菅谷勇利 2.4

「話って何?」

公園で遊ぶ子供を見つつ、望海は言った。


「話、まあ、別れたことについて、ちゃんと話したくて」

僕は言った。


「ああ、あっそ」


え。


彼女のこんな様子は初めて見た。


彼女の持つ、僕への無関心や嫌悪が一気に押し寄せてきた。


人はこんなに変われるんだ。


いや、こんなにも自分を変えられるんだ。


僕だって同じだけどね。


「その、別れた時、全然俺ら、話し合えてなかったなと思って」


望海は「うーん」と言って、舌打ちでもしそうなくらい嫌そうな顔で、「そうかなあ」と言った。彼女は近くの自販機で買ったアイスティーを飲んだ。


彼女は明らかに苛立っているが、僕は別に何の怒りもない。


それはきっと、今から話すことが、彼女をさらに怒らせるだろうということを、恐れる気持ち、それが頭の中を埋め尽くしているからだ。


僕にも、彼女に不満があった。苛立つこともできる。


でも、言わなければいけないことが、ずっとあったんだ。

それが最優先になるのは、自分でもわかっている。


僕だってもう今の望海に会いたくない。

それでも、これを言わなければ、僕は前に進めないよ。


「あのさ、俺、」


いや、そんなの意味あるか?


今更、


浮気をしていた


そう打ち明けて、彼女はどう反応すればいいんだ。


僕の独りよがりじゃないか。


なんなんだよこれ。


何がしたいんだよ、俺は。


急に彼女の家近くの公園に呼び出して。


もう彼女ですらないのに。


「で、なに?」彼女が言う。


「あの、その、付き合ってた頃の話なんだけど」


「うん」


いや、言った方が解放される。

引っかかっていた気持ちが取れる。

それでいいんだ。自己中でいいんだ。


「これ、荷物、忘れものね」

僕は彼女の持っていたピンク色のスカーフをバッグから取り出して渡した。


「あー、これ、ゆうくんの部屋にあったんだ」

彼女はスカーフを手に取って、少し笑った。


ダメだ。言えなかった。


無理だ、こんなの。


「じゃあ、今日はこれで」僕は言って、公園のベンチから立った。


「いやいや、なんなの?」

彼女は僕のシャツを引っ張った。


「え?」


「いや、ついさっき、別れた時のことについて話したいって、ゆうくん、言ったじゃん」


そうか。


「スカーフ渡すだけなわけないでしょ、それじゃ」


「そうなんだけど…」


「言いづらいことなの?」


「うん」


望海はため息を吐いた。


「私たち、クズだね」


「え?」


「いいよ、今日はちゃんと話そう。私も言えなかったこと、あるから」


「そっか」


彼女は、今見せている気怠そうな表情もヘアスタイルも服装も、僕と付き合っていたころとは変わり、一言でいえば魅惑的な女性になっていた。


だから、会いたくなかったんだ。


でも。

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