菅谷勇利2.3

福辺は田口の言葉に、すぐは返さなかった。


僕はなんとなく、察した。


「あー、実家帰った後ねえ」と彼はとてものんきに僕の買ってきたたこ焼きを頬張った。


僕らは彼がたこ焼きを飲み込むのをただ雨の音を聞きつつ待った。


「うん、まあけっこう考えてはいたんだよね。俺いつもさあ、何するにしてもパワポで資料作るタイプだし。女とヤる時にも、こう返答されたらこう返すみたいなの、一人ひとり資料作ってたこともあるし」


「それは引く」と小清水が言った。


「まあでもそういうタイプでさ、俺、意外と。だから実家帰ってから何しようかも、資料作っていろいろ考えてたんだけど。うーん。でもこれが難しくて。ていうのも、うち、なんも問題なくてさ」


なんも問題ないならいいことじゃないか。と僕は思う。


「いや、なんも問題ないならいいんじゃない?うちなんて親高齢で、持病もあって、僕が実家帰ったらずっと介護だよ。まあ、今は兄さんが東京から地元に帰ってやってくれてるからいいけど。…だからこそ、さっきも言ったけど、問題ないのはいいことだと思うよ。…絶対嫌だからなあ僕は、帰るの」


兄がやってからいいけどとか帰るの嫌とかってちょっと冷たくないか?小清水の説明不足か、俺の勘違いかな。


まあ、でもこの態度こそ小清水が僕たちのような人でなしと過去に遊べていた理由なのかもしれない。


本人は色々考えてるつもりなんだろうけど、共感力が低いというか、時々彼は僕らの中で最もクズだ。気づいていないところがまた恐ろしい。


「コッシー、そうだったのか」と福辺が言って、続けて話しだした。


「でも、やっぱ普通にまあ、完璧じゃないし貧乏の部類だけど、日々なんとか問題なくうまくいってる家族の中だとさ、ちょっと異常なんだよ、俺が。それに兄も姉も親もいとこも、みんな札幌である程度安定した仕事があるし、そんななか東京の大学行きたいってめっちゃ言ってた俺がこんなバカみたいな結果で帰るのがさ、なんか全然、現実味がないというか、でも実際こうなっちゃってるから、帰るしか思いつかなくてさ、なんて言ったらいいかわかんないけど…だから、帰ってから何するか、全然わかんないんだ。みんな優しいから、俺の境遇を受け入れてはくれるだろうけど、負担になるのが怖いし、それに俺みたいなやつにあっちで仕事なんかできんのかなあって…ちょっとね」


久しぶりに会う福辺は本当に、以前のような女に好かれるタイプから変わってしまった。まるで望海と会っていた時の僕のような、自信がなくて、何かを恥じているようなふるまいだ。


でも、それでも進んでいくしかないんだろうな。これまでもそううまくは解決しなかったし、きっと将来もそうだ。


僕らは福辺に何も言えなかった。



それから麻雀をして、海外ドラマを見て、解散した。


なんかみんなが解決してない悩みを話すだけ話して、全然すっきりしなかったが、でもそんなもんだと思った。


完璧だと思ってたやつが、意外と人間だったんだと思えて、世界全体に少し親近感がわいた。





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