ラストセッション 逃げ終えた風と真実の海 後編
赤羽、菜月。知ってたんだ。
うん。
なんで知ってるの。
だって、ゆうくん、引っ越す時突然だったでしょ?
うん
私、その時おかしいと思ってね、あんなに気に入ってた部屋だったのに、急に引っ越すなんて。ゆうくんは、大学にもっと近い物件にしたい、としか言わないし、あそこで十分近いのに。…それで、あのマンションの管理人さんに訊いたの。何かトラブルあったんですかって。
ああ。そりゃあ、バレるかあ…
うん。それで隣のマンションの赤羽って女の人と揉めてたって聞いて。
でも、なんでその時、問いたださなかったの、俺に。
私はゆうくんのこと、当時は信じきってたから。いつも私に優しい純粋な、私のことが大好きな人、くらいにしか思ってなかったからさ、2年前のあの時は。
そっか。
今はね、その赤羽さんと何かやましいことがあったって、気づいてるよ
そうなんだ
檜佐木さんに気持ちがゆらいで、ゆうくんと別れようかなと考え始めたころ、だから、今から3, 4か月前あたりからかな、けっこう私たち、何度もエッチしたじゃん。
うん
その時にね、ああ、この人、日常的にエッチしてるんだろうなって、なんとなく気づいたの。あんまりに気を遣えすぎて、私が気持ちよくなれる触り方とか、リズムとか、そういうことするまでの雰囲気づくりとか、完璧すぎて、ああ、普段からほかの女の人もこうやって、機械的に悦ばせてるのかもなあって。
恥ずかしいな。
ほんと、恥ずかしいよ。じゅんちゃんは今でも下手で、けっこう乱暴で、でもそれで私も思いっきりぶつかっていけるの。ちょっと試合みたいな、すごい激しい感じで、盛り上がるんだよね。下手は下手なんだけど、それが愛しくて、楽しいんだ。
俺の前でそんな赤裸々にのろけないでよ。てか、じゅんちゃんって…
ごめん、でも、全然違うから。
…
とにかくそれで、ああ、純粋な人だと思ってたのに、女好きだったんだ、とか、でも、それでも私にはなぜかエッチしてくれなかったんだとか、色々考えちゃって、それから、ああ、あのマンションの管理人さんが言ってた赤羽って女の人とは、そういうことだったんだなって。
なるほどね。
…それまでも、じゅんちゃんだったり、周りの友達に、ゆうくんはヤリチンだから別れろ、とかも言われたことあったんだけど、でも、あんなに私に優しすぎる人が、そんなほかの女とエッチできるわけないって、まったく周りを信じなかったんだよね。
でも、望海にだけ優しくしてたよ、俺は。
俺は最低だったけど、そこだけは、ずっと変わらなかった。心の中から、見返りがなく、嘘がなく優しくしていけたのは、望海だけだったんだ。
え、
…
泣いてる?
いや、なんでだろうね。なんか、楽しかったころのことを思い出すと、こう、なんていうか。でも、自分が性欲に負けて、望海を綺麗なままそばに置いておきたくて、色々やっちゃってたことに、なんてことしたんだろうって、もう。
うん。…まあ、今でもさ、ゆうくんが純粋な人だったって、思ってるよ。最低だとは思うけど、でも、美しい心を持ってるんだなって、今でも本当に思ってる。デートもいつも楽しかった。…でもさ、やっぱり私だけに純粋すぎる、ダイアモンドを触るように扱って、周りの女の子には気軽に裸になってるのは、嫌だよ。気持ち悪いって思っちゃうよ。平凡な私には、その歪んだ純粋さには、ついていけなかったの。普段から、私の方からじゃなく、ゆうくんの方から、乱暴に私に触って欲しかった。
そうだね。ごめんね。
私も付き合ってる時にじゅんちゃんと会って、ごめん。
今日、ほんとに話せてよかった。ずっと、引っかかってたんだ。自分の中では、ここ最近色々あって、それまであった問題を解決していけた気はしてたんだけど、やっぱり望海のことは、どこか避けられないって、そのまま胸の奥にしまってて、これを墓まで抱えて生きるのかなとか思ってたけど、、本当のことを話し合えてよかった。
うん。はじめて、腹を割って話したって、感じだよね。
そうだね、ありがとう。
じゃあ、これで。帰ろっか。
うん。
もう会うこともないだろうけど、私、ゆうくんのこと、ちゃんと好きだったよ。それだけ、覚えといて。
俺も、好きだったよ。
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