稲木明海 2.0 (2028)

寒い。


こんなとこでブラウス一枚って、よくやるなあ。


「Awesome(最高)」


撮影で来ているノルウェー中部は、今、氷点下1度


「ねえ、いつになったら宿戻れる?」

「あー、まだ2ページ分しか撮れてないみたい」


あの人、ミナガワさんに似てる。あの人、良かったな。


って、こういうこと、たまにあるんだよね。

仕事してたり、何か忙しいときでも、急に人生で大事だった、印象に残ってることを思い出して、それでいっぱいになっちゃう。でもそれで、私の意識はどこかへ飛んで、いつものダメな私から、空っぽで女神みたいな私に変身できる。銅像みたいな。


でも思い出していっぱいになるって、それだけ、過去って大きなものなんだろうなあ。今がどんなに、昔の自分より遠いものになっていても。


ミン、か。明海で、自分の名前の明って字がなんか好きだったし、なんか響きがアジアンビューティーっぽかったから、ミン。それでよくミナガワさんと撮り行ったなあ。


あの人も今じゃ、けっこう有名な写真家で、いつか仕事できたらいいな。お互い、プロになったわけだし。


まあ、でも、あの人海外とかあんまり興味なさそうだしなあ。人と人とのかかわりとか、そういうのが好きだからなあ。神聖な風景と女性の肉体美とか、そういうシンプルで強いやつ、あんまり理解できなそうだし。無理か。


私にはこうやってヨーロッパやアジアでモデルやる日々があってるし、そこに食い込めるほど別にあの人は大きな存在じゃないし。


でも、懐かしいなあ。あの頃は何やってもぎこちなくて。いまだってあがり症だけど、ほんと何するにも緊張して。


「明海ちゃん、移動するって。森の西にある湖だって」


あー、また寒いとこに。

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