菅谷勇利9

-心配性だなぼくちんは-


泌尿器科から戻された診断結果は、すべて陰性だった。


菜月にもうつされていなければ、過去の忌まわしい人たちからも、僕には何の影響もなかった。。


なぜか、少し残念だった。


-望海に会う口実ができないからか-

いや、僕は今の望海には会いたくないんだよ


-じゃあなんで残念なんだよ-

罰がないからじゃないかな


-ぼくちんは十分苦しんでるよ-

頭の中ではな。物質的な苦しみがあんまりないのが、気に食わないんだ。


電車に乗ると、小雨が降ってきて、僕の頭に水滴がつく。

隣に座る40代あたりの女性が舌打ちをして立ち、換気用の小窓を閉める。


乗客のうち、コロナウイルスに敏感な人たちが小窓を閉めた女性をにらむ。


皆マスクをしているのに、不思議と目線やしぐさで感情があふれ出ている。

僕らはこんな危機的な時代でも、まだ一致団結をせず人と人との悩みに溢れている。


僕はなぜ、初めて会う人とのセックスなんてしてしまったのだろう。

2年も望海以外としていなかったのに。


-据え膳食わぬは男の恥って言うじゃないか-

その言葉に踊らされるのは馬鹿らしいよ。



-赤羽菜月に心動かされてるな-

そりゃあそうさ。僕よりずっと大人だからね。見習わないとだよ。

-また会いたいのか?-

それはけっこう嫌かな。


インスタグラムを開いて、過去に海外旅行に行った際の写真をおもむろにアップした。


いいねが少しずつついていく。


最寄り駅に着いて、電車を降りる。

一気にザアという大雨の音がした。

さっき窓を閉めた女性はいい判断をしたな。


土曜で休日ではあるが、特に予定はない。


ホームにある薄黄色のベンチに座る。

音楽が流れ、次の電車が来る。

人が流れていく。気持ちいい。


ミナガワさんから「ここ、イギリス?」というコメントが来た。


一日一通くらい誰かから連絡が来るくらいが、僕にはちょうど良かったのかもしれない。


ぼくには好きな仕事があって、写真撮影なり映画鑑賞なり、打ち込める趣味がある。


それで休日も平日も、十分豊かな人生に足りる。


菜月はこれを言いたかったんだろう。


僕はこの生活が好きだ。

一時の欲で、ぶち壊さないくれ。


だから肉体的な罰が、欲しかったんだ。

いかに自暴自棄なセックスがダメなことか、忘れないために。


そろそろ帰るか。

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