Kei Minagawa 1±7,000,000,000

また千葉県に来てもらった。僕ばかりに合わせてしまって、スガッチさんはいいのだろうか。


「この前のバズッた映像だけどさ、ありがとね」と僕は言った。


「ああ」と彼は言って、会釈した。庭園に咲いている小さな花を熱心に撮っている。


こちらもインスタから知り合いになった被写体のミンさんは、池の前でポーズをとっている。


僕は花ではなくミンさんを撮り、太陽光が後ろに来る構図で、彼女を女神のようなイメージにできないかと模索した。


「えと、スガッチさん?は撮らないんですか?」

と彼女は自分を指さして言った。


ああ、言ってあったんだけどな。彼女はあまり理解していないようだ。


スガッチさんは女性が苦手らしい。


知り合ったころはそんなこと言っていなかったのだが、最近被写体さんを呼ばせていただいて、一緒に撮るようになってから、彼はそれを言うようになった。できれば女性を呼ばないでほしい。呼ぶとしても、僕はあんまり話しませんよ、とのこと。


なんでも、裏切られたことがあって、女性不信なんだと。


ま、いろいろあるよね。




僕も20代のころ、女性は苦手だった。


自分でそう考えるのも気持ち悪いけど、何もしなくても少しモテる方だったから、何人かの子は僕が何をしても一定期間好意を持ってくれて。


それに甘えてお金も、家事も、性的なことも、いろいろと頼ってしまった。


だからこそ、そんななんでも引き受けてくれるその何人かの女性に、理解できない気持ち悪さを感じていて、それが僕の中で「女性」という大きな主語のイメージになってしまっていた。


でも、そんな中で妊娠の騒ぎがあって良かった。


あれは24歳の時か、避妊はしっかりしていたのに、早瀬奈津子が妊娠しているかもと言い出した。


コンドームだって、避妊の確立が100%じゃないとそこで知って、僕はその時ずっと後悔や罪悪感で引きこもっていた。有休をとってひたすら自室の隅でカーテンが揺れる様を見つめていた。


でも彼女は嬉しそうで、産みたい、認知してほしい、と僕に懇願していた。


彼女は結婚を望んでいて、「付き合うしかない」「責任とってもらうしか選択肢ない」など、あんなに僕の言うことを聞いていた彼女が、急に僕を追い詰めるようになった。


僕は何度も土下座をして、「おろしてくれ」と泣いた。


好きではなかったからだ。彼女と生きるビジョンも全く見えなかった。

彼女のことを、人間としても見ていなかったのかもしれない。


それから病院へ行ったところ、妊娠していないことが判明した。


生理周期が遅れていたのは過度のダイエットによるもので、市販の妊娠検査薬での判定も間違っていたらしい。


もしくは、彼女が嘘をついていたか。妊娠したと言って僕がどんな反応をするか、試したかったのかも。


僕は妊娠がなかったと聞かされて大喜びで病院を出て、彼女は無言でタクシーを呼び、一人で帰っていた。それから、彼女からの連絡は途絶えた。



それから結局、その女性たちが気持ち悪いんじゃなくて、僕が甘えてしまうのがすべての元凶であり、そして彼女たちはその僕の甘えを利用して自分の願望を叶えようとたくらんでいる、ただの普通の人間だと気づくことができて、気持ちが楽になった。


それから、僕は女性と一度もセックスをしなくなり、付き合うまではキスも含め身体的な関係を絶対に持たず、彼女ができた際にも、オーラルセックスまでに留めている。


これはトラウマと言えるのかもしれないが、そのおかげで僕は今でも精神的にとても健康でいられるし、もしこれから、遅ればせながら生涯の伴侶が見つかった時、その時に正しくセックスができるというのを、楽しみにしていられる。



スガッチさんもそんな、どうしようもない性的な悩みを抱えつつ、いつかは自分なりに乗り越えていければいいな。


そう思う。


もしくは、乗り越えなくたっていいかもしれない。彼なりの答えが今の形で、精神的に楽なのであれば、十分だ。



カメラに映るミンさんは、僕に向けて満面の笑みを見せてくれた。正確には僕の持つカメラに向けて。


最高の表情に最高のファッション、最高のロケーションに最高の夕焼け。


こりゃあ、またバズるかな。

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