」

 一番の疑問はそこだった。

「君なら覚えてるかなって思ったんだけどさ。やっぱりわからなかったね」

「記憶なんてそういうものだろうから」

 そうだねと、恋人は頷き、この話題は終わりを告げた。

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思い出の子 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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