菅谷勇利2.2
「あー、やっぱ知らないよな。もう1年くらい連絡とってなかったし」と福辺は言った。
「え、何があったん」と僕は言った。
田口と小清水は申し訳なさそうにしながら福辺の言葉を待っている。
「俺、今無職なんだよね」福辺は言った。
「え、でもお前、なんかすげー有名なメーカーに内定きまってたよね」
「そうなんだけどさ、そこ、コロナの影響もろに受ける商品ばっかやってて、それで、フツーに内定取り消しになってさ。去年の11月くらいに」
福辺は何事もうまくこなす奴だった。
少なくとも僕からはそう見えた。
どこか、ミナガワさんにも似た雰囲気があったかもしれない。
だから、今僕の目の前に映る、福辺の卑屈な表情は僕の知る彼ではない。
「だから俺、それからも就活やってたん、だけど、いやあ、それでも就活のメインシーズンは8月あたりからもう終わっちゃってたし、かといって名前書きゃ受かる変なブラック企業も行きたくなくてさ。それで、やめちゃってさ。それからバイトとかもやってたんだけど、なんか何やってんだろう俺って感じで、最近やめて。わけわかんないよな」
彼は平静を装ってパスタを自分の取り皿に盛り、食べ始めた。
「そうか…そりゃ、きついな」と僕は言った。
田口が咳払いをし、彼は自らの整えられた髭を触りながら話し始めた。
「いやー、人生そんなもんよ。俺も華々しくなんかの賞もらってメジャーデビューとか、あとはライブハウスで歌ってたらスカウトされるとか、そういうのができるほどの才能はないってわかっちったからさ、もうユーチューブで流行るような曲作ってって感じでここ最近ずっと、バイトしながらやってんだけど、全然ダメなんだよ。なんかこんなはずじゃないんだよなあ、俺の23歳って、って最近思うわ」
「いや、田口は夢見すぎだよ、さすがに」と小清水は笑い半分真剣半分のようなトーンで言った。
「コッシーきっつ。俺けっこー真剣だぜこれでも」と田口は持ってきたギターケースを指さして言った。こんな狭い部屋に持ってくるな。
田口は続けて、思い出したように俺の方を指さして
「まあ、そう意味じゃ、スガちゃん先生はまじですげえよ。目標ってか夢ってかさ、そういうのをストレートで叶えてってるよ」
と言った。
小清水の表情を見ずにはいられず、そして彼がなんとか平然とした笑顔を作ろうとしているのを見てしまった。
僕は今日、来ない方が良かったんじゃないだろうか。
僕はそらすように、アパート1階の窓から見える福辺の洗濯物と、その向かいの一軒家に干された洗濯物と、乾いたブロック塀を見て、「いやあ、どうだろうな」と言った。
僕は目線をボロネーゼに移し、一呼吸した後、「俺は別に映画俳優でも監督でも、映画ライターでもなければ、うん、ただのサラリーマンだからなあ。細かいことしたりさ、上司の言うこと聞いてさ」と、事実ではありつつそこまで気にしていない、本当だけど嘘でもある文章を放った。
「そういうもんかなあ」と田口は言った。
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