セッション2 逃げる風と負わされた影 後編
寿命を縮めてるっていうのは、やっぱり人格を造ってしまうことが良くないのかな。
そうだな。俺は脳のいろんなところを蝕んで、いわばオーバーワークをさせてる。
疲れとか感じないけどな。
ぼくちんの脳自身が、俺を消したら精神が崩壊するとわかっていたからだ。だから、ぼくちんが意図的に俺を無視して遠ざけないために、消させないために、無意識下で俺が生む疲れをシャットアウトしてた。でもそれはごまかしているだけで、脳自体にはひどい負担なんだ。
まじか。
だから、俺は消えたくないけど、消えないといけない。
そういうことか。分かってきたよ。
理解してもらってよかったよ。
それで、まあ、どうしたいって話なんだが、二つ選択肢がある。
うん。
俺を完全に消して、今のぼくちんとして生きるか、
もしくは俺の性格をまたぼくちんの中に戻すか。
つまり、2年前までの僕になるか、今の僕であり続けるか、か。
まあざっくり言うとそうだ。ただ、「今の僕」ってのに、俺みたいな都合のいい対話相手がいなくなる。それでも変わらず生きていけるかは、ぼくちん次第だ。
なるほど。
…
…
…
…
僕はこのままでいたい。
やめとけ。
だって、僕は2年前の空っぽで自堕落な自分に戻りたくない。
かといって、お前なしで今の僕として生きても、自分はうまくやれてるって気持ちを維持できるかわからない。
わがままもいいところだな。
僕は今のまま、いけるところまでいきたい。
こんな調子の良い時間、僕の人生で一度もなかったんだ。
やっと何者かになれたんだ。
ぼくちん、落ち着け。
さっきも言ったけど、今の状態は何年も続いていいものじゃない。
短く太く生きたいなんて思うな。
30や40で精神にガタが来て困るのは自分だ。
今の自分だけを見てるな。ほんの10年でいいんだ。長期的に考えろ。
嫌だ。
いい加減にしろ。
もうそうやって駄々をこねて、何とか大人が守ってくれる次元で生きてないんだよ、ぼくちんは。
…
これは病気だ。
医者もそう簡単に治せない。
でも今、奇跡的にこれを治せる、つまり俺を消せるチャンスなんだ。
こんなことは今後数十年、そう起きるものじゃない。
奇跡?
つまり、望海に振られて、それがきっかけとなって一時的に自暴自棄になり、初対面の女とヤッた。それから赤羽菜月と電話をして、自分の立場や行動を反省し、それから女とめちゃくちゃ衝動的にヤろうと思ってもぼくちん本人の理性で制御できてる。
自分のしてきたことを後悔し、怒られて、自分で自分を塗り替えて先に進んだ。
それによってぼくちんは今、いや、俺だな。俺は今、自分の必要価値がないと判断してる。
…
こういう気持ちは長くはもたない。どんなに良い映画を見ても、数日経てばその余韻から覚めて、いつもの自分に元通りだろ。
今、俺を消せ。
頼む。
…
頼むよ。
…
ぼくちんが決めなければ、何も始まらないんだ。
…
このまま終わることはできない。
…
さあ。
…うん
…
…
…
決めた。
…
…
そうか。そうするのか。
うん。
さよなら。
さよなら。
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